音楽に感情を取り戻すために DAFT PUNKインタビュー

今まさに、世界中がDAFT PUNKに夢中になっている。実に8年ぶりとなる4作目『Random Access Memories』からのリードトラック、THE NEPTUNES〜N*E*R*Dでの活動でも知られるファレル・ウィリアムスと、デヴィッド・ボウイやBlondieなどを手掛けた1980年代を代表するプロデューサーのナイル・ロジャースをゲストに迎えた“GET LUCKY”はすでにYouTubeでの再生回数が4,700万回を突破(この記事がアップされる頃には5,000万回に到達していることだろう)、5月に発売されたアルバムは、アメリカやイギリスをはじめとした世界中のチャートで1位を獲得し、ここ日本でもオリコンチャートの総合3位に食い込んでいる。常に時代の一歩先を行っていた二人の歩みが、遂に時代とがっちりかみ合ったのだ。トーマ・バンガルテルとギ=マニュエル、二人の発言をもとに、この2013年最大の話題作を紐解く。

ファレル・ウィリアムス、ジュリアン・カサブランカスからジョルジオ・モロダーまで、豪華ゲストが多数参加

トーマ:今回のアルバムは、全体的に実験しながら5年のプロセスを要したんだ。フルタイム換算で言うと2、3年くらいかかった。4枚目のアルバムを完成させられるか否か、時間をかけながらやろうという考え方だったんだ。制作に入ったときはただスタジオに入って実験した音のコレクションしかない状態だったんだけど、ここまで時間がかかるとは想像もしていなかったよ。

本作の特徴としてまず挙げられるのが、「生演奏」というキーワード。エレクトロの大ブーム、さらには現在世界で猛威を振るっているEDMのひな型になったと言ってもいいであろうDAFT PUNKの前作『Human After All』からは一転、打ち込みもサンプリングも極力排して、スタジオでのレコーディングが行われているのだ。そのために、彼らは自らのルーツにあたる1970〜80年代の著名なアーティスト、マイケル・ジャクソンやフィル・コリンズ、マドンナなどの作品に関わった名うてのミュージシャンたち(その多くが50代)を招聘し、ソウル、ディスコ、AORなどをベースとした楽曲に、おなじみのボコーダーボイスを乗せ、ファンキーでエレガント、ときにメロウな作品を完成させた。

さらには、前述のファレルやナイル・ロジャースに加え、「ディスコ音楽の父」と呼ばれるジョルジオ・モロダーや、CARPENTERSなどの仕事で知られる作曲家兼俳優のポール・ウィリアムズといった御大から、THE STROKESのジュリアン・カサブランカス、ANIMAL COLLECTIVEのPanda Bearといった若き才能が、「DAFT PUNKの作品への参加を断るわけがないだろう」と言わんばかりに大挙して参加。その名前を眺めるだけでもクラクラしてしまいそうな豪華さだが、ただのオールスター盤に終わることなく、それぞれの魅力が存分に引き出された楽曲は、どれも実に素晴らしい。


トーマ:コラボレーションの対象となるミュージシャンは、僕たちが敬愛し最高だと思う人たちをランダムに、または友情や日頃の繋がりを基本として、自然な流れで人選したよ。もちろん、根底にあるのは僕たちが愛する音楽だね。音楽家としてではなく、音楽愛好家としての立場で考え、色々なレベルで僕たちにインスピレーションを与えてくれる人々を念頭に置いて選んだんだ。


DAFT PUNKのフィギュアが日本各地を巡りながら
笹塚ボウルを目指した企画「〜ダフト・パンクのぶらり旅〜」より

音楽に感情を取り戻すために

「このアルバムを一言で表すとしたら?」という質問に、彼らはこんな風に答えている。

トーマ:「音楽(ミュージック)」だと思うよ。

ギ=マニュエル:そうだね、「音楽(ミュージック)」だ。

トーマ:いや、たぶん「音楽性(ミュージカリティ)」だ。音楽性……現代の「テクノロジー」と言うと、過去30年間進化してきたレコーディングフォーマット、レコーディングのやり方、専門的な楽器の発達などを意味するけど、どんなに技術が進化しても、音楽性(ミュージカリティ)自体を向上させてはこなかった。まるでテクノロジーが真の音楽性の邪魔をしているかの様に。

そう、デジタルからアナログテープにすることもあれば、コンピューター上でアナログシンセサイザーからバーチャルソフトウェアに切り替えることもある。外観的な小型化技術や利便性の追求が進化して、もちろん素晴らしい音楽は今も沢山あるけれど、1つの時代をとってみると確実に音楽性の割合が顕著で重要視されていた時代があるよね。このアルバムではその音楽性にこだわりたかったんだ。

