福田雄一×ムロツヨシ『勇者ヨシヒコ』生んだ福田組の快進撃の謎

山田孝之主演の『勇者ヨシヒコ』シリーズをはじめ、今最も脂の乗っているコメディー演出家・福田雄一。盟友・ムロツヨシを主演に迎えたドラマ『宇宙の仕事』全10話が、9月8日よりAmazonプライム・ビデオで独占配信中だ。その内容はというと、ある日突然「地球防衛軍」に任命された6人(ムロツヨシ、菅田将暉、賀来賢人、池谷のぶえ、橋本じゅん、西野七瀬)のごく普通の男女が、次々と来襲する異星人を「説得」によって追い返すという、何とも荒唐無稽な物語になっている。

メインの舞台となる宇宙ステーションの立派なセット、独創的な宇宙人の造形、そして臨場感ある長回しの多用など、地上波ドラマとは異なる配信ドラマならではのやり方で、自らの「笑い」を追究する福田雄一監督と、もはや福田作品には欠くことができないムロツヨシの二人に、このドラマの見どころはもちろん、知られざる福田監督の実態、気になる二人の関係性、さらには配信ドラマが持つ可能性に至るまで、さまざまなトピックについて語ってもらった。

もともとバラエティーの作家なので、まず見る人の目に留まるものを考えてしまうんです。いかに「何だろう?」を発生させられるかが大事。(福田)

―そもそも今回の配信ドラマ『宇宙の仕事』は、どんなふうにして立ちあがった企画なのですか?

福田:僕が作品を作るときに、一番最初に議題にあがるのは、自由度なんですよね。『勇者ヨシヒコ』のように自由度の高いケースは非常に稀で、やりたいものをやれる場所はそうそうない。そういう話をプロデューサーとしていく中で、「だとしたら、もう配信がベストなんじゃないですか?」ってことになったんですよね。やっぱりテレビだとそれなりの制約も出てきますし、さまざまな人のコンセンサスも必要なんですけど、配信だったらそれらをクリアにできますよという話をされて。

左から:福田雄一、ムロツヨシ
左から:福田雄一、ムロツヨシ

―かなりやりたいことができそうだと。

福田:そうですね。僕はもともとバラエティーの作家なので、まず見る人の目に留まるものを考えてしまうんです。日本人でも、外国人でも、パッとテレビを点けたときに、宇宙ステーションが舞台になっている時点で、「ん? 何だろう?」って思うじゃないですか。

『勇者ヨシヒコ』だったら、深夜に冒険ものをやっていたら目を引くだろうなとか、『コドモ警察』のときは、深夜に子どもの刑事ものをやっていたら、きっと目に留まるんじゃないかとか。いかに「何だろう?」を発生させられるかを常々考えてる。

ムロ:ただ、見ている人の目を引くためには、宇宙ステーションのセットそのもののクオリティーが大事になってきますよね。

福田:やりたいことをやるには、多少の予算が必要になるんですよね。でもどうやらAmazonプライム・ビデオだったら希望を叶えられるかもしれないと。

―たしかに、最初に見たとき目を引いたのは、きっちり作り込まれた宇宙ステーションのセットでした。やはり、セットが豪華だと、演者の気分も変わってくるのではないですか?

ムロ:それはもう、変わりますよね。今回もあのセットを初めて見たとき、ホントにすごいなあって思いましたし、あとは宇宙ステーションを訪れる宇宙人たちの衣装の作り込みもすごくて。

ムロツヨシ

―確かに「何だろう、これは」という不気味さがありました(笑)。

ムロ:ですよね(笑)。あとはそこで、いかに僕たち出演者がふざけることができるかなんですけど、今回僕がすごいなと思ったのは、一応僕が主役をやらせてもらっているんですが、僕を真ん中に置くことによって、菅田(将暉)や賀来(賢人)が、自由に動けるようになるんです。何をやっても、福田さんとムロが何とかしてくれるだろうっていう感じで。『勇者ヨシヒコ』で、僕が(山田)孝之に作ってもらった環境を、今度は僕が作るみたいなイメージですかね。

左から:受験生・三島を演じる菅田将暉、サラリーマン・実吉を演じるムロツヨシ、バンドマン・ルキーニを演じる賀来賢人 ©電通
左から:受験生・三島を演じる菅田将暉、サラリーマン・実吉を演じるムロツヨシ、バンドマン・ルキーニを演じる賀来賢人 ©電通

ムロくんっていうのは、僕の自由の象徴なんですよ(笑)。(福田)

―ということは、福田監督としても、今回の作品はムロさんを主役に据えることから始まって?

