体験したら一生忘れられない参加型アートを語る河口遥×田中義樹

JR中央線沿線で、さまざまなアートイベントを展開してきたプロジェクト「TERATOTERA」が主催する秋の一大イベントが間もなくスタートする。それが大規模展覧会『TERATOTERA祭り』だ。10月8日から10日までの3日間、三鷹駅周辺で約10組のアーティストが新作を発表する。6回目を迎える今年のテーマは「involve(巻き込む)」。観客参加型のアート作品を通じて、異なる価値観を持つ人々と生きる方法を模索するという。

今回、参加アーティストである河口遥と田中義樹の二人を招き、新作について訊くことになった。全国で芸術祭やアートプロジェクトが増加する昨今、アーティストたちはその動向、鑑賞者を「巻き込む」ということについて、どのように見ているのだろうか?

作品や作家は明らかだけど、鑑賞者は常に匿名ですよね。その常識をちょっと崩したい。(河口)

―今年の『TERATOTERA祭り』は「involve(巻き込む)」をテーマとした作品やプロジェクトを展開します。河口さんと田中さんは、どんな新作を発表するのでしょうか?

田中:三鷹駅北口に「喫茶レストラン上床」っていうちょっと有名な場所があるんですよ。「特許・日本一!! ヘタな歌手」を自称する77歳のママが経営していて、内装もなんというか「てらてら」しているというか、こってりした世界観の場所。その感じを生かして、3日間限定のホストクラブをオープンします。

田中義樹
田中義樹

―ホストクラブが作品なんですか。

田中:タイトルは『ホストクラブuwatoko 君の瞳をインボルブ』(笑)。アートなホストクラブで、アーティストのイケメンたちがホストです。ドリンクかフードを注文するとホストを写真指名できて、名刺の代わりにそれぞれの作品ポートフォリオを見せてくれるんです。

そうやって延々とアート話で盛り上がれば素敵だなって。まさにinvolveされて、ホスト狂いならぬアート狂いになれば、お客さんも楽しいし、アーティストも作品が売れるかもしれないし、レストランも潤って、みんな最高!

田中の作品の会場となる「喫茶レストラン上床」
田中の作品の会場となる「喫茶レストラン上床」

―田中さんは武蔵野美術大学の彫刻学科の現役学生ですね。ということは、他のホストも、彫刻をやっている系のマッチョな人たちが多い?

田中:石彫をやっている身長190cmの子は「石を刻む巨人(ストーン・ジャイアント)」っていう源氏名で登場する予定です。それは屈強系ですね。でも、日常生活で使う既製品を組み合わせたりする「レディメイド」の手法で作品を作っている子はひょろひょろですね。源氏名は「見方180度大回転野郎 レディ・メイダーさるすべり」になりそうです。

―たしかにレディメイドは物の機能や見方をぐるっと回転させる特徴がありますから、ぴったりな源氏名ですね(笑)。

河口:私、ママに会ってみたいです。ホストクラブって行ったことないので、「お金をいっぱい使わないといけないのかな? 行ってもいいのかな?」って怖がっていたんですけど、アートの話なら聞きたいし、これを機会に目覚めたいと思います。

河口遥
河口遥

田中:上床のママも男装してホストに扮する予定なので、男女問わずぜひ来てほしいです。

―河口さんは今回どんな作品を?

河口:今回の『TERATOTERA祭り』は「お客さんが参加する仕組みを作ってほしい」という依頼だったので、お客さん自身がパフォーマーになってしまうような仕組みを作りたくて、そこで、宇宙をモチーフにしようと思っています。

会場に来ると、宇宙人の格好をした「TERAKKO」(テラッコ。TERATOTERAの活動を支えるボランティアスタッフ)が待っていて、好きな食べ物や悩み、生年月日だとか、来場者の人となりについていくつかの質問をします。その後、とある人物の人相が描かれた似顔絵を渡されて「この人を街なかで探してください」というミッションを与えられるんです。

『TERATOTERA祭り』のメインビジュアル
『TERATOTERA祭り』のメインビジュアル

―人探しが作品になるんでしょうか?

