謎に満ちた古典の名作『三番叟』の魅力 木ノ下歌舞伎インタビュー

伝統芸能である歌舞伎を再解釈し、その現代劇化を試みる作品で各方面から注目を浴びる木ノ下歌舞伎。『四谷怪談』や『義経千本桜』など、歴史に残る名作をポップにアップデートする手腕はすでに評価が高いが、その秘訣は演出家と台本制作などを担当する監修者を別個に立てる特殊な制作体制にある。主宰する木ノ下裕一が監修・補綴(ほてつ)として、上演演目を決定し、演出家のパートナーとしてテキストや時代考証を徹底的にリサーチ。それに基づき、演出家が現代化のためのさまざまなプランを用意。プロフェッショナル同士の分業体制が、木ノ下歌舞伎の独特な世界観を構築するのだ。

きたる9月27日、「東京発・伝統WA感動」のシリーズ企画『日本の伝統芸能×ストリートダンスPart 2』で、木ノ下歌舞伎はダンス作品『三番叟(さんばそう)』を上演する。歌舞伎の定番演目でありながら、さまざまな謎に満ちた同作を、木ノ下歌舞伎はどのように料理するのか? 主宰の木ノ下、そして彼ともっとも頻繁にタッグを組む演出家の杉原邦生に、今回の公演への意気込みを聞いた。

先行する芸能を象徴する演目の末端にあるものを、自分たちなりの解釈を加えてトップに据えるという習慣が、古典芸能にはあったわけです。(木ノ下)

―今回スパイラルホールで、木ノ下歌舞伎でも上演回数の多い『三番叟(さんばそう)』を上演するわけですが、歌舞伎に詳しくない人からすると「それってなんのこと?」という感じだと思うので、まずは『三番叟』についてご教示いただけますでしょうか?

杉原:ご教示と言ったら、それはもう木ノ下先生の出番でしょう。

木ノ下:なるほどなるほど、任せてください(笑)。『三番叟』はですね、歌舞伎の有名な演目で、お正月や劇場のこけら落しなど、おめでたい節目で上演される儀式的な演目でもありますが、もとは能の『翁』という演目です。じゃあ、能の『翁』が起源なのかというと、どうやらそうではない。能以前の古典芸能、たとえば舞楽(ぶがく)や翁猿楽(おきなさるがく)にも遡ることができて、それをパロディー化したものが『翁』なのだそうです。とても長い歴史を持った演目なんですね。まず「翁」という1番偉い神様がいて、その次に「千歳(せんざい)」という神様がいて、その次の神様が「三番叟」。彼らが順番に舞っていくという演目が、能の『翁』なわけです。

木ノ下裕一
木ノ下裕一

杉原:つまり三番叟とは、神様キャラクターの名前でもあると。

木ノ下:その能の『翁』を踏まえて、歌舞伎の『三番叟』ができるわけですが、歌舞伎は能より後に成立したものなので、能からパクってきたわけです。そしてここがカッコイイところなのですが、『翁』ではなく『三番叟』というタイトルにした。つまり、先行する芸能を象徴する演目の末端にあるものを、自分たちなりの解釈を加えてトップに据えるという習慣が、古典芸能にはあったわけです。常に先行芸能を更新していくんですね。

杉原:でも、その起源も定かではないんだよね。

木ノ下:能の『翁』は、「能にして能にあらず(能であって能ではない。つまり他の曲目とは別格なのだ)」と言われているくらいとても神聖化されている演目で、歌舞伎同様、特別なときに上演されます。宗教的で儀式性が高いのですが、そもそもの起源ははっきりしない。じつは文楽にも『三番叟』があるんですけど、やはりお正月に上演されることが多いです。能以前の芸能から能に、そして文楽や歌舞伎へ、脈々と受け継がれてきた日本の伝統芸能を象徴する演目なのですね。

杉原:そして内容も謎に包まれている。

杉原邦生
杉原邦生

木ノ下:いろんな説があって、天下泰平や国土安穏、五穀豊穣を祝うものと考えられていますが、詳しくはわからない。そこで、歌舞伎の現代化、現代劇と古典を掛け合わせた作品作りを目指す、私たち木ノ下歌舞伎では、歌舞伎の『三番叟』を自分たちなりの解釈でコンテンポラリーダンスとして作り直して、古典から続く芸能の流れに木ノ下歌舞伎を乗っけてみよう! というのが全体の試みですね。

杉原:すごいね(笑)。ある意味、脈々と続く芸能の歴史に木ノ下歌舞伎が乗ってしまおうってことでしょ?

