レビュー

現行シーンから浮いた新人Ryu Matsuyamaのほっておけない個性

テキスト
麦倉正樹
2015/11/17
現行シーンから浮いた新人Ryu Matsuyamaのほっておけない個性

4つ打ち、シティポップ、EDM。昨今のシーンのどれにもはまらないピアノスリーピースバンド

「4つ打ち」ダンスロックの次は「シティポップ」? それとも「EDM」? シーンが活況を呈しているのは良いことだと思うけど、自分も含めてみんなちょっと「次」を占いすぎてはいないのか。シーンの状況を見ながら、敢えて「置きに行っている」楽曲が、無きにしもあらずのように見える昨今。そもそも音楽とは、どこからやって来るのか? 少なくとも、現在のシーンの隙間を縫って、意図的・戦略的に現れるようなものではないし、ましてや方程式を解くように生まれるものではないだろう。

そんなことをぼんやり考えていたとき、思わずハッとさせられるような音楽が流れてきた。随所に只者では無い卓越したプレイヤビリティーを感じさせながらも、最終的に残るのはその音楽が喚起する壮大なイメージと、そこから溢れ出すエモーションーーそれが、Ryu Matsuyamaのミニアルバム『Grow from the ground』を初めて聴いたときに感じた、何よりの印象だった。

Ryu Matsuyama『Grow from the ground』ジャケット
Ryu Matsuyama『Grow from the ground』ジャケット

イタリア生まれイタリア育ちのRyu(Pf,Vo)、10代前半からベーシストとして活動してきたTsuru(Ba,Cho)、バークリー音楽大学への留学経験があるJackson(Dr,Cho)からなるピアノスリーピースバンド、Ryu Matsuyama。彼らが奏でるのは、昨今のシーンを見渡しても、すぐには他に例が思いつかないような音楽だ。単なる「ピアノトリオ」とするには、何やらスケール感が大きすぎるし、“In a Sunny Place”と名付けられたインスト曲から静かに始まる本作が描き出す情景も非常に独特だ。流麗なピアノのフレーズと、どこまでも緻密なリズム隊が織りなす、浮遊感のあるサウンドスケープ。そして、そのど真ん中を貫く、Ryuの中性的なボーカルが打ち放つエモーション。リズムの精緻さから、まずはtoeのような日本のポストロックのバンドを想起しつつも、その音楽が描き出す風景と質感は、むしろSigur Rosのようなヨーロッパのバンドに近いような気もする。とはいえ、そのメロディーと歌に、Prefab Sprout(パディ・マクアルーンを中心に結成、1982年にデビューしたイギリスのバンド)のような「青さ」を感じたりもする。Ryu Matsuyamaとは、果たして何者なのだろうか?

Ryu Matsuyama
Ryu Matsuyama

リリカルな映像表現と好相性、「情景」をしっかり見据えた楽曲

恐らく、彼らはあらかじめ「見ている場所」が違うのだろう。昨今のシーンを見渡した上で何かを選択するのではなく、もっとプリミティブな衝動を宿した音楽。というか、そもそも「見えているもの」が違うのかもしれない。リズムやメロディーの断片から人為的に楽曲を組み上げていくというよりも、それらのフレーズが喚起する「情景」をあらかじめしっかりと見据えた上で、それを三人が一丸となって描き出そうとしているような音楽。彼らが生み出す楽曲が、PVで表現されているようなリリカルな映像と抜群の相性を示すのは、きっとそのせいであるように思われる。そして、彼らもそのことを自覚しているのだろう。


本作のリード曲となった“Taiyo”のミュージックビデオ。独自の色彩感覚で女性の美を切り取る映像作家・林響太朗の手によるこの映像は、陽光差し込む木々の間を、女の子がスローモーションで歩いて来るシーンからスタートする。まばゆいばかりの緑の中にたたずむ女の子の唇には真っ赤なルージュが塗られている。その女の子が森を飛び出し、さえぎるものがない原っぱへと駆け抜けて駆けて飛び跳ねるーー。その静と動のあわいを行き来するようなイメージが喚起するものこそ、Ryu Matsuyamaの音楽が描き出す「情景」なのだろう。それをいかにして音楽で表現することができるのか。そして、基本全編英語で綴られた歌詞の中に、突如登場する<この身体と声で / ただ燃え尽きたい>という日本語のフレーズが打ち放つ、切実なエモーション。それは彼らの音楽同様、人為を超えたプリミティブなエモーションを放つものとして、聴く者の心に深く突き刺さって来るのだった。

シーンの動向に縛られない、自由な感性の可能性

ジャンルはもちろん、特定の国や街、あるいは環境に依拠しない、プリミティブなエモーションを宿したリリカルな音楽。『Grow from the ground』(大地から育ったもの)とは、なるほど言い得て妙なタイトルだ。海のものでも山のものでもない。敢えて言うならば、自らが立っている地面から、いつの間にかスクスクと生えて来た音楽。本作の最後に収録された“Child”という曲の中で、彼らはこんな風に歌っている。<Don't stop imaging / Keep on creating / Keep on loving / What you really like / What you really need child>。そして、その歌詞に、彼らは自らこんな対訳をつけている。<想像をやめるな / 常に作り続けて / 常に自分が好きなことを / 自分が必要なことを愛し続けろ>。


この10月に初めて開催した自主企画ライブのゲストに、壮大なサウンドスケープと美しいメロディーで昨今注目のバンド、ROTH BART BARONを招くなど、「現在のシーン」とは一線を画す、独自の世界観を持ったバンドたちと緩やかな連帯を組みながら、自らが信じる音楽を鳴らしているRyu Matsuyama。その音楽をひと言で示すような言葉はまだ無いけれど、これからの邦楽を牽引してゆくのは、既成の観念に縛られることのない、自由な感性と表現方法を持った、彼らのようなバンドたちなのかもしれない。そう感じさせるに十分な1枚だと思う。

リリース情報

『Grow from the ground』
Ryu Matsuyama
『Grow from the ground』(CD)

2015年11月18日(水)発売
価格:1,890円(税込)
TRJC-1048

1. In a Sunny Place
2. Paper Planes
3. In this Night
4. Taiyo
5. Run boy, run
6. Child

イベント情報

『Ryu Matsuyama×GARAGE Gazing the Earth』

2015年11月20日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 下北沢 GARAGE
出演:
Ryu Matsuyama
渡會将士
おかもとえみ
料金:前売2,500円 当日3,000円(共にドリンク別)

プロフィール

Ryu Matsuyama
Ryu Matsuyama(りゅう まつやま)

ピアノスリーピースバンド。イタリア生まれイタリア育ちのRyu(ピアノ・ボーカル)が2012年に “Ryu Matsuyama”としてバンド活動をスタート。2014年、結成当初からのメンバーであるTsuru(ベース)にJackson(ドラム)を加え現メンバーとなる。

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