レビュー

「孤高の天才」ではもったいない、服部峻という早熟の音楽家

テキスト
金子厚武
2015/11/13
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「孤高の天才」ではもったいない、服部峻という早熟の音楽家

高校生でレコード会社のスタジオに出入りする、早熟な才能

あなたは服部峻という音楽家をご存知だろうか? 今はまだ「知る人ぞ知る」という域を出ないが、近年ではSerphを輩出したことで知られるレーベルnobleから11月13日に発売されるファーストアルバム『MOON』によって、彼の名は多くの音楽ファンに知れ渡り、誰もが彼の音楽に大きな衝撃を受けることだろう。

簡単にプロフィールを紹介しておくと、服部は現在大阪在住で年齢は20代とのこと。1997年に映画教育機関として設立され、2000年にNPO法人として認められた映画美学校内の音楽美学講座(岸野雄一、菊地成孔らが講師を担当)の第1期生として、当時まだ15歳だったにもかかわらず、特別に入学を許可されている。また、高校生のときにはメジャーレコード会社の有名ディレクターの目に留まり、会社のスタジオを自由に使わせてもらっていたというのだから、彼がいかに早熟であったかが窺い知れるというものだ。

高校卒業後は表立った活動が見えなかったが(YouTubeには服部が手掛けた音楽と映像がいくつか公開されている)、2013年に6曲入りの『UNBORN』を高円寺にあるアンダーグラウンドシーンのメッカ「円盤」のレーベルから発表。ジャズや現代音楽が溶け合ったようなその独創的で甘美な電子音楽は、越境的なジャズがシーンを賑わせている今の耳にも十分新鮮だが、この時点ではまだ好事家の間で話題を呼ぶにとどまっていた。


インド旅行をきっかけに、サントラから発展した『MOON』

ゆっくりしたペースで音楽活動を続けてきた(ように見える)服部らしく、『MOON』の制作背景もやや特殊なものになっている。そもそもは彼の長年の親友だという映画監督の遠藤麻衣子の依頼により、来年公開予定の日仏合作映画『TECHNOLOGY』のサントラとして作曲をスタート。しかし、月からインドにやってきた女性(ジャケットに写っているのがその女性)を主人公にした映画は「とらえどころのない映画だった」とのことで、取材のために実際インドを訪れることに。するとそこでの体験から曲の構想が一気に膨らみ、自身のフルアルバムへと発展していったというのだ。

服部峻『MOON』ジャケット
服部峻『MOON』ジャケット

実際にアルバムを聴いてみると、タブラのようなインドゆかりの楽器も一部では使われているものの、基本的には、あくまで自らのスタイルを追求したという印象で、フリージャズやシンフォニックな要素を残しつつ、『UNBORN』以上に折衷度の高い世界が繰り広げられている。ミュージックビデオ(といっても静止画で、おそらくはインドで撮った写真)が公開されている2曲目の“Old & New”ではアグレッシブなドラムが打ち鳴らされ、続く3曲目“The Sand Effects”の後半ではベースミュージック的な展開をみせたりと、アルバム前半はより外界に開かれたような作風が特徴だ。


しかし、アルバム後半になるとスピリチュアルな印象が強まり、アンビエントやドローン的な作風へと移行して、曲によっては雅楽も織り交ぜられている。服部は本作のテーマを「信仰」としているそうで、アルバムのラストには聖歌隊のようなコーラスをフィーチャーした“Partition”、そして「贖罪」を表したかのような“Forgive Me”という2曲が続いているように、インドを訪れて感じた彼なりの宗教観が、本作には大きく反映されているように思われる。

カニエとARCAのような、クリエイティブな交流の呼び水に

僕が『MOON』を聴いて連想したのは、ARCAの存在だった。自主制作のミックステープがインターネットを通じて話題を呼び、カニエ・ウェストによるフックアップを受け、昨年発表のデビューアルバム『Xen』がコラボレーターであるジェシー・カンダのアートワークと共に称賛を持って迎えられると、今年はBjorkの新作にも名前を連ねている。彼の音楽はDTMによって生み出され、強烈に折衷的で混沌としたものではあるのだが、歌を唄うよりも、楽器を演奏するよりも、濃厚にフェティッシュな身体性が感じられるのが特徴だ。いわば、現代におけるテクノロジーと身体の倒錯した関係性を表しているかのようであり、僕は服部の作品にもそんな感触を覚えた。骨ばった右手を顔の前に掲げるアーティスト写真もフェティッシュだし、もしかしたら『TECHNOLOGY』という映画も、そんなことがテーマなのかもしれない。

服部峻
服部峻

最初にも書いたように、『MOON』の発売によって服部の名前はコアな音楽ファンの間で大きな話題となるだろう。しかし、彼を「孤高の天才」と位置づけるのはあまりにももったいない。カニエとARCAの関係性はアメリカにおけるオーバーグラウンドとアンダーグラウンドのクリエイティブな交流を示していたが、日本でももっとそういった交流があってしかるべきだと思う。彼が通っていた映画美学校にしても、日本の映画の文化水準を高め、世界で勝負できるクリエイターを生み出していくことが目的のはず。服部峻という稀有な才能が、そんな動きの呼び水となってくれることを期待せずにはいられない。

リリース情報

『MOON』
服部峻
『MOON』(CD)

2015年11月13日(金)発売
価格:2,160円(税込)
NBL-215

1. Startup
2. Old & New
3. The Sand Effects
4. She
5. Rickshaw
6. Borderline
7. Gravity
8. Chota Bheep
9. Pink
10. Soma
11. Partition
12. Forgive Me

プロフィール

服部峻
服部峻(はっとり たかし)

大阪在住の音楽家。映像作品も手がける。映画美学校音楽美学講座の第一期生。当時まだ15 歳だったにもかかわらず特別に入学を許可される。2013年12月、6曲入りの初作品集『UNBORN』を円 盤レコードより発表。2015年11月、自身初のフルアルバム『MOON』を nobleよりリリース予定。

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