レビュー

スマホ寡占市場に雑誌は立ち向かえるのか? 2014年に創刊された雑誌を振り返ってみる

武田砂鉄
2014/12/22
スマホ寡占市場に雑誌は立ち向かえるのか? 2014年に創刊された雑誌を振り返ってみる

PC閲覧激減、スマホ閲覧急増の2014年

インターネットの視聴行動を調査するニールセンが発表した「2014年の日本におけるインターネットサービス利用者数ランキング」は、衝撃的な、いや、露骨な数値を叩き出している。2014年は、PCからのサイト閲覧が急激に減り、ごっそりスマートフォンに移行した1年だと分かる。

パソコン インターネット利用全体<br>
パソコン インターネット利用全体
Source:Nielsen NetView 家庭および職場のPCからの利用、Brandレベル
※Nielsen NetViewは2歳以上の男女
※利用数はアプリの利用者とWebサイトの訪問者の非重複の合計
※2014年1月から10月までのデータを使用。平均月間訪問者数にてランキング
※データの読み方;”2014年は毎月、平均で4,099万人がYahoo!に訪問していた。”

スマートフォン インターネット利用全体
スマートフォン インターネット利用全体
Source: Nielsen Mobile NetView スマートフォンからの利用、Brandレベル
※Nielsen Mobile NetViewは18歳以上の男女
※利用数はアプリの利用者とWebサイトの訪問者の非重複の合計
※2014年4月から10月までのデータを使用。平均月間利用者数にてランキング

PCからの平均月間利用者数を、対昨年比込みで確認すると「第1位Yahoo 4099万人(対昨年-8%)」「第2位Google 2772万人(対昨年-17%)」「第3位FC2 2245万人(対昨年-19%)」といずれも急減したのに対し、スマートフォンからの平均月間利用者数は「第1位Google 4127万人(対昨年 +33%)」「第2位Yahoo 3875万人(対昨年 +35%)」「第3位LINE 3209万人(対昨年 +45%)」との数値。実に分かりやすくヒエラルキーが入れ替わった1年になった。

山手線の車両から雑誌の中吊り広告が消える?

片や出版業界に目を向ければ、今年の上半期のデータで、書籍が前年同期比5.5%減の4094億円、雑誌が同6.2%減の4173億円(出版科学研究所)。「上半期合計の実績としては、1950年の調査開始以来、過去最大の落込みとなった」(新文化オンライン)という。書店数も、2万店以上あった15年前から急降下し、今年遂に1万3000店台に入っている(アルメディア)。では、書籍が紙から電子に移行できたかと言えば、電子書籍市場の昨年度の市場規模は1013億円、紙の市場の約6%に過ぎない。

改めて言うまでもないのだが、PCからスマートフォンへの切り替えと、雑誌6.2%減が無関係であるはずがない。今年から『週刊現代』や『週刊ポスト』といった週刊誌が車内の中吊り広告を減らしているが、読者層がもはや定年してしまい通勤電車に乗らなくなったからという皮肉は、恐らくあたっている。JR東日本は来年秋から山手線に導入する新型車両「E235系」に、中吊りを入れないことを発表している。代わりに液晶画面を増やし、1両あたり最大20か所に約20インチの液晶画面を設置するという。この変化はまさに通勤電車に乗る個々人が、紙から電子へ、PCからスマホへ、情報摂取の方法をガラリと変えてきた流れを汲み取ったと言えるのではないか。

雑誌不況の時代にあえて創刊された雑誌の特徴とは

これらの余波もあり、2014年は、あるジャンルの軸となってきた雑誌の廃刊が相次いだ年ともなった。『小悪魔ageha』『egg』などのギャル系雑誌や、コアなファンを多く持つコミック誌『月刊IKKI』の休刊は象徴的に捉えられたが、むしろ、安定的な読者を得てきたにも関わらずひっそりと消えていった、パズル雑誌『クロスワードファン』、エロ雑誌『PENT-JAPAN』、パソコン雑誌『MacPeople』あたりの廃刊は、いかにも雑誌の勢いが弱まったことを教えてくれる。しかし、雑誌好きとしては、この雑誌不況の時代にあえて創刊した雑誌を振り返ってみることも忘れたくない。2014年に創刊された雑誌から特徴的なものを絞り出してみた。

『la farfa』は、2013年3月にムックとして創刊し、今年から雑誌として隔月発行となった、ぽっちゃり女子向けのファッション誌だ。「『着れる服』から『着たい服』へ」をはじめとしたキャッチコピーが巧妙で、「マシュマロ女子」「しらたま女子」「ぽちゃカワ女子」という、雑誌主導の女子の定義も、コンプレックスを個性へと丁寧に変換していて見事である。

アメリカの『Forbes』が、2009年に日本版を廃刊してから5年後に版元を変えて再創刊した『Forbes JAPAN』は、翻訳記事に加えてオリジナルのルポ記事を挟む構成。シンガポール発のメンズファッション誌を日本へ上陸させた『THE RAKE』、昨年の創刊だがアメリカ・ポートランド発のライフスタイル雑誌『KINFOLK』の存在も光る。「日本の雑誌はみんな同じに見える」「売上至上主義のもと、いつしか日本の雑誌は画一的で個性に欠け、自由な誌面が創れなくなっています」と攻撃的なメッセージを掲げて創刊したのが、あたかも輸入雑誌のような佇まいのファッションカルチャー誌『Them magazine』だが、こうして「代わり映えしない雑誌に飽きましたよね」と、外からのエッセンスを改めて投じてくる雑誌が増えたのが特徴的。

現実的な作りと、「モノ感」を強めた作り

女性誌の世界では、相次いで廃刊となったギャル雑誌の逆を行くかのように、既婚女性を意識した『CHANTO』や『aene』といった雑誌が創刊。これらの雑誌はいずれも「ちゃんと」「あ、いいね!」という日常的な言葉を語源に持つ雑誌名。雑誌の中身を照らし出すように、なんとも現実的なネーミングだ。

縁遠い人間からしてみるとついつい「ku:nel的」とひとくくりにしたくなるナチュラル系の雑誌。ムック扱いだった『ナチュリラ』が雑誌として新創刊したり、旅にフォーカスした『TRUNK』が登場したり、昨年末には雑貨に絞った『トルテ』も出たりと、ゆったり暮らすための雑誌の勢力図は、毎年のように慌ただしく動いている。すっかり旅の常連となった『ことりっぷ』が雑誌『ことりっぷマガジン』を創刊したが、この雑誌を開くと、いわゆる「ku:nel的」雑誌たちを素直に平均化していて驚いた。

いわゆる青文字系のファッション誌を卒業した女性に向けた、『NYLON JAPAN』発行元から出た新創刊美容誌『CYAN』、「ファッション絵本」を謳う『LARME』などは、ずっと持っておきたくなる「モノ感」を強めた作りだし、昨年創刊した『TRANSIT』の姉妹誌『BIRD』にも同様の方向性を感じる。このモノ感を考えた時に個人的に紹介したくなるのは、離島経済新聞が2012年から刊行しているタブロイド雑誌『季刊リトケイ』だ。最新号vol.11の「特集:いろんな島のしまことば」では、消えていく島言葉を考察する記事など読ませるページが満載で、デザインも楽しい。

雑誌の雑誌特集でノスタルジーが強まっていく

『Pen』は12月1日号で「もうすぐ絶滅するという、紙の雑誌について。」という挑発的なタイトルの特集を組んだが、内容はさほど挑発的ではなかった。雑誌が雑誌の特集をすると、特集のどこかしらで在りし日の雑誌を振り返ることになるが、その手の特集が繰り返される度に雑誌界の寂しさが増長されていく気もする。特集自体は興味深く読んだが、雑誌が作る雑誌特集にノスタルジーが強まれば強まるほど、(あえて死語を使うと)イケイケドンドンな業界から本格的に置いてけぼりにされるのではないか。

冒頭で挙げたPCからスマホへの完全移行、そして電車車両から週刊誌の中吊りが減り、新型車両からはそのスペースすら排除される、というのは、外的要因ながら雑誌にとっては大きな転換点ではないか。そんな中、間隙を縫うように創刊された雑誌群の行方がどうなっていくのか、引き続き定点観測していきたい。

作品情報

2014年の廃刊と創刊

プロフィール

武田砂鉄(たけだ さてつ)

1982年生。ライター/編集。2014年9月、出版社勤務を経てフリーへ。「CINRA.NET」で「コンプレックス文化論」、「cakes」で芸能人評「ワダアキ考 ~テレビの中のわだかまり~」、「日経ビジネス」で「ほんとはテレビ見てるくせに」を連載。雑誌「beatleg」「TRASH-UP!!」でも連載を持ち、「STRANGE DAYS」など音楽雑誌にも寄稿。「Yahoo!個人」「ハフィントン・ポスト」では時事コラムを執筆中。インタヴュー、書籍構成なども手がける。

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