レビュー

敢えて居心地のいいゾーンから抜け出した、シガーロス2枚目のファーストアルバム

金子厚武
2013/06/20
敢えて居心地のいいゾーンから抜け出した、シガーロス2枚目のファーストアルバム

2枚目のファーストアルバム


新作『Kveikur』(クウェイカー)の発表に先駆けて、先月日本武道館公演を含むジャパンツアーを実施したSIGUR ROSに続いて、今月は8月に新作『Smilewound』の発表を控えるMUMが来日、さらに7〜8月にはBJORKが日本科学未来館を舞台に『Biophilia』体現ライブを行うことが決定し、22,000円というチケット代も含めて話題となるなど、今日本はちょっとしたアイスランドブームに沸いている。「アイスランド新御三家」とも言うべきこの3組のブレイク以前は、アイスランドは北欧の一角というイメージで、音楽的にもメタルやハードロックのイメージが強かったが、今では「広大な自然から神秘的な音楽が生まれる国」というイメージがすっかり定着したと言えよう。


SIGUR ROS7枚目のオリジナルアルバム『Kveikur』は、長期にわたる制作の末に、さまざまな素材を組み合わせたコラージュ的な作品となった前作『Valtari』から1年という、彼らとしては異例の短期間で発表される作品であり、キャータン・スヴェインソンの脱退によって、ヨンシー・ビルギッソン、ゲオルグ・ホルム、オーリー・ディラソンの3人体制となってからは初となるアルバムである。オープニングを飾る“Brennisteinn”や、タイトルトラックの“Kveikur”をはじめ、これまで以上にヘヴィでラウドな楽曲が一番の特徴で、先日の武道館公演で1曲目に披露された“Yfirbord”では4つ打ちがフィーチャーされるなど、リズム面でのチャレンジも光り、また新たなバンド像を打ち出した1枚となっている。

「毎回違うことをしていこうとは思ってる。ただ特別そう決めて動いてるわけじゃないんだ。『何か違うものを作らなきゃ』って思っているわけじゃないんだよ。ただ同じものを作るのはつまらないから、毎回面白くしていきたいっていうのは頭にあるんだ。今回は曲作りもプロデュースも3人でこなしたのが一番わかりやすい違いだと思うんだけど。前作は共同制作(ヨンシーのボーイフレンドでもあるアレックス・ソマーズが作品に大きく貢献していた)という形だったから、実際3人でプロデュースするのは今回が初めてだったんだ。他にあまり明確ではない違いといえば……このアルバムの制作が決まって、書き始めのときに話し合ったことは、自分の能力以上のことをしようということ。枠に収まらずに、自分の居心地のいいゾーンから抜け出してみよう、って話していたんだ。それが大きな違いを生んだんじゃないかな」(ヨンシー)

SIGUR ROSの大ファンであれば知っている人も多いかと思うが、彼らは1997年のデビュー作『Von』の発表時は3ピースだった。その後、キャータンが加入し、セカンドの『Ágætis byrjun』の完成後、最初のドラマーだったアウグスト・グンナルソンに代わってオーリーが加入。2000年に富士急ハイランドで行われた第1回の『SUMMER SONIC』で初来日し、セカンドステージでトップバッターを飾ったのだった(ちなみに、2番手として登場したのが、デビュー作『Parachutes』の発表を数日後に控えたCOLDPLAYだった……懐かしい)。

つまり、『Kveikur』という作品は、彼らにとって2枚目のファーストアルバムと言っていいのではないだろうか。困難を極めた『Valtari』の制作を終え、3人になってある種の初期衝動を取り戻したことにより、バンドサウンドを主体に短期間で仕上げたのが『Kveikur』であり、だからこそ、構築的なサウンドプロダクションよりも、ラウドなギターやリズムによるライブ感が前面に出ているのだろう。

そう思って見ていくと、『Von』と『Kveikur』のアルバムジャケットには、どことなく類似性が感じられる。『Kveikur』のジャケットは、ブラジルの現代アート界をリードしたアーティストの1人、画家・彫刻家のリジア・クラークが1967年に制作した作品の一部で、メンバーはマスクの仮装っぽい雰囲気に惹かれたそうだが、実際に、この2つのジャケットに関連があるかどうかは定かではない。しかし、無垢な印象を与える『Von』に対し、『Kveikur』はそこから成長し、マスクで身を隠すことを覚えたものの、それでも音楽に対する遊び心は今も変わっていない、そんな風に受け止めることもできるように思う。

日本人はなぜアイスランドの音楽を愛してやまないのか?