木ノ下:そうそう! 結果、乗っているのか反っているのかは、お客様の判断に任せるしかないのですけど、初演の心意気はそういったことでしたね。

―じゃあかなり戦略的に現在の『三番叟』を練り上げていったわけですね。

木ノ下:いやいやいや。今のはこじつけで、思いついたキッカケは全然違います(笑)。

―そのキッカケというのは。

杉原:キッカケは……。木ノ下歌舞伎では、最初に『yotsuya-kaidan』『四・谷・怪・談』、その後に『テラコヤ』と、いわゆるお芝居の作品を3本作りました。でも歌舞伎って、歌、舞、演技(伎)で「歌舞伎」ですから、次は芝居じゃなくて、舞踊、ダンスの作品も作りたいね、っていう話をしたんだよね。

木ノ下:そうそう。

杉原:(木ノ下)先生は始め、きたまりさんの振付・演出・出演で『娘道成寺』をやるという構想を持っていたんですが、それ1本だとちょっと短いから、ダンス2本立てにしようという話になって。それで、じゃあ何をしようか……と悩んでいるときに、今『三番叟』で翁の役を演じている芦谷(康介)くんの顔が「翁の面に激似じゃね?」っていう話になって。

木ノ下:これがまた、そっ……くりなんですよ!

芦谷康介(左)、竹内英明(中)、京極朋彦(右)  ©鈴木竜一朗
芦谷康介(左)、竹内英明(中)、京極朋彦(右) 舞踊公演『三番叟/娘道成寺』より「三番叟」 2012年2月横浜にぎわい座 のげシャーレ ©鈴木竜一朗

杉原:それで『三番叟』に決まった(笑)。2本立て上演する『娘道成寺』も鐘供養という儀式に関するものだし、おめでたいときに舞われる『三番叟』ともうまくつながりそう、という目算もあってのことですが。

木ノ下:そこが(杉原)邦生さんの偉いところなんですよ。

杉原:褒め合ってどうすんの。

木ノ下:もうね、褒め合いますから、われわれは。つらいときはお互い電話して慰めあったりしてね(笑)。

最初から、上演中はテクノを流し続けようって決めてました。太鼓と鼓でお囃子が鳴り続けるリズム感が僕にとってはテクノで。(杉原)

木ノ下:でも、邦生さんの発案がなかったら『三番叟』は選ばなかったでしょうね。真っ先に外しますもん。何故ってストーリーがありませんから。『娘道成寺』なら、恨みを持った女の霊が鐘にやって来て、なんやかんやあって、最後は正体を現して暴れる、という流れがある。でも『三番叟』はまったくストーリーがない。だから、即決はできませんでしたね。「一晩考えさせてください」って言って、色々調べたり考えて「いけるかも!」と思ったのです。さっきお話した、日本芸能史のパロディー構造とか3人の神様どうこうというのも、調べてみてやっとわかったことで。能の『翁』を拝見していても、何をやっているかまったくわからないんですよ。セリフも「とうとうたらり、とうたらり~」とか暗号みたい。

杉原:ほんとだよね。

左から:木ノ下裕一、杉原邦生

木ノ下:それまでの木ノ下歌舞伎では、テキストのレベルで歌舞伎を現代的に読み直す作業をやってきたんです。それが一番スタンダードな古典を現代化する方法ですから。そこに、急に『三番叟』が入ってくるというのは今までと全然違うわけですよ。古典全般の歴史、更新性、身体性など、テキストレベルではないものを扱って現代化するというのはすごい挑戦で。当然、こちらも手法や思考のステップアップが要求されることになりますしね。

