一体彼は誰なのか? 鍵盤魔術師H ZETT M インタビュー

「謎の天才ピアノ・マジシャン、H ZETT Mがひさびさに活動を再開。Twitterで台湾に住んでいることを示唆し、先日は「正体では?」と噂されるヒイズミマサユ機が所属するPE'Zのサイトをハッキングするなど、何やら不穏な動きを見せている。そんな中リリースされる2年半ぶりの新作『きらきら☆すたんだーど with PS60』は、先にYouTubeで映像が公開されて話題を呼んでいた"ボギー大佐"をはじめ、"エーデルワイス""きらきら星"といった誰もが知っているおなじみの楽曲を、時にファンタジックに、時に暴力的にカバーした、らしさ全開のカバー集だ。そこで我々は彼の正体を突き詰めるべく、日本滞在中のH ZETT Mのもとを訪れ、新作の話はもちろん、PE'Zのヒイズミ氏との関係などについて改めて迫ってみた。謎のベールに包まれた彼の真の姿とは? その一端が垣間見えるかと思う。

(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)

ヒイズミという名前がファーストとしてあり、僕はセカンドと言うか…

―お名前ってなんてお呼びすればいいですか?

H ZETT M:…エイチくん(ボソッと)。

―(笑)。じゃあエイチさんとお呼びしますね。一応聞いておくと、PE'Zのヒイズミマサユ機さんではないんですよね?

H ZETT M:全然ないです(キッパリ)。

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―ヒイズミさんとは先日『キーボードマガジン』でも対談をされていましたが、改めてご関係を教えていただけますか?

H ZETT M:ヒイズミという名前がファーストとしてあり、僕はセカンドと言うか…。『ムーたち』という漫画があるんですけど、自分を見てる自分がいるっていうのを「セカンド」って呼んでるんですね。僕はそういう存在で、本当の自分は多分サードなんです。

―というと、別人ではあるんだけど、ある意味では一体というか…

H ZETT M:ある意味一体ですね。意識は全く違うんですけど。


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思いつきで約1週間前に告知されたにもかかわらず、台湾ゲリラライブには数千人の現地ファンから歓迎された。

―なるほど、ちょっとわかったような気がします…。では新作の『きらきら☆すたんだーど with PS60』についてですが、PS60をフィーチャーしてスタンダードをカバーするというアイデアはそもそもどこから生まれたのでしょうか?

H ZETT M:KORGという楽器メーカーさんがですね、PS60という新しい鍵盤を出しますと。それで「ほうほう」と思いまして、それを使ってパフォーマンスをしたり、映像も撮ったらすごいなと思って、それでまず“ボギー大佐”ができたんです。そうしたらものすごく映像とか面白くてですね、もっと曲をやったらいいんじゃないかと思いまして。

―PS60はどんなところが魅力なんですか?

H ZETT M:音と、鍵盤の弾きやすさですかね。弾きやすさっていうのは、僕が思った感じを表しやすいというか、脳直結というか。あと新しいもの好きっていうのもあって、ツヤツヤした新しい肌触りとかも好きですね。新製品の匂いとか。

―機材マニア的な部分がある?

H ZETT M:そうですね。楽器だけは自分の中で特化してるというか、PS3とかは持ってないんですけど、楽器だけは新製品をチェックしてますね。

―でもその格好で楽器屋さんに行ったら指差されそうですね。

H ZETT M:差されますね。なかなか似てる人がいないんで…。

―(笑)。そもそも楽器に興味を持ったきっかけは?

H ZETT M:小さい頃からピアノをやってたんですけど、ピアノっていうのは何もボタンとかついてないですよね。それで音楽教室とか行くと、エレクトーンとかシンセとかボタンがついてる機材があるじゃないですか? そうするとやっぱり少年心に火が点くというか、ボタンってあったら押したくなるもので。

―でもゲームとかにはハマらずに、楽器に特化したのはなぜだったんでしょうね?