福田:そうですね。ムロくんっていうのは、僕の自由の象徴なんですよ(笑)。地上波のゴールデンを、ムロツヨシ主演でやりたいと言っても、間違いなく無理じゃないですか。

ムロ:それ、はっきり言わなくていいから! 確かにそうかもしれないですけど。

福田:まあ、なかなか枠は取れないですよね。でもだからこそ、ムロツヨシ主演ってなったら、「うわっ、これは自由の匂いがプンプンするぞ」って、みなさんにすぐ感じ取っていただけるのではないかと思って(笑)。

ムロ:何か複雑ですけど(笑)。

福田雄一をして「自由の象徴」と言わしめるムロツヨシ ©電通
福田雄一をして「自由の象徴」と言わしめるムロツヨシ ©電通

―しかも、ムロさんが演じるのは、出演者の中で一番普通そうなサラリーマン。

福田:しかも、サラリーマンで恐妻家っていう設定だから、役の縛りとしては一番キツいはずなんですよね。でもその縛りのキツさが、この作品の面白さになっていて。ほかにも(橋本)じゅんさんは先生だったり、(池谷)のぶえさんはパートをやっていたり、みんな主な仕事があって、それとは別に宇宙ステーションの仕事を強制的にさせられているんですけど。

ムロ:そうそう。

福田:登場人物たちは、地球防衛軍に任命されるわけだけど、みんな自分の本来の仕事やらプライベートやらを大事にしていて、宇宙の仕事をポジティブにやりたいと思っているやつはひとりもいない。そのせめぎ合いのエゴを、ガッツリ宇宙人に向けるっていうのが、このドラマの一番の面白さになっているんです。

「宇宙人の嫌がる低臭波を持っている人材」という理由で地球防衛軍に任命された面々 ©電通
「宇宙人の嫌がる低臭波を持っている人材」という理由で地球防衛軍に任命された面々 ©電通

ムロ:だから、物語の構図としては、かなり簡単というか……まさしく配信向きというか、見たいときに見るドラマとしては、最適ですよね。つまり、難しいことが、ひとつもないドラマ(笑)。だから、毎回連続して見なきゃいけないような海外ドラマ――もちろん、そういうのもすごく面白いんだけど、それにちょっと疲れてしまったときとかに、一回このドラマで休みを入れるような見方もできますよね。

このドラマの撮影中に、ボールがワンタッチで全部きれいに回って、ゴールが決まったような感覚が何回かあって。(ムロ)

福田:あと、シチュエーションものって1シーンが長いから、役者さんが遊びやすいんですよね。地上波のドラマだと長くても1シーン1分ぐらいじゃないですか。それだと自由な時間があんまりないんですけど、このドラマは、ひとつのシークエンスに入ったら、もうどんだけ自由に遊んでもいいよっていう(笑)。役者間の化学反応が非常に起きやすい設定なんです。

―シチュエーションコメディーは、役者同士の間の取り方とかも、リアルに出ますからね。

ムロ:そうなんですよ。このドラマの撮影中に、ボールがワンタッチで全部きれいに回って、ゴールが決まったような感覚が何回かあって。監督からカットがかかったあと、みんなで「うおおお、今のすごかったね! 痺れたね!」って盛り上がった瞬間が何回かありました。

福田:でも、それの逆を言ったら、変な間とかもすごく面白かったよね(笑)。

ムロ:「あれ? 次、誰のセリフだ?」っていう間を、そのまま使っちゃってるときもあるので。「あれ? 俺か?」っていう(笑)。

左から:福田雄一、ムロツヨシ

―(笑)。それも含めて、舞台の臨場感に近いものを感じました。

福田:そうですね、舞台を主戦場としている役者が非常に多いので。そういう意味では(西野)七瀬とか、すごく勉強になったと思いますよ。

―あ、乃木坂46の。

福田:そう。あの熟練たちに混じって、自分の責務があったわけだから、確実に刺激になったと思います。あの年齢でこのメンツと共演する機会なんてなかなかないですから。

香織役を演じる西野七瀬 ©電通
香織役を演じる西野七瀬 ©電通

ムロ:演劇モンスターの橋本じゅんさんとか(笑)。

福田:のぶえさんだって、只者じゃないよ?

