レビュー

CINRAのサイトを見ている岡山市民は中野区民より多い

武田砂鉄
2013/07/04
CINRAのサイトを見ている岡山市民は中野区民より多い

東横インのメンバーズカードを持つ私は、地方へ行く度に東横インへ泊まる。東横インは大きな駅から漏れなく徒歩数分圏内に位置している。部屋に置いてあるファイルケースには駅周辺の飲食スポット等を記した地図が入っており、それを見て「代わり映えしねぇな」と思う。毎回、そう思う。酒場は沢山あるけれど、それ以外は無い。つまり、駅周辺が、人を積極的に吸い寄せる機能を持っていない。駅ビルや地元産の何がしを強調した飲食店はあくまでもその土地にわざわざやってきた人のものであって、その土地にいる人のものではない。人を短時間キープさせるだけでいいのだから、要らぬ過剰さが放たれていて、どこか浮き足立っている。

その土地にいる地方の若者たちは、どこへ行くのか。ショッピングモールだ……という議論はもう散々繰り返されてきたからカットする。この本は(当然ながら)繰り返された議論から一歩踏み込んだ考察を加える。若者はショッピングモールと自宅の往復で「構わない」「満足している」とするのだ。オビ文から抜いてみる、「地方都市はほどほどパラダイス / 満員電車、高い家賃、ハードな仕事……もう東京には憧れない」。週末ごとに、車に乗って1時間かけてイオンモールへ行き1時間かけて帰る、という過ごし方に満足している。「ショッピングを楽しみ、映画を楽しみ、食事を楽しむことのできる、極めてよくできたパッケージ」なのだ。ストレスの少ない地方と刺激の強い都会、その間でいいとこ取りを模索するとき、「ほどほどに楽しいショッピングモール」に頼るのだ。

この間、B'zの稲葉浩志がテレビで発言しているのを聞いて驚いた。彼らは今年、デビュー25周年を記念して全国津々浦々、小規模のホールを含むツアーを行っているのだが、「なぜこんなにビッグになった今でも小さな場所でもプレイするのか?」と聞かれた稲葉は「僕らが来ることによって、一時的にでもその街が活性化すればいいと思っている」という類いの発言をした。この手のお決まりの答えは「お客さんの顔を近くで見られるし、アットホームな雰囲気で……」というものだが、稲葉は「地域の活性化」を真っ先に挙げた。この本の基となるフィールドワークは岡山県で行なわれており、著者はこの本を当初『岡山の若者たち』というタイトルで出版する気だったという。実は、B'zの稲葉は、その岡山県の出身。津山市にある実家の「イナバ化粧品」は観光地と化していることで知られる。津山市は現在、B級グルメ・ホルモンうどんで地域活性化を図ろうとしている。こういった取り組み自体からも分かるように、いたって普通の地方都市だ。ミュージシャンが野心を持って東京を目指し、一旗揚げた後に望郷の念を歌うのは1つの仕上がり方だが、B'zの稲葉は、望郷ではなく活性化のために地方へ戻ってくる。この冷静なスタンスは、「ほどほど」という感覚とリンクするような気がするのだがどうだろう。本書で著者は「地元と若者」の関係を、世代ごとのミュージシャンをとりあげ、BOØWY(反発)→B'z(努力)→Mr.Children(関係性 / 二者関係)→KICK THE CAN CREW(関係性 / 地元仲間)と変化してきた、と比較考査する。つまり、かつてのように現状に抗いながら打破していくのではなく、今は現状を味方にしながら自身を肥やしていく、というわけ。BOØWY以降のミュージシャンに、反抗心は無い。受け入れた上で、自分を磨くか、関係を構築するか。そして、その関係性の意識が地元に回帰してきたのが今だ、とする。……本当だろうか。懐疑的な見解を持つ。1つの例を紹介したい。

山梨を拠点にするラッパー・田我流が朝日新聞(2013年4月6日)のインタビューでこう答えている。「地方って今は逆に最先端なんじゃないかって。病気に例えるなら、症状が先に現れるのが地方。その症状は、確実に日本全体をむしばんでいく。(中略)いつか東京も世界のどっかの中心に吸い取られて、山梨も東京もアメリカの田舎も平べったい景色になって、ある1か所だけがいつか世界中のすべてを食い尽くすんじゃないか。俺は今、漠然とそんなことを考えてます」。「都会と田舎ではなく、その間が出来ているのだ」、という本書の示唆は、田我流の問題意識と瞬間的には同調するかもしれないが、眼差しはまったく違う。「遠く / 長く」見つめているのは、田我流だ。

CINRA編集部からあるデータを見せてもらった。このカルチャーサイト・CINRA閲覧者の市町村別パーセンテージデータだ。上位から見ると東京・大阪の大都市圏が続き、その後で福岡市や札幌市、仙台市などが入ってくる。本書の対象である岡山はどうか? 驚くことに、ベスト40に入っているのである。その下に位置するのは中野区。つまり、CINRAのサイトを見ている岡山市民(岡山県民、ではない。念のため)は中野区民よりも多いのである。岡山市の人口は70万人、中野区の人口は30万人だ。中野区の人口構成を年代別にみると、もっとも多いのが30歳代で19.0%、次いで20歳代が17.5%。同じく岡山市の構成は(詳細データが見当たらないので棒グラフから類推すると)40代・60代が比較的多いがこれは特徴的な数値ではない。人口は倍とはいえ、そもそも比率として若者が多い中野区よりも、一般的な人口分布にある岡山市のほうが、このサイトに興味を持っている。CINRAのサイト右上にある「今週のイベント」をクリックしてもらえばわかるが、このサイトで紹介しているイベントの多くは、中野からは電車を乗り継いで易々と行けるが、岡山からはなかなか容易に行けない場所で行なわれるものがほとんどである。それなのに、このサイトは、中野区民よりも岡山市民が多く見ている。

著者は岡山県のフィールドワークで見つめた風景の全てが、「どこかで見た光景」だったと結論付ける。東横インに泊まる度に感じる、「駅前にある、観光客向けに用意された過剰さ」と「ショッピングモールに集う若者たち」は相反するけれど、著者が言う「どこかで見た光景」という言葉を前にすると一緒くたに吸収される。そこから抜け出すものがあるのかないのかについて、この本には言及がない。抜け出していくコト / モノをそもそも必要としない若者たち、と推察する本だ。しかし、例えば田我流は、先述のインタビューを「世界っすか? 変えたい。うん。変えたいと思う」と実に素直に締めくくっているし、何度も繰り返すが岡山市民は中野区民よりもこのサイトのカルチャー情報にアクセスしているのだ。

若者が地方にこもった、ではその後どうするのか。もしかしたらそれは、チョロQのように、後ろに引けば引くほど、前への加速が強まる可能性もある。地方の若者が無意識的にでもその準備を進めているとしたら、これは相当面白い。本書の「こもる」という指摘は暫定的な状態であって、もしかしたら「地方って今は逆に最先端」に変わっていくかもしれないのだ。

書籍情報

『地方にこもる若者たち 都会と田舎の間に出現した新しい社会』

2013年6月13日発売
著者:阿部真大
価格:798円(税込)
ページ数:216頁
発行:朝日新聞出版

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