レビュー

欲望と、生き続けなきゃなー、という元気が入り交じった不思議な高揚感

松江哲明
欲望と、生き続けなきゃなー、という元気が入り交じった不思議な高揚感

8時間に及ぶ本作のことをカンパニー松尾監督は封入特典のインタビュー冊子で「こんなの休み休みじゃないと(笑)。できたら順番は守って見て欲しいかな。一夜一話で一週間くらいかけて」と語っている。だが、僕は1日で一気に見てしまった。収録されている全作をVHSとDVDで持っているから途中、何度か早送りをしたけど、充実した時間だった。20年以上AV監督であり続けたカンパニー松尾から見たAV女優、企画女優、素人さんが綺麗だったから。僕には懐かしい気持ちと、セックスがしたいという欲望と、生き続けなきゃなー、という元気が入り交じった不思議な高揚感が残った。

©HMJM
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『メーカー横断ベスト!!!カンパニー松尾8時間』は『硬式ペナス』から始まる。監督自身がカメラを持ち、セックスをするハメ撮りではないけれど、撮影中に恋をした松尾監督が由美香さんに対し「僕と付き合わない?」と告白し、編集時に入れたテロップが、ラブレターならぬラブビデオになってしまった名作。今も続く代表作『私を女優にして下さい』のブラジル編はめちゃくちゃいい加減な通訳だったとしても、セックスは国境を越えることを証明している。仲間と会社を作り「やりたいことをやる」と決め、撮った『UNDERCOVER JAPAN』は予告編だけの収録だが、きっと誰もが「これはAVなのか?」と驚くだろう。ハンディカムが記録した年末年始の北海道、東京、沖縄の風景が記録され、セックスシーンがあるのは松尾監督が撮った東京編のみ。しかし監督は「これも僕のAVの範疇」と語る。うん、僕もそう思う。松尾監督がAVを撮り始めたレンタルの時代はパッケージから中身を想像し、そこに裏切られる楽しさも「AV鑑賞」の醍醐味だった。だってつまらなかったとしても300円だもの。僕はそこでTVや映画では味わえない、映像の可能性を体験することが出来た。他にも林由美香さんが亡くなり、追悼イベントで数回上映されただけの『由美香 REMIX』、自由なオトナを感じさせる唯愛さんとフィンランドを旅する『僕の愛人を紹介します』、松尾監督の東京観とドSっぷりが発揮された『パラダイス オブ トーキョー』(僕はもし松尾作品を初めて見る、という人がいたら、まずは本作から紹介したいと思う)、彼女が猫を撫でているだけでもエロスがぷんぷん漂う『恥ずかしいカラダ 水城奈緒』といった作品が監督自身の手で再構成、編集されている。

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以上はファンも認めるカンパニー松尾作品のベストと言えるが、僕が久々に見直し、さらに見方まで変わってしまった作品が当時人気単体女優だった若菜瀬奈主演の『AVアイドルヒッチハイカー』だ。本作は監督自身が今も「大失敗作です」と語っているし、僕も当時はそう思っていた。確かに松尾監督の傑作『Tバックヒッチハイカー』と比べてしまうとAV女優が逆ナンパをしながら旅をし、監督と女優の関係性も面白いように変わり、エロさもぐんぐん増すドキュメンタリーならではのダイナミックさがない。若菜瀬奈の本作は、松尾監督ではなくキャメラを見つめ、マイペースに行動をし、かと思えばセックスの最中に監督を惑わすような台詞を発する1人の人気AV女優の姿が映し出される「だけ」なのだ。監督はそんな彼女に悩み、戸惑い、「好きになってしまった」ことを隠せない。その負けっぷりは見事だし、今の松尾監督作品にはない感触さえ感じてしまう。そこが面白い。そして何より若菜瀬奈が可愛い。現在、彼女のAVを見ることは難しい。しかしこうしてまとめられたことで、「はじめて」彼女を知る、若い人もいるかもしれない。だが、僕はそんな人にも彼女は魅力的に映ると思う。

©HMJM
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このDVDにまとめられた女性たちは皆、本気だ。そこには成功も失敗もない。そこに気付いた時、本作がカンパニー松尾の「ベスト」ではなく、「8時間」としてまとめられた理由がよく分かった。何より、彼女たちを本気にさせたカンパニー松尾が1番本気なのだ。だから見終えて元気が出た。最近のAVで、こんな「気持ち」が味わえる作品は、そう、なかった。

やっぱり一夜一話で見ればよかったかもな。この高ぶりは、もっと時間をかけて感じたかったから。

書籍情報

『メーカー横断ベスト!!!カンパニー松尾8時間』
カンパニー松尾『メーカー横断ベスト!!!カンパニー松尾8時間』

2012年2月13日発売
価格:2,980円(税込)
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プロフィール

カンパニー松尾

1965年生6月29日 愛知県春日井市生まれ。高校卒業後、上京して映像専門学校へ入学。卒業後、TV番組の制作会社を経て、87年V&Rプランニングに入社し、翌年AV監督デビュー。91年全国の素人女性を巡るロードムービー的AV「私を女優にして下さい」を発売(シリーズ継続中)。AV界にハメ撮りのジャンルを確立させた第1人者。また、ポップな映像や音楽を取り入れるなど、アプローチの方法の面でも業界に与えた影響は大きい。2003年にHMJM(ハマジム)を設立。現在も、ハマジムの社員監督として活躍中。座右の銘は、「SEX, Curry and Rock&Roll」。カンパニー松尾の名前の由来は、高校時代、近所の店でホカホカ弁当を仕入れ、学校で売っていた活動を「松尾カンパニー」と呼んでいたから。

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