マジョリティの中のマイノリティ 椎名もたインタビュー

GoogleのCMで初音ミクがフィーチャーされるなど、確実に市民権を獲得しつつあるボーカロイドシーン。ニコニコ動画で人気のボカロP(プロデューサー)のCDも数多くリリースされる中、この文化をさらに一歩先へ進めようとしているのが、ROVOなどを擁するwonderground内に新設されたレーベルGINGAから、デビュー作『夢のまにまに』を発表する、椎名もたである。元々は「ぽわぽわP」というP名で楽曲を発表し、その若さに似合わぬクオリティの高さが話題を呼んでいたが、本作では音楽性の幅をぐっと広げているだけでなく、インディーロックの気鋭のミュージシャンを迎えたバンドセットを収録したり、ROVOの益子樹がマスタリングおよびミックスのアシストを手掛けたりと、ボカロシーンとバンドシーンを繋げるような、かなりの意欲作となっている。まだまだ若さゆえの危うさも感じられるが、これまでのボカロPとは一線を画す広い視野を持った彼のチャレンジには、いち音楽ファンとして心からエールを送りたい。椎名もた、Keep Tryin’!

普通作曲者って前に出ることのない人たちじゃないですか? そんな人たちが前に出て活躍できてるっていうのがすごくいいと思った。

―音楽への入り口はエレクトーンだそうですね?

椎名:姉が小2から始めてて、親が「(下の子には)今度はもっと早くから習わせよう」みたいに思ったらしく4歳からやってました。母親に「キーボードを弾いてみたい?」って聞かれて、喜んで「うん!」って答えたらしいんですけど、実際には嫌々通ってたんで、全然上達せずに、DTMを始めた中2ぐらいから段々フェイドアウトして行きました。

―DTMを始めたのはどういうきっかけだったんですか?

椎名:まずはニコニコ動画です。友達が『東方』っていうニコニコに深く携わってるゲームをやってて、それを勧められて興味を持ったのと、あとはYouTubeで見たネタ動画を目当てにニコニコ動画に入ったところ、ボーカロイドというものを知って衝撃を受けて。

―どんな部分に衝撃を受けたんですか?

椎名もた
椎名もた

椎名:普通作曲者って前に出ることのない人たちじゃないですか? そんな人たちが前に出て活躍できてるっていうのがすごくいいと思ったし、初めに聴いたラヴリーPの“VOiCE”っていう曲にすごく感動したんです。その影響で、少ないお年玉でFL Studioっていう(音楽制作の)ソフトと初音ミクを購入しました。本格的に音楽を聴いたり作ったりっていうのはボーカロイドの影響で、僕はネイティブがボーカロイドなんです。


―エレクトーンはホントにお稽古って感じだった?

椎名:「この曲がいい」とか多少はあったけど、譜面をなぞってるだけでしたね。あと当時は、歌ものを好んでCDを買ったりとかも全くしてなくて、聴いてるって言ったらエレクトーンで弾いた曲だったり、あとは親が聴いてた曲を聴いてる感じでした。

―例えば?

椎名:宇多田ヒカルです。今でも1番好きです。

―そっか、僕の感覚だと親の聴いてた曲っていうと歌謡曲とかが頭に浮かんでたけど、そうじゃないんだよね。

椎名:今年50歳ですけどね。

―あ、じゃあ若い感性をお持ちなんですね。

椎名:若いですよね。今でこそ収まってるけど、自分が生まれてない頃にはブイブイ言わせてたんでしょうね(笑)。

―ちなみに、ニコ動とかボカロって、当時の中学生の中では一般的なものだった? それとも、「好きな人は好き」って感じだったのかな?

