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市川渚がデジタルハリウッド大学卒制展へ。実際の体験が培う創造性

デジタルハリウッド大学 卒業制作展
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:豊島望 編集:宮原朋之、原里実(CINRA.NET編集部)
市川渚がデジタルハリウッド大学卒制展へ。実際の体験が培う創造性

「作品を見ていると、もの作りの窮屈さより自由さを強く感じます」

DHUのお家芸ともいえる3DCGムービーを教える古岩ゼミでは、松原陸さん、井上暁さん、田代莉穂さん、仲條駿輔さんが共同制作したCGアニメ『尾を逐う狐』のプロモーション映像には釘づけに。

市川:すごい! このまま劇場公開できるくらいのクオリティーじゃないですか。3DCGのゼミは10年前のハリウッドのCG技術のレベルを超えると聞いていましたけど、たしかに……と唸らされます。

松原陸、井上暁、田代莉穂、仲條駿輔『尾を逐う狐 予告編』(3DCGムービー)
松原陸、井上暁、田代莉穂、仲條駿輔『尾を逐う狐 予告編』(3DCGムービー) / Vimeoで観る

そのお隣の、映像制作に特化した板屋ゼミでは、音楽事務所と協力して若手ミュージシャンのMVを制作した上野真茂さんの『いつか僕は』を鑑賞。

市川:上野さんは、スチールのほうからムービーの世界にたどり着いたとおっしゃってましたね。私自身も写真を撮るのですごく共感できるんですが、写真を撮る人ならではの光の生かし方や構図へのこだわりが随所から感じられます。写真を撮る感覚で世界を切り取っているのがよく伝わる映像でした。

上野真茂『いつか僕は』(映像制作)

同じゼミ所属の飯島巧さんの『ゆらめき』は、霧をスクリーンがわりにした実験的な作品。ここでは自分のビジョンを具現化するための熱量が、市川さんの心を打ったようです。

市川:洞窟のような暗い空間で、自分の内面を見つめている気持ちになりました。この作品からだけじゃなく、卒展全体を通じて、もの作りの「窮屈さ」より「自由さ」を強く感じます。

私の学生時代を思い返すと、「正しい表現」「正しいもの作り」を目指すべきだというプレッシャーが強くありました。でも、いまのジェネレーションならではなのか、DHUの個性なのか、それとは真逆の自由を強く感じるんですよね。

飯島巧『ゆらめき』(映像制作)
飯島巧『ゆらめき』(映像制作)

現在、デジタルハリウッド大学にはおよそ1000人の在校生がいるそうですが、その国籍は多彩。中国や台湾などのアジア圏だけでなく、北アフリカのチュニジア、北欧のスウェーデンといった遠方から留学してくる学生も大勢いるとのこと。その多彩さが、自由で多様なクリエイティブの源なのかもしれません。

藤井健一『3DCG背景作品集』(3DCG映像制作・技術研究)
藤井健一『3DCG背景作品集』(3DCG映像制作・技術研究)
栗山祐門『広告と人の共生にむけて、一案』(コミュニケーションデザイン) / 作者のプレゼンテーションを受けて、しばし話し込む
栗山祐門『広告と人の共生にむけて、一案』(コミュニケーションデザイン) / 作者のプレゼンテーションを受けて、しばし話し込む

「地道な思考と実践。その積み重ねからこそ、クリエイティブは生まれる」

CGやプロジェクションマッピングといった先端系の表現だけでなく、アナログな経験における楽しさを追求するのもデジタルハリウッド大学の特長。それを強く感じさせたのが、さまざまなスタイルのゲーム制作を指導する米光ゼミに所属する、浅古匠さんと佐藤大樹さんでした。2人の作ったボードゲーム『ブルータス』は、キングを獲りにいくチェスと、2つの駒で相手を挟んで裏返すリバーシの要素をかけ合わせた、懐かしくも新しいルールが特徴です。

市川:『ブルータス』というネーミングにまで、一貫したコンセプトが通っているのが素晴らしいですね。「ブルータス、お前もか」は、シェイクスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』で、腹心だったブルータスの裏切りにあったカエサルの一言。