杉原:僕は『三番叟』の華やかなイメージが好きで、「これやったらテンションがアガるだろうなー」くらいの気持ちだったんですよ、最初は。だから、先生がそんなに悩むとは思ってもいなくて(笑)。

木ノ下:翁という神様は、呪文めいた意味不明なことを喋るんですよね。それを、次に出てくる千歳が、ちょっとわかりやすく翻訳するんです。「とうとうたらり~、というのはたぶん滝の音だと思います! 滝の水は尽きないからめでたい、と翁は言っているようです!」と。もちろんそれを舞で表現するんですが、三番叟はさらにそれを翻訳していく。

杉原:ほとんど支離滅裂な内容だけどね。

木ノ下:全体の構造がパロディーの連続なんです。ダンスの振付、つまり身体レベルでもパロっていくし、演出レベルでもパロっていくわけです。だから最低限、その伝言ゲームみたいな構造と、全体の「祝祭」というテーマをちゃんと継承して翻案すれば、『三番叟』をちゃんと扱ったことにはなるだろう、と。だから木ノ下歌舞伎版『三番叟』の前半は、能の『翁』の構成をほぼ変えていないんですよ。

―YouTubeで過去作品のダイジェスト映像が見られますが、『三番叟』初演の映像では、たしかに動作を真似るような振付がありましたね。


杉原:(オリジナルでは)鈴の段に相当する、三番叟役のダンサーがチアガールのボンボンを持って踊るシーンまではそうですね。演出的には「翁が面をつける」という動作を「スニーカーを履いて紐を結ぶ」っていう動作に変換してみせたりだとか。でもそれ以降は、とにかく「めでたさ」を武器にしてテンションをぶち上げていく方向性。

木ノ下:そこからが私たちの『三番叟』ですね。

杉原:待ちに待ったフリータイムみたいな感じですよ(笑)。あと最初に決めていたのは、上演中の30分間はテクノを流し続けようってことですね。太鼓と鼓でお囃子が鳴り続けるリズム感が僕にとってはテクノで。なんも予備知識がない人でも、3人がノリノリでかっこよくて祝祭感があれば『三番叟』の魅力は伝わるだろうと。

木ノ下:テクノは面白かったね。でも、私は普段テクノをあまり聴かないので、どこが曲の切れ目なのかまったくわからないの。原曲の能囃子だったら「あ、ここから鈴の段だ」ってわかるのに。

杉原:言わせてもらうけど、逆に僕は原曲のほうが全然区別つかないよ(笑)。

木ノ下:え、本当に!?

左から:木ノ下裕一、杉原邦生

杉原:(笑)。Hitoshi Ohishi(NEWDEAL)っていう、僕の好きなテクノミュージシャンの曲を、5、6曲くらいつなげているんです。

木ノ下:そうなんだ! 今まで30分間の長い曲があるんやなーって思ってました。最初に説明を聞いてたかもしれないけど覚えてない。覚えられない(笑)。

―かなり関心の違う二人が、こんなに相性良く作品を作ってこられたのが不思議です(笑)。

「かっこいい」「面白い」っていう興奮を、お客さんにも共有して欲しいんだと思う。いつもそれが動機になってる。(杉原)

―木ノ下歌舞伎が作品を作っていく上で、文献や記録を紐解いて、謎を解き明かしていくようなアカデミックな楽しさがあると思うのですが、その他に感覚的な快楽などはあるのでしょうか。それがなければなかなか続けられないように思います。

杉原:僕が興奮するのは、実際に出来上がったものを見て「ちゃんと現代の作品になってる!」って思えたときですね。

杉原邦生

木ノ下:へー! それ面白いね。私の快楽のポイントは逆。「これだけ変えているのにちゃんと『三番叟』に見えるじゃん、『四谷怪談』って言えちゃうじゃん!」っていうときの快楽ですね。継承すべき古典の要素は継承しつつ、ちゃんと自分たちの主張を込めることができたときにすごく興奮する。邦生さんはやっぱり現代側から引き寄せるのね。

杉原:「かっこいい」「面白い」っていう興奮を、お客さんにも共有して欲しいんだと思う。いつもそれが動機になってる。

―じゃあ、最初に作品に取りかかるときは、邦生さんからはまったく現代劇に見えないこともある?