河口:そうですね。でも、それだけではなくて、似顔絵の他に小さな目印も渡されるんです。それは「あなたが探す人は、このパフォーマンスに参加してますよ」という証拠になる。最初に聞いた個人情報をもとに宇宙人は来場者の似顔絵を描いて、それをまた後にやって来る来場者に渡して、同じやりとりを繰り返すんです。

―あ、なるほど。つまり人探しをしている来場者が、同時に次に来る来場者から探される対象にもなってしまう、ということですね。

河口:はい。個人情報保護法ってありますよね。人のプライバシーを守る法律ですけど、その侵犯が許容されるギリギリの輪郭に興味があるんです。作品鑑賞って、作品やそれを作る作家は明らかになっていますけど、鑑賞者は常に匿名ですよね。その常識をちょっと崩してみたいと思っています。

波風を立てないように笑顔で平穏に暮らしていると、どこかで自分のかたちが分からなくなってしまう。(河口)

―河口さんの過去作品をいくつか見ているのですが、毎回鑑賞者にけっこうな負荷をかける内容ですよね。カフェをオープンして、やって来たお客さんをビンタするとか。河口さんが巨大な生肉とずっと共同生活をして、だんだんと傷んでくる肉との生活の様子を来場者に間近で目撃させたりとか。鑑賞者を「巻き込む」作品ではあるけれど、協働性や繋がりといった安穏さはありません。

河口:鑑賞者と作者の間に距離を作りたくないんです。ちょっと離れたところから「ふーん」って言って観察するよりも、間近で対話した方が理解し合えると思うんです。その過程で、ちょっとイヤな気持ちにさせちゃったり、怒らせちゃったりすることもあるんですけどね(苦笑)。

でも、波風を立てないように笑顔で平穏に暮らしていると、どこかで自分のかたちが分からなくなってしまう。どうしても怒らずにはいられない瞬間があって、そして実際に怒ってみると、モヤッとしたり、ノドに魚の骨が刺さるようなチクッとした痛みを感じる。そのときに「あ、私ってこういうときに怒るんだ。これがイヤなんだ。譲れないんだ」ってわかるんです。その反動は自分という人間を自己確認させてくれる。

河口遥

美術館野外地下のカフェでドリンクやフードをオーダーすると、ビンタされるか、手にろうそくを垂らし合うことを強要される。 / 河口遥『bitch puccy』
美術館野外地下のカフェでドリンクやフードをオーダーすると、ビンタされるか、手にろうそくを垂らし合うことを強要される。 / 河口遥『bitch puccy』

―痛みや感情が、自分の輪郭をはっきりさせる?

河口:そうですね。そういうものを作品でやりたいと思っているんです。

田中:反動、わかります。自分は天の邪鬼な人間で「楽しいだけじゃない」って言われると、楽しいことがしたくなってしまうし、逆に「楽しいアートイベントだよ」と言われたら、来た人が死んだ顔で帰るような、絶対楽しくないことがしたくなっちゃいます。

河口:でも、今回の作品は楽しそうな感じがしますよ。

田中:今回は楽しくする方向なんです。

―『TERATOTERA祭り』のお題が「involve」ですから、「巻き込まない」っていう選択もありえたのでは?

田中:そこはルール的な縛りなので、天の邪鬼にならず守ろうと思いました(笑)。

田中義樹

―だとすると、今回の天の邪鬼要素はやっぱり「楽しくする」という部分かな、と思いました。というのも、今のアートシーンでは「楽しい地域アート」的なものに注目が集まっていて、多くの地方でエンタメ的な芸術祭やプロジェクトが乱発状態にあります。

そんな一種のバブル状態に対して多くのアーティストや批評家が疑問を呈していますが、そういった、楽しくてエンタメ的なものに対して抵抗したくなる性質は、近代以降のリベラルなアートの典型でもあって、アートの世界ではむしろ主流派です。そういうアート内部の状況に対抗するかのごとく、田中さんはあえて「楽しい」ことを作品にしようとしているのではないでしょうか?

