他人にはオススメしない方法 MOP of HEADインタビュー

同期を一切使わずに、人力でハイテンションのダンスミュージックを鳴らす4人組、MOP of HEAD。昨年はフジロックの前夜祭に登場し、これから始まる宴を前に体力の有り余ったオーディエンスを熱狂させた彼らが、新作『UNCONTROL』を発表する。これまでそのパーソナリティについてはあまり語られてこなかったバンドだが、フロントマンのGeorgeはジャズピアノの世界でアカデミックな音楽を叩きこまれる一方で、野球部出身らしい負けず嫌いメンタリティも持ち合わせるなど、その人物像は実にユニーク。ドラマーの交代を経て、「UNCONTROL」なまま制作に向かった新作についてはもちろん、知られざるバンドの実体についても色々と語ってもらい、貴重なインタビューになったと思う。2年連続となるフジロックへの出演も決定、今年の夏もMOP of HEADから目が離せない。

自分の感覚を信じられなかったというか、僕の場合はセンスでどうにかなるタイプではないと思ったので、いろんなものをつくるためには、まず勉強しないとダメだなって。

―まず、MOP of HEADって一般的にはエレクトロの流れで出てきたバンドのイメージがあると思うんだけど、最初の成り立ちはそういうところとはちょっと違うんだよね?

George:そうですね。ちょうどJUSTICEとかKITSUNEとかが出てきて、バンドマンもエレクトロとかを聴くようになった時期と、自分たちがバンドを始めた時期が重なってたんですけど、そういう中でよりフィジカルな方向でバンドをやりたくて。ハードコアじゃないですけど、ロックバンドのスタンスで、ジャンルはエレクトロ寄りっていうとこでしたね。

Photo by Kyoko Hori
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―そもそも、Georgeくんが最初に触れた音楽はクラシックだったんですよね。

George:自分で始めたっていうよりは、やらされてたって感じなんですけどね。姉がピアノをやってたんで、そこに連れて行かれてみたいな感じで。

―いつ頃からやってたの?

George:3歳から始めて、でも高校に入って1回習いに行くのはやめて、坊主で野球やってました。父親が体育の先生なんで、今思えば父親に喜んでもらいたいっていうのが強かったのかなって。それまでは、音楽ばっかりだったんで。ただ、音楽を一生やっていくんだろうなって気持ちはあって、音楽系の大学に進んだんです。

―野球部だったんだ。イメージ的にはバスケって感じだけどね(笑)。

George:ここ2人(Georgeと菊池)は同じ高校の野球部だったんです。で、3年の夏で部活が終わって、大学受験のために改めてピアノを習い始めて。

―ずっとクラシックを?

George:最初はバイエルとかやってたんですけど、それが嫌になっちゃって、「ピアノ行ってくる」って言って、グローブ持っていくみたいな子供だったんですね。そういう中で、あるとき先生から「やりたい音楽とかないの?」って聞かれたんです。うちは両親がビートルズとかボブ・ディランが好きで、兄もマッドチェスターとか好きだったんで、そういうのも聴いてたから、「ビートルズが弾いてみたい」とかって言って。やる気のない生徒と思われてたんだろうけど、そこから段々先生とも打ち解けていって(笑)。で、小学6年生ぐらいでジャズを弾くようになって、このジャンルは相当面白いと思ったんで、大学でもジャズをやろうと。

―ジャズの自由度の高さみたいなところに惹かれたのかな?

George:小学校のときは自由な音楽だと思ったんですけど、大学で勉強するようになって、「これは難し過ぎる、全然自由じゃないぞ」と思ったんですよ。優秀な人が自由にできるだけで、そこにたどり着くまでにはものすごく大変だなって。僕の大学の師匠がDCPRGとかに参加してる坪口昌恭さんなんですけど、まずは「勉強しろ」って感じで、子供の頃の音楽が楽しいって感覚とはガラッと変わったんですよね。

―特にどんな部分で考え方が大きく変わった?

