鼓童・住吉佑太が挑む新境地。太鼓のイメージをどう打ち破る?

結成から37年。世界50か国で6000回を超えるステージを重ね、BRAHMANやAI、初音ミクらとも共演、今年は『フジロック』のステージにも立った演奏家集団がいる。その名は太鼓芸能集団「鼓童」。

鼓童といえば「半纏(はんてん)姿で太鼓を打ち鳴らす伝統芸能集団」をイメージする人も多いが、27歳の俊英・住吉佑太が演出する全編新曲のツアー公演『巡−MEGURU−』では、スティーヴ・ライヒを思わせるミニマルミュージック的導入からのエモーショナルな展開、コンテンポラリーダンス的演出からフェスティバルのような解放感に至る構成など、新境地に挑む。

改めて鼓童の歴史をひもとけば、約半世紀前に新潟県佐渡島で各地の若者が集った黎明期から、伝統芸能だけでなく、同時代の表現にも刺激を求めた創造の連続だった。だから今回の挑戦も、実は極めて「鼓童的」なのかもしれない。継承と創造を巡るその旅を、「自分たちは鼓童に憧れて入ってきたけれど、そのコピーバンドではいけない」と語る住吉の想いを聞いた。

初めての人にも、もともと太鼓が好きな人にも太鼓の本質的な魅力が伝わる舞台を作りたいんです。

—今回は、最新公演『巡−MEGURU−』特別公開リハーサルの直後にお話を伺います(取材は2018年4月23日、鼓童の拠点である新潟県佐渡島で行われた)。秋の本公演前に、地元・佐渡の方々や関係者に舞台をお披露目するものでしたが、反応はいかがでしたか?

住吉:予想以上に多くの方が暖かく受け入れてくれた一方で、厳しい意見をくださった方もいました。坂東玉三郎さん(歌舞伎役者。2012年から4年間、鼓童の芸術監督を務めた)も佐渡まで観に来てくださり、いろいろと貴重な助言を頂きました。

住吉佑太

住吉:玉三郎さんがよくおっしゃる言葉で「たとえ自分たちのことを嫌いな人が観ても、『悔しいけど面白い』と言わせる舞台を作りなさい」というのがあります。ただ褒めるより、批判的なことを伝える方が本気でエネルギーを使ってくれている。そうした応援と叱咤の声を大事に反映して、本公演に向けて一層ブラッシュアップするつもりです。

—今回はそれだけ挑戦的な内容とも言えるでしょうか。鼓童は前身時代を含めれば半世紀近い歴史があり、太鼓のアンサンブル公演の草分け的存在です。一方、いま27歳の住吉さんからは若い世代が抱く太鼓のイメージを変えたい、という言葉がありました。

住吉:鼓童が長く活動するなかで、近年は公演にきてくださる方々の年齢層もだんだん高くなる傾向にあります。もちろん、共に歳月を重ねていけるのはありがたいことですが、以前は僕らくらいの世代、20代の方々が未体験の舞台表現として面白がってくれていたと思うんですね。だから今回、初めて舞台を任せてもらえる機会を得た自分としては、改めてそこを目指せたらと考えました。

—鼓童の魅力を新たな層に届けるということでは、ジャンルを超えたミュージシャンとの共演や、この夏の『フジロック』出演なども挙げられると思います。今回は、鼓童としてのツアー公演でそこに本格的に挑む点が大きいでしょうか。

2018年6月には、2回目となる初音ミクとのコラボ公演も実施

住吉:そうですね。たとえばいま、僕の同世代が「太鼓」と聞いてイメージするのは「ドドーンがドン、カラカッカ!」というお祭り囃子のようなものが多いと思います。ともすれば主張が強すぎて押し付けがましい、舞台は一幕みたらお腹いっぱい、みたいなとっつきにくさを感じられているのかもしれません。ですから、そうしたイメージを取り払い、初めての人にも、もともと太鼓が好きな人にも太鼓の本質的な魅力が伝わる舞台を作りたいんです。

—マリンバを大胆に取り入れたテーマ曲群『巡』や、公演後半の踊り出したくなるようなハイライトは、その象徴的なものかと思います。また、衣装も非常にシンプルでスタイリッシュなものになっていますね。

従来の鼓童とは異なる、スタイリッシュな印象の『巡−MEGURU−』の衣装
『巡−MEGURU−』特別公開リハーサルの様子

住吉:逆説的ですが、そうした挑戦も、鼓童の「芯」の部分はどういう表現をとってもブレない、同じところに行き着くのだと思っているからこそです。今回の公演には「魂を、聞け。」というキャッチコピーがありますが、これも自分たちの魂の震えのようなものを太鼓にぶつけるということ。だからこそ、お客さんに向けて太鼓という伝統芸能の入り口をどう広げられるのか、その可能性を強く意識しています。

—鼓童には『道』のような王道的公演がありますね。こちらは太鼓の力強さや情熱を存分に感じられる舞台です。鼓童の歴史の最先端に立つ住吉さんも、「ここは引き継いでいく」と決めているところはありますか?

