今年の4月に発表されたデビュー作『Essence』が大きな話題を呼んだSuchmosが、新メンバー二人を迎え、1stアルバム『THE BAY』を完成させた。アシッドジャズやネオソウルなどをルーツに、それをあくまで開かれたポップスとして鳴らす彼らの存在は、まさに今の時代にジャスト。個人的には、久保田利伸や中西圭三といったブラック系のソロシンガーがヒットチャートを賑わせた1990年代の感じを、今度はバンドが再現するような雰囲気を感じている。また、『THE BAY』というタイトルが表しているように、メンバーが海沿いの出身であることも重要なポイントで、彼らは横浜の新興住宅地である都筑区出身の幼馴染に、湘南・茅ヶ崎出身のボーカルYONCEが加わることで、現在に至る基礎が固められている。そこで今回は、今もYONCEが暮らす茅ヶ崎を訪れ、かつてのバイト先でインタビューを敢行。地域性が彼の音楽観や思想にどのような影響を与えているかを紐解くことによって、Suchmosというバンドの実態が明るみになったのではないかと思う。
ボーカルがスターじゃない音楽は好きじゃない。(自分がやる音楽としては)ジャンルは関係なく、ロックの精神で臨んでるというか、腹の中では中指立て続けてる。
―YONCEくんが音楽に強く興味を持ったのはいつ頃ですか?
YONCE:バーをやってる親戚のおじさんがいるんですけど、超音楽好きで、部屋がレコードとCDで埋め尽くされてるような人なんです。その人にあるとき「ギターをやってみたい」って相談したら、まずアコギと、あとエリック・クラプトンとTHE ROLLING STONESのアルバムを渡されて。でも、当時中学生だったから音圧のない音楽のよさがわからなくて、生意気にも「微妙だった」って言ったんです。そうしたらNIRVANAの『In Utero』を渡されて、それに衝撃を受けてバンドを志すようになりました。
―実際にバンドを始めたのは、高校生になってから?
YONCE:そうです。軽音部に入って、最初はNIRVANAをコピーして、その後にミッシェル(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)とかガレージロックにハマって。それまで毎月おじさんからCDやレコードを渡されてたんですけど……。
―高校になっても続いてたんだ(笑)。
YONCE:未だに続いてますよ(笑)。高校生の頃、「自分でいい音楽を見つけたい」と思って一旦それを拒絶して、それでミッシェルとかブランキー(BLANKEY JET CITY)とか、日本のちょっと悪そうな人たちがやってるロックに憧れたんです。当時結成したOLD JOEってバンドは、そういう人たちが下敷きにありました。
―言ってみれば、今のSuchmosとは対極の音楽性ですよね。
YONCE:当時からソウルミュージックとかも聴いてたんですけど、「こういうのは日本人がやるもんじゃない」って勝手に決めつけてたんですよね。ソウルミュージックのもったりしたグルーヴ感は、高校生ではたどり着けないところだと思うので、そういうのをバンドでやるのは頭になかった。
―ソウルを聴いてたのも、そのおじさんからの影響?
YONCE:それもありますね。高1のときに中古のCD屋でジャケ買いにハマってて、カーティス・メイフィールドがやってたTHE IMPRESSIONSのベスト盤を手に入れて。「すげえのディグった(掘り出した)ぜ」みたいな感じでおじさんのところに持って行ったら、「そんなのいいに決まってんだろ」ぐらいの感じで、オーティス・レディングとかマーヴィン・ゲイを倍返しされたのを今でも覚えてます(笑)。
―いい関係性じゃないですか(笑)。
YONCE:ただ、おじさんの教育の結果、時代が進むに連れていいものじゃなくなるっていう刷り込みがどこかにあって、一時期までは1960~70年代のものばっかり聴いてたんです。でも、Suchmosのメンバーと知り合って、D'ANGELOとかエリカ・バドゥのライブ映像を一緒に見て、完全に虜になったんですよね。そういう中で、「ボーカルやってくれない?」って話になったので、もう「やるやる!」って感じだったんです。
―昔からいろんな音楽を聴いてはいたけど、自分がやる音楽としては、徐々にガレージロックからソウルへと興味が移って行った感じでしょうか?
YONCE:あんまり「ソウル」だとか「ロック」だという捉え方はしてないんですよね。ただボーカルがスターじゃない音楽は全般的に好きじゃない。それに、ジャンルは関係なく、ロックの精神で臨んでるというか、腹の中では中指立て続けてる部分があるんです。マインドの部分は高校生の頃から変わってないかもしれないですね。
今って普段着な感じで出てくるボーカルが多いじゃないですか? ヘラヘラした兄ちゃんたちのバンドではいたくないんです。
―「ボーカルはスターじゃないといけない」っていう考え方は、どういった人からの影響が大きいのでしょう?
YONCE:歌唱の面においては、MISIAとか、MAROON5のアダム・レヴィーンが理想なんですけど、チバユウスケさんとか、あとはデヴィッド・ボウイとか、ああいう華のある感じにも憧れがあって、それをすべて兼ね備えられればなって。俺、自己顕示欲は強い方だと思うんです。普段は控えめというか、あんまり我は出さないけど、それは単純に人に不快な思いをさせたくないからで、でもステージ上で控えめになる理由はないですよね? ステージ上は「かっこよければなんでもアリじゃん」っていう、その感じが好きなんですよ。
―今の日本のバンドシーンのライブって「みんなで楽しもう」みたいな空気が強くて、その人が歌い始めた瞬間にその場の空気が変わってしまうような、そういう強い個性を持ったフロントマンは昔よりも減ってる気がします。YONCEくんはそういう存在になりたい?
YONCE:それが俺の思う王道っていうか、「どう考えてもそういう方がかっこいいでしょ」って思うんで、それを目指してますね。ボーカルって、歌ってないときもかっこよくないとダメなんですよ。BGMが流れて、ステージに出てきて、マイクスタンドの前に立ちました、「はい、もうかっこいい!」みたいな(笑)。でも、今って普段着な感じで出てくる方が多いじゃないですか? 別にそれはそれでいいけど、普段着でもかっこよくないとダメですよ。ヘラヘラした兄ちゃんたちのバンドではいたくないんです。普段はヘラヘラしてるんですけど(笑)。
―YONCEくんは身長も高いし、フロントマンとしての華はありますよね。
YONCE:これはもう授かりものだから、「使うっしょ」みたいな(笑)。
最近よく渋谷に行くようになってすげえ思うんですけど、向こうって絶対に時間が速く流れていて、そこで暮らしていたらその分速く歳とっちゃう。
―横浜には横浜独自の音楽カルチャーがあるけど、茅ヶ崎も音楽の街ですよね?
YONCE:一般的にはサザン(オールスターズ)のイメージしかないと思いますけどね(笑)。
―でも、レゲエとかも盛んですよね?
YONCE:レゲエとかダブのバンドはめちゃめちゃ多いです。この辺で音楽やってる人たちのいいところは、ゲットマネーに執着してなくて、マジで好きでやってることですね。40~50代の人たちがやってるdUb MaFfiaってバンドがいるんですけど、超いかつくて、超かっこいいんですよ。たぶんですけど、売れるかどうかなんて考えずに、反体制的なレベルミュージックをやってるんですよね。そういう土壌がこの街にあるのは、俺としては嬉しいというか、頼もしいです。俺もそういう部分があるし。
―“Pacific”という曲にはSuchmosでありYONCEくんの地域性がすごく表れていて、<i-pan dread(茅ヶ崎在住のレゲエシンガー)みたいに street rastaでいたいんだ>っていう歌詞もありますね。
YONCE:最近取材とかでよく渋谷に行くようになってすげえ思うんですけど、向こうって絶対に時間が速く流れているんですよ。そこで暮らしていたらその分速く歳とっちゃうって確信してる。だから、俺はなんとしてでも終電では帰ってくるようにしてるんです(笑)。単純に俺の肌には合わないなと思うし、自分が志向してる音楽は、都会にいたらできないなってなんとなく思ってます。
―この前Lucky Tapesに取材して、彼らは鎌倉出身だけど、やっぱり「東京は時間の流れが違う」って話をしてました。
YONCE:彼らは聴けば鎌倉出身だってわかるぐらいサウンドがオシャレですよね。俺らはもっと泥臭いっていうか、やっぱ不良なんですよ。育ちが悪い(笑)。
―それこそ、自分たちがやってることもある種のレベルミュージックだと思う?
YONCE:今は金も名声もないし、そんな余裕ない状態で「みんな仲よくしようぜ」とかは歌えないですよね。そういうのは成功した金持ちが書くものだと思う。マイケル・ジャクソンが“We Are The World”を書いて、あれがいい曲として響くのは、彼自身が成功したからだと思うんですよ。僕らは嘘をつきたくないんで、余裕のない生活をしてる鬱憤とか不満を歌詞にしてますね。
みんな鬱憤は溜まってて、そこを包み隠して「俺たちは優しい兄ちゃんたちだよ」って感じでライブはできない。
―ライブでもよくやっている“Alright”では、<金は全能か? 無職はゴミか?><戦争は儲かるか? 平和はゴミか?>と歌っていて、まさに反骨精神がダイレクトに表れていますよね。
YONCE:“Alright”は、俺の働いていた場所が潰れて失業保険で生活してたときに、「働けよ」とか言ってくる奴に対して、「うるせえ」と思って書いた歌詞で。今Twitterでよく炎上騒ぎとかあるけど、背景を知らずに人のことを批判するのは簡単だから、そういうのは危ないんじゃねえのって思いますよね。
―それはメンバーみんな共有してる感覚?
YONCE:そうですね。わりとみんな鬱憤は溜まってて、そこを包み隠して「俺たちは優しい兄ちゃんたちだよ」って感じでライブはできない。まあ、社会性がないってことですけど(笑)。
―でも、草食系男子が多いと言われる今、そういうある種のハングリーさというか、不良性みたいな部分って、Suchmosの魅力のひとつになってると思います。
YONCE:確かに、みんな男っぽいところはありますね。最近の若いバンドって、わりと自宅に籠ってた奴らというか、中高で人気ないグループに属してたような感じがするけど、Suchmosはうるさい集団にいた人間が集まってるので。でも、俺らチャラチャラはしてないんですよ。軟弱な歌詞を書いてる奴らの方が、意外とチャラチャラしてるって話をこの間聞きました(笑)。
―歌詞は男っぽいけど、チャラチャラはしてないって、それが一番かっこいいじゃないですか。
YONCE:バンドの決めごととして、「無駄打ちはしない」って言ってます(笑)。余裕のない状態なのに、浮ついた気持ちでいるのはださいと思うし。週刊誌に撮られるクラスになって初めて、そういうことをやる意味があると思うんですよね(笑)。
アンダーグラウンドなシーンでやって行くつもりもないし、もともと王道のつもりでやってるので、そこは誤解されたくないですね。
―ちなみに、OLD JOEは7月31日のライブで解散するそうですね。
YONCE:OLD JOEはもう7年ぐらいやってるバンドで、メンバーとは腐れ縁みたいな感じなんですけど、僕以外のメンバーも違うバンドで忙しくなってきていて。なので、それぞれが活躍できるフィールドを見つけて名声を馳せていく過程を考えたときに、このバンドの存在が足かせになるんだったら、一旦けじめとして解散っていう形を取ろうと。全員が超サクセスしてから、「40~50代で再結成するの、かっこよくね?」って言ってます。
―青春時代の終わりという感じでしょうか。
YONCE:そうですね。ひとつの区切りというか、全員が大人になって、本気で将来を考えた結果なのかなと思います。
―途中で「茅ヶ崎で音楽をやってる人は、ゲットマネーをあんまり考えてない」とも言ってたけど、YONCEくんの話を聞いてると、Suchmosとしては音楽で成功することを真剣に考えてそうですね。
YONCE:そこは重要だと思ってます。単純に、これだけかっこいいものを作って演奏してるんだから、それに見合った報酬は欲しいよねって思うし。「食えればいい」みたいな低い志を持つよりは、「どうせなら超金持ちになる方向で頑張ろうぜ」って話はしてます。もちろん、「自分たちが納得できる音楽で」っていうのは絶対なんですけど、アンダーグラウンドなシーンでやって行くつもりもないし、もともと王道のつもりでやってるので、そこは誤解されたくないですね。今ってどうしても「シティポップ」って言葉が便利だから、その枠にぼんやりと入れられてる節があるんで、そこから脱却したいとも思ってます。
―<cityなんかよりtownだろ 日に焼けた肌で歌うんだろう>って歌詞も、“Pacific”にあるもんね。
YONCE:そこは超重要なパンチラインですね。
―“Pacific”はホントにパンチラインだらけで、<SNSよりbeachで 愛の言霊をささやいて>って歌詞もいい。「愛の言霊」っていうのはサザンの曲タイトルで、彼らももともと洋楽を日本人なりに吸収して、王道を作り出していった。Suchmosもそういうところを目指してると言えますか?
YONCE:極端に言えば、そうですね。ただ、この先どうなるかは全然わからなくて、俺たちはそのときのトレンドでやりたい音楽が変わるから、下敷きの部分は変わらなかったとしても、その上になにが乗ってくるのかは自分たちでも読めない。今メンバーと話してるのは、「もっとでかいステージでやれるようになりたいね」ってことで、そうなると今のサウンド感よりも、もっとスタジアムで響くようなサウンドが必要になるかもしれないですよね。今はそこを目指していろいろ練習中で、スタジアムでやってるライブ映像をYouTubeで見つけて、みんなで踊りながら見てます。
―ちなみに、最近の流行りは?
YONCE:MAROON5が2002年に1stアルバムを出してて、ちょうど俺が中1でニュージーランドにホームステイしてた時期なんですけど、向こうで意味わかんないくらい流行ってたんですよ。休み時間にラジカセから爆音で“This Love”を流して、白人も黒人も全員ノリノリで踊ってて、「こんなの俺の国にはない文化だ」と思って。で、この前でかいサウンドの話をしてたときに、MAROON5のライブ映像を見てみたら、アルバムのファンクでムーディーなイメージとはかけ離れたすげえ爆発力で、「超ロックバンドじゃん!」と思ったんですよね。
―それ、すごくよくわかる。Suchmosにはぜひそこを目指してほしいです。
YONCE:まあ、あのままにはならないと思いますけど、ああいう風に聴こえる音楽性は取り入れたいと思ってますね。俺、サッカーを見るのが大好きなんですけど、MAROON5はサッカーで言うと、俺が好きなリバプールなんですよ。チーム感がある。バンドのよさってそこだと思うんですよね。1人しかフィーチャーされてなかったりすると、「こいつら仲よくねえな。ニーズに合わせて集められたんだろ」って見える。俺らはマジで仲いいんで、そういう風には絶対見られたくないし、チーム感も大事にしていきたいです。
- リリース情報
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- Suchmos
『THE BAY』(CD) -
2015年7月8日(水)発売
価格:2,484円(税込)
PECF-31531. YMM
2. GAGA
3. Miree
4. GIRL feat.呂布
5. GET LADY
6. Burn
7. S.G.S.
8. Armstrong
9. Alright
10. Fallin'
11. Pacific
12. Miree BAY ver.
- Suchmos
- イベント情報
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- 『Suchmos 1st Full Album「THE BAY」リリースパーティー「Suchmos THE BAY」』
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2015年9月10日(木)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:東京都 渋谷 WWW
出演:
Suchmos
KIMONOS
料金:前売2,800円 当日3,300円(共にドリンク別)
- 『Suchmos 「THE BAY」発売記念 ミニライブ&サイン会』
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2015年7月18日(土)START 18:00
会場:愛知県 タワーレコード名古屋パルコ店 パルコ西館1階イベントスペース2015年8月7日(金)START 20:00
会場:東京都 タワーレコード渋谷店1Fイベントスペース
- プロフィール
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- Suchmos (さちもす)
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2013年結成。ACID JAZZ&HIP HOPなどブラックミュージックにインスパイアされたSuchmos。都内ライブハウス、神奈川-湘南のイベントを中心に活動中。メンバー全員神奈川県育ち。Vo.YONCE.は湘南・茅ヶ崎生まれ、レペゼン茅ヶ崎。Suchmosの由来は、スキャットのパイオニア、ルイ・アームストロングの愛称サッチモからパイオニアとなるべく引用。『FUJI ROCK FESTIVAL '14』の「ROOKIE A GO-GO」2日目のトリを務める。普段からバイブスを共有していた、YONCE(Vo)、HSU(Ba)、OK(Dr)に、TAIKING(Gt)、KCEE(DJ)が加入。
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