George:オリジナリティの前に、ピアノだったらピアノで、そのことを深く知っておかなきゃいけない。「感覚で曲を書きました」って言っても、何でこういうコード進行になってるかっていうのを、まず説明できないとダメだなって。全く理論がなくても、ものすごくいい曲を書く人もいると思うけど、自分の感覚を信じられなかったというか、僕の場合はセンスでどうにかなるタイプではないと思ったので、いろんなものをつくるためには、まず勉強しないとダメだなって。

―坪口さんもホントにいろんな活動をされてるけど、その核には基本の知識が間違いなくしっかりあるってことだよね。

George:自分の出会ったミュージシャンの中で一番すごいというか、音楽の種類を知ってるとかじゃなくて、「音楽」そのものを知ってる、音楽のやり方をわかってる人だなって。「これがミュージシャンだ」って印象がそのとき付いちゃって、自分の中でミュージシャンのハードルが一気に高くなりました(笑)。ただ、去年偶然DCPRGがフジロックに出てて、僕らも前夜祭出させてもらって、「こういうバンドやってます」って挨拶できたんです。Riddim SaunterのTA-1さんも坪口さんが師匠で、ちょうどフジロックに出てて、3人で会えたのはすごく嬉しかったですね。

何だかよくわからないけどかっこいい、LED ZEPPELINのイントロをずっとやってたいみたいな感覚でした(笑)。

―でも、今聞いたGeorge君の経歴って、MOP of HEADのパブリックイメージからすると意外な話だったなあ。

George:大学時代に学んだ音楽観とか、自分ではそう思ってても、このバンドをやってると、自分1人じゃ見えてこないところがドンドン降ってくるんですよね。デモを作って持って行っても、グチャグチャになって、それをまとめて作ってるんで、いまだにバンドに対しては説明ができない。そこは1人で音楽をやるのとは全然違うと思いますね。

―そもそもバンドはどうやって始まったんですか?

George:最初のドラマーは同じ中学で、ギターの菊池は高校の同級生で、中学でドラムをやってたんですけど、ギターがいなかったんで、「ギターやってみない?」って声かけて。それで、高校の部活が終わったタイミングで3ピースで始めて、最初はちょっとだけ歌も歌ってたんですけど、別に歌いたかったわけじゃないし、歌なしでやってみようと。ただ、そうなると3人だと限界があったんで、(倉持が)大学の1コ下で入ってきて、女でベースが弾けるっていうから、「入れるしかない」と。最初のインパクトがすごかったんですよ、MOTLEY CRUEのTシャツ着てたんで(笑)。そこからやりたい音楽とか行きたい場所が見えてきたって感じです。

―じゃあ、片方でジャズピアノをやりつつ、もう片方でバンドをやってたと。

George:先生にばれないようにやってたんですけど、明らかにばれてましたね(笑)。でも、今思えばそこが僕の中で一番重要で、バンドだけが音楽っていう考えにならなくてよかったなって。

―バンドの方向性はどういうものを思い描いてた?

George:まずトラックとしてかっこいいものをやりたいなって。特に歌として伝えたいこともないし、自分の精神的なものを伝えたいとかもホントなかったんで。何だかよくわからないけどかっこいい、LED ZEPPELINのイントロをずっとやってたいみたいな感覚でした(笑)。

―「踊れる」っていうことは重要だった?

George:はっきりと意識していたわけではなくて、「踊れる要素を入れたい」っていう方が強かったですね。20歳になってクラブに行けるようになって、DJの人からいろんな話を聞いて、ダンスミュージックはバンドシーンとは違ったすごいスピードで動いてて、新しいものを常に聴かなきゃいけないっていう中で、ビートへのこだわりっていうのは出てきましたね。

―そういうバンドとしての青写真はあったものの、さっきも言ってたように、バンドについてちゃんと説明することはいまだにできないと。

George:それがもう、今作品(『UNCONTROL』)っていう(笑)。でも、把握しきれないから続いてるのかなっていうのもあって、「一生完成しないんだろうな」って思うんです。曲を作るときはある程度のビジョンを持って作るし、できるだけ多くの曲を作りたいとか、漠然としたものはあるんですけど、「この作品はこういうカラーで」っていうのはあんまりないんですよね。

―曲のベーシックはGeorge君がデモを作るわけだよね?