杉原:よくあります。「なんだこれ? わかるわけねーだろ!」って(笑)。

神聖な儀式であったとしても、舞台を使って人に観せる以上、今のお客さんが観て、感動できる表現にできないのか? 木ノ下歌舞伎の『三番叟』では、エンターテイメントとしての快楽を復活させてやろうと決意したんです。(杉原)

木ノ下:でも邦生さんは勉強熱心で、初演のときは古典芸能講座に通ったんでしょ?

杉原:あ、そうでしたね。

木ノ下:その講座の先生が、能が本当に好きな方だったそうなんですよ。さすがに専門家だから『三番叟』の歴史的な重要さは教えてもらえた。でも、それだけでは、木ノ下歌舞伎で現代化する際のヒントにはならなくて。それで邦生さんは講座の後に質問したんだよね。

杉原:「『三番叟』の何が楽しいんですか?」って。

―一番答えづらい質問じゃないですか(笑)。

木ノ下:そうしたら先生が「楽しくなんかありませんよ。儀式なんだから!」って答えたそうで(笑)。

―実も蓋もない。

左から:木ノ下裕一、杉原邦生

杉原:納得がいかなくて、いろいろ食い下がって質問したんですけど、結局「エンターテイメントは不要」っていう結論で、ダメだこりゃ! って(笑)。でも僕はそれだったら「終わってる」と思うんです。神聖な儀式であったとしても、舞台を使って人に観せるもの。それが娯楽になり得ないのか? 博物館に飾られるものじゃなくて、今のお客さんが観て体感して感動できる表現にできないのか? って。だから木ノ下歌舞伎の『三番叟』では、エンターテイメントとしての快楽を復活させてやろうと決意したんです。

木ノ下:だから6年前と今とでは、僕たちの『三番叟』も徐々に変化しているのが面白いよね。初演を映像で見直すと構造的でストイック。でも2回目からは、だるまを出したり、テープカットをしたり、いろんな小ネタが仕掛けられて、もっと身体的になっていって。それは初演と再演との間で、僕らの志向がより明確になったからだと思う。「古典ファンにもビギナーにも楽しんでもらえる作品にしたい、両方すくい取りたい」ということが。

杉原:もうちょっと間口を広げないと、コンテンポラリーダンスになっちゃうって、再演のときに思ったんだよね。もちろんコンテンポラリーダンス作品ではあるけれども、何も知らない人たちがぱっと観たときに、エンターテイメントとして楽しめるものにしておかないと、間口が狭くて強度の弱い作品になっちゃう。『三番叟』が作品として成功するということは、客席も含めて祝祭空間になることだから、舞台の3人が踊り狂うほど、お客さんもノって身体を動かしたくなる空気を作りたかった。

左から:木ノ下裕一、杉原邦生

―昨年の『KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2013』で上演した『木ノ下歌舞伎ミュージアム”SAMBASO”~バババっとわかる三番叟~』では、後半観客が客席から舞台に移動しますよね。

杉原:その反転も面白かったよね。さっきまで自分たちがいた客席がストロボでばばばーっと照らされてね。どっちが祝われているのか? 自分たちが祝っているのか、それとも劇場から祝われているのか区別がつかない。あのカオス感はすごかった!

木ノ下歌舞伎みたいに、古典を踏まえた新しい表現があって、それを許容してくれる豊かな芸能文化が日本にあることを、学生時代に知ることができたら、日本の芸術そのものが豊かになると思う。(杉原)

―「東京発・伝統WA感動」の『日本の伝統芸能 × ストリートダンス Part 2』では、第1部に東京都内の高校ダンス部や10代のグループによる歌舞伎の所作を取り入れたストリートダンス公演があり、木ノ下歌舞伎の『三番叟』は第2部に登場します。異色の共演ですが意気込みはいかがですか?

杉原:高校生たちが木ノ下歌舞伎をどう観るかに興味ありますね。「なんじゃこりゃ?」でも「かっこいい!」でもいいから、反応を知りたいです。

左から:木ノ下裕一、杉原邦生

木ノ下:若い人に観てもらいたいよね。

―学生たちが木ノ下歌舞伎を観る機会はあまりないですか?

