ライゾマ齋藤精一×NOSIGNER太刀川英輔が下水道をエンタメにする

大型台風の直撃で痛感した、目には見えないインフラの価値

東京の地下を走る下水道は私たちの生活になくてはならないインフラだが、その価値をただ伝えるだけでは若者の興味関心を引くのは難しい。そこで求められるのがクリエイティブの力だ。

今年で2回目の開催となる『東京地下ラボ by東京都下水道局』は、学生たちがクリエイティブの力で下水道の新たな魅力を発見するプロジェクト。8月に開催されたCMディレクター中島信也による講義を皮切りに活動を行ってきた(参考記事:CMディレクター中島信也の「想像心」で、下水道を魅せる)。

そして2019年10月17日に開催された特別公演『クリエイティブの力で都市インフラの未来を考えるー見えないものから見えるものまでー』では、ライゾマティクス・アーキテクチャー代表の齋藤精一とNOSIGNER代表の太刀川英輔をゲストに招き、「都市をデザインする」という視点でアイデアブレストが行われた。

ライゾマティクス・アーキテクチャー代表の齋藤精一(さいとう せいいち)
1975年神奈川生まれ。2006年に株式会社ライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。
NOSIGNER代表の太刀川英輔(たちかわ えいすけ)
デザインストラテジスト。NOSIGNER代表。慶應義塾大学大学院SDM特別招聘准教授。SDGsに代表される多くの社会課題、次世代エネルギー・地域活性・伝統産業・科学コミュニケーションなどの分野において企業や行政との共創から多くのプロジェクトを実現し、デザインで社会を進化させる活動を続けている。

二人に課せられたお題は、「目に見えないインフラの価値を可視化するために、どのようなグランドデザインにするか」。この難題に二人は言葉を重ねながら、答えを探っていく。

齋藤:僕はひねくれ者だから、むしろ見える方法を探ったらいいんじゃないかって考えるんですよね。そうすると、いろいろできることが浮かんでくる。たとえば、地下にある貯留施設を普段と違う用途で使ってみたらどうなんだろう。それこそ、そこを舞台にフェスを開催してみるとか。

太刀川:実際に貯留施設として機能しているときはそんな利用方法はできないわけですからね。僕は、なにもないときにプロジェクションマッピングを施して洪水時にはどこまで水が溜まるとか、こういうインフラがないとどれくらいの範囲まで浸水するとか、そういうシリアスな情報を視覚的に伝えることができるといいかもしれないと考えました。

2019年は、大型の台風が都心部を中心に大きな被害を与えた。しかし、その裏では雨水を一時的に溜めておく地下貯留施設が首都圏の川の氾濫を食い止めていたという。こうしたインフラがなければ、さらに大きな被害を受けていたに違いない。目に見えない価値を可視化していくことで、重要なものが見えてくるわけだ。

不都合やネガティブイメージも見せる。クリエイター二人がこだわるビジュアライゼーション

言葉を積み重ねながらテーマを深掘りしていくと、太刀川から別視点からの提案があった。

太刀川:齋藤さん「アクアポニックス」って知ってますか? 魚の養殖と水耕栽培を掛け合わせたものなんですけど、植物が魚の糞を栄養として吸収し、浄化された水が水槽へと戻る仕組みになってるんです。下水道局がやるべきことって、こういうことなんじゃないかなって思うんですよ。水が綺麗になるってわかりにくいじゃないですか。だから、下水道を利用した淡水魚の水族館を作ってしまう。そうすると、魚が住めるくらい綺麗な水になっていることがわかるから、日本の浄水技術を世界に示すこともできると思うんです。

東京地下ラボの活動は、若い世代にどうやって下水道の魅力を伝えていくかを課題としているが、そもそも若い世代は汚染されて泡だらけだった川の風景を知らない。だからこそ、あえて汚い状態を可視化する。そうした太刀川の意見に、齋藤も同意する。

齋藤:渋谷川も異臭が問題になっていますが、匂いがあるまま見せたほうがいい。僕らクリエイターがビジュアライゼーションを大切にするのは、見えない状況はネガティブな感情を誘発するからなんです。見えないと怖いじゃないですか。そうすると変な噂も立つ。でも、10年後くらいにはありのままをきちんと発信できる世界になっているんじゃないかと思ってるんです。