H ZETT M:なんでですかね…。音が出るっていう、耳に直結してる刺激が楽しいんですかね。このボタンを押したことによって出る音が変わるっていうのが、耳にとってすごく刺激的でやめられないっていう。

どんなジャンルにしてもなにかこう爆発してるというか、スタイルに入ってしまうだけのものではないものが好きですね。

―なるほど。じゃあアルバムの話に戻ると、まず初めに“ボギー大佐”を選んだのはどういった理由があったのでしょう?

H ZETT M:パワーがある曲が元から好きなんです。<サル、ゴリラ、チンパンジー>っていう歌詞も好きで、これはひょっとしたらどうにかなるなと思って。スキップ感覚っていうんですかね、心が浮くっていうか、そういう曲が好きなんです。

―他の曲に関しても、“ボギー大佐”からの派生でスタンダード・ナンバーを選んだと。

H ZETT M:スタンダード・ナンバーっていうとジャズっていう感覚が僕にはあるんですけど、スタンダードというか、誰もが知ってるっていう意味で「すたんだーど」って呼んでるんです。選曲のポイントとしては、ミラクルが起きるというか、アレンジしてて別の一面に行ける、異次元に入っていくというか、そこら辺がポイントでして。

―“ボギー大佐”のPVはまさに異次元に入ってますもんね(笑)。

H ZETT M:あれはどっかから怒られないんだろうかって思いますけどね(笑)。


―PVに関してはエイチさんも結構アイデアを出されるんですか?

H ZETT M:今回は映像監督のUGICHINさんとH ZETT ISMというチームを組んで作っています。イメージを伝えたいときは言いますけど、餅は餅屋というか、映像のすごい人の意見を聞きたいんです。それでいろいろ面白いことが生まれれば。映画とか映像作品は元々好きなんですけどね。

―例えば“エーデルワイス”のファンタジックな感じはディズニーっぽいし、“ボギー大佐”のPVはファニーでありダークでもありますよね。エイチさんはどういうタッチがお好きなんですか?

H ZETT M:どんなジャンルにしてもなにかこう爆発してるというか、スタイルに入ってしまうだけのものではないものが好きですね。ギャグ漫画にしても、「こういったらこう笑うっていう流れができてるよね」っていう漫画は特に好きではなくて、「これなんだ? 意味わかんない」っていうのが好きですね。

―ではエイチさんの表現にとって、「ユーモア」「インパクト」「パッション」のどれが一番重要ですか?

H ZETT M:うーん…インパッションって感じですね(笑)。

―インパクトとパッション、両方大事だと。

H ZETT M:そうですね。ユーモアは塩コショウみたいなもんで。

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自分ではこれ絶対いいと思っても、他の人がそう思わない場合も往々にしてあるわけで、それをこう…ぐしゃぐしゃぐしゃっと(笑)。

―他に表現においてどんなことを重要視されていますか?

H ZETT M:人が聴いていいと思うものがまずありますよね。その一方で、これって人がいいと思うかはわからないけど、自分はいいと思うものがある。その2つがせめぎ合って、一緒くたになってるところを目指してるのかもしれない。

―まずは自分が納得するものを大前提にする人も多いかと思うんですけど、エイチさんの場合は当然それもありつつ、聴き手を意識する、エンタテイメントであろうとする部分も大きいということでしょうか?

H ZETT M:自分ではこれ絶対いいと思っても、他の人がそう思わない場合も往々にしてあるわけで、それをこう…ぐしゃぐしゃぐしゃっと(笑)。そこを一番重要視してる気がするので、そのためにもインパッションが必要だと思うんです。さらにユーモアもあれば、いいって言ってくれる人の幅も広がるかなって…。ちょっといやらしいかもしれないですけど(笑)。

―カバー集っていうのは聴き手の間口を広げるので、エイチさんの理想により近付けるかもしれないですね。収録曲の中で、個人的にお気に入りの1曲とかってありますか?

H ZETT M:自分自身でいやらしいなと思ったのは、誰しも誕生日っていうのはあるわけで、“ハッピーバースデートゥーユー”っていうのはいいかなって(笑)。「あなたのことを言ってるんだよ」っていう感じが一番強いというか。ダイレクトさっていうのはいいなあと思うんです。直結したいので。

音楽とマジックは似てるかもしれないですね。

―カバーをすることの一番の面白みはどんな部分ですか?

