人生を少し輝かせる、下司尚実の演劇とスズキタカユキの服の話

泥棒対策ライト、という一風変わった名前の集団がいる。演出家でパフォーマーの下司尚実が主宰する同集団は、パントマイムや演劇の要素を使いながら、誰もが共感する生の感覚や記憶に関わる作品を数多く手がけてきた。

そんな彼女たちの公演が、まもなくシアタートラムで幕を開ける。代表作『ドラマティック横丁』の再演となる今回、衣装にファッションデザイナーのスズキタカユキを招いて、より大きな挑戦に取り組む。

スズキタカユキは自身のブランド「suzuki takayuki」を主宰するだけでなく、「マームとジプシー」などの人気劇団にも衣装を提供し、音楽家×裁縫師×照明作家がコラボレーションする「仕立て屋のサーカス」としても活動する。下司とスズキは、本作においてどんな試みを行うのだろうか。

スズキさんの衣装を着ていると、自分の中のドSの部分とドMの部分が混ざる。(下司)

―今回、シアタートラムで再演する『ドラマティック横丁』は2014年初演の作品ですね。世田谷パブリックシアターの劇団公募企画である『シアタートラム ネクスト・ジェネレーション』に同作をぶつけてきたこと、加えて衣装にスズキさんを起用したところに下司さんの大きな覚悟を感じます。

下司:2年前の『ドラマティック横丁』は、自分の代表作になるものを作ろうと思って挑んだ作品で、上演後も個人的にとても大事に温めていたんですね。温めると言いつつ、放置していた感もある(笑)。それで『シアタートラム ネクスト・ジェネレーション』の公募が始まったときに、初演した会場のspace EDGEと今回のシアタートラムの空間の印象がかなり近かったのでこの作品で応募したんです。

もちろん再演するならもっと大きな作品に育てたいし、俳優も含めた新しい人たちと取り組みたかった。『ドラマティック横丁』自体、いろんな人の人生を主題にしたものですから、上演ごとにまったく違う人たちと関わるのは自然なことなんです。

『ドラマティック横丁』 撮影:buu otsuka
『ドラマティック横丁』 撮影:buu otsuka

―今年4月に上演した『一寸先ワルツ』でもスズキさんが衣装を担当されていますが、最初にお二人が出会ったのは?

スズキ:たしか3年前の『仕立て屋のサーカス』だよね。

左から:スズキタカユキ、下司尚実
左から:スズキタカユキ、下司尚実

下司:そうそう。『仕立て屋のサーカス』を企画してる曽我大穂さん(CINEMA dub MONKSを主宰する音楽家)を通じてだったんですけど、その2週間後の公演にいきなり私がダンサーとして参加することになって、完全な即興で始まり、着るし踊るし、衣装を切られるしで……スズキさんとちゃんとご挨拶する前にステージ上で遭遇するという(笑)。

スズキ:楽しかったですね~。

下司:私も本当に楽しかった。それでいつか、スズキさんに衣装をお願いしたいと思いつつ、やっとお互いのタイミングが合ったのが『一寸先ワルツ』だったんです。

スズキタカユキが衣装を手がけた『一寸先ワルツ』 撮影:buu otsuka
スズキタカユキが衣装を手がけた『一寸先ワルツ』 撮影:buu otsuka

『一寸先ワルツ』 撮影:buu otsuka
『一寸先ワルツ』 撮影:buu otsuka

―衣装を着てみていかがでしたか?

下司:「小細工なんてするなよ!」と奮い立たされているようで、着る人が嘘を付くことを許してくれない衣装なんですよ。自分の中のドSの部分と、ドMの部分が混ざる感じ。

スズキ:服が下司さんをしんどくさせたんですね(笑)。

下司はスズキタカユキの服を着て取材に臨んだ
下司はスズキタカユキの服を着て取材に臨んだ

下司:その厳しめなのがいいなあと思ったんですよ。衣装合わせの段階からつば迫り合いの勝負が始まってる感じです。今回の『ドラマティック横丁』は私にとってまさに勝負のタイミングなので、ここは絶対にスズキさんにお願いしたい、と!

―スズキさんは初めて会った時の下司さんの印象はいかがでしたか?

