水道橋博士インタビュー 家庭を持つと芸人は駄目になる?

6月の第3日曜日は「父の日」ということで、さまざまなジャンルで活躍する複数の表現者 / クリエイターに、ふだんは聞けない「父親」としての話を聞いてみようという、サントリー「伊右衛門 特茶」との連動インタビュー企画。その第1弾として、たけし軍団きっての知性派であり、芸人のみならず、コメンテーターやルポライターとしても活躍する浅草キッドの水道橋博士に登場していただきました。現在、3人の子育てを行なっている博士にとって、父親であることは自身の芸人人生にどんな影響をもたらしているのか? 思春期に引きこもりを経験し、啓示を受けたように師匠・ビートたけしに弟子入りした博士にとって、師弟関係と父親の違いとは? 「仕事」「子育て」「健康」の3つのキーワードから、父親として、芸人としての博士に迫りました。

僕のような行動を子どもにもしてほしいかと言ったら、相当疑問ですよね。ほぼ、家出みたいなものだったから。

―博士さんは40歳でご結婚されたそうですが、お子さんはいつ生まれたんですか?

博士:最初の子は結婚して1年後でしたね。上から男女男で、いま11歳、8歳、6歳かな。今年1年間だけ、3人とも同じ小学校に通っているんです。

―それは素敵ですね。お忙しいと思いますが、3人のお子さんと遊ぶ時間は取れていますか?

博士:長男に対しては、過度に干渉しているというか、よく一緒に遊んでいましたね。40歳過ぎてからの子どもだったから、質実剛健に育てようと思って、一緒にジムに通ったり、富士山に登ったり、マラソンをやったり。でも最近、慢性の腰痛が出てからは、その意識もだんだん薄れてきてね、もはや孫の感覚に近いのかな(笑)。それぞれに違った形の愛情がありますけど、最初の子は人生で初めての出来事だったから、イベント感覚で過度に一緒に盛り上がりましたね。

水道橋博士
水道橋博士

―だんだん子離れ、親離れしてきている?

博士:僕のほうが「もう遊んでくれないんだ」って拗ねている感じですよね。いま家庭教師が来てくれているんですけど、僕が勉強を教えようとしても「えぇ~」みたいな感じなのに、家庭教師の言うことは素直に「はい」って聞く。家庭教師なんてしょせん普通の学生じゃないですか。僕は学生より影響力が少ないのか、面白くないのか!? とか思っちゃって、そんな自分が恥ずかしくなります(苦笑)。あと、2番目は女の子で、僕が「娘キャバクラ」と名付けたぐらい、頻繁にプレゼントを買って気を惹こうとしたり、猫かわいがりしてました。それが小学校3年になり、だんだん離れていく感じがあって、それも寂しいですね。

―お子さんたちは、博士さんのお仕事に対して、どんな反応を?

博士:いやぁ、やっぱり「パパもラッスンゴレライやって!」みたいな感じですよ。子どもにはリズムネタや一発芸のほうが人気ありますよね。

―ちょっと悲しいですね(笑)。でも子どもは気が移りやすいから、この前まではあの一発芸やってと言ってたのに、何日かしたら違うのやって、みたいなことも多いんじゃないですか?

博士:多いですよ。昔から、波田陽区がどうしたとか、レイザーラモンや楽しんごがどうしたとか、移ろいやすい世の中みたいなことを、子どもなりの言葉でしゃべってますから。そういうのに子どもながらにワビサビを感じているんでしょうね。いまは一番下の子が「パパには一発ギャグないの?」と言うんですけど、それに対して長男が「パパは一発屋芸人じゃないんだからね!」って教えてくれているんです(笑)。

―おぉ~! きっと父親の仕事に誇らしさを感じているんでしょうね。

博士:どうなんですかね。長男は小学校のお楽しみ会で、浅草キッドの「サザエさん」という漫才を完コピしたそうなんですよ。同級生は元ネタを知らないから、ものすごくウケるって言ってました。他にも「ガンバルマン」(日本テレビ系『スーパーJOCKEY』のワンコーナー)とか、昔の体を張っていたテレビ番組をインターネットで見て真似しているみたいです。

水道橋博士

―父親としてはやはり、子どもにも芸人を目指してほしいですか?

博士:う~ん。そうなってほしいと思ったこともあったけど、だんだん受験勉強とかするようになるとね……。昔は子どもが勉強していると、僕は怒っていたんですよ。「勉強するんじゃない、パパがいるときは遊べ!」って。それでカミさんに怒られて(苦笑)。いまは1年間だけ勉強して、中高一貫校に入ったら、そこから遊びなさいと言うようになりました。じつは僕も中学受験をしているしね。なんか、芸人らしい破天荒さを求めていたのに、現実では「努力の積み重ねなんだよ」みたいな正論を言っちゃうんですよ。

―博士さんは大学から破天荒な人生になったんですよね。ビートたけしさんのラジオを出待ちして、弟子入りして。

博士:明治大学に入ったけど、取得単位ゼロだし、4日しか登校してないし。ちょうど最近ロケで、明大のキャンパスを取材しに行ったんですけど、親が学費を払って、こんな気持ちで行かせたんだなぁと思ったら、後ろめたい気持ちになりましたね(苦笑)。いまはちゃんと職業につけたからいいけど、あのときに凧の糸が切れていたら、どこまで落ちていたんだろう? とか思いますよ。だから、僕のような行動を子どもにもしてほしいかと言ったら、相当疑問ですよね。ほぼ家出みたいなものだったから。

たけし軍団には昔から、「芸人は家に帰ってはいけない」という信条があって、それが基本だとされてきましたから(笑)。

―父親になることで表現者はどう変わるのか? ということを、いろんなジャンルの方に聞いてみたいと考えていて。最近は子どもができると芸人は面白くなる、なんて言われたりもするそうですが、どうお考えですか?

博士:昔は逆で、家庭を持つと芸人はダメになると言われていましたけどね。たけし軍団にも昔から、「芸人は家に帰ってはいけない」という信条があって、それが基本だとされてきましたから(笑)。

―すごい信条ですね(笑)。さすがに方便的な意図もあるとは思いますが、それを実行できている人はいるんですか?

博士:たけしさんなんて、久しぶりに自宅に帰ったら、自分の子どもに「あっ! ビートたけしがいる!」って驚かれたくらいですからね(笑)。もちろん最近の若い子たちはそんなことも少なくなりましたが、僕より先輩の世代の方たちは守っていたみたいです。だから、先輩と子育ての話をすることなんてなかったし、そのおかげで自分で体験しないとわからないことだらけだったので、子育てが自然とネタにもなっていった部分はありましたね。

水道橋博士

―お子さんの影響が出たと感じる仕事はありますか?

博士:クイズ番組とかは出にくくなりましたね。芸名が水道橋博士だから、正解を出すキャラクターじゃないといけない。もともと高下駄履いちゃってるんですよ(笑)。でも答えられないから辛いんです。あとは、浅草「キッド」だから、老いてはならないとか。

―たしかに、それでおバカキャラだったり、老けこんでたりしたら、子どももがっかりするかもしれないですね。

博士:だから仕事が見えてる職業だなとは思いますね。普通のお父さんの仕事って、なかなか見えないじゃないですか。僕も自分の親の仕事は見えてなかったけど、芸人の仕事はオープンだから、子どもにも、子どもの友達にも見えてるだろうし、スベっていたら子どもも恥ずかしいだろうし。

―芸という意味では、お子さんができて表現したいことが変わったりしました?

博士:ブログやTwitterで子どもの生育を書いたりしましたけど、それはみんながやらないんだったら、僕がやろうみたいな部分はありましたね。それこそ「娘キャバクラ」とかは評判がいいから、書籍化しませんか? という話をもらったり。でも、恥ずかしい部分ではあるかもしれない。

水道橋博士

―博士さんは昔から社会派的なところがあったと思うんですけど、そういう興味が加速したり?

博士:どうしても次の世代のことを考えてしまうから、自然とネタやコメントが変わった部分はあるのかもしれない。コメンテーター業でも、方便というか、面白ければいいみたいなことは減って、倫理観も少し変わってきますよね。芸人としては非常識の側にいなきゃいけないはずなのに、子どもがいるから常識の側に引っ張られるというのはあるかもしれません。

―一方で常識を知らないと非常識はできないっていう考え方もありますよね。

博士:そうそう。そのへんは微妙に揺れてますけど、子どもがいることでマイナスに働いているとは思わないですね。

―それは芸の幅が広がったという意味で?

博士:芸とは「バトン」を受け継いでいくものなんだ、という考え方をすると、師弟関係もそうだし、人生もそうだと思うんです。つないでいくものっていう意味では、子どもも一緒ですからね。

父が死んだことは大きかった。そこで人生80年なんだっていう意識が生まれました。

―博士さんは2006年に『博士の異常な健康』という実体験ノンフィクションの健康本を出されていましたが、ああいった健康意識の高まりもお子さんと関係があったのですか?

博士:それはやっぱりありました。あとは父が死んだことも大きかった。そこで人生80年なんだっていう意識が生まれましたね。父は最後5年くらい寝たきりだったから、最後まで走り通して、前向きに倒れて死んだほうがいいなと思ったんです。途中で倒れると大変だし、子どもを見届けられないし。それまで健康はまったく考えず、めちゃくちゃな生活でしたから。

水道橋博士『博士の異常な健康』文庫増毛版表紙
水道橋博士『博士の異常な健康』文庫増毛版表紙

―そこは芸人としてのプロ意識的な部分もある。

博士:プロ野球選手だったらとっくに引退している年齢ですし、コンディションを整えるための時間は年々増えてます。休みの日なんかは、そのための時間だけで終わるくらい。50歳を超える人は、みんな同じような感じだと思いますよ。

―食べ物に気を遣ったりは?

博士:5、6か月くらい、毎日「えのき氷」を食べていた時期もありました。そのときは効果測定をしようと思って、あえて運動も全部やめたんです。ちゃんと体重も減って、効果が実感できたんですが、運動不足になってしまい腰痛が再発したのでやめちゃいました(笑)。

―さすがの徹底ぶりですね(笑)。

博士:やっぱり、ルポライター的なところはありますよね。自分の身体で実験をしたくなるというか。本当は適度に運動して、食べ物は補助的にしたほうがいいんだと思います。あと、自分の中で「こういう効果があるんだ」ってイメージすると効果が出やすい。たとえば『東京マラソン』の参加者完走率って、毎年96%くらいあるんですけど、なぜかというと、みんな「絶対に完走するんだ!」という強いイメージを最初に抱くんですよ。そのための成功例を学んで、トレーニングを逆算していくんだけど、思い込みでもいいから「理論上はこれでいいんだ」っていうイメージを持って、自分の体にわからせてあげるんです。

―あんまり体型も変わらない印象ですけど、ダイエットなんかもされているんですか?

博士:いやいや見た目が、とっちゃん坊やみたいだから若く見られるけど、もう50過ぎだからね、最近は「『デブレ』スパイラル」が止まらない。ダイエットは永遠のテーマですね。ずっと運動もやっているけど、とにかくもう代謝が追いつかない(笑)。この歳になると、何やっても体脂肪が落ちなくなりましたね。なんでラーメン1食で1.5kgも太るんだ? とか。

―そんなに増えるんですか!? 食べる量や時間も変えてみたり?

博士:とにかく寝る前に食べてしまうんですよ。だから最近は糖質制限をしつつ、体脂肪を分解するために、トクホ(特定保健用食品)の「特茶」も飲むようにしました。

サントリー「伊右衛門 特茶」
サントリー「伊右衛門 特茶」

―深夜の晩ご飯と健康は両立できそうですか?

博士:飲み始めてから、絶対に太る時間にそれなりの量を食べているんだけど、体脂肪は増えてなさそうだから、自分の中で両立できていると思ってますけどね(笑)。

師弟関係っていうのは、ちょっと歪んでしまった親子関係をもう一度作り上げるものでもあったかもしれない。

―博士さんは父親として自己採点すると、何点くらいだと思いますか?

博士:いやぁ、50点でしょうねぇ。最初の頃の意気込みに身体が追いつかないから(笑)。ただ、子どもは自分で選ぶんだなっていうことがわかったんですよ。格闘技を一緒にやっていたけど、結局長男はサッカーを選んだんです。僕は全然サッカーを見ないのに。子どもは子どもで自主的に生きるから、親が強制してもしょうがない。それを寂しさと共に感じましたね。

―初めて父親になったときに、「理想的な父親としてこうあるべき」みたいなものを思い描いていました?

博士:一応描いていましたけど、本当に理想で、自分がそうであるのは難しいなと思いました。別に妥協したわけではないんだけど、よく考えてみたら僕も父親からの影響は薄いし、「理想的な父親」とか言うこと自体、おこがましいんだなって。みんなそれぞれの形で、一生懸命父親をやってるんだと思いますね。

―父親と、芸人の世界における「師匠」という存在は、多少重なる部分があるようにも思うのですが、師弟と親子関係に何か関係性を感じられる部分はありますか?

博士:たけし軍団に関して言えば、親子関係が失われた人が多いかもしれないですね。いまみたいに芸能学校があったわけでもなく、家を飛び出して、師匠のもとに行き、親子の縁を切ってやってるみたいなところがあるから。いわゆる通過儀礼だと思いますけどね。その世界の掟の中に入っていくための。

―たしかに親元にいたら、そこの掟には入りきれないですしね。

博士:僕なんかは学生時代に引きこもりだったけど、別に親が悪いわけじゃなくて、やりたいことがあるんだっていう衝動を抑えられなくて、啓示を受けたように「たけしさんのもとに行くんだ」って思ったんですよ。それで親の庇護ではない物語を求めて、理不尽な世界に入って、修行をして。家族とは別の共同体に入っていく作業なんですよね。だから師弟関係っていうのは、ちょっと歪んでしまった親子関係をもう一度作り上げるものでもあったかもしれない。決して親に賛成されてないわけだし。ほんとに家出して、失踪して、いつの間にかたけし軍団にいて、親にやめてくれと言われて、それでもずっとそこにいて。いまの若い芸人は違うけど、僕より上の人は、みんなそうだったと思いますよ。

―学校に行くこととも、また違う経験なんでしょうね。

博士:職業が違っても、師匠を持てる生き方はいいと思う。人生の指針を持つっていうことだからね。職人の世界もそうだけど、自分の中に師匠を持っているというのは、揺るぎないじゃない。上司を持つのとは違って、自分が師匠を選んでいるわけだから。

―そうした経験から、お子さんに伝えていることはありますか?

博士:「出会いに照れるな」とはよく言ってますね。僕は家を出て、師匠を持ち、芸人っていう生き方をしたわけだけど、それは出会いに照れなかったからこそできたことだと思うから。特に普通の社会のレールを外れて自分の道を行きたいんだったら、出会いには照れちゃいけないなと思います。

商品情報
伊右衛門 特茶

「伊右衛門 特茶」は、トクホで初めて脂肪の「分解」というメカニズムに着目した、体脂肪を減らすのを助けるトクホです。

{詳細(複数ある場合もあります)}

書籍情報
『藝人春秋』(文庫)

2015年4月10日(金)発売
著者:水道橋博士
価格:680円(税込)
発行:文藝春秋

プロフィール
水道橋博士 (すいどうばしはかせ)

1962年8月18日生まれ、岡山県出身。86年にビートたけしに弟子入り、翌年、玉袋筋太郎とともにお笑いコンビ「浅草キッド」を結成。テレビ・ラジオや舞台を中心に活躍の場を広げる一方、ライターとして雑誌等にコラムやエッセイを執筆する。最新刊は『藝人春秋』(文春文庫)。自身が編集長を務める日本最大級の有料メールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』好評配信中。



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