こうトーマが語っているように、『Random Access Memories』は、間違いなく現代の音楽シーンに対する鋭い批評性を備えた作品である。今さら言うまでもないが、テクノロジーの急速な発達は音楽のあり方を大きく変え、近年ではパソコン1台あれば誰もが一定以上のクオリティーの音楽を作ることができる。それ自体は称賛されるべきことだと思うし、DAFT PUNKもこれまではホームスタジオで作品を作り続けてきたわけだが、ツール頼みになることで、そこに彼らの言う「音楽性(ミュージカリティ)」が備わっていなければ、その背後には平均化・没個性の罠が潜んでいる。かつてのSF映画のように、ロボットが意志をもって人間を支配するという世界が、ある意味現実となりつつあるわけだ。そんな状況に対して、彼らは人間の手による生演奏の魅力を提示する必要性を感じ、そのためには往年の名手の助力を必要としたのだろう。『Random Access Memories』というタイトルにも、その考えはしっかりと示されている。

トーマ:20年前、僕たちが音楽を作り始めた頃と今の現代では大きな違いがある。コンピューターの存在が強くなり、社会、社会的行動さえも占領している。人工知能(AI)とまでは行かないけど、インターネットの世界が突如人類の延長線上になったようにさえ感じるよ。テクノロジーという人工産物やそこに付随する情報などが、知能の延長線そのものになりつつあるんだ。

人間の脳とハードドライブの類似点、相違点を例にとっても、ハードドライブは実に、保存するのが簡単だよね。だから、「メモリー」と「メモリーズ」の言葉にも意味を持たせた。「メモリー」は「データ / 情報」であり、「メモリーズ」は同じ言葉でも「感情」がこもる。この「感情」という本質が、ロボットと人間を分ける違いであるという理解を表現したかった。極限まで設計された人工知能(AI)が感情という次元を持てるのか、とかね。

音楽に感情を取り戻すために。言わば、本作の背景にはそんな壮大なテーマが隠れていると言ってもいいかもしれない。

「シャッフル文化」との関連性

『Random Access Memories』というタイトルは、作り手の環境の変化と同時に、聴き手の環境の変化にも言及していると言える。

トーマ:「ランダム」という言葉には、カオスの意味合いも込められているんだ。今回のアルバム一つひとつの方向性を形成する手助けとなったこのカオティックで膨大なプロセスが示すもの、それは1つの音楽的アイデアからもう1つのアイデアへとジャンプするようなもの。それはジャーニー(旅)として止まることはないんだ。

もしかしたら僕たちのことをシュルレアリスト(超現実主義な芸術家)と感じるかもしれないけど、人間の思考過程と同じ様なものだよ。ある考えから全く違うことに考えが飛ぶこととか。例えば、ある会話をしているとき、友達同士でディナーをしていたとして、1つの話題が出るよね、そしてその話題が次の話題へと移る。そのときに起こる思いつきという本質は、過去に経験した感情、思い出(メモリーズ)、会話からランダムにアクセスされるもの……そんな要素も音楽のプレゼンテーションに少し含ませたコンセプトなんだ。

この発言を、リスニング環境における「シャッフル文化」の浸透とリンクさせることは難しいことではないだろう。これも改めての話になるが、基本的には1つの作品を1枚通して聴く以外なかった時代から、パソコンや携帯プレイヤーに音楽を詰め込んで、それをシャッフルして楽しんだり、もしくはYouTubeで年代・ジャンル問わず好きな音楽が聴けるということは、音楽との向き合い方を一変させたと言える。個人的に、1つの作品とじっくり向き合い、メロディーはもちろん、バックの演奏まですべて歌えてしまうような作品というのがめっきり減ってしまったことには非常に寂しさを感じているのだが、これはどちらがいい悪いの話ではない。ただ少なくとも、『Random Access Memories』の音楽的な幅の広さ、ゲストの人選の多彩さは、「シャッフル文化」や「YouTube文化」の映し鏡であることは間違いないだろう。

さて、この原稿の序文で「常に時代の一歩先を行っていた二人の歩みが、遂に時代とがっちりかみ合ったのだ」と書いたが、彼らの長年のファンの中には、この一文に違和感を感じる人もいることだろう。これまでの彼らの作品というのは、一聴してかっこいいと思う一方で、「今の時代にこれってアリなの?」という「?」も含まれていたことがポイントで、それから何年か後に、気づくとその「?」がメインストリームとなっている。そんなことがこれまで何度も繰り返されてきたからこそ、DAFT PUNKは今の絶対的な地位を築くことができたのであり、「時代とがっちりかみ合う」というのは、DAFT PUNKらしくないのではないか? そんな風に思う人もいるかもしれない。もちろん、今回にしても今ナイル・ロジャースを引っ張り出してくるあたり、「?」な部分もあるにはあるのだが、それでもこれまでの作品と比べると、どこか納得できてしまう。それがなぜなのかと言えば、やはりこれも「シャッフル文化」「YouTube文化」の反映であり、あらゆる音楽がフラットになったことによって、どんなに突飛な組み合わせであっても、「でも、なくはないよね」と言えてしまうわけだ。

このアルバムはそんな事実も示していると言えるが、ではもはや音楽にかつてのような驚きや興奮を求めることはできないのかと言えば、決してそんなことはない。実際に、僕はこのアルバムに対して非常に興奮したし、刺激的な音楽というのは今もたくさん存在している。そして、そんな作品がいかにして生まれるのかは、彼ら自身の口から語られている。