H ZETT M:原曲と違う和音をつけちゃったりとか、原曲とかけ離れたテンポにすると曲が全然変わるので、そうするとやっぱり聴いた人はびっくりするだろうし、それが面白いですね。

―やっぱり聴き手をすごく意識してるんですね。

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H ZETT M:なんか「ワー」ってやって、「ハイッ」って渡して、「ハハハ」ってなる、そのやり取りが面白いというか。何かしら考えてくれるでしょうし、その考えが生まれること自体にこっちとしては喜びを感じるというか。作ったものに対して何かしら思う、アクションが生まれること自体が面白いんですね。

―つまりは、ある種のコミュニケーションであると。

H ZETT M:そうですね。

―そういう意味では、エイチさんってやっぱり「マジシャン」なんですね。人を驚かせることをして、その反応を楽しむっていう。

H ZETT M:音楽とマジックは似てるかもしれないですね。

―最近はバンドのプロデュースもやられていますが、アーティスト活動との違いや、新たな発見はありましたか?

H ZETT M:そうですね。mimittoという若くておもしろい3人組がいるのですが、彼らを見てると自分もまだまだだなと思いますね(笑)。自分だけだと無責任感があるというか、人に関して「こっちの方がいいんじゃない?」って意見をするのはやっぱり…ちょっとだけ考えるというか(笑)。自分だけだと自滅すればいいんで(笑)。あとトリコーロールというお笑いの女の子3人組の作品も最近作りました。

―(笑)。他にもこれからやってみたいこととかってありますか?

H ZETT M:リミックスとかも楽しいので、ぜひ募集ということで(笑)。

―じゃあエイチさんにリミックスを依頼したらこんな風になるっていうアピールをどうぞ。

H ZETT M:そうですね…自滅しても構わない方は是非(笑)。

―他の人自滅させちゃダメじゃないですか(笑)。「それぐらいインパクトの強いものができますよ」ということですよね?

H ZETT M:そうです(笑)。

ファースト / セカンド / サード その役割とは?

―またヒイズミさんの名前を出してしまって恐縮ですが、PE'Zは今年で結成10周年を迎えましたよね。その一方で、エイチさんにとってソロをやることの意義とは何なのでしょう?

H ZETT M:決して自滅ではないんですけど(笑)、自滅のようなことができるっていうか。「この音を選ぶ」っていう責任はあるんですけど、それを「じゃあどうする?」ってなったときに、バッと無責任になれるというか。

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―最終的なジャッジを自分がダイレクトにできる?

H ZETT M:そういうダイレクト感はありますね。

―ちなみにバンドの喜びはどんな部分にあると思いますか?

H ZETT M:自分にないパワーが生まれるというか、集団になるとやっぱり違うものになる、集団というジャンルになるというか、それが面白いですよね。ライブとかでも、色んなところからスカッド・ミサイルが飛んでくるみたいな(笑)。ソロのときはダイナマイトを腹に巻きつけてる感じですね(笑)。

―自爆前提じゃないですか(笑)。

H ZETT M:でも爆発を表現するんじゃなくて、表現の前に爆発してないと意味がないと思うんです。

―まず自分が爆発すれば、そこから出てくるものも当然爆発してる?

H ZETT M:そうですね。

―そういう表現をするためには、セカンドである必要があるんでしょうか?

H ZETT M:ファーストはファーストで爆発の仕方がありまして、集団としての爆発の仕方っていうのがあると思うんですね。

―ちなみに、普段サードはどこにいるんですかね?

H ZETT M:サードはすぐ後ろにいますよ(笑)。

―サードが前に出てくることは?

H ZETT M:この人は全く武器を持ってないんで、前に出てくることはあまりないかもしれないですけど、セカンドやファーストに耳打ちするんですよ。「今日こういうことがあったよ。これ何かに使えるんじゃない?」って(笑)。でも「君が言えばいいんじゃない?」って言うと、「いや、僕はいいです」って(笑)。

―なるほど、サードは照れ屋で前には出てこないけど、常に繋がってるんですね。では最後にもう一問、エイチさんにとって鍵盤とはどういう存在なのかを教えてください。

H ZETT M:小さい頃からピアノを弾いてて、ある程度弾けるようになったので、手っ取り早いツールというか…。

―一番自分をダイレクトに表現できるツール?

H ZETT M:表現しようと思って鍵盤をツールとして使うというよりも、手っ取り早くやってみたら、「これが表現というものかな?」って感じですね。

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―表現してるという意識すらない?

H ZETT M:あまりないですね。それをやることによって表現になるっていうのはわかってるんですけど。

―じゃあもう体の一部のようなものですか?

H ZETT M:一部になってくれたら嬉しいですけどね…

―まだなってないですか?

H ZETT M:まだなってないです。鍵盤はサードではないんですよね。一部になったらすごそうですけど。

―鍵盤が後ろから「今日こういうことがあったよ」って(笑)。

H ZETT M:そうなったらすごいですね(笑)。

インタビュー終了後、姿をくらませていたH ZETT Mは突如台湾に現れ路上ライブを敢行。現地の若者数千人が殺到し大きな盛り上がりを見せたが、その意図は相変わらず不明。ヘンテコな活動を続ける彼は、大阪FM802が主催する音楽イベント『MINAMI WHEEL(ミナミホイール) 2010』の初日11月12日に参戦する事を遂先日発表。そして同月20日に下北沢で行われるPE'Zのイべントにも参戦する事が決まっている。

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読者プレゼント


H ZETT M

[プレゼント]
KORGのパフォーマンスシンセサイザー「PS60」
※H ZETT Mによる特別ペインティング仕様(写真が現物になります)

[応募資格]
CINRA.NETH ZETT Mのtwitterアカウントをフォローの上、コチラの発言をRTした時点で応募が完了いたします。

[当選数]
1名様

[応募〆切]
2010年11月22日(月)

[注意事項]
・ご当選者のみ11月26日にDirect messagesにてご連絡を差し上げますので、「名前」「郵便番号」「住所」をご返信ください。商品を発送いたします。

リリース情報
H ZETT M
『きらきら☆すたんだーど with PS60』

2010年11月1日発売
価格:2,100円(税込)
ワールドアパート / APPR-2006

1. ボギー大佐
2. エーデルワイス
3. きらきら星
4. ハッピーバースデートゥーユー
5. ユーモレスク
6. トルコ行進曲
7. 猫踏んじゃった
8. メリーさんの羊

プロフィール
H ZETT M (エイチゼットエム)

身長体重不明、年齢不詳、スリーサイズ非公開の"謎の天才ピアノ・マジシャン"。侍JAZZバンドPE'Zの超絶ピアニストであり、東京事変初代メンバーとしてデビュー曲「群青日和」を手掛けた"ヒイズミマサユ機"と同一人物なのではないかという憶測が飛び交うも本人はぼんやりと否定。未だ真偽の程は不明である。2007年、問題作「5+2=11」を携えメジャーデビュー。「5+2=11」(=ゴッタ煮の11曲)という人を食った様なタイトル通り、ジャンル無制限の天才奇才ぶりを発揮。超絶技巧に加え無重力奏法と形容される超人的パフォーマンスで衝撃を与えた2夜限りの"幻のライブ"「ピアノイズ」の後、シーンから突如姿を消すが、2008年まさかの復活。さらに進化したごった煮サウンドを詰め込んだ「PIANOHEAD」をリリース。映像集団OVERHEADSとタッグを組み、もはや芸術の極地に達したライブ「弾きまくりDESTROY」を最後に、再びシーンから姿を消していたが、つい先日突然台湾の台北市内でストリートライブを行い、ほとんど事前告知がなかったにもかかわらず、数千人の観客を集めた。その模様を生中継していたニコニコ動画では生放送視聴者数の新記録を打ち立てた。



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