コンプレックス文化論 第八回「遅刻」

コンプレックス文化論 第八回「遅刻」其の三 ソラミミスト・安齋肇インタビュー「締め切りよりも、仲間を大切にしよう」

コンプレックス文化論
第八回「遅刻」

文:武田砂鉄 イラスト:なかおみちお 撮影:柏木ゆか

最近は、「38分遅れます」と、正確な遅刻情報を届けます


―安齋さんの遅刻を考えるときにある種リスペクトされるのは、「タモリさん相手でも遅れる」っていう事だと思うんですよ。お、この人、分け隔てなく遅れてるっていう。

安齋:いやー、別に、犯罪をまんべんなくしたからと言って、犯罪は犯罪じゃん(笑)。

―いやでも、アシスタント待たせる時にはすごく遅れて、えらい人が来た時にはちゃんと待ってるって、感じ悪いですよね。

安齋:いや、僕はその人は正しいと思うよ。分け隔てなくって言うのは言葉がいいだけ。駄目でしょ、「遅刻の上に遅刻を造らず」じゃないっしょ。

―(笑)。リリーさんとみうらさんの対談の中にあったエピソードなんですが、遅刻を繰り返す安齋さんに、タモリさんが「あなたは時計持ってないんですか」って聞いて、それを後々、安齋さんが友人に「今度タモリさんがオレに時計買ってくれるんだよ」って言いふらしてたというエピソードがあるんですが、本当ですか?

安齋:本当です。勿論、色々カットはされてますけどね。「あんた時計持ってないから遅れるんじゃないか。時計はちゃんとつけなさい。そういえばあんたマネージャーもついてこないねって。うちのマネージャーつけるよ」なんて言われまして、いや、これやばい……と思って、「いや、大丈夫です」って断ったんですが、また半年くらいしてえらく遅れてしまい、そこで僕、「時計がないもんで……」って言っちゃったんですね。タモリさんが「なんで時計してないんだよ!」って言うから、「いや、だって前にタモリさんくれるって言ったじゃないですか!」って言ったんです。

―ひどい!

安齋:確かにひどい!

―そもそもお聞きしたいんですが、例えば5時までに行かなきゃいけないのに、4時半すぎても家にいる、これはもう遅れると決まりました、こうなったとき、最善を尽くすんですか? それともゆっくり行くんですか?

安齋:最善を尽くしますよ! 最近は、正確な遅刻情報を相手に届けますからね。

―正確な遅刻情報?

安齋:つまり、「すみません、38分遅れます」とか。

―どうやって導くんですか、38分遅れ。

安齋:ばーっと計算するんですよ。着替えるのにこれぐらい、タクシー捕まえて、いや、この時間だとタクシー捕まらないから電車だ、ここからいけば大体……と計算していく。田口トモロヲさんとかとやってるパンクバンドのリハの時に、「46分遅れます」ってメールして、本当に46分後に来たって感動してもらえたんですよ。ただそこで、ある疑惑がわいて。わざと46分後に来ようとしてるんじゃないかと。

―実は30分前に着いて、どこかでコーヒー飲んでんじゃねえかって。

安齋:それでメンバー皆でちょっとその辺探してみたらしいんですよ(笑)。でもそれぐらい、きちんと出来るんですよ僕。こないだ何故遅刻するかというのを心理学の先生に相談したんですよ。僕は身支度をして、その過程で思い立ったりする事が多いんです。例えばシャワー浴びた後で身支度しようと思うんだけど、テレビでニュースやっていて、そのニュースが終わるまでなんとなく気になって見てしまう。で、次のニュースが始まった時にそのタイトルを見たら、うわっこれもちょっと気になんな〜と思う。んで最後まで見てしまう。そういう積み重ねが、あ、そうだ、あの人にこれ持ってたら喜ぶんじゃないかとか、移動中にこの飴舐めようかなぁとか、派生していくんですよ。そのことを相談したら「安齋さん、それはね、完璧主義者なんですよ」と言われた。