トーマ:このアルバムは「妥協を一切許さない」ことに成功した作品だよ。すべてにおいて一切妥協はしなかった。だから5年の期間を要したんだ。徹底すること、納得するまで試した多数の試行錯誤すべてが長時間を要した理由だよ。1つのアートをとって眺めてみて「なるほど、こうあるべきなんだ」と。まるで、石の中に潜む彫刻の様にね。

DAFT PUNKと日本の幸福な関係

では、最後にDAFT PUNKと日本の関係についても改めて触れておこう。今やすっかり定着した彼らのロボット姿のビジュアルは、名前からしてキャラクター風のきゃりーぱみゅぱみゅや、狼の姿をしたMAN WITH A MISSIONのブレイクなど、匿名性を基盤とした「アイコン文化」が全盛の今の日本からすれば、ずいぶん時代を先取りしていたようにも見えるし、かねてより松本零士のファンを公言し、実際にコラボレーションも行っている彼らは、フランスというお国柄もあって、日本の「オタク文化」との親和性も非常に強い。

トーマ:日本との関係はもっと超越したものだよ。音楽をとってみても、テクノロジーをとってみても。僕たちがレコーディングに使用する音楽楽器は日本のメーカーのものだし。ポップミュージックで一番使われるピアノのブランドもね。僕たちが思う「日本」は、僕たちみたいにちょっとマニアックだとも思うんだ。アートや他の分野でもカルト的なコレクターがいるところとか、日本人もそういうところあるよね。あと「緻密」さ。小さいお店がビッシリ並んだ通り、何と言うんだっけ……。

―原宿ですか?

トーマ:そう、原宿。緻密に建てられたお店、非常に細かいところまで分けられているところとか、コレクターの持つ愛情や……

ギ=マニュエル:情熱。

トーマ:そう、日本のオーディンスが持つ「芸術」への情熱と愛情、僕たちもそうなんだ。だから通ずるところがあるのだと思う。全員が熱心なコレクターではないかもしれないし、そこまでの几帳面さもないかもしれないけど、ディテールに注目するところとか、アルバムに付いてくるライナーノーツを読むところとか、そういった細かいところ、僕たちもティーンエイジャーの頃からそうだから、共通しているところがあると感じるんだよ。アート、スタイル、エレガンス、美的感覚に対する情熱に同感するんだ。

ここでは「原宿」について語られているが、DAFT PUNKはむしろ「秋葉原」寄りと言うべきかもしれない。オタク気質の強いニコ動のクリエイターたちにとっても、DAFT PUNKの存在というのは1つの指標であるだろう。日本では本人たちが監修したDAFT PUNKのアクションフィギュアも発売されるそうで、普段フィギュアにそんなに興味がない音楽ファンも、これには思わず手が出てしまうのではないかと思う。

Daft Punkアクションフィギュア
Daft Punkアクションフィギュア

思えば、松本零士とのコラボレートも含んだ『Discovery』という作品は、デビューアルバムの『Homework』によって、「クールなフレンチハウス」というイメージをつけられてしまった二人が、1970〜80年代の音楽や、アニメといった、少年時代に好きだったものへと立ち返った作品だった。そう考えれば、『Random Access Memories』もまた、『Human After All』でエレクトロ〜EDMの礎を(良くも悪くも)築いたことに対し、やはり少年時代に熱中していた音楽へと立ち返ることで、1つの時代に区切りをつけた作品だと言えるかもしれない。圧倒的にアーティスティックであり、高い批評性を備えた作品であると同時に、人間らしい感情を重視し、少年時代の憧れを実現させたこのアルバムを聴いていると、音楽というのは何とロマンチックで、夢があるんだろうと、改めて感じることができる。

リリース情報
Daft Punk
『Random Access Memories』(CD)

2013年5月22日発売
価格:2,520円(税込)
SICP-3817

1. Give Life Back to Music
2. The Game of Love
3. Giorgio by Moroder
4. Within
5. Instant Crush
6. Lose Yourself to Dance
7. Touch
8. Get Lucky
9. Beyond
10. Motherboard
11. Fragments of Time
12. Doin' it Right
13. Contact
14. Horizon(bonus track for Japan only)

プロフィール
DAFT PUNK

トーマ・バンガルテルとギ=マニュエルのエレクトロ・ミュージック・デュオ。今までグラミー賞も2冠獲得し、母国フランスはもちろん世界中の数え切れないアーティスト達に影響を与えているダンス・ミュージック界の最高峰アーティスト。01年の2ndアルバム『ディスカバリー』では、本人達の夢でもあった日本漫画界の巨匠、松本零士氏とのコラボレーション・プロジェクトが実現、最近ではau「FULL CONTROL」篇TVCMソングでも有名な「ワン・モア・タイム」を始め、アルバム収録全曲がアニメーション映画『インターステラ5555』として発表されたことも話題となった。05年の3rdアルバム発売&ワールド・ツアーを行うも、その後は映画「トロン:レガシー」のサウンドトラックを手掛ける等以外は活動休止状態だった彼らが、このたび初のレーベル移籍、結成20周年となる今年2013年、オリジナル作としては8年ぶりとなる4thアルバムを発表。



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