椎名:良くも悪くも一般化してる気がします。ホントに好きな人はニコ動を追っかけて、アップロードの数日以内に聴いたりCD買ったりしてますけど、作ってる人の名前も知らずに携帯電話に曲を突っ込んで、「鏡音リン(ボーカロイドのキャラクター)ちゃんかわいい」とか言ってる人がクラスにいたのはすごくショックでした。「この曲誰のかわかんないんだよね」とか普通に言ってて、「え?」と思って。そこに面白さがあるのに。聴けば聴くほど何でもある文化ですから、ホントもったいないなって。

―自分から能動的に動けばもっと発見があるはずなのに、表面的なところで終わっちゃってるのはもったいないと。

椎名:探れば探るほど、ホントに出てくるんですよ。すごいプログレメタルとか、需要のわからないドローンとか(笑)。

―でもさ、中学生でプログレとかドローンに興味を持つ人そんなにいないよね(笑)。

椎名:でも、いいと思えるものがそれだけその中に隠れてるはずなんですよ。「機械音気持ち悪い」って言われたら何も言い返せないですけど。例えば、商業作品のコンピレーションだけ聴くのはもったいないです。深く深く掘り下げて、自分から聴いてほしいです。

2/3ページ:「将来何になりたい?」って聞かれて、「音楽で食べたい」って言ったんです。

自分はニコ動っていう場所が楽しくて仕方ないんです。ニコ動がネイティブだけあって、自分の好きなことがニコ動に合ってるんでしょうね。

―実際に曲を作り始めてみて、どんな点で苦労しました?

椎名:今、1番最初の曲を聴くと「やめろ、それは出すな」って感じですけど、昔の方が奔放にいい曲が作れてた時期もありましたね。エレクトーンの知識を引っ張ってきた曲はすごく固くてつまんなかったんですけど、ボーカロイドの良さは初心者から始めた人たちが曲を投稿して活躍してることであって、「捉われない」っていうことの意味に何となく気付き出したんです。それで例えば、最初はずっと同じメロディを繰り返して、最後の最後で展開するとか、そういう工夫をし出した時期があって、その頃の曲は今でも胸を張れます。でも、勉強すればするほど失うものもあるんですよね。

―初期衝動みたいなものはどうしたって抜けていきますよね。もちろん、洗練されて初めて生み出せるものもあるわけだけど。

椎名:誰かが言ってたんですけど、音楽をよく知らない人が作って、それがゆえに生まれた良さがある曲は、繰り返し聴くようなものではないけど、考えさせられるものはあるって。最近ホントそれで、そこの魅力がどうしても捨て難くって…悩んでます(笑)。

―でも今回のアルバムでは初めてバンドセットにチャレンジしたりもしてて、そうやって新しいことに挑戦していくことで衝動は保てるんじゃない?

椎名:そうですね、初めてに触れるときは初期衝動ありますよね。全然知らない音楽を聴いたり、触れたことのない文化、本でも絵でも映像でも何でも、触れてみることで衝動が生まれるとは思うんです。ただ、1番大きかったのは曲を作るっていう初期衝動なので、ここからどう掘り下げていくかが勝負なんでしょうね…。でも、とにかく自分はニコ動っていう場所が楽しくて仕方ないんです。ニコ動がネイティブだけあって、自分の好きなことがニコ動に合ってるんでしょうね。

―自分の居場所を見つけたっていうような感覚?

椎名:まあ、一時期叩かれましたけど(笑)。

―1回活動休止した時期があったんですよね?

椎名:あの頃はつらかったですね。褒められても、「16歳すごい」だから、「じゃあ、自分が成人してたらこの作品はどうなるんだ?」って考えたら、1回その年齢の価値を捨てるしかないって考えもあったし、単純に叩かれるのが嫌だったのもあって、1回やめたんです。で、3ヵ月ぐらい潜ってて、年齢の付加価値を消すために、別名義を作って曲を上げてみようってことになったんですけど…即バレました(笑)。

―でも、1回そういう経験をした分、今はいい距離を保ててるんじゃないですか?

椎名:その経験があって、吹っ切れたっていうのはあります。これからはGINGAという土俵で頑張りますよ。

「将来何になりたい?」って聞かれて、「音楽で食べたい」って言ったんです。

―では改めて、ソロデビューに至る経緯を話してもらえますか?

椎名:まずメールでGINGAのコンピレーション(『0001: a galaxy odyssey』)の話をいただきまして、仲間内で「これ超怪しくねえ?」って言ってたんですけど(笑)、とりあえず話聞いてみようかって連絡したら、曽根原(僚介/GINGA主宰)さんは「一緒にやる人とは絶対1度会う」っていうポリシーがあるみたいで、会ってみたら今後やるべきことについてめっちゃ意気投合したんです。

―それは具体的にどんなことがポイントだったんですか?

椎名:例えば、多くの商業作品(一般流通作品)のコンピレーションとかって外には向けてなくて、ニコニコ動画で聴いてる客層だけゲットできればそれでいい。アーティストを高める気はなくて、曲1個もらえればいいって感じなんです。そうじゃなくて、アーティストを育てなくちゃいけないし、音楽でご飯を食べさせなくちゃいけない、そういうことをやってるのは現時点でGINGAとごく一部なんですよ。

―なるほど。

椎名:最初に話したときに、曽根原さんに「将来何になりたい?」って聞かれて、「音楽で食べたい」って言ったんです。後で聞いたんですけど、そこで「CDを出したい」って言ってたら、1枚出せればいいじゃないですか? 「音楽で食べたい」っていうのは、成長する気があるってことで、そこをかってくれたみたいなんです。それで自分がやってることが正しいと思えるようになりました…っていういい話でした(笑)。

―(笑)。将来像をどこまで描いてるのかっていうのは僕も聞きたいところでした。

椎名:すごい現実的な話しちゃっていいですか?

―どうぞ、ぜひ。

椎名:さっき言った1回活動休止してた時期に躁鬱をやっちゃって、今も高校に通えてないんです。現時点で大学行って就職することが不可能に近いから、音楽で食うしかないんですよ。音楽で食いたいし、食うしかないって思ってます。ぶっちゃけ、ちゃんと高校に行けてたら、大学行って就職したと思うし、ちょっと前ならそっちの方が絶対いいと思ってたんです。でも、今はGINGAと出会って、これで正解かなって思ってるんです。

―ちゃんとアーティストとして一緒にやっていこうって言ってくれるレーベルと出会えたことが大きかったわけですね。

椎名:「ボカロで食うなんて1番の甘えだよね」っていうのが最も意気投合したところなんで、自分もそれをわかってるし、現実を見なきゃいけないし、現実を見た上での夢を語ったつもりでした。それが正しかったのかなって。

3/3ページ:サカナクションの山口一郎さんの「マジョリティの中でマイノリティを勝ち取るのがロックだ」っていう言葉にすごく感銘を受けて、それを突き通してやろうと思ったんです。

サカナクションの山口一郎さんの「マジョリティの中でマイノリティを勝ち取るのがロックだ」っていう言葉にすごく感銘を受けて、それを突き通してやろうと思ったんです。

―『夢のまにまに』はこれまでニコ動で発表した人気曲も入ってるし、バンドセットなどの新しいチャレンジも入った、集大成かつ現在進行形の作品になってますよね。

椎名:単純にやりたいことをやったっていうか、例えば、“ストロボラスト”っていうテクノポップの感じの、歩くテンポと一緒のような曲が今まで1番受けたんですけど、そういうのからは外れてみようと。自分の元々のファン層に受け入れられるような音楽ももっとやりたいんですけど、ちょっとマイノリティ方面を突き詰めたっていうのもあって。何でかっていうと、自分は今まで曲調的にマジョリティに居ると思ってたんですけど、でも自分っていう存在そのものを考えたときに、自分はマイノリティであると思って。

―それは音楽シーン全体の中で見たときってこと?

椎名:いや、自分の性格や事情、自分のやってること、立場、すべてにおいて、自分の出す音楽はマジョリティに見せかけたマイノリティでしかないと思って。あと、サカナクションの山口一郎さんの「マジョリティの中でマイノリティを勝ち取るのがロックだ」っていう言葉にすごく感銘を受けて、それを突き通してやろうと思ったんです。

―いい言葉ですね。

椎名:今回発売が被ったボカロPのCDがあって、ダルビッシュPと164さんのアルバムなんですけど、両方ともGUMI(ボーカロイドのキャラクター)とかミクがギター担いで、キラキラしたジャケットなんですね。でも、ジャケットにボカロを前面に出す時点で、それはボカロのCDになってしまう気がして、誰の作品なのか? ってところが1番重要だなと思いました。自分のはジャケットというより表紙であって、マイノリティ丸出しなんです。でも、それは逆にラッキーだと思った。アピールできるなって。

―「ぽわぽわP」じゃなくて、「椎名もた」で作品を発表するのもそういう理由?