不都合な事実に直面すると、人は「隠す」という手段を取りがちだ。しかし、情報伝達の速度が格段に上がっている現在において、それは悪手になる危険を孕んでいる。それは下水道も同じ。綺麗になった水の情報だけを示すだけでは、どれだけインフラとして重要な機能を果たしているかを知るよしもない。もとの汚い水の状況をオープンにすることで、処理技術の凄さをアピールできるというわけだ。

クリエイターの本当の価値。それはアイデアを実現すること

アイデアブレストの時間も終わりに差し迫ったところで、齋藤と太刀川がそれぞれに下水道を活用して挑戦してみたいことをフリップに記入していく。

齋藤:僕は『地下ラボフェス』を実現していきたいと思いました。僕がコンテンツを持ってきます。それを通じて地下空間の広さや寒さ、堅牢さを知ったり、みたいなものができそうな気がします。これは2020年にやりましょう。こういう仕事って有言実行でやってかないと面白くないんですよね。やると決めたら明日にでも話してみるとか、なにかの申請をしてみるとか。とりあえず行動に移してみる。そうすると、次に発展するので。僕自身、東京都下水道局とコラボレーションできる機会になればいいなと思っています。

太刀川:僕は浄水水族館をやったら面白いと思います。浄水のインフラに触れ続けるきっかけになるし、地域のエンターテイメントの場になる気がします。おそらくですけど、ちゃんとやったら世界的に見ても日本が先端にいることを示しやすいと思うんですよ。そういう分野で差がつくのって、どう可視化したかに表れる気がするんですよね。だから、斉藤さんはもちろん、学生さんと一緒に実現できたら嬉しいですね。

二人の熱意の込められた言葉からは、今回のアイデアブレストで上がった案を本当に実現させたいという気持ちが伺えた。そして、この二人なら実現させてしまうのではないか。そんな期待感を感じさせながら、齋藤と太刀川は会場を後にした。

本プロジェクトはこれから2020年2月の成果報告会まで制作期間に突入する。今回のアイデアブレストは学生たちにどのような気づきを与えたのだろうか。学生たちの想像力と創造力に大きな期待がかかっている。

プロジェクト情報
『東京地下ラボ by東京都下水道局』

下水道の新たな可能性や魅力を発信する東京都下水道局主催のプロジェクト。昨年度の東京地下ラボは、「下水道の魅力を『編集』の力で若者が再発見」をテーマに、参加学生が各グループで雑誌(ZINE:ジン)を制作。今年度は『クリエイティブ』の力をテーマに、30秒の動画を制作し下水道の魅力を発信する。

イベント情報
『東京地下ラボ by東京都下水道局』講演会

2019年10月17日(木)
会場:八王子市 首都大学東京 南大沢キャンパス 講堂小ホール
ゲスト:
齋藤精一(ライゾマティクス・アーキテクチャー)
太刀川英輔(NOSIGNER代表)

プロフィール
齋藤精一 (さいとう せいいち)

1975年神奈川生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からNYで活動を開始。その後ArnellGroupにてクリエイティブ職に携わり、2003年の越後妻有トリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。その後フリーランスのクリエイターとして活躍後、2006年に株式会社ライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数作り続けている。現在、2018-19年グッドデザイン賞審査委員副委員長、ドバイ万博クリエイティブアドバイザー。

太刀川英輔 (たちかわ えいすけ)

デザインストラテジスト。NOSIGNER代表。慶應義塾大学大学院SDM特別招聘准教授。1.ソーシャルデザインで美しい未来をつくる。(デザインの社会実装)2.発想の仕組みを解明し、社会の進化を生む変革者を増やす。(デザインの知の構造化)この2つの目標を実現するため、NOSIGNERとしてソーシャルデザインの社会実装をしながら、イノベーター創出の教育者として、知と発想を生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱。大学や企業にてイノベーターを増やすために教鞭を執る。建築・グラフィック・プロダクト・アートの分野に精通し、それぞれの分野で世界的に評価される総合的なデザイナー。グッドデザイン賞金賞、アジアデザイン賞大賞(香港)など国内外のデザイン賞にて100以上の国際賞を受賞。またグッドデザイン賞・DIA Award(中国设计智造大奖)など、多くの国際賞の審査委員を歴任する。SDGsに代表される多くの社会課題、次世代エネルギー・地域活性・伝統産業・科学コミュニケーションなどの分野において企業や行政との共創から多くのプロジェクトを実現し、デザインで社会を進化させる活動を続けている。



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