あの人の音楽が生まれる部屋

あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.5:cero

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あの人の音楽が生まれる部屋 Vol.5:cero

結成直後に活動休止
ceroの音楽性を広げた月イチの発表の場

ceroの機材

二人は意気投合しバンドを結成、高城さんの高校の卒業ライブで、ナンバーガールのコピーを演奏しました。そのときに高城さんは初めてオリジナル曲を披露するのですが、それはTelevisionなどに影響を受けつつもナンバーガール直系の曲だったそうです。また、その卒業ライブには橋本さんがやっていたバンド「Big West Good Three」も出演しました。それは吹奏楽部を集めたスウィングポップバンドで、彼が現在やっているジオラマシーンの原型とも言えるサウンドでした。2004年、高校を卒業した高城さん、荒内さん、柳さんはceroを結成、3ピースによる脱構築したポストロック的なサウンドを目指します。ところが荒内さんが大学受験で浪人してしまったため、バンドを1年休まなければならなくなりました。

高城:結成と同時に「活動休止」になってしまいました。その頃、『Home&Away』という、僕の友人トム(徳山知永)が主催していた月イチのイベントが吉祥寺bar dropであって。そこに僕と柳くんで「ザジ」っていう名義で、毎回何かしらの形で出演させてもらうことにしたんです。他の人とコラボしたり、デュオでやったり。そうやって取っ替え引っ替えやっていく中で、いろいろな音楽的要素が自分の中に入っていきましたね。表現(hyogen)のメンバーでトランペット奏者の古川麦くん(新作『Yellow Magus』にも参加)と柳くんと僕で、「ポスターズ」っていう一夜限りのバンドを結成したり。僕は日芸の演劇学部に所属していたんですけど、劇団を作って舞台上で演奏もしました。そうやって毎月、無理矢理にでも何かを提示しようとしたことが、結果的にceroの音楽性を広げていったんだと思います。バンドメンバーが常に流動的でオープンなのも、きっとこういう経緯があったからでしょうね。

自分たちらしい音楽を鳴らすために
DIYの「邪道な過剰さ」にこだわったレコーディング

ceroの機材

無事大学に入学した荒内さんも加わり、これまでよりもビートの効いたサウンドを志向するようになった彼らは06年、橋本さんをメンバーに迎えます。この頃すでに、名曲“大停電の夜に”もライブで披露していました。様々な感情、情景といったものを広く「エキゾチカ」と捉え、それをポップミュージックへと昇華させていくcero。もともとは、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』の「やさしいセロのような声」という一節から取ったバンド名にも、「Contemporary Exotica Rock Orchestra」という意味を持たせることで、より自分たちの音楽の方向性が明確になりました。ちなみに、「エキゾチカ」とは、50〜60年代に流行した音楽スタイルのこと。マーティン・デニーの同名アルバムに由来し、トロピカリズムやオリエンタリズムを取り入れたインスト中心のサウンドで、日本では細野晴臣が着目し、自身のソロやYellow Magic Orchestraの作品に反映させています

高城:その頃、ちょうどUSインディーからはスフィアン・スティーヴンスが出てきて。彼の室内楽的なサウンドには、ヴァン・ダイク・パークスに近いものを感じたんですよね。それで、細野さんたちが標榜していた「エキゾチカ」を、僕らの音楽として鳴らせないかなって考えるようになっていきました。もちろん、マーティン・デニーのようなサウンドをそのままやるわけではなくて、思想的な部分で「エキゾ」というものを追っていこう、外にあるものへの憧れを形にしていこうと思ったんです。

2011年、初の流通音源『WORLD RECORD』をカクバリズムよりリリースします。プロのエンジニアに任せるのではなく、全て自分たちで録音しミックスしたDIYのアルバムを作るため、機材やソフトを買い揃えて1年かけて丁寧に作り上げました。

荒内:わけが分からないまま自分たちで適当にマイクを立ててやっていましたけど(笑)、満足のいく作品になりましたね。おそらくプロのエンジニアが見たら、邪道なやり方ばっかりしているんだろうけど、それが「過剰さ」みたいな部分に繋がったんじゃないかなとも思うんですよ。

高城:次のアルバム『My Lost City』(2012年)からは、エンジニアのトクちゃん(得能直也)と一緒にこのPastoral Sound Studioでレコーディングをしているんですけど、ライブでもPAを担当してくれる彼がクルーに加わってくれたおかげで、サウンドのクオリティーが劇的に上がりました。ただ、ミックスは相変わらず橋本くんがデータを家に持ち帰ってやっています。彼は優秀なエンジニアでもあるし、額面通りではない「過剰さ」もちゃんと出してくれるので。そこは他のバンドにはない強味だと思いますね。

変化や改名すら厭わない?
「ここではないどこか=エキゾチカ」を目指す先に

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さて、12月18日にリリースされたDVD付きシングルCD『Yellow Magus』は、2013年9月に恵比寿リキッドルームでおこなわれたワンマンライブのときのサポートメンバーを含めた総勢8人編成でレコーディングされたもの。『WORLD RECORD』リリース後、結成当時のメンバーだった柳さんが絵描きに専念するため脱退してからは、高城さん、荒内さん、橋本さんが楽器を持ち替えながら演奏するパフォーマンスが「持ち味」でもあったのですが、脇をガッチリ固めたことによって三人がより自由に演奏できるようになりました。

高城:以前と比べるとビートが圧倒的に強くなっているし、そこに重きを置いています。今、三人の興味はブラックミュージックに向っているんですよ。00年以降のネオソウルや、最近だとロバート・グラスパーとかその辺りを今年はよく聴いていました。もともと好きなジャンルではあったんですけど、聴こえ方がここ1年でガラッと変わりましたね。「これを今、自分たちのサウンドに取り込めないかな?」っていう気持ちに向かっていますね。

荒内:音楽的な文脈での、いわゆる「トロピカルなサウンド」という意味での「エキゾチカ」ではないのかもしれないですけど、自分にとって「外側にあるもの」が「エキゾ」だとしたら、ブラックミュージックだって「エキゾ」だし、そこから新たな魅力を見つけ出すことが、ceroなりの「エキゾチカ」なんじゃないかなと。

高城:それに、バンド名を「Contemporary Exotica Rock Orchestra」の略と打ち出したことによってceroの方向性が定まったのだとしたら、それをまた別の内訳にしたっていい。なんなら別の名前にしたっていいんじゃないかなとすら思いますね。ceroに勝るようなキャッチーなフレーズは、なかなか思いつかないんですけど(笑)。

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