田中:そうかもしれないです。アートをやり始めたのが高2の時なんですけど、それまではずっとロック音楽が一番好きで、その歴史をたどっていくと天の邪鬼そのものの歴史なんですよ。The Beatlesがよい子ちゃん路線だから、じゃあ、The Rolling Stonesは不良だ、みたいな。商業主義が蔓延するとSex Pistolsが現れたり。

そういう反動に対する反動がガンガン積み重なっている。その展開がすごく大好きで、本当はロックンローラーになりたかったんです。でも楽器が下手だったんで、アートでそれをやろうとしているところがある(笑)。

国会議事堂前で行なわれたデモの参加者に、ホワイトボードで出来たプラカードに主張を書いてもらい、田中がそのプラカードをあたかも自分の主張のごとく掲げデモの最前線に行くという作品。 / 田中義樹『Retweet』
国会議事堂前で行なわれたデモの参加者に、ホワイトボードで出来たプラカードに主張を書いてもらい、田中がそのプラカードをあたかも自分の主張のごとく掲げデモの最前線に行くという作品。 / 田中義樹『Retweet』

河口:じゃあ、田中さんの作品はロックなんですね。私もロックをやるつもりで作品を作っていこう。

田中:これまでの作品のお話を聞いていたら、河口さん、すでに十分ロックですよ(笑)。

河口:ふふふ、ありがとうございます。私は、作品のなかで誰かを「巻き込む」ことは自然にやりたいなって思うんです。だから『TERATOTERA祭り』のテーマにある「価値観の異なる他者と生きる術」という一文が気になってしまいます。

先に答えを言われちゃっている気がして。それを補足説明するような作品を作ってしまっても「う~ん……」とあまり腑に落ちない感じです。だから作品の構想をもうちょっとモミモミして、面白くしたいと思っています。

左から:田中義樹、河口遥

田中:主催者が嫌がることを率先してやるとか、途中で帰っちゃうとか。いや、帰りませんけどね(笑)。

―しばしば現代美術の展覧会はキュレーターの設定したテーマの下に、アーティストとその作品が位置づけられるような関係が透けて見えますよね。それは展覧会にとって避けがたい性質ですが、もうちょっと違うかたちになってもいいのになあ……と思ったりします。

河口:でも私、『TERATOTERA祭り』のディレクターの小川希さんはアーティストだと思っているんですよね(TERAKKOたちを突き動かすプロジェクト 小川希インタビュー)。だからテーマもコンセプトも小川さんの作品であって、私たちの作品と並列するものだと思うんです。そういう意味ではだいぶ気楽で、小川さんが出したお題に対して、「私はこう考えますよ」と返せばいい。

田中:そう考えると、たしかに気持ちがラクですね。

常に新しいことをして、お客さんと同じ新しさを得られるような位置にいたい。(田中)

―ともあれ、お二人とも今回は人や状況を「巻き込む」作品を発表されます。アートが人を巻き込む、ということについて思うことはありますか?

河口:「巻き込む」って難しいですよね。単に作品を発表して見てもらうだけでも、ある状況には巻き込まれているとも言えますから。それにもちろん「今回も人を巻き込むぞー!」なんて思って作品を作っていないですし。むしろ自分自身も平等に巻き込まれるべきだと思っています。

田中:僕は同じこと繰り返すのが苦手で、反復しようとするとどうしても演技っぽくなって照れちゃうんですよね。だから、常に新しいことをして、お客さんと同じ新しさを得られるような位置にいたいってずっと思っています。

―『TERATOTERA祭り』の特徴として、各作家に2~3名のTERAKKOがサポートとして加わりますが、今回のテーマに沿って言えば、TERAKKOが最初にかなり濃密に巻き込まれることになります。今日はTERAKKOの榎田さんと三浦さんも同席されていますが、どんなチームを作りたいと思っていますか?

左から:TERAKKOの榎田さん、三浦さん
左から:TERAKKOの榎田さん、三浦さん

田中:じつはTERAKKOの方と直接会ったのは今日が初めてで……これからよろしくお願いします。僕の場合は、TERAKKOにホストクラブのボーイを担当してもらいたいな、と思っています。河口さんの場合は宇宙人になってもらうんですよね。

河口:そうですね。一緒にかわいい宇宙人をやっていただけたら。こんなに密にサポート体制のあるプロジェクトは珍しいので、逆に「なんでも相談していいのかしら?」ってドキドキしてます。

―TERAKKOのお二人はいかがですか?

榎田:これまで私は河口さんとメールでやりとりさせていただいてたんですけど、文面から私たちと一緒にやることへの戸惑いをちょっと感じられて「私で大丈夫かな……?」と心配してたんです。

河口:ごめんなさい~!

榎田:でも、不安や痛みとか、反動からわかることがあるってさっき河口さんがおっしゃっていて、少し安心しました。きっとメールの微妙なやりとりも必要なものだったんだなって。

河口遥

河口:私は、関わるもの全部を作品に取り入れなきゃいけないって気持ちが強いんです。だから、自分が予期していなかった素材として「TERAKKOの皆さんを取り入れなきゃいけないんだ、どうしよう!」って戸惑ってしまったんだと思います。

いきなり家族になる、みたいな戸惑い。でも、段階を踏まえずにいきなり何かをお願いするよりも、こうやって仲良くなってお互いを知り合えるのはいいですね。なので、今度うちでホームパーティーをしましょう(笑)。

―三浦さんは田中さん担当なので、ホストクラブのボーイ役ですね。田中さんたちもホームパーティーをしてみては?

田中義樹

三浦:もう一人、男性のTERAKKOも田中さん担当なんですよ。ぜひ、三人でパーティーしたいです。

田中:六畳一間のアパートでよければ(笑)。高校生の頃、一晩中、クラスのスクールカーストの一番下にいるようなどうしようもない、ロック好きの友達2人と時代順に音楽を聴き続けてうんちくを披露するっていう、よくわからないパーティーを頻繁にやっていたんですよ(笑)。TERAKKOの皆さんともまずはロックを共有したいですね! そんなのでよければぜひ!

イベント情報
『TERATOTERA祭り2016 Involve − 価値観の異なる他者と生きる術 −』

2016年10月8日(土)~10月10日(月・祝)
会場:東京都 三鷹駅周辺施設、空き店舗など10か所

アート展示
2015年10月8日(土)~10月10日(月・祝)
会場:東京都 三鷹駅周辺施設、空店舗など‎
時間:11:00~19:00
参加作家:
淺井裕介
うらあやか
遠藤一郎
利部志穂
河口遥
田中義樹
永畑智大
橋本聡
ハンバーグ隊
東野哲史
料金:無料

ライブ
2016年10月8日(土)13:30~15:30(開場13:00)
会場:東京都 三鷹 東海大学望星学塾柔道場
出演:
渋谷サイファー
蜻蛉
BATIC
定員:80名
料金:1,500円

パフォーマンス
2016年10月10日(月・祝)17:00~17:30
会場:東京都 武蔵野タワーズ スカイゲートタワー前広場
出演:阿目虎南(大駱駝艦)
料金:無料

トーク
2016年10月10日(月・祝)19:30-21:00
会場:東京都 三鷹中央ビル2階
出演:上田紀行
定員:60名
料金:無料

プロフィール
河口遥 (かわぐち はるか)

パフォーマンスやワークショップ(パン生地による塑像、首を絞めあった後にサンドイッチをつくる等)を表現方法とする。近作発表に参加したグループ展に『そんな目でみる』(モデルルーム、2015年)。現在移転中の22:00画廊オーナー。今年は横浜のオルタナティブスペースblanClassにて、2か月に1回企画もしている。

田中義樹 (たなか よしき)

1995年三重県生まれ。武蔵野美術大学彫刻学科在学中。社会に対してのやるせない気持ちをもとに、やれるだけ派手で少し笑えるような感じの作品を作り続ける。立体、映像、絵、演劇、インスタレーションなど、表現の幅は広い。主なグループ展に、『TERATOTERA祭りプレイベント「一富士・三鷹・パンまつり」』『OngoingXmas』、『Art Program Run!』。主な個展に、『週刊パブリックアートシリーズ』として、『パンケーキin原宿』『駐輪場関ヶ原』『Retweet』『Shooting Star!』などがある。



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