George:デモの段階では、自分の中で「このジャンルを作る」って先に決めちゃうんです。クラブミュージックはビートでジャンル分けされることが多いんで、そこに対して1曲ずつ作っていくみたいな感じですね。当初決めたジャンルを崩しちゃうと、ホントにグチャグチャになっちゃうんで、その芯だけは、イメージとして「こういうジャンル」っていうのだけは決めてます。

―逆に言えば、そこだけ決めちゃえば、他のメンバーがどんなプレイをしても大丈夫だと。

George:スタジオで煮詰まったときにどうするといい方向に進むかって、「絶対ありえないことやってみて」って、彼(菊地)に振って、ふざけて「それにしよう、それにしよう」ってノリで言ってるような瞬間だったりするんですよね(笑)。前作のギターリフものとかは、ホントにそんな感じでしたね。

一か八かだったとは思います。「これは出せない」ってものができちゃってたかもしれないけど、そこは…気合いで(笑)。

―じゃあ、George君以外のメンバーのバックグラウンドも聞かせてください。菊地君は好きなギタリストとかいますか?

菊池:スティービー・レイ・ボーンとかラリー・カールトンですね。ただ、基本的にクラブミュージックってギターがないじゃないですか? だから、スタートの時点で居場所がないので、違うところから穴を開けて行かなきゃいけないんですよね。自分ではギターをギターと捉えてないというか、DTMの1トラックとして捉えてて、曲が面白くなれば…こんなんでよくギタリストやってるなって思います。

―(笑)。

菊池:普通にギターが大好きな人だったら、モップは3日でダメだと思いますよ。

George:楽器を弾くのが好きっていうよりも、全体が好きな人と音楽をやるのが好きで、彼はギター以外にも興味があるから、そこは大事かもしれないですね。

―でも、ライブでは背中でギター弾いてるし、ギター大好きな人っていうイメージあると思う。

菊池:ギターを使ってシンセみたいなアプローチをしたりとか、そういう方に興味があるんですよね。それでバンドの「ここ足りないよ」ってところを埋めたりできればいいかなって。

―それが結果的にバンドのカラーを決定付けたりもしてるところが面白いよね。倉持さんはどうですか? ベーシストとしてのバックグラウンドとか、立ち位置っていうのは。

倉持:好きなベーシストがいるっていうよりは、このバンドがかっこいいって感じですね。今やってるような音楽に触れたのもモップが初めてで、元々はメロコアみたいなのを聴いてるライブキッズだったので、違う畑からポンッとやってきた感じです。

George:バラバラのメンバーではあるんですけど、でもそれをバンドとして固めながら走ってるっていうのが、逆にいいんじゃないかとは思ってて。どこかで共通認識はあって、スタジオとかでも全く予想してなかったアプローチが来るのを、いかに良さを消さずにまとめるかっていうところで、「これは面白い」っていうものができてくるのかなって。

Photo by Kyoko Hori
Photo by Kyoko Hori

―音楽性の近さよりも、感覚とか感性で集まってるバンドだってことだろうね。新しいドラマーのSatoshi君もそういう感じなんですか?

George:Satoshiはちょっと自分にとって特別だったというか、彼がステージでライブしてるのを見て、「これはすごい」と思って、ひとめぼれ的な感じでしたね。何とか一緒にやりたいと思って。

―ただ、新しいメンバーが加入してすぐに作品の制作に入るっていうのは、なかなか難しいところもあったんじゃないのかなって思うけど。

George:今回はメンバーのカラーとか、「こいつにはこういう曲が向いてる」っていうのを考えずに作ったんですよね。Satoshiもいいカラーを持ってるけど、そのこだわりを1回なくしてもらって。そうやって作っていくうちに、全員の幅が広がったし、今までやってこなかったことができた作品になりましたね。だから、一か八かだったとは思います。「これは出せない」ってものができちゃってたかもしれないけど、そこは…気合いで(笑)。

―そこは野球部メンタリティだ(笑)。

George:随所にそういうところがあるバンドだと思いますね。「賭ける」みたいなタイミングとか、「気合いでどうにかしなきゃ」って時期があるバンドなので、「やれなかったら負けだな」ってときは、「何としてでもする」みたいな、今回の作品もホントそういう感じでした。

―これまでの活動から来る自信、「何とかできる」っていう感覚もあったのかな?