体育教師・牛山を演じる橋本じゅん ©電通
体育教師・牛山を演じる橋本じゅん ©電通

EXILE大好きおばさん・新子を演じる池谷のぶえ ©電通
EXILE大好きおばさん・新子を演じる池谷のぶえ ©電通

ムロ:うん、只者じゃない。もう、すっごいんですから(笑)。菅田もホントに楽しんでいましたよね。あの菅田が、やりたいことを自分から積極的に、どんどん提示していったっていう(笑)。

「やりたいことを自分から積極的に、どんどん提示していった」とムロが語る菅田将暉 ©電通
「やりたいことを自分から積極的に、どんどん提示していった」とムロが語る菅田将暉 ©電通

この世界で生き抜かないと、人様に向けて作品を作ることすらできないことを、お互い知っている。そういう危機感や、ふざけるルールが一緒なんですよね。(ムロ)

―ところで、先ほどから非常に気心知れた感じで和気あいあいとしゃべっていますが、福田監督とムロさんが一緒に仕事をするのは、もう何回目ぐらいになるのでしょう?

ムロ:もう何十回目だろう……多分20回いくかいかないかぐらいですかね。

福田:出会ってから僕がやった映画や舞台には、多分全部出てるんじゃないですかね。

―改めて、福田監督にとってムロさんとは、どういう存在なのでしょう?

福田:自分が何かを作ったときに、それが成功したにしろ、失敗したにしろ、今回はどうだったねえって、唯一言いたい相手がムロくんなんですよね。他のキャストには一切言わないですから。

左から:福田雄一、ムロツヨシ

―なぜムロさんだけなのでしょう?

ムロ:何でなんだろう……。

福田:単純に、一緒に喜びたい人なんじゃないですかね。「やったね、ムロくん!」って言ったら、ムロくんが「やりましたね!」って言ってくれる(笑)。きっと、それだけでもいいくらいの関係なんだと思います。

―何かいい話になってきましたけど、ムロさんにとって、福田監督とは?

ムロ:僕にとっては戦友みたいなものですかね。まあ勝ち負けではないにしろ、この世界で戦い抜くというか、生き抜くのがとても難しいことだということは、もう20代の頃に身に沁みてわかっていて。ただ、そうやって生き抜かないと、こうやって人様に向けて作品を作ることすらできないことも、お互い知っている。

そういう危機感を同じくらい持っている人なので、ひとつの作品に対しての思いが多分一緒なんですよね。あとは、いかにふざけるか? っていう言葉の意味や、そこにあるルールみたいなものが、ほとんど同じなんだと思います。

ムロツヨシ

福田:だから、いわゆる友達みたいなものとはちょっと違うんですよね。一緒にご飯を食べることもほとんどないですし、密に連絡を取り合っているわけでもないし。

―なあなあの関係ではなさそうですよね。

福田:全然ないですね。現場でムロくんが面白くないと、すっごいイライラしますから。

ムロ:そう、すごいイライラされる(笑)。それが目に見えてわかるんですよ。

福田:他の出演者が面白くなくても、別にイライラしないですけど、ムロくんと(佐藤)二朗さんだけは、面白くないとホント、イライラする。ああ、手ぇ抜いてやんがなあって。

ムロ:それはね、こっちだって、このテンポで、この長回しで、引き出しが開かないときだってあるよ!

福田:だからまあ、言い方を変えれば、その二人には期待しちゃってるし、ムロくんはそういう期待を寄せられる、数少ない役者のひとりなんですよね。絶対に面白いことをしてくれるっていう(笑)。

僕はいざ芝居が始まると、子どもがプレゼントの箱を開けるときみたいな顔をしているらしいんです。(福田)

福田:最近、他の俳優さんに言われたんですけど、僕は現場ではにこやかにしているんですよ。だけどいざ芝居が始まると、子どもがプレゼントの箱を開けるときみたいな顔をしているらしいんです。

ムロ:ああ。してます、してます。

福田:それが無言のプレッシャーになってキツいって言われたんですよね。何で緊張するの? 普通にやればいいのにって言ったら、福田さんが普通にやることを許さない顔をしてるって。そんなことないよ!

福田雄一

―(笑)。以前、ムロさんは、福田さんのことを、「大きい赤ちゃんみたい」って言っていませんでした?