さて、SIGUR ROSの楽曲のタイトルや歌詞というのは、もちろん日本語でもなければ、基本的に英語でもなく、アイスランド語と、ホープランド語と呼ばれる造語で書かれているため、パッと字面を見ただけでは全く意味が分からないものがほとんど。とはいえ、その意味を調べていけば、当然そこから見えてくるものがある。本作のリードトラック“Isjaki”のミュージックビデオでは歌詞が用いられているが、それについてヨンシーはこんな風に語っている。


「間違った歌詞をつけられるのに嫌気が差したんだ。結構歌詞を取り違える人がいてね。でも、それは僕ら自身が提案したことじゃなくて、マネージメントの方に言われたことなんだ。彼らにそう言われて、どうせ多くの人が歌詞を読み違えてるんだから、そうしようってなったんだ。最近流行ってるYouTubeのリリックビデオさ(笑)。大体いつも音楽が歌詞に影響を与えるんだ。歌詞は一番最後に書くようにしてる。音楽に影響されて書くからね。レコーディングがほぼ全て完成しそうなところで、実際に座って歌詞を書き始める。音楽を聴きながら、どういうことを感じて、何を思い出させられるかを考えるんだ。もしかしたら聴いてる側も音楽を聴くだけで、歌詞の意味がなんとなくわかるんじゃないかな。歌詞を知らずに音楽を聴いてる人がどういったものを思い浮かべてるのかっていうのは、面白いところだと思うんだよね。多分似通ったものだと思うからさ」

実際には、“Isjaki”のビデオを見ても、日本人の大半はリリックの意味が分からないと思うし、他の曲に関しても具体的な意味は分からない。しかし、収録曲のタイトルの意味を調べていくと、“Brennisteinn”が「硫黄」だったり、“Hrafntinna”が「火山岩」だったりと、本作には火山絡みのキーワードが多いことがわかる。『Kveikur』というアルバムタイトルにしても、「ろうそくの芯」という意味で、これもどことなく火山とのリンクを感じさせる。アイスランドという国は火山の国として知られ、活火山が多数存在し、2010年にはエイヤフィヤトラヨークトルの噴火によって、ヨーロッパの航空機関が麻痺するという事例もあった。3ピースで作り上げたラウドな作風が、自国の火山のイメージと結びついたという想像は難しくない。


先日CINRAでインタビューをしたmoshimossというアーティストは、実際にアイスランドを訪れたことにより、自然と音楽の関係性を実感し、その後は故郷である山梨の自然も特別なものに感じられるようになったということを語ってくれた。その国の地理条件と音楽の関係性というのはよく語られることで、例えば、日本人がイギリスのシンガロング系の哀愁メロを好むのは、同じ島国ならではの、他と切り離された寂しさを、団結することによって吹き飛ばそうとする、その意識が根底にあるからだと言われたりする。同じように、島国であり、火山国であることは、日本とアイスランドの共通点だが、もうひとつ両国が共通しているのは、地震が多いということである。日本については言うまでもなく、アイスランドも今まさに群発地震が話題となっている。常に目に見えない恐怖と対峙し、微細な揺れに神経をとがらせてきた歴史があるからこそ、イマジネーションを大事にし、それでいて繊細な表現を育んできた日本とアイスランド。この感覚の共有があるからこそ、日本人はアイスランドの音楽を愛してやまないのではないだろうか。

『Kveikur』本編のラストに収録されているのは、ピアノをフィーチャーした厳かなインストナンバーの“Var”。「Var」とは、「シェルター」を表す言葉である。自然の脅威と対峙しながら、力強く生き抜く人々を優しく包み、慈しむかのような、美しいエンディングだ。

リリース情報

Sigur Ros
『Kveikur』(CD)

2013年6月12日発売
価格:2,580円(税込)
XL Recordings / BGJ-10175

1. Brennisteinn
2. Hrafntinna
3. Isjaki
4. Yfirbord
5. Stormur
6. Kveikur
7. Rafstraumur
8. Blapradur
9. Var
10. Hryggjarsúla(日本盤ボーナストラック)
11. Ofbirta(日本盤ボーナストラック)

プロフィール

SIGUR ROS

アイスランドを代表する唯一無比の3ピース・バンド。97年のアルバム・デビュー以来、現在までに6枚のオリジナル・アルバムを発表。神秘的で壮大なサウンドは世界中から絶賛され、02年作『()』はグラミー賞にノミネート。商業的な成功を音楽の力だけで成し遂げた稀有な存在としてリスナーはもちろん、アーティストからも絶大な支持を得ている。12年発表の6作目『ヴァルタリ 〜遠い鼓動』は全米7位、全英8位を獲得。

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