住吉:一番感じているのは、知識ではなく本能に訴えかけるものであるべきだということですかね。たとえば、公演の「あらすじ」や「解説」がぎっしり書いてあるパンフを見ながら、「ああ、ここはこういうことを表現したのか」「この拍子の曲に、あえてこのリズムを使ったんだな」と納得してもらうことではなくて。単純に気持ちいいとか、「昂ぶる」ということを大事にしていく必要があると思っています。

もっとも、それは芸術すべての核にあるもので、だから人はライブやコンサート、あるいは美術館に行くのかもしれません。知識や理屈という多様な入り口はあっても、結局なかに進んでいって見つけるものは、そうした本能的ななにかではないかと僕は思うんです。

太鼓に向き合うと、湧き上がってくる強い感情があります。生きていくために魂が震える、ということをすごく引き出されるんです。

—ここまでのお話とも関係しそうですが、公演名の『巡−MEGURU−』について教えてください。

住吉:「巡る」という言葉にはとても多様な意味を感じます。ひとつには「反復」すること。また水や命など、森羅万象に「循環」があると思うし、そこから宇宙にもつながる。

ただ、今回特に強く思っているのは「心象風景を巡る」ということです。演奏を通じて、どんな国や文化圏の人でも感じられる心象風景をいくつも巡っていくというテーマで臨んでいます。

住吉:僕は曲を作るとき、まず自分のなかから湧き出てきたリズムやメロディをバッと出していくのですが、この公演が決まってから最初に生まれたテーマ曲“巡”では、見えてくる深い森や木々のような景色があったんです。

—たしかに、そうした要素は聴く側にも感じ取れます。多彩な打楽器や笛で構成された楽曲のなかで、たとえば「木々の擦れ合う様子」を想起させるような音は、舞台全体を通してフィーチャーされていますね。

住吉:はい。あれは木ノ実の振りもの(手に持って振り鳴らす楽器)を使っています。メンバーや知り合いにも、この曲からどういうイメージを持つかヒアリングしてみたら、ほぼ全員が「ああ、森だね」と近い感覚を持ったようでした。「海だね」という人は一人もいなくて(笑)。そういう感覚って、本能に近いなにかではないかと思うんです。

佐渡島の森の中で撮影された『巡−MEGURU−』のミュージック・ビデオ

—やはり、本能というキーワードにたどり着くんですね。

住吉:いま僕は平たく「本能」という言葉を使っていますが、そこからのアプローチにもいろいろな形があり得ると考えています。ひとつはいまお話したように、ある音を聴いた人が、現実に見たことのない情景を思い浮かべることができる、そんな体験。

—では、もうひとつのアプローチは?

住吉:「叩く本能」のようなものです。僕はそこに、狩猟本能につながるものがあるのではと感じます。原始の人間は、生きるために他の動物を殺して食べる必要があった。最初のころは素手か、棒状のなにかで叩いて仕留めたのでしょうが、そのとき獲物に抱く感情って、怒りとは違うと思うんです。

太鼓に向き合うと、湧き上がってくる強い感情があります。それは怒りのようなものに見えるかもしれませんが、太鼓に対して怒っているわけじゃない(笑)。生きていくために魂が震える、ということをすごく引き出されるんです。

—心象風景を呼び起こす本能と、生きていくために湧き上がる本能。「静と動」のような関係も連想しますが、どちらも元来、人間の内にあるものとも言えますか?

住吉:そうですね。ですから今回は、その両方を良いバランスで組み合わせながら、魂へのアプローチのひとつとして舞台を作りたいなと思いました。

—「魂を、聞け。」というキャッチフレーズも、そこからきているのですね。

住吉:「魂を聴け」は「魂に聴け」ということでもある。鼓童の魂にふれてもらうのと同時に、みなさん自身のなかに湧き上がる景色や高揚感に「これってなんだろう」と感じてもらえる体験になれば嬉しいです。

そうして知識や理屈を超えたところで訴えかければ、いい意味でみんなが「同じになれる」一体感を共有できると信じています。「結局みんな、根っこの部分では同じものを持っているんじゃない?」というのが、僕らからの最大のメッセージです。

一人ひとりの個性って波のようなものだと思うし、それが集まってできているのが海ですよね。

—住吉さんの言う「みんな同じものを持っている」というのは、「みんなが違っていい」という考え方と相反するのではなく、実は結びついているとも思います。同じ部分があるからこそ、違いを認め合えるというか。今回も、一糸乱れぬ演奏があるうえで、個々のプレイヤーの表情豊かな演奏を解放しようとする印象がありました。

住吉:プレイヤーたちに常々言っているのは「舞台では、僕が作った世界観での『役者』となる必要はない」ということ。あくまで一人のミュージシャンとして、彼ら自身がそれぞれの解釈で舞台に臨んでほしい。「ここは全員小さいこのデジベルの音に揃えましょう」みたいな考え方もしません(笑)。どのメンバーも男女の性別などではなく、個々に「あの人だからこのパートを任せたい」という考えで作っています。

—個々の表現力を重視するということですね。

住吉:自分の考えが、結果としてさっきお話してくださったような「同じ」と「違い」を巡る感想につながったのなら、すごく嬉しいです。一人ひとりの個性って波のようなものだと思うし、それが集まってできているのが海ですよね。

—そうした考え方は、ある種、バンドサウンド的なものに通じる気もします。住吉さんは太鼓を続けてこられた他にも、音楽的なバックグラウンドはあるのですか?

