高橋昂也インタビュー

現代社会の象徴である都市は、僕のかかえる矛盾そのものなのかもしれません

―まず、ご自身のことを聞かせてください。現役の大学生ということですが、何を専攻されているのですか?

高橋:大学ではデザインを専攻しています。とはいえ、ほとんどが自分の時間にあてられる環境なので、個人の制作を中心に活動しています。

―映像を制作し始めたのはいつ頃からですか? また、きっかけはどんなことでしょう?

高橋昂也インタビュー

高橋:小学生の頃からビデオカメラで遊んでいて、徐々に目覚めていったと思います。中学の頃、家庭用のビデオデッキで無理やりビデオ編集ができることを教わり、撮った映像に初めて音楽が乗せられた時の感動は忘れられません。本格的に作品を制作し始めたのは高校の頃です。仲間と一緒に映画を撮ったのが本格的な制作のきっかけでした。

―制作し始めた時と、現在で何か変化したことはありますか? もし、変化したことがあれば、そのきっかけも教えてください。逆に、一貫して表現しているテーマや、制作の目的などはありますか?

高橋:昔の作品と今の作品を比べると、「落ちついたな自分」って思います。古い作品ほど派手で、時を経るにつれてだんだん地味になってるんですよね。昔は漫画やゲームの世界に生きていて、内容よりも見た目のかっこよさを求めていました。そんななかでも、古代エジプトやアメリカ先住民などの民族的な世界はずっと好きでした。しかし、そういった民族的なものを調べるうちに、彼らの精神性がいかに重要かを知りました。その精神性を自分の作品に取り入れたいと思い、見た目のかっこよさ重視から、中身、精神性を重視した作品に変化していきました。

そして最近の作品は一貫して、「人間を超えるものとの対話」をテーマにしていたことに気がつきました。人間対人間だけではなく、人間以外のものにも敬意を持って接することに何か価値があるような気がしたのです。また、そんな考え方を信じることが、僕に安心感を与えてくれました。それでも、やはり僕は(物心ついた頃から)常に「かっこいいもの」を求めて制作しています。僕にとっての「かっこいいもの」が何なのかは日々変化していますが、それは最低条件かもしれません。

―今回掲載させていただく『the vision quest』を拝見した時、本当の自然の中でそこにある(いる)ものを見つめている作者の姿が思い浮かびました。私は、公園や街路樹など都会で見かける造られた自然ではなく、本当の、昔からそこに息づいている自然が支配しているような山や海を目の前にした時、自分の中が空っぽになるように感じます。言葉や思考は邪魔になり、ただ、目の前の自然と見つめ合うことが私に出来る唯一のことになるのです。前置きが長くなりましたが、この作品を拝見した時、高橋さんも本当の自然に触れ、何かを感じた経験があるのではないだろうかと思ったのですがいかがでしょうか?

高橋昂也インタビュー

高橋:自然というものがいったい何なのか、僕には断言できませんが、やはり街の喧騒は苦手です。わかった方もいるかもしれませんが、『the vision quest』の冒頭に出てくる樹は、屋久島の縄文杉です。これは実際に屋久島に行って撮影したものなんですが、屋久島の原生林に身を置いたとき、まず清潔感を感じました。うまく表現できないのですが、この土に身をゆだねて一体化してもいいという感じでした。 自分や人間の暮らす時間や空間の外の世界の事を思うと、自分や人間がいかに小さく、無力なのかを突きつけられるのですが、僕はその事実が何とも心地よいのです。人間がいかに森を大切にしても、また、破壊しても、自然はただただ無表情にあり続けるんだろうなあ、と思いました。そんな自然の姿が、「かっこいい」と思うので、無力ながら、表現したくなりました。

―なるほど。やはりご自身の体験から生まれた世界だったのですね。だからこそ、この作品には力があるのだと思います。『擬態都市 THE NATURAL HERITAGE』では、人工物である都市と自然との関係を高橋さん独自の視点から描いていますが、都市、また、それを造り出している人間に対してはどのように感じていますか?

