ビートのリラックス効果を再発見 『THE FADE OUT』配信レポ

ビートの反復が持つ「リラックス効果」の再発見

ジョナス:今回のイベントは、僕だけじゃなく聴いてくれるみんなにとっても、まったく新しい体験になるはずです。こういうスタイルのDJセットは初めてだし、とても意味があるものだと思います。
『世界的DJジョナス・ブルーが語る、緊張やストレスからの解放』より(記事を読む

観客を踊らせるのではなく、安らかな眠りへと誘(いざな)う、かつてない配信ライブ『THE FADE OUT』が7月29日に開催された。本ライブは、睡眠科学の専門家でもある音楽家トム・ミドルトンが、睡眠のメカニズムを考慮に入れながら作り出した映像と音響が夜通し流れ、観客を快適な眠りへと導いていくというもの。さらに、そのオープニングとクロージングではジョナス・ブルーがDJセットを披露した。

ジョナスといえば、トレイシー・チャップマンによる1988年の大ヒットシングル“Fast Car”をカバーした、デビューシングル“Fast Car feat. Dakota”(2015年)や、続くセカンドシングル“Perfect Strangers feat. JP.クーパー”での、トロピカルで躍動感あふれるハウスミュージックの印象が強い。日本でも、その2曲を含むデビュー・アルバム『Blue』(2018年)が『日本ゴールドディスク大賞』「Best New Artist」を受賞するなど、クラブミュージック界隈では広く知られている(残念ながらコロナにより中止になってしまったが、今年春には『THE BLUEPRINT 2020 JAPAN TOUR』が開催される予定だった)。しかし、観客を「踊らせる」のではなく、「眠らせる」ために組まれたこの日のセットリストは、ジョナスが普段フロアでプレイするためのセットとは、明らかに違うものだった。

ジョナス・ブルー“Fast Car feat. Dakota”MV

ジョナス・ブルー“Perfect Strangers feat. JP.クーパー”MV

ジョナス:「睡眠」は我々が生きていく上で欠かせないものだし、僕自身いつもパフォーマンスを終えると、自分の「スイッチ」を切ってリラックスすることを心がけています。今回は新たなチームと共に、これまでとは違ったスタイルの音楽、たとえばショーの後にヘッドホンで聴くようなタイプの音楽を選曲し、そこに浸り切ってみたのだけど、本当に面白い体験でした。
『世界的DJジョナス・ブルーが語る、緊張やストレスからの解放』より(記事を読む

配信は22時半にスタート。DJブースの前に現れたジョナスはカメラに向かって短く挨拶すると、早速トリッキーの“Overcome”をスピンした。深く沈み込むようなサウンドスケープが部屋いっぱいに広がり、まるでクローズ間際のクラブの、チルな雰囲気の中に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚える。その後も、Submotion Orchestraの“Swan Song(Kidnap Kid Remix)”や、Télépopmusikの“Love Can Damage”、Nightmares On Waxの“Les Nuits”など内省的なトラックを次々と繋いでいく。「眠らせるための選曲」と聞いて筆者は、リズムのないアンビエントなセットリストを予想していたのだが、意外にもビートはしっかりと鳴らされている。ただ、そのビートの反復が「身体を解放させる」というよりは、「心を安らげ、リラックスさせる」効果を発揮していたのが印象的だった。

ジョナス:睡眠に関しては、去年かなり苦しみました。あまりにも色々なタイムゾーンを移動したことによる時差ボケが尋常じゃなかったんです。それこそ、さっきも話したように音楽の力を借りて、スイッチを一旦切って安らかな気持ちを取り戻したことが何度もあります。そういう曲は、今回のミックスにもちゃんと入れてあって。その意味で、この試みは僕の個人的な体験をシェアする機会にもなるはずです。
『世界的DJジョナス・ブルーが語る、緊張やストレスからの解放』より(記事を読む
イベント『THE FADE OUT』メインビジュアル

朝の高揚感も演出。不要不急ではない音楽の効果

30分のオープニングDJが終わり、トム・ミドルトンによるアンビエントなシンセ・ドローンと波の音が、幻想的な映像と共にパソコンから流れ出す。その頃には筆者もすっかりリラックスし、寝る準備も万端。部屋を暗くし、スピーカーの音量を落としてそのまま横になってみた。コロナになって多少のストレスは感じるものの、元々寝つきはよい方なのだが、心地のよい音響に包まれながら、この日はいつも以上にあっという間に寝てしまった。気がつくと窓の外は明るくなり、ジョナスによるクロージングDJが始まっていた。

軽やかなサックス・ソロに導かれ、跳ねるようなビートが刻まれるジュリアン・ジャブルの“Swimming Places(Sabaudia Gabin Remix)”は、1日の始まりにぴったりの爽やかな楽曲だ。さらに、ガブ・ロームの“La Maison”やドゼムの“All Location”、ティム・グリーン&セバスチャン・レジェの“Embre”らの躍動的なリズムが、凝り固まった身体中の筋肉をほぐしていく。ガイ・ガーバーの“What To Do”が流れ、本ライブが終了する頃には、いつも以上に心と体からエネルギーが湧き上がっていた。

音楽が心と体に作用し、ときには安らぎを、ときには高揚感をもたらしてくれることは、もちろん体感として知ってはいた。が、本ライブのように、「睡眠」や「リラックス」に特化し作り上げた「DJセット」や「映像」「音響」が、ここまで効果を発揮するのは驚きだ。コロナ禍で音楽は「不要不急」の一つとされ、ときとして軽視されがちな状況が続いている。しかし、人間が生きる上で欠かせない「睡眠」や「リラックス」を促す音楽は、決して「不要不急」などではないことを、この日のライブで改めて強く実感することができたのだった。

トム・ミドルトン『Sleep Better』を聴く(Apple Musicはこちら

イベント情報
『THE FADE OUT』sponsored by glo™

日時:2020年7月30日(木)
出演者:ジョナス・ブルー、トム・ミドルトン



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