秀吉 バンド名を凌ぐインパクト大な新作『コンサート』

Vo&Gtの柿澤秀吉の本名がそのままバンド名となった3ピース、秀吉。当初は仮のバンド名として変更予定だったものの、タイミングを逃しつつ約7年。しかしながら、繊細な情景描写によって創られた楽曲群は、柿澤秀吉の人間性やその背景をそのまま切り取ったかのようで、秀吉という映画の主人公を見ているようでもある。7月15日にリリースされたセカンドミニアルバム『コンサート』は、エモーショナルからメロウまで、さまざまなタイプの楽曲を収録しながらも、いずれも複雑に心を掻き立てる切なさを持った歌声、歌詞、メロディーが、ことごとく琴線を刺激する好作品。独特の空気感を放つ楽曲の秘密に迫った。

うわべだけで作った歌だったら、自分が歌にする必要はないと思うんです

―バンド名としての「秀吉」を呼ぶときと、秀吉さんを呼ぶときは、どう使い分ければいいんですか?

秀吉:ニュアンスで(笑)。意外と伝わりますよ。

―柿澤さんと呼ぶ人はいない?

秀吉:誰もいないですね。秀吉くんでいいですよ。

―秀吉の音楽性は、秀吉くんの感情とか、考えてることとか、生まれや育ちみたいなところまで、すごく出ている音楽だと思うんです。それを知ってるのと知らないのとで、アレンジの方向性も変わってくるのかなと思うんですけど。

町田:僕個人的にはあんまり考えることはないですね。僕と秀くんは小学校から一緒で、ずっと一緒に音楽をやってきたので。ただ、意識はしてないけど、継続してやってきてるバンドなので、自然と流れで共通してるものはあるかもしれないですね。

秀吉 バンド名を凌ぐインパクト大な新作『コンサート』

―今みたいな音楽性になったのは、いつくらいから?

町田:平たく言えば、このバンドを組んでからですね。

秀吉:徐々にっていう感じなんですよね。高校生の頃にやっていたバンドでは別にボーカルがいたんですけど、高校を卒業してこのバンドを組んでからは自分が歌うようになって、そこから変わりだしたっていうのはありますね。そのときにやれることと、やりたいことをやってるんで、歳を経るにつれて、それが変わっていってるっていうだけのことで。

―秀吉として作る音楽に、テーマはあったりするんですか?

秀吉:ないことはないんですけど、あえて自分らはこういう感じです、みたいなものはなくしてるというか。こういうジャンルがやりたくて始めたとか、そういうのじゃないので。曲を作るにあたっても、詞からできるときもあれば、曲からできるときもあれば、バンドのアレンジからできるときもあったりするので。

―曲作りのテーマや形は特に決まってない?

秀吉:そうです。もし俺が先に詞も曲も作って、イメージ通り完璧にやるって形だったら、たぶん似たようなものばっかりできちゃうと思うんですよ。そうしたくなかったっていうのもあるし。

―秀吉の楽曲は、歌詞に左右される部分も大きいと思うんです。

秀吉:そんなこともないですね。曲のイメージから詞ができるときもあるので。このバンドは歌詞だ、みたいには全然思ってないです。歌詞も曲の一部ですね。捉え方は自由だと思うんですけど。

―僕的には、秀吉くんの人間性が歌詞にすごく出てると思うんです。メンバー的にはいかがですか?

町田:そんなに意識することはないですね。ごく自然な感じの内容っていうか。別に無理して書いている内容ではないなと思うし。そこがもしかしたら人間性なのかもしれないですけど。

秀吉:たぶん、うわべだけで作った歌だったら、自分が歌にする必要はないと思うんです。自分が本当に感じたことで、かつみんなも感じているようなことで、言えないようなことだったら、作品にする意味があるかなと。

感動しやすくないって言いたいタイプです(笑)。

―生まれ育った街の景色とか、そういうものが投影されてると思うんです。町田さんは秀吉くんと長い時間を一緒に過ごしていて、同じ景色を見ることも多かったと思うんですけど、歌詞とか歌の雰囲気から、あれはここの景色なんじゃないかな、みたいなものを感じることはありますか?

秀吉 バンド名を凌ぐインパクト大な新作『コンサート』

町田:そうですね。完全に街ナカでは育ってないので、それはものすごい出てるかなと。

秀吉:自分が住んでる場所の感じとかは、そこしか知らない田舎者なので、実体験を基に書いてるとは思うんですけど、なんていうんですかね……。

濱野:自分は山形市出身で、どっちかというと田舎のほうなんです。そういった意味では(秀吉と町田が生まれ育った)埼玉の美里町っていうところは、似てるところもありますね。秀くんは秀くんの場所で重ね合わせていると思うんですけど、僕はどっちかというと山形を思い浮かべてるときがあるかもしれないです。

―例えば“夜風”の〈無我夢中で走り抜けた堤防の道〉とか、聴いていると、「きっとこういう街で育ったんだな」みたいな景色が浮かんでくるんですよね。きっとこういうふうに夕陽が見えるんだなとか。それは自然と出てくる感じなんですか?

