作ることについて語るときに画家たちの語ること

冒頭から脱線で恐縮ですが、今これを書いているPC画面の隅っこで、Twitterに「村上春樹ファン必読! ノーベル賞最有力作家のすべてに迫った守護霊独占インタビュー」の文字が躍ってのけぞった。守護霊インタビュー……。本人がめったに公の場で語らないのは有名だけど、その手があったか。そういえばアート界でも以前、アンディー・ウォーホルの霊を召喚してインタビューするという映像作品があったのを思い出す(宮川敬一+外田久雄によるユニット、セカンド・プラネットの『An Interview with Andy Warhol, 2006』)。

ともあれ、かくも人々は、「作る人」側の生の言葉に惹き付けられる。実際、毎日のように表現者たちへのインタビューが雑誌やウェブサイトを賑わせ(僕もその末席で働く身)、美術展でもいわゆるアーティストトークは定番イベントとなっている。

東京国立近代美術館も、2005年から30回にわたり公開イベント『アーティスト・トーク』を開催してきた。今回そこから12人の画家たちを選び、トークの記録映像と彼らの作品を同時に体験するのが『プレイバック・アーティスト・トーク』展だ。もともとこのトークシリーズは、収蔵作品を前にその作り手本人が来場者へ語りかける名物企画。つまり今回は、その再構成で新たに「目と耳で楽しむ展覧会」(同展PR映像より)を作る試みと言える。


作家陣は、小林正人、辰野登恵子、日高理恵子、丸山直文らベテランにして現役の画家たち12人。作風も手法も、そして観衆 / 聴衆へ語りかける言葉も様々だ。壁掛けの四角いカンバスから絵画を解放したような小林の作品がなぜ生まれたのか、樹木の枝が見る者を包み込む日高の絵はなぜいつも見上げるアングルなのか、静謐でおぼろげな背景上にくっきり引かれた堂本右美の不思議な線描の正体は――といったことが、本人たちの言葉で語られる。

小林正人『Unnamed ♯7』1997年 東京国立近代美術館蔵
小林正人『Unnamed ♯7』1997年 東京国立近代美術館蔵

それは種明かし的な語りというより、突き詰めれば「なぜ作るのか」をめぐる思索の言葉でもある。彼ら12人の作家たちは1940〜60年代生まれと世代の幅はあるが、「1970年代末〜80年代にかけて発表を始めた画家」という共通点もあるとのこと。展示全体からは、彼らが同時代に問い直し、乗り越えようとしたものの共通性も垣間みられる。ミニマルアートやコンセプチュアルアートといった先行する潮流、また丸山のトークでも語られる「絵画は終わった」という物言い。それらを越えて自らの進む先を探る彼らにとって、言葉は僕らの想像以上に大切なものだったかもしれない。一見「作るも作家、語るも作家」という趣きの美術展ながら、ここに企画側のメッセージを読み取ることもできる。

丸山直文『Garden 1』2003年 東京国立近代美術館蔵
丸山直文『Garden 1』2003年 東京国立近代美術館蔵

タイトルに冠された「プレイバック」(Playback)は録音・録画物の「再生」を意味する言葉だが、企図されたのは単なる時代の巻き戻しと再提示でもないはずだ。絵画の平面性と物質性、レイヤー、視線の動き、そして何をもって1枚の絵の「完成」を決めるのか。彼ら一人ひとりの言葉は、続く世代のアーティストの試みにも形を変えてつながっているように思う。会場で無料配布される、トークのハイライトを文字化した小冊子をめくりながら、そんなことを考えた。

『プレイバック・アーティスト・トーク』展入場者全員に無料配布される小冊子(文庫サイズ、全56ページ)
『プレイバック・アーティスト・トーク』展入場者全員に無料配布される小冊子(文庫サイズ、全56ページ)

ところで、こうなると本展の関連イベントはアーティストトークとはいかなそう? あるいは、画家たちがかつての自らのトーク映像を前に最新の言葉で語る試みがあっても面白そうだが、不条理演劇みたいでややこしい? 企画者の大谷省吾さん(東京国立近代美術館主任研究員)は「それもちょっとだけ考えたんですけど……」と笑いながら、今回は別方面から新たに「生の言葉」が加えられることを教えてくれた。同時代を生きた美術批評家たち――天野一夫(豊田市美術館チーフキュレーター)、谷新(宇都宮美術館館長)、建畠晢(京都市立芸術大学学長)が会期中にそれぞれ単独講演を行うそうだ。

岡村桂三郎『黄象 05-1』2005年、ほか 東京国立近代美術館蔵
岡村桂三郎『黄象 05-1』2005年、ほか 東京国立近代美術館蔵

結局僕らは、作家たちの言葉を唯一の「公式解説」として受け入れるのでもなく、かといって「作家と作品とは別物」と批評のみを指針にするのでもなく、各々のくれるヒントから作品をより深く感じ取り――そして自ら語ろうとするのだろう。言葉は重ねられることで、厚みを帯びていく。いつしかそれが「歴史」と呼ばれることもあるように――。

ま、その追究の果てに霊界までアクセスを試みるかどうかは……人それぞれの道ということで。

※なお、今回の出展映像は各トークをそれぞれ15分程度に編集したもので、その完全版は同館のアートライブラリでも視聴可能。画家以外にも写真家の畠山直哉や、彫刻家の戸谷成雄らが登場している。

イベント情報
『プレイバック・アーティスト・トーク』展

2013年6月14日(金)〜8月4日(日)
会場:東京都 竹橋 東京国立近代美術館
時間:10:00〜17:00、金曜のみ10:00〜20:00(入館は閉館の30分前)
出展作家:
秋岡美帆
岡村桂三郎
児玉靖枝
小林正人
鈴木省三
辰野登恵子
堂本右美
中川佳宣
長沢秀之
日高理恵子
丸山直文
山口啓介
休館日:月曜(7月15日は開館)、7月16日
料金:一般650円 大学生350円
※高校生以下および18歳未満、障害者手帳をご提示の方とその付添者1名は無料

講演会

2013年7月6日(土)14:00〜15:30
会場:東京都 竹橋 東京国立近代美術館 講堂(地下1F)
講師:天野一夫(豊田市美術館チーフキュレーター)
定員:先着150名(事前申込み不要)
料金:無料

2013年7月20日(土)14:00〜15:30
会場:東京都 竹橋 東京国立近代美術館 講堂(地下1F)
講師:谷新(宇都宮美術館館長)
定員:先着150名(事前申込み不要)
料金:無料

2013年7月27日(土)14:00〜15:30
会場:東京都 竹橋 東京国立近代美術館 講堂(地下1F)
講師:建畠晢(京都市立芸術大学学長)
定員:先着150名(事前申込み不要)
料金:無料

(メイン画像:堂本右美『Kanashi-11』2004年 東京国立近代美術館蔵)



フィードバック 2

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Art,Design
  • 作ることについて語るときに画家たちの語ること

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて