ライゾマがメディアアートで目指すもの 最新技術に温もりを添えて

色とりどり光るバルーン。「インスタ映え」に隠された、ライゾマの最新技術を堪能

きらびやかな東京タワーのふもとには、日本で最も古い公園のひとつである芝公園と、徳川家康に所縁のある浄土宗大本山増上寺がひっそりと隣接している。去る11月16日、東京都と公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京が主催し、Rhizomatiks(ライゾマティクス / 以下、ライゾマ)が企画制作と演出を手掛けた『Light and Sound Installation “Coded Field”~光と音が織りなす都市と人々の饗宴~』が、この地にて開催された。

本イベントは、ライゾマが最先端の位置測位技術である「GNSS(Global Navigation Satellite System:全球測位衛星システム)」を利用して初めて挑む、屋外での大規模なパブリックアートプロジェクト。増上寺境内に集まったおよそ2000人の参加者は、バルーン型のデバイスを持って会場内を回遊しながらインスタレーションを楽しむというものだ。

受付でデバイスを渡され増上寺の境内へ進むと、そこにはすでにたくさんの参加者が集まっていた。ゆったりとしたアンビエントな音楽が流れる中、会場内を移動していると、手に持つデバイスからは時おり電子音が流れたり、バルーンが赤や青、緑などさまざまな色の光を放ったりしている。広い境内には、オムニホイールロボットに乗せられた長さ2メートルほどの液晶パネルが数台、現在地の緯度と経度を表示しながらオブジェのように配置されていた。

カラフルに発光するバルーンを持った大勢の人々が、境内に集まり思い思いに過ごす穏やかな空間。しかし、これはライゾマが技術の粋を集めたプロジェクトであり、インスタ映えな景色の裏で「とてつもなくすごいこと」が行われているのだ。

写真右の黒い柱に表示されているのが、緯度と経度を表す数字

増上寺をデータ分析、仮想空間を作り上げる

グランドオープンの19時に合わせ、坂本美雨の声でカウントダウンが始まる。すると参加者が持つバルーンが一斉に光り始め、ダンサブルなビートに合わせてさまざまな色に変化していく。筆者は寺院の広縁から境内を見下ろしていたのだが、1000個のバルーンがまるで光る絨毯のように多数のパターンをかたち作る様子は圧巻。

座席が固定された屋内の会場とは違い、参加者の動きが予測できないこのような「回遊型」の屋外のイベントでは、狙い通りの演出をすることはほとんど不可能とされていた。それを今回ライゾマは、GNSSの導入により可能にしてみせたのだ。

まずライゾマは、増上寺の建築データや地形データをプログラミング(コード)を用いて予め解析し、さまざまな情報が埋め込まれた場(フィールド)を仮想空間に生成。目に見えないその情報を光や音に変換するのが、我々の持つバルーン型デバイスである。

仮想空間イメージ図

このデバイスには、GPS受信機能とハイレゾリューション・オーディオコーデックを搭載した、ソニーセミコンダクタソリューションズ社製のSPRESENSEを採用。この基板を使うことで、GNSSによる位置の計測や音源の再生、LEDの発光のコントロールを可能にしている。また今回は、GPSに加えて「みちびき(準天頂衛星システム)」も併用しており、より精度の高い位置情報を取得。これにより、参加者が持つデバイスの位置情報を把握し、その動きや密度に合わせて光と音を放つことができるという。

Perfumeの公演も観て感じたこと。テクノロジー×人間の温もり=ライゾマのメディアアート

美しい光景にうっとりしていると、振付家MIKIKO率いるダンスカンパニーELEVENPLAYが、境内袖より登場。白を基調とした和装デザインの衣装に身を包んだ彼女たちは、ひしめく参加者の間を自由に動きながら、境内に点在している16個のステージへとそれぞれ向かっていく。そして、ひときわ激しくなったダンスミュージックに合わせ、ステージの上でしなやかでキレのあるパフォーマンスを披露した。

参加者が手にしているデバイスからは、楽曲に合わせて電子音やホワイトノイズが流れているが、それも位置情報によってコントロールされており、スピーカーから流れるダンスミュージックと、1000個のデバイスから発せられるさまざまなサウンドが混じり合った「インタラクティブな音響空間」を作り上げているのだった。

ちなみに、緯度と経度を表示したパネルを載せていたオムニホイールロボットは、「RTK-GPS(リアルタイム・キネマティック-グローバルポジショニングシステム)」により制御されており、カメラやレーザーによる計測をすることなく、障害物を避けながら決められた順路を巡ることができるという。RTK-GPSを用いることで、「センチ誤差」で位置情報を把握することができるため、ロボットが動くたびに、緯度と経度の数字が変化していくのが印象的だった。

先日、LINE CUBE SHIBUYA(旧渋谷公会堂)のこけら落とし公演をPerfumeが務め、そこでライゾマによる「ムービングトラックLED」を自在に動かす演出が印象的だったが(参考記事:Rolling Stone Japan掲載『Perfumeライブレポ、ストイックさの中に見せた「愛」と「温もり」』)、自動運転やドローン配送などに利用されようとしているこの「RTK-GPS」を用いれば、そうした演出を野外フェスなどでも行えるようになるかも知れない。

Perfume公演の様子(撮影:上山陽介)

思うに真鍋大度率いるライゾマが提唱するメディアアートは、一貫して「データの集積と解析」によって生み出されるものだった。今回のイベントも、増上寺の建築データや地形データを解析することから始まっているし、以前アンドレア・バッティストーニを迎えて行われたオペラ『オテロ』公演(2017年9月)でも、まずはバッティストーニのモーションキャプチャを取っていた。真鍋は当時、CINRA.NETのインタビューで以下のように語っている。

「それはもう、僕の作風になっていると思っています。最近だと『FORM』という、狂言師・野村萬斎さんとのプロジェクトがありました。その時も、やはり彼の動きをデータ化・分析をして視線に着目をした映像を作る作業を行ったのですが、この時は事前に映像を書き出して萬斎さんに合わせてもらいました」

「データを取ることで、我々の主観的な視点では気づかなかった客観的な事実が色々明らかになるんですよ。例えばPerfumeの三人をデータ化してみると、信じられないような精度のパフォーマンスの再現性があったり、プロのダンサーが見ても驚くほどの精度で、細かいニュアンスまでシンクロしていたり。本人たちも自覚していなかったようなことが、「客観的事実」として可視化される」

先に述べたPerfumeの公演では、メンバーのあ~ちゃんが演出について「私たちのこれまでのデータや歴史を『再構築=Reframe』して、自分たちの未来へとつなげる作品」とアンコールで述べていた。今回のイベント『Coded Field』もまた、増上寺という歴史的建造物のデータを解析し、その空間で参加者やアーティスト一人ひとりが能動的に関わることによって、近未来の東京の風景を全員で作り上げていくというところに、大きな意義があったのだろう。

「テクノロジーに温もりを」。ライゾマのメディアアートは常に進化を繰り返しながら、そんな変わらぬコンセプトとビジョンを持ち続けているのだ。

イベント情報
『Light and Sound Installation “Coded Field”~光と音が織りなす都市と人々の饗宴~』

2019年11月16日(土)
会場:東京都 増上寺、芝公園

出演:ELEVENPLAY
声の出演:坂本美雨
時間:18:00~21:00
料金:無料(要事前申込)



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