オタク文化やネットカルチャーを節操なくコラージュした、狂騒の舞台

昨年末の公演のチケットは、発売からわずか2時間で完売。東京芸術劇場主催のイベント『20年安泰。』や『フェスティバル/トーキョー』での狂騒の熱演が評判を呼んだ昨年、バナナ学園純情乙女組は過激な特攻スタイルにより小劇場界をジャックしてしまったかのように見える。彼らが頻繁にパロディ化する往時の学生運動になぞらえるなら、サイリウムをゲバ棒に見立てて武装蜂起した演者たちが、いつの間にか伝統ある劇場をゲリラ的に占拠していた、といったところか。

バナナ学園純情乙女組(以下、バナナ学園)は、主宰で演出・振付の二階堂瞳子を中心に、2008年に結成された劇団。現在、正式な劇団員は二階堂を含め4名だが、出演者は常に流動的かつ可変的で、舞台には50人を超える男女が上がることもある。作風には多少変化があり、中屋敷法仁(柿喰う客)の脚本で物語を演じていたこともあったが、昨今は、激しいヲタ芸を中心としたライブパフォーマンス(=通称・おはぎライブ)に特化した公演が続いている。

バナナ学園純情乙女組
撮影:Cyclon_A

巷間言われるように、バナナ学園の公演は、アキバ発のオタク文化やネットカルチャーの意匠をあからさまに引用/参照し、節操なくコラージュして舞台に乗せるのが特徴だ。アイドルソングやアニソン、ボーカロイド曲などを爆音で同時に流し、セーラー服やスクール水着を纏った演者たちが、ライブアイドルの現場で定番となっているヲタ芸や振りコピを矢継ぎ早に披露する。学生運動やアングラ演劇、SMショーなどの要素も散見されるが、それはあくまでも「思想」を漂白された「記号」の集積やパッチワークとして表出する。その「記号」が猛スピードで積み重なってゆく様は、ネット上で増殖するMAD動画を生身で体現したかのよう。いわば、人力マッシュアップである。

だが、バナナ学園の舞台は、彼らが引用/参照している文化に対するリテラシーがなくとも何不自由なく堪能することができる。そもそも、眩暈がするほど膨大な情報が短時間に圧縮されているその舞台から、元ネタを詳細に解析し、文脈を読み解くことはかなり難しい。従って、アイドル文化や学生運動から抽出された「熱量」を全身で浴び、情報の洪水に圧倒・翻弄されるのが、ストレートな楽しみ方だろうと思う。

そして、こうした観賞スタンスが可能なのは、ネットカルチャーにもオタク文化にも馴染みのない一見客をも巻き込んできた、精妙な構築美を誇るパフォーマンスがあってこそ。それを改めて実証して見せたのが、昨年12月17日〜18日の六本木新世界での公演、『六本木姦姦娘★☆★純情乙女の陵辱Xデー!!!!!』だった。

バナナ学園純情乙女組
撮影:Cyclon_A

比較的狭いスペースでの女性18名による同公演では、いつもよりも出演者が少ない分、演出・構成・振付の緻密さや精密さが露わになっていた。そう、表面的にはカオティックな乱痴気騒ぎにも見えるバナナ学園の舞台は、実はクレバーな計算と周到な設計の上に成り立っている。いや、正確には、公演の最中に拡声器でダメ出しを連呼する主宰・二階堂瞳子の厳格な「統制」に基づいている、というべきだろう。

二階堂から聞いたところによれば、演者の挙動から全体の構成まで、彼女の脳内には確固たる完成形や理想像が存在するという。つまり、一見ランダムで乱脈に見える演者の動きも、基本的には彼女の思い描く設計図をベースにしているのだ。演者が観客に抱きついたりキスするというお馴染みのパフォーマンスも、決して熱狂や陶酔の産物などではなく、各々がプロフェッショナルな「役者」として「演出」に奉仕した結果である、と考えるべきだ。

二階堂の思い描く完成形の緻密さや精密さは、傍目から見れば偏執狂的とも取れる。しかし、演者がその完成形をパーフェクトに具現化するのはあくまでも最低条件であり、最終的には、彼女の統制を内部から食い破るような想定外のパフォーマンスを期待している。…と、いうようなことを12月の公演後、二階堂は口にしていた。その意味で同公演でひときわ活躍が目立ったのは、二階堂の意図を汲みつつ奔放に振る舞った劇団員の加藤真砂美や前園あかりだろう。また、バナナ初参加ながら違和感なく全体に溶け込み、かつクラシックバレエで鍛えたヴァーサタイルな身体表現で魅了した中林舞(快快)の存在感も大きかった。既に他劇団で個性を発揮している演者をフィーチャーするという点では、『フェスティバル/トーキョー』公演での間野律子(東京デスロック)同様のポジションを、中林は果たしたと言える。

おはぎライブの予定はしばらくないというバナナ学園だが、今年5月に「演劇、やります」(公式HPより)と謳っており、ままごとやサンプルの代表作にも関与した野村政之をドラマトゥルクに迎えて新作を上演する。『翔べ翔べ翔べ!!!!!バナ学シェイクスピア輪姦学校(仮仮仮)』という仮タイトルを見ても作風は未知数だが、二階堂のパーフェクショニストぶりはブレるはずもなく、演者が跳ぶべきハードルの「質」が変わるだけだと思われる。個人的には、物語を演じても、ノイズと化した情報が塊となって迫ってくるあのダイナミズムだけは失って欲しくないのだが、どうだろう。



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