秀吉:自然とですね。そんなに全国津々浦々体験してるわけではないので、生まれ育った場所がこびりついてて出てきちゃうんだと思うんですよね。

―秀吉くんは、わりと感動しやすいタイプですか?

秀吉:いや。感動しやすくないって言いたいタイプです(笑)。あまのじゃくタイプで。

―日常の風景を歌詞に投影できる人は、きっと普通の人が見過ごすことでも感動できるっていうか、そういうタイプの人じゃないかと思うんですよね。

秀吉:あ、たぶん俺は違いますね(笑)。そういう人を見たときに、「なんかすごい人だな」と思うタイプです。自分にはそういうのがないな、自分ってたいしたことねーなって、そういうところから曲が生まれます。

自分らが今できる実力でやりたいことをやったんだったら、たぶん全部俺ららしくなるんじゃないかなって。

―それぞれ考える秀吉のよさは何だと思いますか?

濱野:メロディーのセンスであったり、曲がよかったり、っていうのもあるんですけど、一番は声が好きなんですよ。実はバンドに入ったときは全然ダメだろうなと思ってたんです。でも、就職で一回辞めて、半年くらいで出戻りしてるんですけど、その間にガラッと変わってて。自分としては、秀吉は声とメロディーがいいんじゃないかなと自信を持って言えますね。

―声自体が変わったというのは?

濱野:どこをどうっていうのはうまく説明できないですけど、曲がガラッと変わって、声が活きるようになったんじゃないかと思います。

―町田さんは?

町田:表に出てるかどうかわからないですけど、頭が柔軟というか……、自分で言うと恥ずかしいんですけど(笑)。何が好きとか何が嫌いとかって、硬くは考えてないと思うんです。外から見たらどうかわからないですけど、固執は絶対にしてないと思うので。それはいいところなんじゃないかなと。

―それはある意味、どんな曲をやっても声が活きるということでも?

町田:それはありますね。秀くんの声が乗っかってたらいいじゃんって思っちゃうときもあります。声だけじゃないんですけど、秀吉らしさが一本あれば、他は何をやってもいいんじゃないかと。

―秀吉らしさってなんだと思います?

町田:うーん、それはわからない(笑)。聴いてこれ!と思ったことが秀吉らしさというか。

秀吉 バンド名を凌ぐインパクト大な新作『コンサート』

―直感的なものなんでしょうね。秀吉くんは?

秀吉:柔軟さって、俺も今恥ずかしかったんですけど(笑)。昔は自分ららしさってなんだろう?ってけっこう考えてて。いろいろやりたいことはあるけど、俺ららしくないじゃんっていうこともあったんですよ。でも、今はもうちょっと柔らかく考えられるようになった。例えばこんな曲をやりたいって言っても、その人と同じようにはできないと思うんですよ。でも、自分らが今できる実力でやりたいことをやったんだったら、たぶん全部俺ららしくなるんじゃないかなって。音楽性はそのときのバンドの状態次第で変わっていくと思うんですけど、それはいいところだと思うんですよね。

―無理に背伸びしなければ自然とらしさは出る?

町田:そうですね。背伸びしてできてなくても、それはそれで秀吉らしいなと(笑)。

―全部肯定しちゃうんですね(笑)。

町田:背伸びしても、まったく完成系にはならないと思うんですよ。だけど、その届かない部分が……、なしだなと思ったらなしなんですけど(笑)。

平凡な、普通のことを、自分なりに対処していったら、違う感じのアルバムができるかなと。

―変にかっこつけるのは似合わないバンドですよね。声に関しては、どういうメロディーが一番声が引き立つとか、そういうのは考えたりするんですか?

秀吉:声質に関してはないですね。メロディーとして考えてって感じです、そのうえで、うーん、そう言われると……。

―自然とやってるのかもしれないですけど、自分の声が一番おいしく聴こえる部分っていうのは、わりとちゃんと出せてるというか。

秀吉:そこは今もかなり葛藤中ですよ。ここはこうしたらいいのかな?みたいな中から作っている感じなので。

―今回の作品について、一番重視した部分は?

濱野:生っぽい感じですね。前作は音を足しすぎてライブでは表現しきれなかったんですけど、今回はライブでも表現しやすいというか、シンプルに作ったので。

町田:僕らが演奏してるライブ感とか、空気感とか、生の音を、今回のCDに入れたかったんですよ。実際、レコーディングでは、録ってるときのスタジオ内の空気の音を録音するマイクも置いたりして。そういうところは、けっこうこだわったところで。録る前から、そうしたいなっていうのはありましたね。

―ライブの雰囲気に近いっていう話もありましたけど、例えば「切ない」とか、そういうテーマはあったんですか?

秀吉:あー、そういうコンセプトみたいなものはないですね。前作を作ってから8カ月経って、その8カ月分のものでしかないじゃないですか。だから、アルバムとしての統一感は、意識しなくても出るだろうなと思って。なので切ないアルバムを作りたいとか、そういうのはまったくなかったです。

―その8カ月間は、どういう気持ちのときが多かったですか?

秀吉:前作はファーストだったから、今までの活動の全部が入ってるんですけど、今回は8カ月だったので、その間にいくつも事件が起こるわけではないじゃないですか。だから8カ月で前作を超えるのは無理じゃねーかと思ってたんです。だけど前作とは違う視点で考えたらもっと広がるかなと思って。だったら、平凡な、普通のことを、自分なりに対処していったら、違う感じのアルバムができるかなと。そういうところから作ったんですよね。

―わりと日頃感じてることを歌に?

秀吉:そうですね。生活してるうえでの、仕事とか、人間関係とか。

―そう考えると、日々いろんなことをすごく考えてるんじゃないですかね。

秀吉:そうかもしれない。そうっすね。

―勝手なリスナーとしての僕の意見ですけど、すごく繊細なんだと思うんですよね。

秀吉:それは俺だけじゃなくて、聴いてくれる人もみんなそうなんじゃないですかね。

―かもしれないですね。それを曲にできるかできないかの違いで。

秀吉:それを言えるか言えないか。俺も言えないタイプなんですけど、そこを言えたらたぶん、言ったことで何かが変わる人もいるのかなと思うんです。だから、とりあえず聴いてくれた人のなかで、何かを残せればと思ってます。歌をどう解釈するかは聴き手によると思うんですけど、CDでも、ライブでも、なにかしら残したいですね。

リリース情報
秀吉
『コンサート』

2009年7月15日発売
価格:1,785円(税込)
LASTRUM / LACD-0159

1. 夜風
2. コンサート
3. 虫の音
4. くもり
5. あさなぎ
6. 道草の唄

イベント情報
『秀吉のコンサートツアー』

2009年7月18日
会場:水戸SONIC

2009年7月20日
会場:渋谷O-NEST

2009年8月7日
会場:熊谷blueforest

2009年8月8日
会場:宇都宮HELLODOLLY

2009年8月10日
会場:仙台MACANA

2009年8月26日
会場:神戸STARCLUB

2009年8月27日
会場:岡山CRAZYMAMA 2ndRoom

2009年8月29日
会場:広島NAMIKI JUNCTION

2009年8月30日
会場:福岡DRUM SON

2009年8月31日
会場:熊本DRUM Be-9

2009年9月1日
会場:長崎DRUM Be-7

2009年9月3日
会場:周南LIVE RISE

2009年9月5日
会場:大阪2ndLINE

2009年9月7日
会場:京都VOX HALL

2009年9月20日
会場:甲府KAZOO HALL

2009年9月23日
会場:新潟CLUB JUNKBOX

2009年9月26日
会場:札幌某所

2009年9月27日
会場:旭川CASINO DRIVE

秀吉presents
『秀吉のコンサートツアー東名阪編』

2009年8月22日
会場:下北沢ERA(スリーマンライブ!!)
共演:wooderd chiarie、soulkids

2009年9月5日
会場:大阪2ndLINE
共演:the court、ELLIOT.C、and more

2009年9月19日
会場:名古屋CLUB ROCK'N ROLL
共演:onsa、viridian、and more

秀吉 presents
『秀吉のコンサートツアーファイナル』

2009年10月11日
会場:高崎clubFLEEZ(ツーマンライブ!!)
共演:LOST IN TIME

OPEN 18:00、START 18:30
料金:前売2,000円 当日2,500円

プロフィール
秀吉

群馬出身3ピースバンド。その特色のあるバンド名はVo/G柿澤秀吉の本名による。卓越したメロディーセンスと透明感、柔らかさを併せ持つ歌声、それを支え力強くしなやかに躍動するリズム、時に優しく時にエモーショナルに、静と動を織り交ぜつつ展開する楽曲はギターロックと呼ばれる範疇に収まりきらない魅力と可能性が溢れている。08年11月デビューアルバム『へそのお』をリリース。それに伴い全国20カ所のツアーを敢行、大盛況の内に幕を閉じる。そして、09年7月15日2ndアルバム『コンサート』を早くもリリース!



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