ミツメの秘密基地に初潜入。組織から離れ、遊ぶように働く生き方

<長い 長い 夏休みは 終わりそうで終わらないんだ>。今からちょうど20年前にリリースされたフィッシュマンズの名盤『空中キャンプ』に収録された“SLOW DAYS”の中で、佐藤伸治はこんな風に歌っている。もしかしたら、気の置けない友人関係をベースとしたミツメの活動の背景にあるのは、こんな感覚なのかもしれない。裏の空き地に自分たちだけの秘密基地を作って、自分たちだけのルールで世界と対峙するようなあの感覚。それをセンスと覚悟を持って維持し続けているからこそ、ミツメというバンドは特別なのだ。

フルアルバムとしては約2年半ぶりとなる新作『A Long Day』は、「四人でのバンド演奏」にこだわり、統一感のあるムードが上質なロードムービーを連想させる極上の一枚。アートワークおよびアーティスト写真の撮影はトヤマタクロウ、デザインは関山雄太など、これまでもミツメの作品に関わってきた人脈がしっかりと脇を固め、トータルで作品の世界観を作り上げている。今回の取材は彼らが年明けから使っているという倉庫兼作業場に初潜入し、その独自のバンド運営方法についてメンバー四人に話を訊いた。

何に関してもいつも見切り発車で、「まあ、やってみよう」ってことがよくあるバンドなんです。(須田)

―この倉庫はいつから使っているんですか?

川辺(Vo,Gt):今年のアタマからです。それまでは曲作りは僕の家とかでやって、バンドの機材を置くためだけの倉庫を借りていたんですけど、機材が増えてきて「もう限界だな」って。それで「倉庫と曲を作ったりする作業場を合体させた場所を作りたいね」って話になり、マネージャーの仲原(達彦)くんが担当してるfelicity(ミツメの作品の流通を行う音楽レーベル)の他のバンドの機材も置くことを前提に、ここを借りているんです。

左から:川辺素、須田洋次郎、nakayaan、大竹雅生
左から:川辺素、須田洋次郎、nakayaan、大竹雅生

ミツメの倉庫
ミツメの倉庫

―駅からは少し離れているとはいえ、恵比寿だし、家賃も安くはないですよね。

川辺:「最初ってこんなにかかるもんなのか!」って感じでした。

須田(Dr):ミツメは、何に関してもいつも見切り発車なんです。今回もこの倉庫が気に入って、とりあえず家賃もいけそうだし、「借りてみよう」ってことになったんですけど、いざ契約の段階で「頭金結構かかるな、どうしよう?」っていう(笑)。でも、長い目で見れば、自分たちが自由に使える場所はあった方がいいですし、今は徐々にものも増えてきて、便利な場所になってきました。

左から:須田洋次郎、nakayaan

―ミツメはレーベルに所属しているわけではなくて、ここの管理にしても、マネージャーや周りにいる人たちの協力はありつつも、基本的には自分たちでやっているわけですよね? なぜこのような、いわゆるDIYな活動方法を選んでいるのでしょうか?

川辺:レーベルに所属したことがないので、あくまで想像なんですけど、しっかりしたレーベルって、活動のやり方が最適化されていると思うんです。でも、それって会社側から見た最適化で、自分たちが力を入れたい部分とは、必ずしも合致しないと思う。多少無理をすることになっても自分たちがしっくりくる方法はあるじゃないですか。

―そのバランスを自分たちで見極めたかったんですね。

川辺:今まで何度かレーベルの方と、制作の雰囲気やタイム感を話すタイミングもあったんですけど、その時点では「自分たちでやった方がいいんじゃないか?」って思ったんですよね。ある程度こっちで舵を取った方が、イメージした活動を実現しやすいのかなって。

川辺素

―こういうことは、メンバー間で結構話し合うんですか?