杉原:ないことはないと思いますけど、観に来てくれる子たちは演劇部の子だったり、高校卒業したら「私は舞台芸術をやるぞ!」っていう子が多い気がする。高校時代にダンスをやっている子って、部活の延長とか、ちょっと興味あるくらいだと思うんですよ。そういう子たちと木ノ下歌舞伎がどんな出会いを作れるか楽しみです。

木ノ下:木ノ下歌舞伎で学校鑑賞教室とかやりたいよね。

杉原:やりたい! 事前にちゃんと歴史とか見方をレクチャーしてさ。伝統芸能鑑賞会みたいなのも年に1回くらいあったけど、中学生とか高校生のうちに触れられる日本伝統芸能の入り口が少なすぎると思うんですよ。事前に専門家でもない先生から中途半端な情報をぼんやり教わっても、鑑賞のときには結局みんな居眠りしちゃうでしょ。もったいないし、そんな体験じゃ大人になっても絶対に観に行かない。たとえば木ノ下歌舞伎みたいに古典を踏まえた新しい表現があって、それを表現として許容してくれるような豊かな芸能文化が日本にはあるんだ、ってことを学生時代に知ることができたら、日本の芸術そのものが豊かになると思うんだよ。

木ノ下:……いや、もうありがとう。邦生さんは私が言いたいことをイタコのように言ってくれる。まさしくその通りですよ! 代弁してくれるというのはまさにこのことやね(笑)。

左から:木ノ下裕一、杉原邦生

本歌取り(和歌の技巧の1つ。優れた古歌や詩の語句などを意識的に引用する表現)が芸能の正しい作り方だったんですよね。(木ノ下)

―夫婦漫才のように息もバッチリなお二人ですが、古典と現代劇をつなげるということで、今年の「東京発・伝統WA感動」で注目したいプログラムを木ノ下先生にお伺いしてもよいでしょうか?

木ノ下:来ましたね、任せてください! まずは古典のオリジン。つまり決定版を観るという意味では10月28日の『至高の芸、そして継承者~狂言』ですね。何がすごいかと言うと、当代の名人、人間国宝がこれだけ集まること自体が本当に稀です。特に、野村万作さんは今円熟の極みですからね。観ておいたほうがいいですよ。

『至高の芸、そして継承者~狂言』に出演する野村万作
『至高の芸、そして継承者~狂言』に出演する野村万作

杉原:国立劇場でやるんだね。

木ノ下:しかも万作さん、『三番叟』を踏まれるんですね(『三番叟』を演じることを「踏む」という)。これはいいですよ。万作さんはテンションで観せるのではなく芸で観せますからね。もちろん『三番叟』ってとてもテンションが高い演目だけど、万作さんはそれだけじゃなくて、ときに重厚でどっしりとして力強い。呪術的な感じがして僕は好きです。上演日は木ノ下歌舞伎が先ですから、まず私たちの『三番叟』を先に観ていただいて、そしてオリジンに触れていただきたいです。それから10月7日の『日本の笑い―古典と現代』。ウッチャンナンチャンの南原さんも出る演目ですね。一緒に出演される野村万蔵さんは、どちらかというと「古典」に重きを置いておられる方という印象が強いので、ナンちゃんと万蔵さんの組み合わせも注目です。

―ナンちゃんと万蔵さんたちは、能舞台を使ってコントもやるという話でした。

『日本の笑い―古典と現代』 南原清隆(左)、野村万蔵(右)
『日本の笑い―古典と現代』 南原清隆(左)、野村万蔵(右)

木ノ下:あと、11月1日の『日本舞踊と邦楽による道成寺の世界―人間国宝と若き俊英の競演―』もいいですね。いろんな道成寺物が上演されるみたいなので、違いを見比べる面白さがあると思います。