ムロ:それは僕の言葉じゃなくて、池田成志さんの言葉ですね。池田さんと一緒に、福田さんの芝居をやったとき、池田さんが「大きい赤ちゃんをあやさないと、その日の稽古が終わらないよ」って嘆いていたっていう。そのエピソードを話したんです。

福田:それで成志さんに怒られたことがあって。前日の稽古で、成志さんが言ったことに俺がゲラゲラ笑ったんですよね。成志さんは、翌日の稽古のときに、またやってあげようと思ってやってみたら、「あれ? 昨日見たやつだ」みたいな顔を俺がしていたって言って。

―それはひどい(笑)。

ムロ:大きい赤ちゃんに、2日連続は通用しないんですよ。2日連続で同じおかずを出したら、絶対喜ばないみたいな。この人はホント、毎日の稽古をいかに面白くするかだけしか考えてないですから。

福田:成志さんに、「お前、いい加減にしろよ。お前は演出家なんだから、愛想笑いなり何なりして、役者を乗せてくれなきゃ困るよ!」って言われました(笑)。

ムロ:舞台のときは、本当にやっかいですよ。

福田:この間、高畑充希ちゃんと有村架純ちゃんとご飯を食べてるときに、架純ちゃんが「私、福田さんと舞台やってみたいです」って言ったら、もう食い気味に高畑充希が、「やめたほうがいいよ!」って言って。毎日、「まだあるだろ? まだあるだろ?」みたいな顔をされて、それが1か月続くんだよ!」って(笑)。

―(笑)。そういう意味では、今回の配信ドラマぐらいがちょうどいいと。

ムロ:そうそう、今回の配信ドラマは、少なくとも1時間ぐらいの間に、何か結果を出さなきゃいけないので。そこは舞台のときとは、ちょっと入るスイッチが違いますよね。

福田:いや、でもね、今回の作品は、最近の自分の作品の中で、編集中に一番笑った作品かもしれない。リアルにもうずっと笑っていましたから。

「これは地上波ではできないよね」って言われているクリエイターの人たちにとっても、配信はいろいろ楽しいことができる場所だと思うんですよね。(福田)

―話が戻ってきたところで、再び本作の話をしたいのですが、この作品は日本以外の国にも配信されるんですよね? やはり、そのあたりも意識されたのですか?

福田:世界配信のことはかなり意識しました。だってこの話、外国の人でも、絶対わかるじゃないですか。

ムロ:確かに。

福田:ずっとムロくんには言っていたんですけど、俺、アメリカで仕事してみたくてしょうがないんですよね。『HK/変態仮面』が、アメリカでウケたっていう話も聞くし、そろそろハリウッドから声がかかってもおかしくないんじゃないかって。

ムロ:きたきたきた(笑)。

左から:福田雄一、ムロツヨシ

―ハリウッドのことはわかりませんが、配信ドラマの場合は、テレビや映画とはまた違った広がりと可能性がありそうですよね。

ムロ:そうですね。そういう時代になったんだなって思います。

福田:だからホントに最近、何か作りましょうってお誘いがあったときは、二言目には「配信でやりませんか?」って言ってますもん。自分がやりたいことがまずあって、地上波では無理だなって思ったときは、「テレ東か配信でやりませんか?」って言うようにしています。

ムロ:テレ東は、監督のものじゃないですから(笑)。でも、数年後には、「それってドラマ? 映画? 配信?」なんて聞き方をされるようになるのかもしれないですよね。

福田:実際、アメリカとかではすでにそうなりつつあるわけで。だけど、日本はまだ一般的にはなっていないと思うので、その選択権の自由みたいなものが、これからどんどん広がっていったらいいですよね。「これは地上波ではできないよね」って言われているクリエイターの人たちって、多分いっぱいいるだろうから。そういう人たちにとっても、配信っていうのは、いろいろ楽しいことができる場所だと思うんですよね。

作品情報
『宇宙の仕事』

2016年9月8日(木)からAmazonプライム・ビデオで全10話一挙配信
監督・脚本:福田雄一
主題歌:GLIM SPANKY“時代のヒーロー”
出演:
ムロツヨシ
菅田将暉
賀来賢人
西野七瀬
池谷のぶえ
橋本じゅん

プロフィール
福田雄一 (ふくだ ゆういち)

1968年7月12日生まれ。栃木県出身。90年に劇団「ブラボーカンパニー」を旗揚げ、構成・演出放送作家として数多くの人気番組を手掛ける一方、ドラマや映画の脚本・監督など、幅広いジャンルで活躍中。主な代表作に、テレビドラマ『33分探偵』『勇者ヨシヒコ』シリーズ、映画『HK/変態仮面』『女子ーズ』『明烏』など。

ムロツヨシ

1976年1月23日生まれ、神奈川県出身。大学在学中に役者を志し、99年に作・演出・出演舞台で活動を開始。映画『サマータイムマシン・ブルース』きっかけに映像にも活動を広げる。代表作『勇者ヨシヒコ』シリーズ、連続テレビ小説『ごちそうさん』、ドラマ『新解釈・日本史』など。



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