高橋:僕はどちらかというと人と接することが苦手で、それをコンプレックスに感じていると思います。だからなのか、よくないこととは分かっているのですが、現代人や現代社会というものを否定したくなる癖があります。でも、この現代社会だからこそ、今自分は自由で幸せに生きていけるのだと思います。現代社会を嫌う自分と、現代社会にすがって生きる自分。現代社会の象徴である都市は、僕のかかえる矛盾そのものなのかもしれません。

そんな葛藤のなか、自分の中でなんとか都市を正当化しなければいけなくて、その方法として、都市も自然のひとつの姿なんだという捉え方をしてみました。なんとも無責任ではありますが、これまでも、これからも、僕は常に後ろめたさを感じながら生きていくことは確かな気がします。

自然とは何なのかということに興味があります

―さて、作品は自身を映す鏡でもあります。また、空っぽな人間には何も表現出来ないでしょう。高橋さんの作品には、非常に濃く、ご自身の哲学が反映されています。その発想、思考はどこから来るのですか? また、影響を受けた作品や人物はいますか?

高橋昂也インタビュー

高橋:僕がいまこのように作品を作れるのは、まず、作品製作に没頭できる環境があるからだと思います。幸福なことに、少なくとも今の生活はほとんどストレスがありません。自分で言うのもおかしいですが、今は心に余裕があります。それが必ずしも良いこととは思いませんが、心や時間に余裕をもっていたからこそ、今のような作品が作れたんだと思います。そんな環境で生活できるのは周りの人、特に両親のおかげで、とても感謝しています。また、影響を受けた人物として、星野道夫さんがいます。星野さんの写真や文から感じ取れる自然観に、僕のかかえる色々な問題への答えを感じることができます。

―今最も興味のあることは何ですか?

高橋:やはり自然でしょうか。自然とは何なのかということに興味があります。自然といっても、森や野生動物のことではなく、自分を含めたすべてのものが自然といえると思うのですが、この自然には科学だけでは向き合えない部分があると思います。なにか、科学を超えた考え方が真実につながっている気がします。そう思うとわくわくします。科学を超えた考え方で自然と向き合っていた先人や少数民族たちにもとても興味があります。また、まったく別の話ですが、見る人の行動によって変化する映像、つまりゲームの映像表現にも興味があります。

―クオリティの高さに非常に驚かされたのですが、技術はどうやって身につけたのでしょうか? また、これまでに商用に制作したことはありますか?

高橋昂也インタビュー

高橋:映像制作の技術はすべて独学です。でもいまだにソフトを使いこなせませんし、自分のイメージをうまく形にすることが出来ていません。自分の今の技術で仕事になるとはまったく考えたことが無く、それなりの発表もしてきませんでした。でももし仕事をいただけたら是非やってみたいです。

―これだけの完成度を出せるなら必要とされるはずです。是非、どんどん発表していってください! 制作する上で気をつけている点やこだわっている点はどんなところでしょうか?

高橋:作品で気をつけていることは、非科学的なモチーフを描きつつ、それに現実味を感じさせるような構成や表現を心がけることでしょうか。そのためにはある程度密度のある(リアルな)描写が必要かもしれません。でも、実際はなかなか満足いく表現ができません。

―今後の予定や目標、取り組みたいテーマを教えてください。

高橋:いままではほぼ個人制作だったのですが、今後はいろんな分野の人と一緒に作品を作ってみたいと思います。一人で出来ることは本当に限られていると、やっと実感してきました。これからも、「人間を超えるものとの対話」をテーマに壮大なスケールを想起させるようなものを目指して作っていきたいです。

―作品の外と中、どちらの世界も広がっていくのですね。今後のご活躍を楽しみにしています。それでは、最後に、読者の方々へ一言お願いします。

高橋:最後まで読んでいただいてとても嬉しいです。また、作品の感想などいただけたら、なお嬉しいです。ありがとうございました。

プロフィール
高橋昂也

1985年、愛知県生まれ。高校時代から音楽担当の岡義将とともに映像制作を始める。現在の制作テーマは「人間を超えるものとの対話」。宗教的、原始的なものを多く作品のモチーフに取り入れ、人間以外のものに敬意を持って対話することの価値を探る。



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