須田:現実的になりすぎない程度に、ぼんやり話しますね。というのも、全部を計算すると、やりたい時にやりたいことができなくなっちゃうんじゃないかっていう共通認識があるからなんです。勢いもすごく大事なので、まずはやってみて、それが上手く進むように「じゃあ、どうしよう」って後から考えるのも、いい方法のひとつだと思います。僕たちは、わりとそういう風にやってきたバンドですね。

閉じちゃうより、人の出入りを増やした方が、この場が発展していくんじゃないかと思います。(川辺)

―nakayaanくんは今の活動形態について、どんな部分がミツメらしいと思いますか?

nakayaan(Ba):ゆるいながらに、みんながそれぞれちゃんと考えて、舵取りしているとは思います。

nakayaan

川辺:誰かが引っ張るというよりは、一人ひとりに訊いて、一人でも嫌だって言ったら、違う方法を考えようっていう、かなり民主主義な感じです(笑)。

―そんな中でメンバーごとの役割ってあるんですか?

nakayaan:僕はアバウトマインド担当です(笑)。

須田:それってある種の「ゆるさ」だと思うんですけど、バンドにとって、その「ゆるさ」って大事なんですよ。僕がいき過ぎちゃったりすると、他のメンバーが冷静な意見をくれたり、場合によってアクセル役とかブレーキ役とか、それぞれの立場が変わるんです。

大竹(Gt,Syn):その時々で主導する人が違うから、それぞれがやりたいことを思いついたら言う感じになってるんです。だから、レーベルに所属して「1年で何回リリース」とか、長期的なプランを先に決めていくスタイルとは合わないのかもしれない。

左から:nakayaan、大竹雅生

川辺:「こういうことやりたい」ってパッと言って、みんなが「いいね」ってなったら、それをやるために綿密に計画を立てて、細かい工程までがっちり考えます。だから、出発は適当でも、やりたいことをすぐに何でもできる状態にしておきたくて。それに、ここには王舟、Alfred Beach Sandal、思い出野郎Aチーム(いずれもfelicityのアーティスト)の機材やグッズも置いてあるから、完全に閉じた感じよりは、人の出入りを増やしていった方が、場所としても、活動も発展していくんじゃないかと思います。

冷蔵庫には3rdアルバム『ささやき』のステッカーが。倉庫にはこれまでのポップなどのアートワークも置いてある。
冷蔵庫には3rdアルバム『ささやき』のステッカーが。倉庫にはこれまでのポップなどのアートワークも置いてある。

ミツメほかfelicity所属アーティストの機材
ミツメほかfelicity所属アーティストの機材

バンドがお金を得る方法に関して、手放しているところはあんまりなくて。(川辺)

―ミツメはクリエイターや工場とも自分たちでコミュニケーションを取ったり、こだわりを持ってグッズを制作していますが、自分たちでグッズを作ることも、重要な活動のひとつとして捉えているわけですか?

川辺:バンドがお金を得る方法に関して、手放しているところはあんまりなくて。物販の売り上げがCDの制作資金になるので、そのために頑張ろうって考えています。ただ、自分たちでやっている分、いろいろ試しながらやっている部分がかなりあるので、作り過ぎてしまったり、上手くいかないことも結構ありますね。

ミツメのグッズのひとつであるぶたの貯金箱。コインを入れるとしっぽが動く。
ミツメのグッズのひとつであるぶたの貯金箱。コインを入れるとしっぽが動く。

ミツメの“三角定規”にちなんで作られたコインケース。経年変化を楽しめて長く使えるよう、兵庫県姫路市で鞣した革を使用。
ミツメの“三角定規”にちなんで作られたコインケース。経年変化を楽しめて長く使えるよう、兵庫県姫路市で鞣した革を使用。

―これまでで一番の失敗というと?

須田:イベント限定グッズみたいなのは、失敗が多いかもしれない(笑)。一昨年に『Blue Hawaii Session』っていう映像を作って、それに合わせて大阪と東京でワンマンをやった時に、DVDとパンフレットを作ったんです。今、冷静に考えると2公演だからそんなに売れるはずないのに、とんでもない量を作ってしまって。数量的なことだと、それが一番の失敗ですね。

―逆に、ヒット商品というと?