スズキ:下司さんが参加した時の『仕立て屋のサーカス』のパフォーマンスは、すごく楽しめたんですよ。うちのメインメンバーは5人いるんですけど、下司さんが6人目のメンバーと言っても過言ではないくらいでした。だから前回と今回ご一緒するのも自然でした。

下司:ふふふ(笑)。

『仕立て屋のサーカス』
『仕立て屋のサーカス』

―やりとりはどんな風に進んでいますか?

スズキ:まだふんわりした感じで、稽古を拝見しながら進めています。だから実際のデザインや縫製もこれからです。ただ稽古の様子を見ていると下司さんは人の活かし方がすごく上手だなあっていつも思う。人や場に漂うエネルギーをちゃんと同じ方向に導いていて、それはお客さん目線で見た時に、心地よい流れや抑揚になっているのがわかる。だから洋服を作る側としてはすごくやりやすい。

スズキタカユキ

―デザイナーにとって「やりやすい / やりにくい」の基準ってどういうものでしょう?

スズキ:断言するのは難しいですけど、演出家本人の中で伝えたいこと、目的がはっきりしている、ってことでしょうか。つまり本人が何に興味があって、何を見せたいと思っているかが明確ってことです。

下司:実際、衣装合わせでも、本当にぴったりくるものを提案してくれるから、いったいスズキさんはいつの間にこんなに理解してるんだろう、って驚きます。

下司尚実

スズキ:しっかり見てないとだめだけど、細かく見ればいいわけではないんだよね。全体としてどうなのか、どういう関係性と人間模様がそこにあるのか、それを掴みたいんです。

さっき「人生」って言葉が出たけれど、下司さんは本当に人間一人ひとりが日々を生きていくことを大切にしているのが稽古からわかるんです。まず個を大切にするっていう原則があるから、その集まりである全体にもしっかりとした筋道がある。そのことがやりやすさに繋がっていると思います。

私が感じるネガティブな感覚は、他の人も体験していることだってふと気づいた時に、この感覚は信頼していいものなんだと思えた。(下司)

―それぞれのクリエイションについて伺っていきたいのですが、スズキさんが服を作るときに大切にしていることってなんでしょう?

スズキ:基本的には、着たり、見たり、触ったりすることが、何かしらのきっかけになればいいなと思っています。例えばある人が目覚めて、僕の服を選ぶことで、ちょっと元気になって、優しくなれるとか。救いのような、お守りみたいなものかもしれませんね。

舞台衣装に関して言えば、俳優の方は舞台上では1人で戦っているようなものですから、彼ら / 彼女らのいちばん近くにいる服が助けになって、見た目だけでなく中身もふっと解放するようなものであれば、と考えています。

スズキタカユキ

下司:私の場合は……前回スズキさんとご一緒した『一寸先ワルツ』の話からしますね。人生って、この先に何が起こるか本当にわからないものだから、踊るくらいの余裕があればいいな、でもそう簡単にはいかなくて四苦八苦していくしかないなあ、みたいなことを考えてタイトルをつけたんです。

今日は頑張りたいからこの服を着る、今日はちょっと頑張ったからお酒を呑むことを許す、みたいに自分をなんとかコントロールしながら進めていくけれど、まあ凹むことはしょっちゅうあるし、夜中に突然イヤな記憶がフラッシュバックしてウゴウゴしたりする。

下司尚実

スズキ:(笑)。

下司:でも、それって私だけじゃなくて他の人も思ったり体験していることだってふと気づいた時に、私が感じることは他の誰かと共有できる、信頼できる感覚なんだと思えたんですね。それ以降、作品を作るたびにやっているのが、個々の俳優への「聞き取り」なんです。

トップミュージシャンや有名アーティストでなくても、みんなそれぞれに紆余曲折のドラマティックな人生を生きている。(下司)

―俳優の方への「聞き取り」とはどんなものでしょうか?

