匿名音楽制作集団「studio14」インタビュー

以前と比べて、音楽の流通方法が様変わりしてきている。違法コピー、音楽配信、定額配信サービス、YouTube……少し考えてみるだけでも、様々なサービスが人々の生活に浸透していて、音楽の聴き方や体験に影響を与えていると言える。多くの人々が今の時代に合った音楽の盛り上げ方を模索している中、音楽活動を支援する総合音楽会社「エターナルステージ」の代表・遠山寛之がチャレンジングなプロジェクトを立ち上げた。匿名の音楽制作チーム「studio14」のメンバーには、一流の作品制作に携わっているミュージシャン、作曲、アレンジャー、エンジニアが名を連ね、クオリティーの高い音楽を日々生み出している。音楽制作の現場において、才能や実力を持っていても「ブランド」が足りずにクオリティーの高い音楽が見逃されていることに疑問を感じ、「個人の実績」ではなく「チームのクオリティー」を標榜しながら活動しているのだ。既存の音楽業界の問題に対する1つ回答を求めて、遠山と「studio14」の統括・TiTiにメールインタビューを行った。

音楽を聴く人にも発信する人にも刺激を与えたい。(遠山)

―これまでの音楽業界では、クリエイターとして評価され、自分の名前を社会に認知させることで、「自分に仕事が来る」状況を作り出し、生計を立てていくことがほとんどだと思います。もしくは、そういった個人クリエイターを組織した音楽制作会社なども実際にあるわけですが、それらもやはり、ある程度の知名度があるクリエイターが在籍している「実績」をもとに、仕事を受注しているように思います。「studio14」は、匿名で音楽制作を行うチームですが、既存の音楽業界が、「クオリティー」より「実績」を重視して仕事を発注する点にも、フラストレーションがあったのでしょうか?

TiTi:ここ数年で、音楽業界に対して危機感を持っている音楽家は確実に増えていると思います。理想を語る時間も増えましたし、音楽家が求めているものを理解できていない現場も多いです。

遠山:音楽制作の現場において、音楽のクリエイティブな部分を純粋に見てもらいたいという気持ちがありました。ブランドも時には重要ですが、作り手として、ブランド名で善し悪しを判断されるのではなく、よりストレートに作品に対して評価を得られればと思っています。

―そういった疑問を出発点に、「studio14」のプロジェクトが発足したんですね。

TiTi:音楽的なものを純粋に追求するというのは、当たり前のようでなかなかできていないことなんですよね。そんな当たり前のことを当たり前にできる環境が必要だと思ったんです。

遠山:構想としては2011年頃からありました。2012年よりテストケースとしていくつかの音楽制作案件を受注し、2013年の1月に正式にスタートしました。「studio14」を通して、国内外問わず様々な人に音楽の持つ魅力に改めて触れてもらえたり、音楽を聴く人にも発信する人にも何か刺激を与えるようなことができたらと思って始めたんです。

流通のされ方は時代と共に変わっていくが、芸術の本質が変わるわけではない。(遠山)

―「音楽を聞く側の人にも発信する側の人にも何か刺激を与えるような取り組み」について、もう少し詳しく訊かせてください。違法コピー、音楽配信、定額配信サービス、YouTubeなどなど、音楽の流通方法は変わり、一般ユーザーの音楽の聴き方や体験も変わりました。「studio14」は今、受注制作を主な業務にしているわけですから、アーティスト活動とはまた違った視点で「音楽を聴く側」と関わっているように思うのですが、その上で、具体的にはどういった「刺激」を与えたいと考えていますか?

遠山:音楽などの芸術は、そもそもは発信する人と受け取る人がいれば、それだけで成り立つものです。流通のされ方は時代と共に変わっていくものですが、芸術の本質が変わるわけではありません。「studio14」に限らず全てのクリエイターは、流通手段の変化に一喜一憂する必要はなく、そのときに利用できる便利な方法や有効な手段を選べばいいだけなんです。そのシンプルなことを「そうだよね」とストレートに感じてもらえたら、それは良い刺激になるんじゃないかと思っています。

―「studio14」には、ミュージシャン、作曲家、アレンジャー、エンジニアなど、音楽制作を一括で手がけられるメンバーが集まっているそうですが、実際は何名ぐらいで活動されているのでしょう。

遠山:コアメンバーで約20名程度が在籍しています。さらに、そのコアメンバーにご協力いただいている方までを含めると100名を超えます。

―参加メンバーは「studio14」以外ではどういったお仕事をされているのでしょうか。

遠山:匿名参加という性質上、個人の仕事についての具体的な作品名などは挙げられませんが、メジャーアーティストの音楽制作はもちろん、テレビドラマや映画の劇伴制作や、テレビCMの音楽制作も行っています。ミュージシャンに関しては、主にメジャーアーティスト関連の様々な現場に立つ方が集まっています。

―そういった方々が恊働して、音楽制作を行っているんですね。

遠山:そうですね。現在は音楽の受注制作の発展版のようなことを主にやっています。これまでに映像作品の主題歌制作やテレビCM音楽の提供などを行ってきています。今のところは主に歌ものが多いですね。

クオリティーの高い仕事ができる喜び。(TiTi)

―匿名という形態で仕事を受注する場合、個人で活動するときよりも、個性やクオリティーが重要になってくると思います。そういった意味で、「studio14」のめざす個性やクオリティーとは何でしょうか?

遠山:今のところは、音楽性の個性をプッシュするというよりも、依頼を下さった方の頭の中にある作品像や理想をどのように具現化するかというところに最大限のクオリティーを発揮し、それを個性にしていきたいと思っています。

―受注した案件は恐らく、音楽的には相当な幅があるだろうと思います。例えばロックとかR&Bとかバラードとか、得意なジャンルの専門ディレクターがいて、そのディレクターが、楽曲のイメージに合うクリエイターをセレクトして音源を作り上げていくのでしょうか?

遠山:どのジャンルの音楽に対しても、それを専門としているメンバーがいるので、そういったメンバーを中心に依頼の内容に応じてプロジェクトチームを編成しています。

TiTi:クライアントとの打ち合わせをする担当とクリエイターの役割分担がしっかりできているので、クライアントにとっても制作チームにとってもストレスの少ない環境と言えます。それに、これまでに様々な現場で「この作品ならこんなメンバーで制作したい」と思うことが多々ありましたが、まさにそれが叶うというのは1つの魅力ですね。メンバー同士がそれぞれの実力を把握しているので、得意分野を存分に活かせるんです。

―お返事を拝見していると、「クオリティーの高い仕事ができる喜び」を感じます。例えばですが、普段「個人名」で受けた仕事を、もし「studio14」で請け負って作ったとしたら、全く違う仕上がりになるでしょうか?

TiTi:個人で仕事を受けた場合よりもチームで動くことにより、クライアントが求めるサウンドに対して適材適所な人選が可能ですし、より多くの可能性の提示もできます。

―「studio14」の場合、「個人」の代わりに「チーム(組織)」が評価され、仕事が集まってきていると思います。そうすると、有名無名を問わず、クリエイターはクオリティーさえ保てれば、より自由度の高い制作をすることができる。それは楽しいだけではなく、クリエイターとしてのレベルアップにも繋がっていくのだろうと思います。そう考えると、実力はあるのに無名なクリエイターが育つには最適な環境と言えそうですが、「studio14」としては、そうしたクリエイターが「studio14」の中で仕事をするのと、外で独り立ちしていくのと、どちらが理想だと考えていらっしゃいますか?

遠山:まず、現時点では「studio14」には独り立ちできていない方はいません(笑)。全員が一線で活躍中です。ただ、「studio14」のスタイルがより確立されれば、新人のクリエイターを輩出するようなことをしてもいいかもしれませんね。確かに、これからのクリエイターが成長できる環境はある場所だと思います。

まだ日の目を見ない芸術作品がたくさん埋もれている。(遠山)

―「studio14」は、音楽業界の活性化を目指して発足したばかりのチームだと思いますが、他に興味のあるトピックなどがありましたら、教えてください。

遠山:ご存知かとは思いますが、フリーランスの社会的な地位はとても低いんです。「studio14」に参加している音楽家たちも多くがフリーランスで、しっかり食べていけている人でもクレジットカードの審査に落ちたりと結構ヒドい扱いです。そんなフリーランスのイメージを一新できるようなサービスに興味がありますね。音楽以外でも今後はフリーランスとして働く人がもっと増えるでしょうし、その小さな経済の集まりこそが大きなものを支えていくと思いますので、そんな人たちにもっとしっかりとした地位を与えられるような取り組みが出来たらと考えています。

―少し脱線してしまいますが、海外も含めて、音楽、あるいはクリエイティブ業界において気になる他社のサービスや取り組みはありますでしょうか?

遠山:ここ数年で、個人を支援する動きや、今までの音楽業界の構造を中抜きするようなサービスはとても増えたと思います。ただ、それがまだ上手くリンクしていなかったり、特に日本人が馴染むには時間がかかりそうなサービスも多いです。その辺りがもっとしっかり繋がって流れを生み出せれば、より大きなものを塗り替えるようなことができそうな気がします。そのためにも、もっともっとクリエイターを支える様々なサービスが出て来てほしいですね。具体的な内容になっていなくて申し訳ありません。

―「studio14」の今後の展開を教えてください。

遠山:「studio14」自体はこの先の流れ次第で、メンバーの名前をオープンにすることや、逆に「studio14」という名前以外の個人名の公開をやめる(現時点では参加者全員が「studio14」専用の名義を使っている)ことも考えています。

TiTi:個人的には未発掘の人材とのコラボレーションや、新しい発想を持った音楽家のアイデアを純粋に追求していくような取り組みをしてみたいです。すごい才能を持っているのに今のビジネスとしての音楽にはハマらないという理由だけで埋もれている方はたくさんいると思いますので。あとは、今とは違った一面として、「studio14」名義の作品を作ってみたいとも思っています。全員芸術家ですので、そんな意見は他のメンバーからもたまに耳にしますね。

遠山:短期的にはもっと多くの音楽制作のお手伝いができればと思っています。様々な方の頭の中に、まだ日の目を見ない芸術作品がたくさん埋もれていると思いますので、それを表に出して行きたいです。中長期的には、世界中の方々の興味が改めて芸術に向き、その良さを再確認してもらえるような展開をしていけたらと思っています。

プロフィール
遠山寛之 (とおやま ひろゆき)

{1976年生まれ。2006年に株式会社エターナルステージを設立。独自のルートで入手している世界の音楽関連情報をもとに、今ベストな音楽活動の方法等を模索・提案している。

studio14(すたじおふぉーてぃーん)

作詞家、作曲家、アレンジャー、ミュージシャン、エンジニア等による、匿名参加のクリエイティブユニット。全員がそれぞれのジャンルで一流の作品を手がけて来たメンバーであり、音楽や芸術の新たな可能性を導きだす事を目標として様々なアプローチを行っている。



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