椎名:ぽわぽわPって致命的にダサいから(笑)。ニコニコ動画だけで通じる名前だとも思うんで、そうじゃない方がいいと思ったんです。

音を出して終わりの芸術家気取りは嫌なので、そこの域をいつか超えたいと思ってます。

―あと歌詞のことも聞きたいんだけど…

椎名:マジっすか?

―歌詞はそんなに重視してない?

椎名:最近こだわり始めた感じです。最初は感覚的な言葉をつなぎ合わせて、穴埋めしていく作業というか、パズルみたいな感じだったんですけど、バンドとかを聴き始めて、柄にもなく「伝えたい」って思ったんです。

―それこそ、サカナクションの歌詞とかはかなり考えられてるよね。

椎名:サカナクションの影響は強いですね。あとはやっぱり宇多田ヒカルです。“Keep Tryin'”とか、すごくいいんですよ。

―あの人もマジョリティの中のマイノリティだもんね。

椎名:言葉とメロディのノリはあんまりよくないけど歌詞にすごく入れ込む人と、相対性理論みたいに歌詞に意味なんていらない、語感の良さを突き詰めるっていう人がいて、僕は両方聴くんで、両方に影響されてると思います。だから、その中間を突き詰めたいんですよね。“ストロボラスト”っていう曲はそれができたと思ってて、自分の中ですら神格化されてて、「何であんな曲書けたんだろう?」って悲しくなるんですけど(笑)。まあ、どれかを突き詰めるといいものができるんでしょうね。意味がないならない、あるならある、真ん中を突き通したいなら、真っ直ぐ恐れずにどれだけ行けるかだと思うんです。

椎名もた

―『夢のまにまに』っていうタイトルはどういう意味が込められてるんですか?

椎名:テーマが「夢日記」なんですけど、今回ブックレットのイラストを手がけてくれたのがmeisaっていう同人でもずっと描いてくれてるすごく好きな絵描きさんで、その絵も前面に出していきたいと思って。それで、「夢の流れるままに」、『夢のまにまに』にしました。

―では最後に、改めて今後の展望を聞かせてください。「音楽で食う」という話がありましたが、具体的な目標はありますか?

椎名:…かっこいいスタジオが欲しい。

―やっぱりすごく目線が現実的だよね。

椎名:ここで「第2のヤスタカになりたい」とか言ったら失笑だから(笑)。

―「この人のポジションいいな」とかはある?

椎名:宇多田ヒカルはかっこいい。あとサカナクションの山口一郎さんは憧れです。やっぱり前には出たいというか、表現をしたいんです。音を出して終わりの芸術家気取りは嫌なので、そこの域をいつか超えたいと思ってます。

リリース情報
椎名もた
『夢のまにまに』

2012年3月7日発売
価格:2,940円(税込)
GINGA / WRCR-5

1. don't look back
2. ガラクタのエレジー
3. ハローストロボ
4. LOST & FOUND
5. 夢のまにまに
6. メモリーバイステイ
7. 怪盗・窪園チヨコは絶対ミスらない
8. great heights and down
9. Human
10. ハローストロボ(a Human Works)
11. 夢を追う虫
12. アストロノーツ
13. ストロボラスト
14. それは、真昼の彗星

プロフィール
椎名もた

幼少の頃より様々な楽器を嗜んでおり、14歳の時よりDTMを始める。その後、動画共有サイトに楽曲投稿を始め、ストロボシリーズによりその地位を確固たるものへとする。再生数10万を超える幾多の楽曲、多数のメジャーコンピへの参加などするも、2011年初頭、突然の活動休止。半年後、GINGAとの邂逅により活動を再開し、新世界へと歩を進める。VOCALOIDシーンから生まれ、電子音楽シーンに舞い降りた、弱冠16歳の驚異である。



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