下司:『ドラマティック横丁』の初演では、最初に「いちばん古い記憶はなんですか?」と尋ねました。ある人は、お母さんの「お茶飲む?」って声だったと言うし、またある人は、大きな宝石の付いた指輪のかたちをした飴をお姉ちゃんが買ってきてくれたことを嬉しい記憶として覚えていたという。そんな記憶の肌触りをもとにシーンを作っていったりします。

左から:スズキタカユキ、下司尚実

下司:あと『自分研究ワークショップ』という催しをたまに開いて、その最後に必ず「自分が変わった瞬間」について話を聞くんです。「小さいことでいいから、変わったと感じた瞬間を話してください」という問いかけをして。

例えば「先生として働けるなら結婚しなくてもいい」と思っていた女性の教師の方は、他の教師の方から「あなたは結婚をするともっといい先生になれる気がするよ」と言われたそうなんです。その時「そういう見方もあるんだ!」と思ったそうで、その女性はその後ご縁があって結婚なさったそうなんです。そういう話を聞くたびに、トップミュージシャンや有名アーティストでなくても、みんなそれぞれに紆余曲折のドラマティックな人生を生きていると感じるんです。

『ドラマティック横丁』 撮影:buu otsuka
『ドラマティック横丁』 撮影:buu otsuka

―ああ、それで『ドラマティック横丁』なんですね。

スズキ:いい話だね。

下司:泥棒対策ライトでやっていることは、スズキさんの作った服が着る人の救いやお守りになるってこととすごく通じるところがあると思うんですよね。

『一寸先ワルツ』 撮影:buu otsuka
『一寸先ワルツ』 撮影:buu otsuka

スズキ:当たり前ですけど、服って人が着ないと完成されないんですよね。作品としての必然性がある衣装は大事だけれど、その人が「う~ん……」と思う服を強いても、絶対にやらされている感が出ちゃうでしょう。やっぱりその人に心から気に入ってもらえる服を作りたいです。

本人の好みとか、何を考えてるのかがすごく気になるので、舞台の衣装を手がける場合、僕はよく役者さんの稽古着や普段着を注意して見てます。そこには個々人の感覚や大切にしていることが表れるから。だから僕が提案する服は、着る人を前提にしています。

スズキタカユキ

―ある役のために衣装を作るというより、俳優個人のために服を作るということですか?

スズキ:着る本人が心から喜んでもらえるもの。それが大前提ですね。でも服には記号的な側面も強いから、作品が提示したい雰囲気で、時代劇風とか未来風とか、そういう枠組みを想起させる記号を当てはめつつ、個々人に合うものを作る、っていう順番で作るときもあります。

音楽や演劇やダンスの人たちのエネルギーに触れることで、普段忘れがちな感覚を研ぎ澄ましたい。(スズキ)

―お話を聞いていると、お二人のスタンスが近いってだけではなくて、『仕立て屋のサーカス』の存在が包括的にお二人を結びつけているような印象を持ちました。

スズキ:洋服の世界って、かなり定型化されたプロセスがある場所なんです。だから音楽や演劇やダンスの人たちのエネルギーに触れることで、普段忘れがちな感覚を研ぎ澄ましたいと思っています。ただそれは「芸術」のように定型化の重力の強いものとはちょっと違った、カテゴライズの難しい広さがあってほしい。しいて言えば、新しい「芸能」を作りたくて『仕立て屋のサーカス』を続けているところがあります。

下司:なんて呼んだらいいかわかんない、ってよく言われますよね(笑)。

仕立て屋のサーカス

スズキ:そこがいいなあと思う。ライブなのかパフォーマンスなのか演劇なのかダンスなのかなんなのか、よくわからない。さらにゴハンも出すので、集まる人たちは適当にワイワイやりながら見ることになって、いろんな要素がごちゃごちゃとあって、それをそのまんま「召し上がれ」って感じです。

下司:私ね、公演が終わった後の様子を見るのが好きなんですよ。ちゃんと反省会するんですよね、みなさん。

スズキ:互いにダメ出しするからね(笑)。

下司:『仕立て屋のサーカス』はみんながトップ、みんなが対等なんです。こんなに自由に気持ちよくぶつかり合う現場はなかなかないですよ。自由がありつつ、責任感もある。だから私が参加する時も、「私がトップ!」って思いながら踊っている(笑)。

左から:スズキタカユキ、下司尚実

―やっぱり観るよりも出演する方が楽しいんですね。

下司:それはケースバイケースかな(笑)。曽我さんの采配もあるし、やっぱり勝負の場ですから緊張しますしね。さっきも言ったように、本当に何も決まっていない即興だから、試されるし、自分でも考えるし、動く。たぶんタイミングが合えば参加させてもらう感じになると思うんですけど、そのたびに自分をリセットして自分の殻を脱げるところ。だからこれからも寄り添っていきたい。