―1つの演目にいろんなバリエーションがあるのが古典の特徴なんですね。

木ノ下:本歌取り(和歌の技巧の1つ。優れた古歌や詩の語句などを意識的に引用する表現)が芸能の正しい作り方だったんですよね。『至高の芸、そして継承者~狂言』では古典のオリジンを観ていただいて、『日本舞踊と邦楽による道成寺の世界―人間国宝と若き俊英の競演―』ではそのバリエーションを観ていただいて、『日本の笑い―古典と現代』では古典と現代のコラボレーションを観ていただく。そして木ノ下歌舞伎の『三番叟』で、古典を現代的に読み替えるとこうなります、という実例を観ていただくと。お、これは、うまくまとまりましたね(笑)。

『日本舞踊と邦楽による道成寺の世界―人間国宝と若き俊英の競演―』公演イメージ写真(市川ぼたん『鐘の岬』
『日本舞踊と邦楽による道成寺の世界―人間国宝と若き俊英の競演―』公演イメージ写真(市川ぼたん『鐘の岬』

杉原:木ノ下歌舞伎は古典を下敷きにしているけれど、あくまで現代演劇を作っているという意識は明確なんだよね。単に歌舞伎をなぞっているのではなくて、解釈や制作体制はきわめて現代的。だから今、先生が挙げてくれた3本と僕たちの『三番叟』を観ていただけると、日本の芸能の変遷も見られるんじゃないでしょうか。

東京文化発信プロジェクトとは
東京文化発信プロジェクトは、「世界的な文化創造都市・東京」の実現に向けて、東京都と東京都歴史文化財団が、芸術文化団体やアートNPO等と協力して実施している事業です。多くの人々が文化に主体的に関わる環境を整えるとともに、フェスティバルをはじめ多彩なプログラムを通じて、新たな東京文化を創造し、世界に発信していきます。
東京文化発信プロジェクト | ホーム

イベント情報
東京発・伝統WA感動『日本の伝統芸能×ストリートダンス Part 2』

2014年9月27日(土)OPEN 17:30 / START 18:00
会場:東京都 表参道 スパイラルホール(スパイラル3F)
出演:
第1部 ストリートダンス×歌舞伎
出演:凸凹、PROSPER、艶やっこ、SODA×STYLE、都立清瀬高校ダンス部

第2部 木ノ下歌舞伎『三番叟(さんばそう)』
監修:木ノ下裕一
演出・美術:杉原邦生
出演:芦谷康介、京極朋彦、竹内英明
※内容は変更になる場合があります。

料金:一般2,500円 学生1,500円
主催:東京都、東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)、東京発・伝統WA感動実行委員会

プロフィール
木ノ下裕一 (きのした ゆういち)

1985年和歌山市生まれ。小学校3年生の時、上方落語を聞き衝撃を受けると同時にその日から独学で落語を始め、その後、古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学び、古典演目上演の演出や監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を旗揚げ。3か年継続の滞在制作『京都×横浜プロジェクト』で注目を集め、2013年には『CoRich舞台芸術まつり!2013春』グランプリ受賞した『黒塚』、展覧会形式の『木ノ下歌舞伎ミュージアム”SAMBASO”~バババっとわかる三番叟~』、上演時間6時間に及ぶ『東海道四谷怪談ー通し上演ー』を成功させるなど、発表する作品は常に話題を呼んでいる。主な演出作品に2009年『伊達娘恋緋鹿子』(『F/T09』秋「演劇/大学09秋」)など。その他古典芸能に関する執筆、講座など多岐にわたって活動中。

杉原邦生(すぎはら くにお)

1982年生まれ。京都造形芸術大学映像・舞台芸術学科在籍中より、演出・舞台美術を中心に活動。2004年、自身が様々な作品を演出する場として、プロデュース公演カンパニー「KUNIO」を立ち上げる。2014年7-8月 KUNIO11『ハムレット』や、2012年9月 KUNIO10『更地』など常に話題作を発表している。「木ノ下歌舞伎」には2006年より企画員として参加、『CoRich舞台芸術まつり!2013春』でグランプリを受賞した『黒塚』、『フェスティバル/トーキョー13』公式プログラム『東海道四谷怪談-通し上演-』など、これまでに8作品を演出している。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Stage
  • 謎に満ちた古典の名作『三番叟』の魅力 木ノ下歌舞伎インタビュー

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて