レビュー

インディ・ジョーンズと浅倉南、奇跡の共演?

松江哲明
2012/02/21
インディ・ジョーンズと浅倉南、奇跡の共演?

インディ・ジョーンズと浅倉南、奇跡の共演。…もちろん、そんな映画は存在しない。しかし昨年末に発売された『刑事ロニー・クレイブン』のDVD版には86年にNHKで放送された日本語吹き替え版が収録され、主人公ロニー・クレイブンを担当するのがハリソン・フォードの声でお馴染みの村井国夫で、娘のエマが『タッチ』の南ちゃん、または『となりのトトロ』のサツキも担当した日高のり子なのだ。この並びに興奮を抑え切れないのは、80年代にテレビ放送されていた吹き替え洋画を見ていたせいなんだろう。

僕は、昨年公開されたメル・ギブソン主演の『復讐捜査線』に涙を搾り取られ、そのオリジナル版である本作を見てみたいと思っていたので、これは絶好のタイミングだった。Amazonを通さず、ネットと限定店舗による税込み7,980円という強気な値段設定も惜しくない。いや、それは嘘。ちょっとだけ悩んだけど、中野レコミンツで実際の商品を手に取り、拳銃とクマの人形を抱えるボブ・ペックの渋いジャケットを目にしたら、自然と体がレジに進んでいた。

『刑事ロニー・クレイブン 完全版』©2011 BBC Worldwide Ltd. Distributed under licence from BBC Worldwide limited acting as agent for 2 entertain Video limited. All rights reserved. width=
©2011 BBC Worldwide Ltd. Distributed under licence from BBC Worldwide limited acting as agent for 2 entertain Video limited. All rights reserved.

リメイクされた映画版では、メル・ギブソンは自身の目の前で射殺された娘の復讐の為にただ戦う。次第に彼女が反核運動に関わっていたことが分かるが、彼自身も放射能に蝕まれていくのだった。劇中、死んだ娘が事件のヒントや伝え切れなかった想いを告げに幽霊となって現れ、語りかける姿も感動的だった。きちんとハリウッド映画らしいド派手なアクションも展開され、見せ場もバッチリ決めてくれる。国と企業による原発ビジネスが巨悪の根源という設定が、「2011年」だからこそ余計に心に響いてしまったのしかもしれない。『復讐走査線』は僕のベストの1本となった。

対してオリジナル版はあからさまな見せ場もなく、物語も淡々としていて、渋い。言い方を変えるのなら正直、地味で暗い。だが、アクションシーンに異様なリアリティがある。例えば、エマがショットガンで撃たれ、血を噴き出し、父クレイブンの腕の中で絶命するまでの恐ろしい時間や、機密情報を盗み出したクレイブンが警備員が逃れる為に、延々と走り続ける姿をステディカムで追った、長い追跡戦。それらを「見せ場」にするのではなく、あくまで登場人物の「動き」以上にしないという、徹底した抑制が見事に効いている。

だが、さすがに2時間弱にまとめたハリウッド映画と、6時間にも及ぶ英国ドラマとを比較するのは間違っている。両作共にそれぞれでしか成立しない「演出」で魅せてくれるからだ。だが、『刑事ロニー・クレイブン』を最後まで楽しめた大きな要因は、最初にも書いた吹き替えの力が大きい。やはり村井国夫はちょっと疲れた中年ヒーローを演じるとまさに敵なし。渋みのある声をキープしつつも、時折怒りを露にし、激昂する「声」には今度も涙腺を刺激された。また登場シーンのほとんどが「幽霊」という娘エマには、どこか浮き世離れした日高のり子の演技はぴったりだ。イノセントな、もう二度と存在出来ないヒロインを完璧に演じている。

『刑事ロニー・クレイブン 完全版』©2011 BBC Worldwide Ltd. Distributed under licence from BBC Worldwide limited acting as agent for 2 entertain Video limited. All rights reserved.
©2011 BBC Worldwide Ltd. Distributed under licence from BBC Worldwide limited acting as agent for 2 entertain Video limited. All rights reserved.

『復讐捜査線』のクライマックス、復讐を果たしたものの、放射能によって命を落としたメル・ギブソンはずっと寄り添っていた娘と共にあの世へと旅立った。2人を待つ光は神々しく、僕は涙が止まらなかった。しかし『刑事ロニー・クレイブン』にそんな優しいラストは用意されていない。長い時間を掛けて物語を描きながらも、安易なカタルシスを否定する。絶望としか言いようのない想いを村井国夫が叫び、空しく響くだけなのだ。だが、僕には27年も前に作られたオリジナル版の方が2012年にはぴったりだと思った。このドラマが提示した「核」を巡る問題は当時も、今も変わらないし、人類がそれをコントロールするのは不可能だからだ。

「地球はいずれ人類の敵となり、人類を滅ぼす」。この台詞は6話という長尺だからこそ可能な、ハリウッド版にはないものだ。その深みが、今の僕にはなんとなく分かってしまう。それが恐い。奇跡の吹き替えを楽しみつつ、僕はこのDVDを何度も繰り返し、見ることになると思う。

作品情報

『刑事ロニー・クレイブン 完全版』

監督:マーティン・キャンベル
脚本:トロイ・ケネディ・マーティン
出演:
ボブ・ペック
ジョー・ドン・ベイカー
ジョアンヌ・ウォーリー
チャールズ・ケイ
イアン・マクニース
ケネス・ネルソン
ゾーイ・ワナメイカー
ジャック・ワトソン

『刑事ロニー・クレイブン 完全版』

メル・ギブソン主演『復讐捜査線』の原作となるTVドラマのDVDで、ノーカット全6話、NHK放送時の日本語吹替、1時間を超える映像特典を収録。

ウェストヨークシャー警察のロニー・クレイブン警部補は、反核集会に参加していた大学生の娘エマと帰宅したところ、ショットガンを構えた男に呼び止められた。発射された兇弾はクレイブンの前に飛び出したエマを貫き、彼女は父の腕の中で息絶えた。最愛の娘を失い呆然とするクレイブンだが、エマの荷物から拳銃とガイガーカウンターが出てきたのだ。そして犯人を追い求めるクレイブンの前に現れる内閣直属の男たち。娘の死の背後にプルトニウムをめぐる陰謀の存在を知ったクレイブンは、エマの声に導かれながら漆黒の闇で抗ってゆく…。

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