George:今回はレコーディングよりも、その前の期間がまいってたんですよね。まず曲を用意しなきゃいけないし、前作を出して色々経験した後だったから、プレッシャーもあったし、ホントに制作期間もなかったんで…他のバンドさんにはお勧めしないやり方です(笑)。

菊池:普通の歌ものバンドは絶対こんな期間でできないですよ。

George:やっちゃいけないと思うよね。

―やっちゃいけないことをやっちゃったと(笑)。

George:やっちゃいけないことを結構やってきてる(笑)。

―でも、そうやって何かをつかんで、ここまでやってきたバンドなんだろうね。

George:それがハイテンションにつながってるのかもしれないですね。大変だけど、終わったら終わったで昔のことなんで、次に何があっても、「あのときやったよね」って思えるし。「つらい」って思うよりも、「楽しむ」っていうのをみんな優先してて、マイナスから入らない、どんな状況でもプラスに捉えて、乗り越えてやるっていう感覚があるんだと思います。今振り返ると…痺れる状況でしたけどね(笑)。

どこに行くにも、音楽をやりたいんですよ。普通に旅行に行くのとかって、過ごし方がわかんなくて。

―昨年に続いて、今年のフジロックの出演が決まりました。去年の前夜祭は僕も見てたけど、すごく盛り上がってたよね。

George:フジロックは自分でも遊びに行って「最高だな」って思ってたんですけど、いざステージ袖でフロアを見て最初に思ったのは、「日本で音楽好きな人がこんなにいっぱいいるんだ」っていう。CDが売れないとか色々言われてるけど、「そんなことないな」って。

―その感覚はすごくよくわかる。フジロックとか行くと、僕もそれで元気もらうもん。

George:あれはホントに今まで見たことのない光景で、出れたことももちろん嬉しかったんですけど、「音楽は絶対残るな」って、確認できたことが自分の中でホントに大きかったですね。あと、自分がライブを見る感覚もちょっと変わってきたっていうか、すごいライブが見たいからライブに行くっていうのが100%じゃなくて、フロアが盛り上がってるのを見るのが好きなんだなって。アーティストが出てきて、すごい歓声が上がると自分も気持ちが上がったり、その空気を吸いに行くっていうか、人のパワーに驚かされるっていうか。あの感じが好きだから、音楽をやってるっていうのもあると思いますね。

―今年のフジではどんなライブがしたい?

George:作戦を練ってどうにかできるバンドじゃないっていうところもあるし(笑)、会場に行ってから、その空気で何を感じるかで、そこからモードが変わるんだと思います。今はこのリリースを控えて、今月のライブがあってっていう感じですね。

―フジロックに出ることもそうだし、「世界」っていう目線があるバンドだと思うんだけど、そのあたりの意識はどう?

George:日本でバンドをやってると、海外進出が特別な扱いにされるじゃないですか? 僕はそれがちょっとよくわからなくて、音楽やってるんだったら、元々世界規模のことをやってるわけで、当たり前のことだと思うんですよね。なので、音楽を始めた頃から世界のどこでも演奏したいし、いろんな国の人に聴いてもらいたいですね。

―例えば、東北とか九州に行くのも、アメリカやイギリスに行くのも、感覚的には一緒だってことだよね。

George:どこに行くにも、音楽をやりたいんですよ。普通に旅行に行くのとかって、過ごし方がわかんなくて。いつもと違うところで音楽をやりたいっていうのは常にあって、例え全然動かないフロアでも、そこで演奏して自分が何を思うかが楽しみで、それが作品とか制作の糧になっていくと思うんです。そこで何を思うか、感じるかっていうのは、場所によってホントに全然違うんで、1年通していろんなことが起きてほしいし、できるだけいろんな経験をしたいなって思ってます。

イベント情報
CINRA presents『exPoP!!!!! volume62』

2012年5月31日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 O-nest
出演:
虚弱。
KAGERO
Mop of Head
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料金:無料(2ドリンク別)
※ご予約の無い方は入場できない場合があります

リリース情報
Mop of Head
『UNCONTROL』

2012年5月9日タワーレコード限定発売
価格:1,500円(税込)
YNWA-6

1. Territory
2. Uncontrol
3. Planet Gig
4. Pele(from Cornelius)
5. Nagisa

プロフィール
MOP of HEAD

2006年に結成、ブレイクビーツ、ダブステップ、ドラムンベース、ハウスなどのクラブミュージックを生演奏で表現するバンドとして成長。「人間が限界の状況で奏でるループが生み出す歪み、そこから生まれる快感」を追求するべく、ライブでは同期系機材やループを一切使用しないスタイルをとっている。2011年には『FUJI ROCK FESTIVAL'11』の前夜祭に抜擢され、その後も『DIGITALISM JAPAN TOUR』のゲストアクトや『COUNTDOWN JAPAN 11/12』に連続で出演。また、国内のみならず海外からも注目あるめるなか、5月9日にタワーレコード限定EP『UNCONTROL』をリリース。



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