相手の駒を裏返して自分側に寝返らせてしまう、リバーシのルールとかかっているんですね。ゲーム自体も、思いつきそうで思いつかない目のつけどころがいい。ぬかりのなさに痺れます。

浅古匠、佐藤大樹『ブルータス』(ゲーム制作)
浅古匠、佐藤大樹『ブルータス』(ゲーム制作)

市川さんは、多数のクリエイターが所属する「THE GUILD」のパートナーメンバーでもありますが、同カンパニーには、ボードゲームが好きなメンバーが多いのだとか。「みんなで遊びたいと思います!」と、『ブルータス』をお買い上げする市川さんなのでした。

会場で実際に販売されていたボードゲーム『ブルータス』
会場で実際に販売されていたボードゲーム『ブルータス』

デザインとプロトタイピングの試作を学ぶ星野ゼミで目にしたのは、ふたたび「現代」のテクノロジー。小田切元太さんの『特定環境及び特定対象にフォーカスした撮影技術の開発 / 研究』は、簡単に言えば、石などの自然物に擬態させたビデオカメラを制作し、生き物の生態を記録する実験です。動物園の檻のなかに特注カメラを設置することで、思いもかけない動物の姿や行動に出会えます。

小田切元太『特定環境及び特定対象にフォーカスした撮影技術の開発 / 研究』(デザイン&プロトタイピング)
小田切元太『特定環境及び特定対象にフォーカスした撮影技術の開発 / 研究』(デザイン&プロトタイピング)

市川:このまま発売できそうなくらい、完成度が高いですね。単なる思いつきではなく、小田切さんの動物への興味から生まれたというのも素敵です。

中高で生物部に所属していたと聞きましたが、普段から生物に関わることを思考して、実践してきたからこその説得力がある。そうした積み重ねからこそ、クリエイティブは生まれてくると思うんですよ。

市川さんが手にしているのが、石に擬態したカメラ
市川さんが手にしているのが、石に擬態したカメラ

動物たちの愛らしい映像を後にして、最後に向かったのは、多彩な卒制展のなかでもひときわ異色の作品。先端メディアを学ぶ杉山ゼミ所属の鈴木夢さん、吉田隆史さんによる『篠辺研究所記念博物館』は、観客の体験で結末や展開が変わるイマーシブシアター(没入型演劇)の作品です。「ある新型細胞を発見しながら、謎の失踪を遂げた研究者の足跡を追う」というミステリアスなストーリーを、市川さんも観客の1人として体験することに。

市川:卒展のための限られた時間と環境で、これだけの作品を作ること自体が、まず挑戦。しかもそれを「先端メディア」という枠組みのなかでやっているのも面白い。

ニューヨークの廃ホテル全体を劇場にした『スリープノーモア』をはじめとして、この数年で「イマーシブシアター」系の作品もずいぶん増えましたよね。そうした先行作品との差別化までは、考えが及んでいない印象を受けました。もっともっといろんなものを見て、触れて、ブラッシュアップしていってほしいですね。

鈴木夢、吉田隆史『篠辺研究所記念博物館』(先端メディア) / 役者たちと同じ空間でリアルタイムに進行するストーリーを体験する
鈴木夢、吉田隆史『篠辺研究所記念博物館』(先端メディア) / 役者たちと同じ空間でリアルタイムに進行するストーリーを体験する
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イベント情報

『2019年度 デジタルハリウッド大学 卒業制作展』

2019年2月14日(金)~2月16日(日)
会場:東京都 デジタルハリウッド大学駿河台キャンパス
料金:無料

プロフィール

市川渚(いちかわ なぎさ)

ファッションデザインを学んだ後、海外ラグジュアリーブランドのPRなどを経て、2013年に独立。フリーランスのクリエイティブ・コンサルタントとして、ファッション、ラグジュアリー関連の企業やプロジェクトのコンサルティング、デジタルコンテンツのクリエイティブ・ディレクション、プロデュース、制作などを手がける。ガジェットとデジタルプロダクト好きが高じメディアでのコラム執筆やフォトグラファー、モデルとしての一面も。ファッションとテクノロジーがクロスする領域で幅広く活躍中。

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