音楽家という役割を引き受けた、Yogee New Waves角舘の決意

「この1年は『愛の修行』でした」――角舘健悟、24歳、職業・音楽家。Yogee New Wavesのギターボーカルである彼は、この1年間をそう振り返った。

2014年9月にリリースした1stアルバム『PARAISO』が、「新たなる街の音楽=シティポップ」という文脈にがっちりとはまり、Yogee New Wavesは「次代の音楽シーンを担うアーティスト」であると高い評価を受けた。しかしながら、2015年はYogee New Wavesにとって決して順風満帆と言える1年ではなかった。5月にはギターの松田光弘が脱退。角舘以外のメンバーの就職も同じタイミングで重なり、11月には角舘が喉の病気を患いライブをキャンセルするなど、なかなか思う通りの活動ができず、バンドはフラストレーションを抱えていたという。

ようやく12月2日に『SUNSET TOWN e.p.』をリリース、次のステージへと一歩を踏み出す。フロントマンである角舘健悟はこの1年間、何を考え、何を信じたのか。人生の岐路で覚悟を決めた24歳の一人の男は「今、大人になりたい」と語った。

不安を抱くよりも、希望を語って問題解決をしないと前には進めないじゃないですか。

―角舘さんは、今、おいくつですか?

角舘:24になりました。2年前に大学を卒業して、大学院にも通ってたんですが、今は休学してます。

―美大に通われていたそうですが、何を勉強されていたんですか?

角舘:音楽を勉強していました。楽器とか楽典的なアプローチで勉強していたわけじゃなくて、サウンドインスタレーションとかを作ったりする学科だったんです。現代美術の観点からの音楽というか。スティーヴ・ライヒや池田亮司にハマってましたね。実際、現代美術家になろうと思ってたんですよ。

角舘健悟
角舘健悟

―そこから音楽家の道を選んだのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

角舘:元々、音楽に対してかなり諦めてたんですよね。音楽がカルチャーの中で認められてない気がして。でも、今の日本のインディーミュージックはすごくポップで完成されたものを提供している人たちがちゃんといることに気付いてから、「こんな世界があるんだったら、僕もやりたい」と思うようになったんです。

―新作『SUNSET TOWN e.p.』からは、ただ歌いたいことを好きなように歌うのではなく、音楽家としての責任を引き受けるような意思が感じられました。前回のアルバムをリリースしてからこの1年で精神的な状況は変わりましたか?

角舘:やっぱり僕が作ったYogee New Waves(以下、ヨギー)というバンドが軌道に乗り始めたことには希望を感じました。自分たちのやっていることが世の中に求められている状況がある。そこで、「やるの? やらないの?」って言われたら「やるしかねぇだろう」と。

―それって要は音楽と心中するようなものじゃないですか? もしこれが間違った選択だったらという恐怖はなかったですか?

角舘:ビビってましたよ。

―美大でも就職する人は、多かったはずだし。

角舘:そう、多かったです。

―その恐れを振り払えたのはなぜでしょう。

角舘:やっぱりビビったら負けだと思って。恐れというのは、前に進む力に対して摩擦を起こすというか、スピードを落としてしまう感情だから。将来に対する保証とか保険みたいなものは、あった方がそりゃいいです。「冷静に考えたら就職した方がいいだろう」とか「月収○○万円ぐらいないと結婚できねえ」とか、人ってどうしても考えちゃう。でも、周りの頑張ってるミュージシャンたちは振り切れちゃってるんですよね。みんなに求められている今だからこそ、そんなこと考えていたらもったいないかもなって思って。

角舘健悟

―たとえば、自分が芸術家として偽物だったらどうしようという不安はありませんでしたか?

角舘:ありますね。でもつい最近、映画監督の紀里谷和明さんのインタビュー(Spotlight掲載「『日本では内戦が起きてる』圧倒的な迫力に言葉を失った紀里谷和明氏インタビュー」)を読んで、救われたような気持ちになって。紀里谷さんは自分の作品というピュアなものを色んな人に知ってもらうために、何でもやるそうなんです。それにすごく共感して。僕が「自分が偽物かもしれない」という不安を抱えながらも頑張っている理由は、そこにあるんだと思います。自分が腹を括らないと、自分の作った曲がかわいそうというか。不安を抱くよりも、希望を語って問題解決をしないと前には進めないじゃないですか。

―くだらないことを考えている、あるいは不満をつぶやいている暇があったら前を向くことが大事だという結論にたどり着いたわけですね。

角舘:僕はきっと一度、いや、何回も負けてるんです。上手くいかなかったことがたくさんあった。その上にヨギーというものを立てて、ヨギーをやり始めてからも負けて……でも、負けた奴って強いと思うんですよ。負けることを知ってるから、負ければ負けるだけ、負けないための方法もわかってくる。

メンバーを愛しているからこそ、自分自身が引き受ける覚悟ができたんです。

―角舘さんが言う「ヨギーの負け」の中には、今年の春に発表されたギターの松田光弘さんの脱退も含まれているのでしょうか? 角舘さんが音楽家という道に腹を括った一方で、彼は就職という道を選びました。

角舘:そうかもしれないです。ただ、彼がバンドを辞めて仕事を選んだのは仕方のないことだったし。なんだったら僕は「就職しろ」って他のメンバーにも言ってるんですよ。だって、今の音楽業界、ボーカル以外は食うのが難しいですから。彼らは親のこととか将来のこととかをきちんと考えている青年たちだから、彼らの人生を無下にすることは僕にはできない。僕はメンバーのことを家族同然だと思ってて。彼らを愛しているからこそ、自分自身が引き受ける覚悟ができたんです。メンバーが、仕事しながらでも素敵な人生を送れたら最高だなって思う。

―でも、ヨギーが大きなバンドになっていくにつれて、もっと他のメンバーにも自由な時間があったらとか、フルタイムのバンドとして活動できたらって思ったりもしませんか?

角舘:正直、めちゃめちゃそれはあります。周りのバンドとかは、全員でスクラムを組んでるし。でも、肩の力が抜けていないと音楽って作れないですからね。僕は、彼らがいないと音楽が作れないとさえ思っている。

角舘健悟

―それはなぜでしょう?

角舘:二人とも僕の人生にとってデカい存在だからです。ベースの矢澤(直紀)とは、小学1年生から友達だし。ドラムの前田(哲司)も優しい奴なんです。僕は人一倍面倒くさい人間だから、上手く寄り添ってくれる奥さん的な存在の二人がすごくデカくて。

―先ほど「引き受ける覚悟」という言葉が出ましたが、『SUNSET TOWN e.p.』は、角舘さんがヨギーとして音楽をやっていくという上でのバンドやリスナーに対する「覚悟」のようなものがはっきりと見えている作品だと思っていて。ただその一方で、「こんなもんじゃねえんだけどな」という感情もあるんじゃないかと思ったのですが。

角舘:それはありますね。今の自分はYogee New Wavesの角舘健悟でしかないから、もっと音楽家として活動がしたい、という思いが強いです。それは小沢健二さんだったり、小山田圭吾さんだったり、細野晴臣さんだったり、そういう人たちに強い憧れがあるからなんですけど。あの人たちは決してバンドマン止まりではないじゃないですか。それに今は同世代で括られることもあるんですけど、そこもさっさと脱却したい。もっと音楽を極めていきたいという思いがとても強いです。

人の熱いものを嘲笑ってる暇があるんだったら、「てめえの大事なものを見せてみろよ」って思う。

―今、角舘さんの中で一番重要なテーマだと思うものって何ですか?

角舘:まず、ヒロイズムですね。男尊女卑みたいに捉えられると嫌ですけど、男性は体が丈夫にできているから、その分、女性の盾にならなきゃいけないっていう思いはすごく強くて。自分は愛しているもののヒーローでいたい。1曲目の“Like Sixteen Candles”とかはそういう気持ちが色濃く出てると思いますね。あと、もうひとつあって。

―もうひとつ?

角舘:僕は盲目に愛を信じている人間なんです。それは小学校から高校まで、キリスト教の学校に行ってたからというのもあると思うんですけど。どんな形の愛であっても、愛こそ全てだと思っているんです。愛なくして、何もないというか。恋愛における愛だけじゃなくて、家族、友達……万物に対する愛。全ては愛に直結していると思う。だから、愛のことしか歌えないな、とはいつも思ってるんですね。

角舘健悟

―愛ってとても広い言葉だと思うのですが、それは音楽に対する愛情も含まれている?

角舘:そうですね。この1年間は「愛の修行」みたいな感じでした。自分の音楽に対する愛をすごく試された1年だったと思います。他のメンバーが平日は仕事をしている間、ソロの弾き語りを増やしたり、部屋にこもって時間をかけて曲を作ったりアレンジを考えたりして、とにかく自分の歌や音楽に対する向き合い方を極める期間にしたいと思ったんです。自分の声や詩を愛してないと、リスナーの人にもそれを聴いてもらおうとは思えないし。だから今回の作品は愛の結晶だなって思います。『PARAISO』も愛の要素はすごく強いけど、自分の愛を詩や楽曲や声に反映したのは、やっぱり今作の方ですね。それを出し切ったから、ある種スッキリしているくらいです。2曲目の“Sunset Town”なんて、自分のルーツであり愛する、いわゆる「シティポップ」を真正面からやったし。やっと本当に自分が愛してるものを素直に表現できるようになったなって思います。

―逆に今、世の中に対して「怒り」を感じていることってありますか?

角舘:怒りということではないんですけど、もっと音楽に対して愛情深い世界になったらいいのになって思います。音楽を聴いて会社辞めちゃう人がいてもいいし、電車の中で音楽を聴いている時に我慢できなくて泣いちゃったりしてもいい。そういう熱いものを嘲笑うような風潮があるのはなんでだろうなって思います。人の熱いものを嘲笑ってる暇があるんだったら、「てめえの大事なものを見せてみろよ」って思う。自分の愛してるものをもっと責任持って愛した方がいい。

―余裕であること、冷静であることが、何かに夢中になることと対照的に過剰に美徳とされているとは思います。

角舘:「冷めてんじゃねぇよ!」って思うんですよね。いいじゃん、死に物狂いで頑張ったら。それは音楽をやってる側の人間にも思うことなんです。音楽を取り巻く状況って、いい方向に向かってるじゃないですか? いいバンドがいい音源を出して、それを聴いてくれるリスナーも増えている。そんな中で不満を言ったり、SNSっていう便所の掃き溜めみたいなところに汚い言葉を吐いたりするのはもったいない。その不満や憤りを作品に昇華すればいいのにと思う。

壁ができて暗くなっても、目を凝らせばきっと光っている方角は見えるわけで、あとはその壁をぶち破るだけなんですよ。

―今角舘さんは、大卒だと働き始めて2年目ぐらいの年齢ですけど、会社とかだと後輩とかもできてきて、徐々に社会っていうものの重みを知り始める時期だと思うんです。

角舘:はい。そうかもしれない。

―大学時代の友達とか、就職してから雰囲気の変化はありました?

角舘:自分の仲いいやつらは変わらないです。

―へぇー。

角舘:変わっちゃう人たちって自問自答が足りないんじゃないのかな。僕は元々、自分がどんな人間で、どんなものが好きかっていうのをわかってない人とはあんまり友達になれなくて。今、鎌倉の銀行で働いてる友達とかと、土日に一緒に飲んで浜辺を6時間ぐらい散歩したりするんですけど、そいつは不満なんて言わないし、希望めいたことばっかり言ってます。そういうのってたまんないですよね。やっぱり不満を言う奴っていうのは当事者意識がなくて、自分で当事者意識がある奴は希望を語るんですよ。僕はそういう奴らが好きです。不満を言うやつは嫌いなんだよな(笑)。

―なんでこういうことを訊いたかというと、今の20代は「絶望を知っている世代」みたいなことをよく言われるし、特に表現者は敏感にその閉塞感みたいなものを感じている気がする。その感覚を角舘さんは持っているのかなって。

角舘:それはわかります。ただ、ふたつのタイプの人がいるとも思ってます。壁ができて暗くなっても、目を凝らせばきっと光っている方角は見えるわけで、あとはその壁をぶち破るだけなんですよ。そこでどうにかしてサバイブしようと戦っている奴らが、今の時代を生きている奴らだと思うんです。でも、「なんかこの壁が嫌だから近寄らない」って、暗闇でうじうじしている奴らもいて。さっきも言ったけど、熱くなったらいいんじゃないかと思います。トライアンドエラーをビビってる奴らが多すぎるけど、チャレンジしてミスればいいのにと思う。それが全部糧になるはず。

角舘健悟

背負っている奴らって、やっぱり美しくて、愛おしい。

―このインタビューの前に、名古屋と大阪のライブが、角舘さんの喉の病気でキャンセルになって。それもさっき話に出た「愛の試練」のひとつでもあったかと思うのですが、今は大丈夫ですか?

角舘:まじで焦りました。風邪が扁桃炎になって、扁桃炎が扁桃腺周囲膿瘍という膿がたまる病気に悪化して、頸部周囲膿瘍というのになっちゃって。場合によっては死に至るらしいんですよ。夜中に毎晩40度の高熱が出る病気で、ヤバかったですね。動けなくなるし、飯も食えなくなるし。

―喉ってきついですよね。よりにもよってボーカリストなのに。歌えなくなる可能性も考えました?

角舘:そうなんですよ。病名とか知らされる前は特にナーバスになってて。僕はこれからどうしようか、とか色々考えてたんですけど、面白い思考にたどり着いたんです。

―面白い思考?

角舘:自分は別にボーカリストじゃなくてもいいのかもって。昔からドラムをやっていたので、ドラマーになるのもありだし、作曲家になってもいいのかなとか。意外とそういう考え方にすぐ結びついたんですよね。次の選択肢を自分の中にきちんとストックしてたんだなって思いました。でも、何があってもやっぱり何かしら音楽に携わりたいって思ってるんだということにも気付きましたね。

―自分のことがよりはっきりと見えてきた?

角舘:そうですね。僕は、早く大人になりたい男の子なんだなってことも再認識しました。自分が成長していく中で見えてきた「サウンドグッド」なものを、しっかりと音楽に落とし込んで聴かせるものにしたい。

―しっかりと「大人になりたい」というところにリアリティーがあるな、と思います。

角舘:逆に大人になっちゃったなぁ、っていうのも思うんですけどね。急に体の変化が起きちゃった少女のような気持ち。それは寂しくもあり、嬉しくもありっていう変な感覚なんですけど。でも、自分は大人になることを選んだんだと思います。背負っている奴らって、やっぱり美しくて、愛おしい。それを嘲笑う奴らはやっぱり悪でしかないと思う。

リリース情報
Yogee New Waves
『SUNSET TOWN e.p.』(CD)

2015年12月2日(水)発売
価格:1,620円(税込)
Roman Label / BAYON PRODUCTION / ROMAN-003

1. Like Sixteen Candles
2. Sunset Town
3. Night is Coming
4. Lemon Tea
5. Sunset Town(Dorian remix)
※デジパック仕様、ポスター、セルフライナーノーツ封入

イベント情報
『WWW×BAYON COUNTDOWN 2016』

2015年12月31日(木)OPEN 20:30 / START 21:30
会場:東京都 渋谷 WWW
出演:
Yogee New Waves
never young beach
D.A.N.
EMCと思い出野郎
and more
ラウンジDJ:
マイケルJフォクス
and more
料金:前売3,000円 当日3,500円(共にドリンク別)

『Yogee New Waves presents Dreamin' Night 3』
2016年3月12日(土)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 代官山 UNIT
出演:
Yogee New Waves
髭 (HiGE)
料金:前売3,000円 当日3,500円(共にドリンク別)

リリース情報
Yogee New Waves
トートバッグL「RAKUEN BAG」

新時代のクールなシティポップ感を落とし込んだステンシル風ビッグトート
価格:3,024円(税込)

プロフィール
Yogee New Waves
Yogee New Waves (よぎー にゅー うぇいぶす)

2013年6月、角舘健悟(Vo,Gt)と矢澤直紀(Ba)を中心に活動開始。楽曲制作に勤しむ。SUMMER SONICの『でれんのサマソニ2013』の最終選考に選出され、選考ライブがまさかのバンド初ライブとなる。9月には前田哲司(Dr)、松田光弘(Gt)が加入。2014年4月にデビューep『CLIMAX NIGHT e.p.』を全国流通でリリース。その後『FUJI ROCK FES'14』のRookie A Go Goに出演。9月には1stアルバム『PARAISO』をリリースし、年間ベストディスクとして各媒体で多く取り上げられる。2015年は、『VIVA LA ROCK』『ROCK IN JAPAN』『BAYCAMP』『SWEET LOVE SHOWER』『りんご音楽祭』『ボロフェスタ』などの野外フェスに出演を果たす。2015年5月に松田が脱退し、現在は3人で活動中。



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