安齋肇

―遅刻常習犯と完璧主義者、なかなかイコールになりづらいですが……。

遅れてる方もイライラしてるんですよ。実はそれを皆さんご存じない

―20代の頃は普通にデザイン会社で働いてらっしゃったと思うんですけど、その頃から遅刻常習犯だったんですか。

安齋:その頃の遅刻っていうのは「小柄」ではなく「大柄」な遅刻でしたね。師匠がいないと出来ない仕事だったんですけど、その師匠は毎日2日酔いで12時ぐらいにしか来ないんですよ。僕は10時から行かなきゃいけなかったんですけど、2時間待ってるのは無駄じゃないですか。あと、女性アシスタントの人と二人っきりなのも気まずかったし。30分ぐらいだったら何とか一緒にいられるなーって感じがしたのと、30分ぐらいあればその日の準備ができるなーって思ったんで、10時出社を勝手に11時半出社にしてたんですよ。その時は、自分が遅れるのは会社の為にも僕の為にもなっていると思っていた。

これにはある教えがありまして、桑沢デザイン研究所っていうところに一浪して入ったんですが、宮沢タエっていう宮沢賢治の姪にあたる先生が担任だったんですよ。その先生が言ったんです、「学校というのはあなた達に、ただ教えるものではない、学ぶものだ。自分で学びなさい。ここで学びたくないんだったら、来なくていい。その代わり、あなたが学校に来ない時間、何を学んだかを報告してください。そしたら全部出席にしてあげるから」と。これには、めちゃめちゃ感動した。なんだ、行かなくって良いんだって(笑)。

―…………。

安齋:……遅刻してる人ってこうやってなんでも都合よく解釈しますからね。遅刻している人を待ってる方はイライラしてますよね。

―してますね!

安齋:でもね、遅れてる方もイライラしてるんですよ。実はそれを皆さんご存じない。ふふふ(笑)。

―存じ上げません(笑)。何に対してイライラしているんですか。

安齋:まず時計見た瞬間にうわぁって思いますよね。一瞬こう、ドバーッと発汗しますよね。まあ放尿はしないにしても、ちょっとくらい出ちゃいますよね。想像するんですよ、めっちゃこれやっべえぞ、怒られるに決まってらぁと。築き上げてきたものが、遅刻することによって……僕は何度遅刻しても、毎回その光景を想像してイライラしてるんですよ。

で、ひょっとしたらですけども、遅刻常習者というのは、遅刻するドキドキとイライラを楽しんでいる可能性がありますね。やばい!っていう感じを楽しんでいる。この先どうなるんだろう、って。

―もしも毎回そうやってドキドキしてるんだとしたら、ストイックな日々ですよね。「○時に行って○時に帰る」みたいな人と違って、毎日、「どうしよう、僕どうしよう」って「本当に」思ってるんだとしたら……

安齋:本当に思ってるんですって。今日こそやばいと、あいつ今日はどう出てくるだろうとか。

―さすがに今日こそ田中さん怒るんじゃねえか、とか、そういうことですか?

安齋肇

安齋:そうそう、今回ばかりはあの「仏の田中」もやばいんじゃないかって。つい先日もNHKの生放送、なぎら健壱さんの番組に遅れたんです。2時からだったんですが、スタジオに着いたのが2時5分。なぎらさんは5分間、ラジオで怒りをぶつけてたらしいんですよ。スタジオに入るなり、「おい、ちょっとジュース買ってこい!」って言ってきた(笑)。

―その日の立場が決まっちゃった。

安齋:番組中に名古屋まで行ってういろう買ってこいとか、放送中逆さに吊っときゃよかったとか。名古屋のういろうはさすがにちょっと無理だったんですけど、今度なぎらさんと『タモリ倶楽部』ですれ違う時があったら、ういろう持っていって渡そうと思ってるんです。

―安齋さんの中にある「なぎらさん、申し訳ない」っていうその気持ち、それはちゃんと1年後2年後でも持続するんですか?

安齋:もちろんもちろん。もうすごいよ。いつだって蘇りますもん。

―遅刻バンクに相当遅刻が貯まってる。

安齋:遅刻バンク、そうそう、マイルみたいに遅刻が貯まってますから。

―例えば3年前に遅れて迷惑かけた人でも、「3年前のあんときごめん」ってなるんですか?

安齋:あーもうそれはそれは。



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