「君はアーティストになりたいのか? 大衆にウケたいのか?」と言われて「大衆にウケたいです!」って即答したことがあるんですよ。(下司)

―お二人のやられていることは、単にデザイナーやアーティストという括り方に収まらないように思います。

スズキ:僕は今はデザイナーって名乗ってますけど、ファッション業界の領域では、かなり端っこの変なポジションでやってるなと思っています。服に関わることであれば、全体的にふわっとやってますよ、くらいのテンション。 あと、本質的に服っていう文化は1人のものではないっていう意識がすごくあるかもしれない。ファッション自体がオマージュとか影響関係を公言する文化じゃないですか。権利や著作権がふわっとしていて、言い方が悪いけどパクリに対しておおらか。

スズキタカユキ

スズキ:でも、それもいいと思うんですよ。もしも僕の服の要素を誰かが援用して、面白いことをやってくれるなら歓迎したい。もちろんそれでも自分のオリジナリティーは残る、っていうある種の自負もありますけどね(笑)。それを踏まえて、みんなで大きな流れを作っていくことで、よりすごいものが生まれるんじゃないかって感覚があって、それは『仕立て屋のサーカス』の思想にも通じてる。

下司:録音も録画も全部フリーなんだよね。

仕立て屋のサーカス
仕立て屋のサーカス

スズキ:権利も何も関係ないし、営利目的もOKにしてる。変に妨げるようなルールを設けず、みんなが面白がっていろんなやり方をしていくところから、広がりや流れができると思っているからね。そういうプロセス自体が芸能に近いと思っているんです。それは同時に大衆性を帯びる、っていうことでもあると思っていて、服もそういうものになっていけば面白いな、と思っているんです。

左から:スズキタカユキ、下司尚実

下司:私はずっと前に「君はアーティストになりたいのか? 大衆にウケたいのか?」みたいなこと言われて「大衆にウケたいです!」って即答したことがあるんですよ(笑)。べつにアーティストって言葉は嫌いじゃないんですけど、名乗った時にちょっと人との間に距離が生まれる言葉だなと思うんです。「私とあなたは違うんだよ」みたいな。

私は特別な天才ではないし、みんなと一緒。一緒だからわかることがあるし、そういう場で勝負しているのだから、やっぱり私はアーティストじゃないなって思うんです。

イベント情報
シアタートラム ネクスト・ジェネレーション vol.9
泥棒対策ライト◎11号機設置公演『ドラマティック横丁』

2016年12月22日(木)~12月24日(土)全3公演
会場:東京都 三軒茶屋 シアタートラム
作・演出・振付:下司尚実
出演:
佐々木富貴子
鈴木美奈子
傳川光留
長尾純子
丸山和彰
若松力
渡辺芳博
下司尚実
料金:一般3,500円 U24チケット2,500円 小・中・高校生1,000円 友の会会員割引3,000円 せたがやアーツカード会員割引3,200円 未就学児500円
※チケット詳細は公式サイトまで
※12月23日終演後はスズキタカユキがゲストのポストトークあり

プロフィール
下司尚実 (しもつかさ なおみ)

振付家・演出家・ダンサー。自由形ユニット「泥棒対策ライト」主宰。個性を活かしたぬくもりのある時間創りを得意とする。振付・演出助手・出演での参加作品に、小野寺修二『空白に落ちた男』、NODA・MAP『エッグ』、『逆鱗』、野田秀樹演出オペラ『フィガロの結婚』、近藤良平『山羊ボー走』、康本雅子『絶交わる子、ポンッ』ほか多数。彩の国さいたま芸術劇場日本昔ばなしのダンス『いっすんぼうし』では演出を手がけた。ダンス、芝居などジャンルを問わず幅広く活動している。

スズキタカユキ

1975年愛知生まれ。東京造形大学在学中に友人と開いた展示会をきっかけに映画、ダンス、ミュージシャンなどの衣装を手掛けるようになる。2002-03A/Wから「suzuki takayuki」として自身ブランドを立ち上げる。舞台衣装なども数多く手がけ、自身も現代サーカスグループの「仕立て屋のサーカス」で、金沢21世紀美術館など国内外で多数の公演を行っている。次回は2017年1月に新宿 LUMINE0にて公演を予定している。



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