レビュー

山田五郎と友近が水先案内人 版画から紐解くピカソの恋愛歴

内田有佳
2013/07/30
山田五郎と友近が水先案内人 版画から紐解くピカソの恋愛歴

パルコでピカソ。そのキャッチーさに不思議な感覚を覚えながら、渋谷の街に降り立った。

今回展示されるのはピカソの版画作品60点。テーマは「愛」。いや、「女」といったほうが分かりやすいかもしれない。ピカソはその生涯で常に新しい恋人をつくり、彼女たちへの愛や嫉妬、支配欲を制作の原動力としていた。20世紀最大の芸術家は単なる女好き……? そんなワケがないのは分かっているが、教科書的ピカソ像を更新するため、フラットな気持ちで会場へと足を踏み入れた。

会場風景

まず鑑賞の前にピカソの恋愛歴を押さえておこう。ピカソが愛した女性は、よく知られるだけで7人もいる。うち3人との間に子どもをつくり、結婚は2度した(なんだか数が合わないが……)。最初の恋人は、20代前半で出会った同い年のフェルナンド・オリヴィエ。2人目の恋人、マルセル・アンベールを癌で亡くすと、30代半ばでロシア人バレリーナ、オルガ・コクローヴァに出会い最初の結婚をする。40歳半ばで、妻がいるのに17歳の美女、マリー=テレーズ・ワルテルを道でナンパし、溺愛。その後も写真家のドラ・マール、芸術家志望のフランソワーズ・ジローと恋仲になり、愛憎劇を繰り広げた。極めつけは80歳で2度目の結婚。相手のジャクリーヌ・ロックとは46歳の歳の差だった。

ざっと振り返ってもこの激動ぶり。そして彼女たちは、実によくピカソの作品に登場する。

会場は、全部で5つのセクションから構成されている。最初のセクション「画家とモデル」でさっそく登場するのは、最後の妻、ジャクリーヌ・ロックと思われる女性だ。『ポーズをとったモデルと画家』(1966)では、女性の体は内側から光っているように見える。画家の筆先にも閃光が描かれ、インスピレーションが降りてくるその一瞬を絵にしたのかもしれない。「画家とモデル」はピカソが生涯、好んで描き続けた題材だ。若いころは生命力や生殖能力、愛や哀感を表すために。歳を重ねてからは、前衛画家の証としてエロティシズムをテーマにした。画家にとって日常の風景に思える題材の奥に、ピカソの人間性が滲み出ている。

会場風景

続いて「闘牛と古代神話」「男女、あるいは抱擁」のセクションへ。ここでは、まるでミノタウロスのような、ピカソの激しい欲望を知ることができる。そのマッチョな精神をよく表しているのが『女のベールをとる男』(1931)。安らかに眠る女は当時17歳のミューズ、マリー=テレーズ・ワルテルと言われ、その体に覆いかぶさるように男が近づいている。鋭い目、鍛えられた体にピカソの征服欲や強い欲望を感じる。「男女、あるいは抱擁」の小部屋には、この作品を筆頭に抱擁シリーズが続いている。執拗に描かれる男女の交わりを眺めていると、ふと、ピカソは根っからのさみしがり屋なんじゃないかという気がしてきた。

会場風景

会場風景

続く「女の肖像」のセクションでは、ピカソの恋人への眼差しが見えてくる。あるときは実物よりも美しく、あるときは女という生き物を観察するように客観的に。ピカソはさまざまなタッチで女たちを描いた。聡明な雰囲気が漂う『ジャクリーヌの横顔』(1957)には、彼女に対する敬意が感じられるし、ピカソらしい色彩とキュビスムの手法で描かれた『女の顔』(1962)は女性の多面性を描いたようにも見える。このセクションにはモデルが誰かはっきりしている絵も多く、制作年とその頃の恋人を照らしあわせて観るのもおもしろい。

そして展示は「静物、サーカス、男の顔など」のセクションで締めくくられる。自身を投影したサーカスの曲芸師や、ギターを解体したキュビスム時代を彷彿とさせる作品『コンポジション』(1948)。女たちとの戯れとは別の世界にある作品が展覧会にコントラストを生んでいた。

さて、恋愛ネタを挟みながらもまじめに観てきたこの展覧会だが、ある意味、一番キャッチーな話題が最後になってしまった。それは音声ガイド。王道の作品解説をする山田五郎バージョンの他に、なぜか友近バージョンが……。聞こえてくるのは中森明菜や上沼恵美子のモノマネによる作品解説。注意書きには「※会場ではお静かに」とある(苦笑)。パルコのチャレンジ精神に乾杯! 美術館ではお目にかかれない演出だ。その中で、ピカソの歴代の恋人たちの画像も見ることができるので、是非ご覧いただきたい。もう1つは500円ぽっきりの入場料。こちらも、さすが若者の街・渋谷。珈琲一杯の感覚で、ショッピングの合間にピカソ休憩もいいだろう。

最後に、ピカソの言葉が入った特製おみくじをやってみた。CINRAスタッフが引いたのは「明日に延ばしてもいいのは、やり残して死んでもかまわないことだけ」とのこと。パルコでピカソが観られるのは8月19日まで。みなさま、お見逃しなきよう!

イベント情報

『没後40年記念 ピカソ愛と芸術の版画展』

2013年7月19日(金)〜8月19日(月)
会場:東京都 渋谷パルコパート1・3F パルコミュージアム
時間:10:00〜21:00(入場は閉場の30分前、最終日は18:00閉場)
料金:一般500円 学生400円
※小学生以下無料
※会期中無休
※音声ガイドは有料

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