物語を音楽で綴り続ける、マルチクリエイターsasakure.UK

音楽と物語が、手を取り合っている。小説やアニメや映画と同じように、音楽が架空のストーリーを伝える媒介となっている。一つひとつの楽曲がショートストーリーとなっていて、それが連なることで大きな世界観が見えてくる。

sasakure.UKが1年ぶりに発表するアルバム『摩訶摩謌モノモノシー』は、そういうタイプの作品だ。舞台はとある街の中学校。そこに通う少年少女と異形の存在「妖禍子(アヤカシ)」が繰り広げる様々な出来事が音楽を通して語られる。ボーカロイドやゲストボーカルをフィーチャーし、キュートな電子音と変則的な曲展開を活かした楽曲が繰り広げられていく。

これまでボカロシーンを中心に活動してきたsasakure.UKだが、矢野顕子のアルバム『飛ばしていくよ』への参加など様々なフィールドで活躍する今の彼を、もはや「ボカロP」という肩書きだけで位置づけるのは狭すぎるだろう。1980年代のテクノやニューウェーブのヒストリーを受け継ぐミュージシャンにして、稀代のストーリーテラー。言うならば「電子音楽」と「物語音楽」の交差するポイントで未開の地を開拓するマルチクリエイターだ。そういう意味では、今の日本のポップカルチャーの最先端を担う存在と言ってもいい。この作品以降もプロジェクトは広がっていく予定だという。彼の現在地と展望を語ってもらった。

矢野(顕子)さんが最初に作るデモは、歌詞のない歌とピアノのバッキングだけで、そこから音を足していく作業をしていったんです。自分のアレンジの技術が試された経験でした。

―ニューアルバムの話の前に、まずは今年の3月にリリースされた矢野顕子さんのアルバム『飛ばしていくよ』を振り返って伺いたいんですけれど。トラックメイカーとして3曲参加し、その後のライブでも矢野顕子さんと一緒にコラボをしていましたよね。これはsasakureさんにとってどういう体験でしたか?

sasakure.UK:嬉しかったですね。僕の音楽のルーツでもある方なので。大ファンの感覚のまま作らせていただきました。

sasakure.UK
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―僕もライブを拝見したんですけれど、あれを観て強く思ったのは、sasakure.UKさんって、いわゆるボカロシーンという出自よりも、むしろ日本のテクノやニューウェーブ、電子音楽のヒストリーに繋がる位置付けの人なんだなっていうことだったんです。

sasakure.UK:そう感じてもらえたのなら、ありがたいです。実際、すごくやりやすかったんですよね。矢野さんの感覚と自分の感覚に近しいものがあったので。

―得るものは大きかったですか?

sasakure.UK:はい。自分のアレンジの技術が試された経験でした。矢野さんが最初に作るデモは、歌詞のない歌とピアノのバッキングだけで、そこから音を足していく作業をしていったんです。どの音を使うか、いつも以上に考えました。音楽ソフトに入っている何千、何万とある音素材を、一つひとつ聴き直して、じっくり選びましたね。

―なるほど。自分のルーツとしていた人との共同作業って、sasakure.UKというアーティストとしてのアイデンティティーの再構築みたいなことにもなるんじゃないかと思ったんですけれども。そういう感じはありました?

sasakure.UK:ありましたね。改めて自分の音楽を振り返って「あ、これで良かったんだな」と思えました。このまま突き詰めていって、もっとその先で表現することも目指したい。そういうことに気付かせてくれた、大切な時間でした。

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―そうやって改めて気付いた自分の良さ、そしてもっと突き詰めたいと思ったことというのは、最新作『摩訶摩訶モノモノシー』にも繋がっていますか?

sasakure.UK:そうですね。

―まず「これで良かったんだ」と思えたポイントと言うと?

sasakure.UK:それはやっぱり音の選び方ですね。矢野さんと制作した楽曲で言うと、“ごはんとおかず”という曲のリズムトラックに、アナログな音を使っているんです。鍋の蓋を開ける音とか、包丁の音とか、そういうサウンドを使って、自分なりのテクノ感とあわせて表現しました。そういうセンスや感覚は、今後も活かしていきたいと思いましたね。

―では、ここから先に新しく挑戦していきたいと思った部分は?

sasakure.UK:今までも、楽曲を作るときにバックグラウンドやストーリー、人物を考えていたんですけど、それをもっと突き詰めてやろうと思ったんですね。それをもっとフィーチャーしたら、もっと面白くて深みのある作品が作れるんじゃないかなって。

―より物語をベースにした音楽を作ろうと思うようになった。

sasakure.UK:そうですね。それが今回のミニアルバムにも繋がっています。

「人と人でないものの共存」というテーマや、「人ではないものとどう接するべきか」というところに焦点をあてて曲を作っていることはずっと変わっていません。

―これまでの作品でも、SF的なテイストであったり、ひとつの世界観を元にした楽曲を集めて作品を作ってきたわけですよね。でも、今回はゼロから新しいものを作ろうと思ったということでしょうか?

sasakure.UK:ゼロと言うとニュアンスが変わっちゃうかもしれないですけど、新しいことを始めようとは思ってました。でも、自分の中にある大きなコンセプト、信念は変わってないんです。今回のアルバムは中学校が舞台で、前作よりも身近な世界がモチーフになっているんですけど、「人と人でないものの共存」というテーマや、「人ではないものとどう接するべきか」というところに焦点をあてて曲を作っていることはずっと変わっていません。

―アルバム『摩訶摩謌モノモノシー』は、今語っていただいたようにひとつのストーリーに基づくアルバムですよね。これはどういうところから始まっているんでしょうか?

sasakure.UK:まず、身近な世界をモチーフにするということで、自分の経験をアウトプットしようと思ったんです。とはいっても、怪物やアヤカシには会ったことはないんですけど(笑)。ただ、中学校時代、高校時代の繊細な感覚を思い起こして、そこを元にしていこうと。そうして最初にプロットを書き始めました。

―曲よりプロットが先だったんですね。

sasakure.UK:最初に背景を考えて、物語の流れと舞台を作って、最後に曲を作りました。プロットを練るのに時間がかかったんですよね。2か月くらいかけて、どういうキャラクターにするかを深いところまで考えていきました。ひとつの街を舞台に、そこで生活する人々が何を思っているのか、どういう行動をするのかを考えてまとめていったんです。

―ミュージシャンと小説家を両方やるような制作ですね。それは自分のやり方としては自然なものでした?

sasakure.UK:そうですね。自分はストーリーから曲を作るということを重視しているので、今回も自分自身のセオリーをもとに作品として構築していきました。

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―そこで妖怪が登場する物語にしたのは、どういう意図があったのでしょうか?

sasakure.UK:妖怪というか、「人であらざるもの」ということで「アヤカシ」と呼んでるんですけど。人と人でないものがどう共存するのか、それを日本を舞台にして描いていくならこれがしっくりくるだろうと思ったんです。

―しかも、それが思春期の物語になっている。

sasakure.UK:普段から曲を作るときに、昔の日記やノートを開いて読んだりするんですよね。昔に書いた詩とか、拙い日記とか、そういうものを読み返すことで、当時の繊細な感覚を頭の中に呼び起こすんです。そういうところから登場人物の行動をイメージしてますね。

下地を練り固めて作ったものには深みが生まれるんですよね。そういうものが好きだし、自分が目指しているところもそこだと思うんです。

―アルバムのストーリーはどういう構成になっているんでしょう? 1曲目の“ア(マ)ヤカシ・ダイアリィ feat. ピリオ”は少年の話ですけど、この人が全編の主人公ではないですよね。

sasakure.UK:全曲登場人物は変わりますね。1曲で話は完結するんですけど、みんな同じ街の中の人々で、それぞれの物語が繋がっているんです。

―3曲目の“トドノツマリ様”の歌詞には、日本語ではない、記号のような言語が書かれてますけれども。

sasakure.UK:これは造語なんです。不思議な得体の知れない生き物を表現したくて、自分でオリジナルの言葉をデザインしました。でも、ちゃんとこの記号にはルールがあって、実は翻訳出来るようになっているんですよ。

―オリジナルな言語を作るって、かなり中二感ありますね(笑)。

sasakure.UK:そうそう、授業中によくやりましたよね(笑)。ああいうワクワクする感じを思い出しながら書いていったんですけど、実際やってみると思ったよりも大変でした。

―4曲目“tig-hug feat. GUMI”はどうでしょう? これは「イチジク」という女の子が主人公なんですよね。

sasakure.UK:そう。その主人公の女の子にとある事件が起こって、その事件から身体が思うように動かなくなってします。そういう心と身体の葛藤を描いた曲です。1曲目の少年とその女の子はすごく仲が良くて、事件前はよく一緒に話をした関係なんですよ。

―つまり、この動画に登場している男の子は、“ア(マ)ヤカシ・ダイアリィ feat.ピリオ”で歌われている少年ということなんですね! そして次の曲、“ネコソギマターバップ”にはどんなストーリーが?

sasakure.UK:これは猫又の女の子が主人公です。その子が普通の人間の振りをして社会を生きていく、その大変さを楽天的に捉えて曲にしている。

―なるほど。だから曲の途中に“猫踏んじゃった”のフレーズが出てくるんですね。曲全体に、ピアノや管楽器の音、飛び道具のような音が散らばっていて面白い1曲ですが、特にあのフレーズが出てくる部分は印象的でした。

sasakure.UK:あれは自分の遊び心ですけど、猫又の女の子というのをイメージしたときに、最初に“猫踏んじゃった”をアレンジしたいなっていう思いつきがあったんです。

―その後、別の世界に迷い込んだかのようなインスト曲があり、そして“ポンコツザワールド”にストーリーは展開していきますね。

sasakure.UK:これは夢を食べちゃうバクの女の子がモチーフになっているんです。人の夢を食べないと生きていけないんだけど、想っている人もいて、その相手に対する心の葛藤もある。音のことで言うと、この子はゲームが得意という設定なので、そういう夢の感覚を8ビットの感覚と重ねあわせてアレンジしています。

―単にストーリー、プロットを考えるだけじゃなくて、それがどういう曲調にするかを考える出発点にもなっているわけですね。ストーリーも、音楽も、全部を一人で作るのって、ぶっちゃけ大変じゃないですか?

sasakure.UK:大変です(笑)。ビデオの絵コンテも自分で描いてますからね。今回はプロットだけで2か月ぐらいかかってしまったし。でも、下地を練り固めて作ったものには深みが生まれるんですよね。そういうものが好きだし、自分が目指しているところもそこだと思うんです。

―目指しているものというのは?

sasakure.UK:やっぱり、物語性を持った音楽が好きなんですよね。自分らしい音楽を突き詰めていくと、ひとつの大きな世界観になる。それを作ることが大事なんです。

自分と同じタイプの人がなかなかいないので、参考になる人がいないんですよ。悩んだときは自分で解決するしかない。

―sasakureさんのやり方って、特殊だと思いません?

sasakure.UK:特殊だという感覚はありますね。自分みたいに最初にプロットや世界観を考えるより、やっぱり先に曲から作る人が多いので。自分と同じタイプの人がなかなかいなくて、参考になる人がいないんですよ。だから、壁に当たったときに解決する方法が見つけにくい……。

―前例がないですよね。

sasakure.UK:そうなんです。ストーリーの整合性がつかないときにどうすればいいのか? とか、それを音楽として表現するときによりドラマチックにするためにはどうするか? とか、悩んだときは自分で解決するしかない。音楽、プロット、映像、それぞれ手法が違いますからね。

―それは小説家とか、アニメのシナリオライターみたいな人に相談すればいいっていう感じでもない?

sasakure.UK:ジャンルをまたいだ悩みが出てくるんですよ。音楽と映像と文章と、それぞれ絡み合った見せ方のノウハウがない。自分の周りにはいないので、むしろ逆に誰かいらっしゃったら相談したいです(笑)。

―壁にぶつかったときにはどういうものをヒントにしているんですか?

sasakure.UK:ひょんなことから解決策が生まれることもあるし、他の人が作った作品を見て、それを解決の糸口にしたりすることもありますね。本を読んだり、映画を見たり、新しい刺激を求めるために違う場所に行ったり、いろんな人と話したりします。

ボーカロイドを好きな人だけじゃなく、広いところにこの文化を届けたいと思います。若い世代、新しい世代に変なものを届けられたら、きっとその人たちの価値観も広がって面白いですよね。

―つまり、今sasakureさんがやっていることって、いろんなフィールドのクリエイターを同時に担っているわけですよね。sasakureさん自身としては、どういう肩書きがしっくりきます?

sasakure.UK:結果としていろいろやってますけど、自分としては編曲が一番迷いなく作れるので、「アレンジャー」かもしれないですね。音を足したり引いたりして、どこで盛り上げるかを考えるのはスムーズにできるんですけど、逆に一番時間がかかるのが作詞なんですよ。ストーリーを作るのは好きなんですけど、昔からやってることではないので。もともと高校の頃は合唱をやっていたし、携帯の着メロ制作機能で作曲を始めたわけで、下積みがある音楽作りはやっぱりやりやすいですね。

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―こういう作品って、ニコニコ動画やボーカロイドのファンだけではなく、いろんなフィールドに届いてほしいと思うんですよね。小説や映画とは違う、新しい物語のフォーマットが生まれている感じがするので。

sasakure.UK:自分としても、ボーカロイドを好きな人だけじゃなく、広いところにこの文化を届けたいと思います。若い世代、新しい世代に変なものを届けられたら、きっとその人たちの価値観も広がって面白いですよね。

―ちなみに、sasakureさんは、自分の音楽のジャンルをどういう言葉で説明されるとしっくりきますか?

sasakure.UK:なんでしょうね……。

―なんだろう、電子音楽だし、物語音楽だし……。「電子物語音楽」かな?

sasakure.UK:あ、その言い方はすごく近いと思います。電子音楽って言っても最近の攻撃的なものというよりは、1980年代テクノとかチップチューンのレトロな感じですけどね。それだったらしっくりきますね。

―ちなみに、今回の8曲はまだ序章で、物語は先に続いていくということでいいんでしょうか。

sasakure.UK: そうですね。大筋は固めているので、ちゃんと繋がるように作ってあります。構想は鋭意制作中ですけど。

―まだまだやってみようと思うこともたくさんありそうですね。

sasakure.UK:はい。ひとつは、人でもないし合成された歌声でもない、そういう微妙なバランスの声を作っていきたいと思っているんです。今回もそういう新しい試みをちょっとずつしているので、今後もどんどん挑戦を続けていきたいなと思いますね。

リリース情報
sasakure.UK
『摩訶摩謌モノモノシー』(CD)

2014年12月17日(水)発売
価格:2,160円(税込)
UMA-1049

1. ア(マ)ヤカシ・ダイアリィ feat. ピリオ
2. 君が居なくなった日
3. トドノツマリ様 feat. lasah
4. tig-hug feat. GUMI
5. ネコソギマターバップ feat. 重音テト
6. 回ル想ヒ
7. ポンコツザワールド feat. IA
8. sorekara

プロフィール
sasakure.UK (ささくれ ゆーけい)

福島県出身。作詞・作曲・編曲の全てをこなすサウンド・プロデューサー。幼少時代、8ビットや16ビットゲーム機の奏でる音楽に多大な影響を受けて育つ。学生時代には男声合唱を学びながら、木下牧子、三善晃といった作曲家や、草野心平、新美南吉などの詩人・文学作家の作品に触れるようになり、この頃から独学で創作活動を開始。時代を越えて継承されてゆく寓話のように、物語の中に織り込められた豊かなメッセージ性を持つ歌詞と、緻密で高度な技術で構成されたポップでありながら深く温かみのあるサウンド、それらを融合させることで唯一無二の音楽性を確立。また、楽曲のコンセプトや世界観をもとに自らイラストや映像の制作も手掛けている。矢野顕子のアルバム『飛ばしていくよ』(2014年)にトラックメイカーとして参加、ゲーム『モンスターハンター』や『ストリートファイター』の公式REMIXを手掛けるなど、近年では様々なジャンルのクリエイターとのコラボレーションも企画・監修している。



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