川辺:キャップですね。グッズ担当のグンパンくんと工場の人に協力してもらって、型から作ったんです。そもそも作るためのお金が高かったので、それなりの値段で販売することにはなってしまったんですが、それはすぐ無くなりました。もともとは「キャップを型から作っている人はあんまりいないから、やってみよう」って始まったんですけど、それが売れて、「グッズのお金って活動費として重要だ。だからみんな物販を頑張ってるんだ」って気づきました。

新グッズのフード付きコーチジャケット。フードを上げると、後ろ襟元に「mitsume」のロゴが入っている。
新グッズのフード付きコーチジャケット。フードを上げると、後ろ襟元に「mitsume」のロゴが入っている。

新グッズのスリップマット。2014年の『ささやきツアー』で販売されたスリップマットをマイナーチェンジして復刻。
新グッズのスリップマット。2014年の『ささやきツアー』で販売されたスリップマットをマイナーチェンジして復刻。

この場所が、みんなの家みたいな感じになっているのが嬉しいですね。(須田)

―ここまでの話で、仲原さんやグンパンさんの名前が出てきたように、ミツメはメンバー四人だけじゃなくて、周りも含めたチームとして動いてますよね。チーム全員が共有している感覚っていうのは、どんなことだと思いますか?

川辺:キャップを型から作った話に通じると思うんですけど、写真をずっと撮ってくれているタクロウくんも「この感じは他にやってる人もいるので違うのにしませんか」みたいなことを言うし、「既存のものじゃないことをやろう」っていう強い気持ちはみんなあると思いますね。

―実際「チーム」みたいな意識って、自分たちとしても持っているのでしょうか?

川辺:いや、友達です(笑)。

須田:お願いしたら、それに合わせてやってくれるというよりは、相手からも提案してくれたり、意見してくれるんです。だから、ここでタクロウくんやグンパンがくつろいでいて、みんなの家みたいな感じになっているのが嬉しいですね。

―最近「所属をゆるくすることの重要性」みたいな話をすることがよくあるんです。「会社」でも「バンド」でも、ガチガチに縛るんじゃなくて、緩やかな縛りにすることで、一人ひとりの個性が活かせて、いいものが作れるんじゃないかっていう。ミツメの周りの関係性も、まさにそういう感じだなって。

川辺:ここまでに名前が出てきている人たちは、ミツメっていう組織に所属している感じではないですね。「スタッフ」っていうのも気が引ける関係というか、ホントに「頼んだらやってくれる友達」なんです。グンパンくんももともと友達で、物販の小銭を数えてもらったり、グッズのデータ入稿をお願いしているうちに、彼が自発的に「次は俺がアイデアを出してグッズを作る」と言ってくれるようになって。みんなどこかに所属するわけじゃなく、個々に頑張っているから、ミツメっていう居場所に来た時はそれぞれが外からいろんなものを持ち寄って、ちょっとずつ作るもののレベルが上がっていくんです。

ミツメ

―メンバー四人の関係についてはどうですか?

川辺:メンバーは……作品を作る上で、コミュニケーションを増やした方がいいと思っているので、そういう場を設ける努力はしているつもりです。でも、あんまり強制力を感じるのも居心地が悪いので、ガチガチに縛るのはできるだけ避けて、自然と集まってものを作ったりできる環境がいいだろうなとは思ってます。そういう意味でも、ここみたいな「場所」があるのはプラスですよね。ゆるい関係性を維持していくためには、ハードルを感じず気軽に人を呼べる場所が必要なのかもしれない。

みんなが納得して面白がれる、失敗しても笑っていられる感じっていうのが、僕らにとっての「成功」なんです。(大竹)

―では、新作についても訊かせてください。『A Long Day』は四人でのバンド演奏にこだわった作品になっていますね。

川辺:一昨年の末に、サポートを含めた編成で『Blue Hawaii Session Tour』をやって、それを経て「次は四人で作品を作ろう」って感じになったんです。ライブでも、収録されている形に近い音像で演奏できるような作品にしたいなって。毎回アレンジの段階では人の手を借りないので、そこはいつも通りではあるんですけど、サウンドの面では「人力」ということを大事にしました。

須田:あと、前作はスタジオでいろんな楽器をダビングしたり、偶発的に起きたことを面白がって、そこからアイデアを膨らませたりして、とにかくいろんな手法を試したアルバムだったっていうのもありますね。ファーストもバンドサウンドという意味では一緒だけど、今回の音の配置の仕方とか、エフェクトのかけ方、隙間の置き方とかは、ファースト以降にDAWソフトを使ってきた流れと繋がっていて、手癖でやるんじゃなく、頭で構築して、それをみんなで共有していく。でも、最後はスタジオで四人で生で合わせてアレンジを探っていった感じですね。

制作スペース。今作では使用されなかったが、次作以降はここでの制作が期待される。
制作スペース。今作では使用されなかったが、次作以降はここでの制作が期待される。

―途中でも話に出た「他と同じことはやらない」っていうのは、今回のアルバムや楽曲にも言えるのかなって思いました。何でもサイクルが速くて、スピードが求められる時代に対しての、「A Long Day=ゆっくりした一日」っていう価値観の提案なのかなって。

川辺:なるほど……それは考えてなかったな(笑)。

須田:タイトルは最後につけたんですけど、これまではアルバムに対して、ひとつのコンセプトを選ばずにいたんです。でも、今回はアルバムに一貫性があって、自分たちとしては映画っぽい感じがして、『A Long Day』っていうタイトルがしっくりきたんですよね。現代のスピード感っていうのは……まあ、そういう中で生活していて、メンバーそれぞれのマイペースな部分が発揮された結果……とは言えないか(笑)。

ミツメ

―(笑)。では最後に、自分たちのスタンスで活動を続けるミツメにとって、「成功」とは何なのかを話してもらえますか?

川辺:自分たちの超納得いくアルバムができることが一番ですね。いつも、それを活動の中心に置いて、物販を作ったり、ライブをやったりしているので、毎回自分たちが納得のいくものを作り続けられることが、「成功」かなと思います。あとはいかに活動を続けていくかっていうのをすごく考えていて。お金とか時間がなくなったら活動できなくなっちゃうので、それがなくならないために、どれだけ知恵を絞って継続させていけるか。ただ、そこでお金を先に考えちゃうと、活動が絶対狂ってきちゃうと思いますね。

大竹:「成功」って言うと、最終的なゴールがあって、そこを目指していくイメージですけど、僕らはアルバムにしろグッズにしろ、その時に作りたいものを作って、上手くいくいかないにかかわらず面白がったり、笑ったりしているので、それが毎回あるのが「成功」かなって。みんなが納得して面白がれる、失敗しても笑っていられる感じっていうのが、僕らにとっての「成功」なんです。

ミツメ

リリース情報
ミツメ
『A Long Day』(CD)

2016年6月8日(水)発売
価格:2,700円(税込)
PECF-1136 / mitsume-014

1. あこがれ
2. 天気予報
3. 忘れる
4. 真夜中
5. オブジェ
6. 船の上
7. 漂う船
8. キッズ
9. 霧の中
10. 幸せな話

ミツメ
『A Long Day』アナログ盤(LP)

2016年6月8日(水)発売
価格:3,240円(税込)
PEJF-91013 / mitsume-015

[SIDE-A]
1. あこがれ
2. 天気予報
3. 忘れる
4. 真夜中
5. オブジェ
6. 船の上
[SIDE-B]
1. 漂う船
2. キッズ
3. 霧の中
4. 幸せな話

プロフィール
ミツメ
ミツメ

2009年に結成された、東京都内を中心に活動するバンド。メンバーは川辺素(Vo,Gt)、大竹雅生(Gt,Syn)、須田洋次郎(Dr)、ナカヤーン(Ba)の4人。2010年よりライブ活動をスタートさせ、2011年8月にセルフタイトル作となる1stアルバム『mitsume』を発表。翌年9月の2ndアルバム『eye』と同時期にインドネシアツアーを開催。2014年の3rdアルバム『ささやき』を受けた東京・恵比寿LIQIODROOMでのワンマンライブも好評となる。2015年5月、4曲入りEP『めまい』をリリースし、2016年6月8日に4thアルバム『A LONG DAY』をリリースする。



フィードバック 3

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • ミツメの秘密基地に初潜入。組織から離れ、遊ぶように働く生き方

Special Feature

メタ・サピエンス──デジタルとリアルが溶け合う世界を探究する

デジタルとリアルが融合する世界。世界はどう変化し、人々はどう進化するのだろうか?私たちはその進化した存在を「メタ・サピエンス」と名づけ、「Humanity - 人類の進化」「Life - 生活・文化の進化」「Society - 社会基盤の進化」の3つの視点からメタ・サピエンスの行動原理を探究していく。

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて