いつも記憶の隣に、Schroeder-Headzが語るゲーム音楽の魅力

一度でもゲームにハマったことがある人ならば、強烈に記憶に焼き付いているBGMがあるのではないだろうか? スクウェア・エニックスの「SQシリーズ」は、世界的な人気ゲームシリーズ『ファイナルファンタジー』『クロノ・トリガー』などの音楽を、多彩なアーティストたちが思い入れも含めた独自の解釈でリメイクしたコンピレーション・アルバムだ。その最新作である『Cafe SQ』は、Serph、SmileR feat. みぃな(さよならポニーテール)、RÄFVENなどジャンルレスな15組が参加。スクウェア・エニックス作品特有の美しい旋律をメロウに際立たせた楽曲が、ノスタルジーをおおいに刺激してくれる作品となっている。今回は、この『Cafe SQ』にSchroeder-Headzとして参加し、『ファイナルファンタジーIV』(以下、FFIV)のオープニング曲として知られる"トロイア国"に新たな命を吹き込んだ渡辺シュンスケに、自身とゲーム音楽の関係から、ゲーム音楽の特異性、SQシリーズの意義まで、たっぷりと語ってもらった。

「小学校の教室にあったオルガンで、何気なく『スーパーマリオ』のテーマを弾いたりしてたんですよ」

―まず、渡辺さんのゲーム歴からお聞きしたいんですが。

渡辺:ちょうど小学生の時にファミコンが流行った世代なんですけど、当時、ファミコン本体は買ってもらえなかったんですよ。でも、どうしても『ゼビウス』がやりたくて、『ゼビウス』のカセットだけ持ってましたね(笑)。

―カセットだけ(笑)。どこでプレイしてたんですか?

渡辺:友達の家にカセットだけ持って行って、やらせてもらってました。ハードがある家に人が集まった時代ですよね(笑)。

―『ゼビウス』以外にゲームの思い出はありますか?

渡辺:ちょっと遅かったんですけど、大学生になってからスーパーファミコンを買って、その後は少し間をあけて一気にプレイステーション2に飛んだんです。だから、『ファイナルファンタジー』は最初にスーパーファミコンで『FFIV』をやって、その後、プレイステーション2で『FFX』をやったので、「こんなにゲームは進化してたのか!」ってビックリした覚えがあります。他にも『ウイニングイレブン』とか、『グランド・セフト・オート』とかはハマりましたね。あとは『メタルギアソリッド』や『ドラゴンクエスト』(以下、ドラクエ)もよくやってました。でも、最近はゲームは封印してたんですよ。音楽の仕事に支障をきたすので(笑)。

『FFIV』プレイ画面 ©SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
『FFIV』プレイ画面 ©SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

―ゲーム音楽から影響を受けた記憶はあります?

渡辺:気付かないうちに刷り込まれてたと思いますよ。小学校の教室にオルガンが置いてあったんですけど、何気なく『スーパーマリオ』のテーマを弾いたりしてたんですよ。その頃はピアノを習ってたわけじゃなかったんですけど、それを見たクラスの女の子から「ピアノ習ってたの?」って言われて、「オレ、これ向いてるのかな?」と思ったり(笑)。それがいちばん最初に音楽を意識した出来事でしたね。

―元々、ゲーム音楽はよく聴いていたんですか?

渡辺:『アウトラン』とか、『アフターバーナー』みたいな体感ゲームの音楽が好きで、レコードを買ったり、友達と貸し借りしたりしてました。当時からピコピコした音が好きで、TM NETWORKとか、シンセサイザーを使って作っているポップソングを格好いいなと思うようになって。そこから辿っていったら、YMOとかテクノミュージックのピコピコ感が、ゲームのチップサウンドにすごく似ていることに気付いたり。そういう感じで色んな音楽を聴くようになったんですよね。

―ゲーム音楽が原点にあるんですね。

渡辺:最初がゲーム音楽でしたね。あとは映画のサントラ。久石譲さんがやられた『風の谷のナウシカ』の音楽とか、教授(坂本龍一)の『戦場のメリークリスマス』とか。生のピアノの音が好きで、そこからジャズとかいろいろ掘り下げていって。歌モノよりもインストゥルメンタルを聴くことが多かったですね。

2/4:やり込まないとクリアできない、ゲームと音楽の密接な関係

やり込まないとクリアできない、ゲームと音楽の密接な関係

―さっきピアノを習ってなかったと言ってましたけど、本格的にピアノを弾くようになったのはいつ頃なんですか?

渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)
渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)

渡辺:高校時代はサッカー部に所属しながらバンドもやっていて、その時にキーボード教室みたいなものには行きました。自宅でも、お年玉で買った安いオールインワンシンセを使って打ち込みしてたり。そのくらいだったんですけど、卒業後は音楽大学に行きたいと思って、三者面談で「音大に行きたいです」って言ったら親と先生がひっくり返りましたね(笑)。今まで本格的にやったことがなかったので、ちゃんと習わないと受験できないと思って、その時に初めてピアノを習いに行ったんです。


―受験は合格したんですか?

渡辺:受かったんですよ、なんと。

―実技もあったんですか?

渡辺:ありました。でも、さすがにピアノ科とか作曲科は相当テクニックがないと入れないって言われたので、音楽教育科を受験して。普通の大学に行く気はさらさらなくて、クラシックの勉強とかしたかったんですよね。「俺は学校行かねぇ」とか言って親と……、すいません、どうでもいい話で(笑)。

―いやいや、大事です。でも、変わった音楽歴ですね。普段の流れるようなピアノプレイを思うと、少し意外に感じました(笑)。

渡辺:そうですね。今こうなってると思わなかったです(笑)。

―話をゲームに戻しますが、ゲーム音楽の魅力って、どんなところだと思いますか?

渡辺:ゲームによっても色々あるとは思うんですけど、ゲームって基本的にやり込まないとクリアできないじゃないですか。自然と時間をかけて付き合うものになるから、音楽も記憶に残るし、懐かしさの感じ方が半端じゃないというか。ほんと人生の一部になっちゃうものだと思ってて。そういうところは映画や小説とは違いますよね。

―昔やったゲームの音楽を聴くと、記憶が呼び覚まされますよね。『ドラクエ』のレベルアップの音を聴くとやたらとテンション上がったり…

渡辺:懐メロ的なね。あの感情を揺さぶる加減はすごいですよね。

3/4ページ:制限も多かったかつてのゲーム機、そんな中生まれた数々の名曲たち

制限も多かったかつてのゲーム機、そんな中生まれた数々の名曲たち

―渡辺さんは9月にアクションRPGゲーム『ニーア ゲシュタルト』『ニーア レプリカント』(以下、ニーア)のトリビュート・アルバム、11月に『Cafe SQ』、スクウェア・エニックスのゲーム音楽をカバーした2つの作品にSchroeder-Headz名義で参加されましたよね。まず『ニーア』のほうは歌モノでビックリしたんですけど、Schroeder-Headzってインストバンドじゃなかったんですか?

渡辺:Schroeder-Headzで歌モノをやったのは、実はこれが初めてだったんですよね。"オバアチャン"という曲をカバーさせてもらったんですけど、とてもきれいな曲で。なんていうか、狂気みたいな美しさを感じたんですよ。救われないような、救われるような、そんな感じを表現できないかなと。ピアノをめちゃくちゃ重ねて作りました。

V.A.『NieR Tribute Album-echo-』ジャケット
V.A.『NieR Tribute Album-echo-』ジャケット

―そして『Cafe SQ』の方では、『ファイナルファンタジーIV』のオープニング曲"トロイア国"を美しいピアノ・ジャズにしてますよね。

渡辺:"トロイア国"はワルツなんですけど、スタンダードなジャズにするだけじゃおもしろくないから、Bill Evans Trioがやってるような雰囲気を、もう少しエレクトロニカっぽくというか、未来っぽくというか、新鮮な印象を与えられるようにアレンジしましたね。もともとメロディーがきれいだから、それが更に際立つといいなと思いまして。

―個人的にはSchroeder-Headzってライブでの激しいイメージが強いんですけど、Schroeder-Headzのそもそものコンセプトはどうなってるんですか?

渡辺:元々は変換翻訳というか。例えばエモいギターのインストバンドをピアノトリオに置き換えたらどうなるかとか、打ち込みのテクノやハウスを生演奏に置き換えると意外とおもしろいねとか。そういう発想でやってきてて。あとはやっぱり、元々好きだった久石譲さんや坂本龍一さんのピアノのリリカルな感じを、イージーリスニングにならないような、今の時代の形で表現できないかなって。そういうことをいつも考えて実験してます。

―じゃあ、こういう『Cafe SQ』みたいな企画はピッタリだと言えますね。

渡辺:すごくいいタイミングでやらせてもらえたなと思ってます。昔のゲーム機って容量の関係で同時に出せる音数に制限があったじゃないですか。それを、そういう制限なくちゃんとピアノで弾いたら、もっときれいなものができるんじゃないかなって。

『FFIV』プレイ画面 ©SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
『FFIV』プレイ画面 ©SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

―お題や材料があって、それを渡辺さん的に変換しておもしろく聴かせるのがSchroeder-Headz?

渡辺:そうですね。ルーツ・ミュージックをやりたいわけでも、ダンス・ミュージックをやりたいわけでもないし。ピアノっていうと、クラシックかジャズかみたいなイメージがあると思うんですけど、僕の場合、アコースティック・ピアノってところにはこだわりがあるけど、ジャンルは本当にごちゃ混ぜですね。

4/4ページ:「原曲の良さを違う形で楽しんでもらって、その上でSchroeder-Headzって面白いなと思ってもらえたらいいなって」

「原曲の良さを違う形で楽しんでもらって、その上でSchroeder-Headzって面白いなと思ってもらえたらいいなって」

―今回カバーするにあたって、ゲーム音楽特有の難しさとかはありました?

渡辺:カバー自体は、すごく自然にできましたよ。逆にプレッシャーというか、ファンの多い曲だから、襟元を正す気分で、格好よくしなきゃなっていう気持ちでした。ただ、なんかビックリさせたいなって気持ちはありますよね。原曲の持ってるメロディーの良さとかを、違う形で楽しんでもらって、その上でSchroeder-Headzって面白いなと思ってもらえたらいいなって。

―スクウェア・エニックス作品の音楽特有のものを感じられたりは?

渡辺:作品にもよると思いますけど、幻想的で、メロディーがきれいで、シンプルだっていうイメージがあります。音楽的にも本当によくできてますよね。周りにも好きな人が多くて、音大に入ったばっかりの頃に、同級生が『ファイナルファンタジー』の曲をいつも弾いてたんですよ。「これ、なんて作曲家?」って聞くと、「植松伸夫さんっていう『ファイナルファンタジー』の音楽を作ってる人だよ」って言われて、「こんなきれいな曲を作れる人がいるんだ!」と思ったのはすごい記憶に残ってますね。

『FFIV』ロゴ ©SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
『FFIV』ロゴ ©SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.

―『ファイナルファンタジー』の音楽は壮大ですよね。

渡辺:しかもファミコン時代の楽曲って、同時に3音までしか出せなかったり、いろんな制限があったなかで、きれいに聴かせる努力をかなりしてたんだろうなって。そういう背景もグッときちゃうんですよね。

―今後、ゲーム音楽でカバーしてみたい作品はありますか?

渡辺:その前にプレイステーション3とかWiiとか買わないと(笑)。ゲームの記憶が古いんですよね。『マッピー』やりてぇ! とかそんな感じなんですよ。でも、『マッピー』の曲って、ホンキートンクなピアノだから、ピアノ・トリオでやったら絶対にハマるだろうなって。実は1回コピーしたこともあるんですけど、意外と難しいんですよね(笑)。ほんと、すごいよくできてる。

―チャンスがあったら、ライブでもぜひ聴いてみたいです!

渡辺:『ゼビウス』はライブのリハーサルでたまに弾いてるんですよ。誰か喜ぶかなと思って(笑)。だいたいみんな何の曲かパッと出てこなくて、「あー、なんだっけ!?」って言われるんですけどね(笑)。

渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)

リリース情報
V.A.
『Cafe SQ』

2011年11月23日発売
価格:2,100円(税込)
SQEX-10247

1. ファイナルファンタジーV "想い出のオルゴール~はるかなる故郷" / ぺさま
2. ファイナルファンタジー "チョコボのテーマ~でぶチョコボあらわる" / RÄFVEN
3. クロノ・トリガー "愉快なスペッキオ" / Little Fats
4. クロノ・トリガー "時の回廊" / kous
5. デュープリズム "ラスダン~デュープリズムのテーマ" / millstones
6. ファイナルファンタジーVI "ジョニー・C・バッド" / KING COLUMBIA
7. ファイナルファンタジー"マトーヤの洞窟" / デッドボールP
8. ファイナルファンタジーIX "あの丘を越えて" / yuxuki waga
9. クロノ・クロス "時の見る夢" / Manami Morita
10. Romancing Sa・Ga 2 "七英雄バトル" / sasakure.UK
11. ゼノギアス "組曲ゼノギアス" / ピアニート公爵
12. ファイナルファンタジーIX "ローズ・オブ・メイ" / Serph
13. ファイナルファンタジーX "素敵だね" / SmileR feat. みぃな(さよならポニーテール)
14. ファイナルファンタジーVII "F.F.VIIメインテーマ" / The Reign Of Kindo
15. ファイナルファンタジーIV "トロイア国" / Schroeder-Headz

プロフィール
Schroeder-Headz

数多くの著名ミュージシャンのサポートとして活躍するキーボーディスト、 渡辺シュンスケによるソロ・プロジェクトにして、ジャズとエレクトロ、オーガニック・グルーヴを繋ぐオルタナ・ピアノ・トリオ。その名前はスヌーピーでお馴染みのコミック "PEANUTS"に登場するトイピアノを弾く男の子シュローダーに由来している。12/7にはそのシュローダーとのコラボ・カバーアルバムがリリースされる!



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