住吉:太鼓は7歳から続けていて、高校生のころにはアコースティックギターの弾き語り2人組で活動していて、インディーズレーベルからCDを出したりもしました。僕はもともと自分のなかにあるものを形にしていくのが好きで、そのころは言葉とメロディだったし、18歳で佐渡に来てからは鼓童の活動になったという感じです。

そして当時の活動も、いま大いに活きていると思います。『巡』でのマリンバのリフ作りで、コード感を出すのか出さないのか、どのスケールを使うのか……。そうした創作の各場面で、あのころ得た音楽理論が役に立っていると感じています。

「ついに自分も憧れの半纏を着て演奏できるんだ」と喜んでいるだけでは、かつての鼓童のコピーバンドになってしまう。

—『巡』の音楽コンセプトも聞かせてください。従来同様、各地の郷土芸能も取り入れた楽曲群だそうですが、全体的にこれまでとは異質と言ってもいいほどの新局面も感じます。

住吉:『巡』は基本的には、日本の五音音階で出来ているんです。いわゆる「ヨナ抜き音階」ですね(西洋音楽の長音階における主音から4つ目、7つ目がない音階=ドレミソラ。日本の童謡や唱歌に多くみられる)。そこから始まって、やがて1音ずつ増えていくなかで、音楽が展開していくことを意識して作りました。五音音階から音が増えながら、現代の音楽まで「巡っていく」というコンセプトも持ちながらやっています。

また、「巡る」という言葉から言うと、実際に曲中では同じ音型のリフを「反復」していく展開も特徴のひとつで、様々な民族音楽にもあるこの反復の概念はぜひ使いたかったんです。

—マリンバの導入と、ミニマムな反復からの発展という点では、スティーヴ・ライヒ(ミニマルミュージックを代表するアメリカの作曲家。“6台のマリンバ”などで有名)の音楽なども連想しました。ただやはり鼓童ですから、そこに和太鼓が加わっていくことで独特のものになっています。

住吉:ライヒはすごく好きで、マリンバを選んだのも彼の影響があります。当初はインドネシアのジェゴグ(大型の竹製打楽器)を使うことも考えたのですが、マリンバのほうが全ての文化圏、世代の人にニュートラルな印象を与えられるかなと思ったんです。舞台上ではいろいろな意味を生じさせられるし、ライヒ的、あるいはミニマルミュージック的な、時間そのものを表現できると考えています。

カナダ・マギル大学の学生による“6台のマリンバ”の演奏

—楽曲に加え、コンテンポラリーダンスや現代演劇のような舞台演出にも新鮮さを覚えました。一方、床すれすれに据えた太鼓をダイナミックに叩く『祭宴』は、鼓童のスタンダードナンバー『三宅』を発展させたものですが、こうした演目も自然と生まれてきたものですか?

住吉:『三宅』は、鼓童のいわゆる鉄板演目。30年ほどずっと演奏してきたもので、僕はこの曲に、これをやったら必ず盛り上がるという素晴らしさと、そこへの甘えのようなものを両方感じていたんですね。

今回も『三宅』をそのままやればお客さんは盛り上がるかもしれない。でも、30年前に大先輩たちがこの曲を作り出したときの炎は、そのまま継承できるものではありません。僕たちは打ち方や基礎を学んで演目を受け継いで来たけれど、それが作られた過程そのものは知らないから。

住吉:だからこそ「ついに自分も憧れの半纏を着て、あの『三宅』をやれるんだ」と喜んでいるだけでは、かつての鼓童のコピーバンドになってしまうのでは、という懸念を持っています。そうではなく、長年受け継いできた『三宅』のスピリットを取り込みながら、自分たちで新たな炎を灯したい。そう思い『祭宴』を入れました。

—続けていくことと、新たに創造していくこと。今回の公演はその最前線から届けられる鼓童のステージなのだと感じました。最後に、11月の本公演開始に向け、意気込みを教えてください。

住吉:僕は、自分の入所当時から近年まで芸術監督だった坂東玉三郎さんの洗練された舞台演出にとても強い影響を受けています。そして同時に、そのずっと前から続く鼓童のダイナミックな魅力も受け継いでいきたい。今回の公演では、鼓童の持つ洗練と力強さの両面をいままでにない形でお見せできたらと思っています。鼓童は初めてという方も、既にお越し頂いたことのある方も、ぜひ会場でご一緒できたら嬉しいです。

イベント情報
『巡 -MEGURU-』

演出:住吉佑太
出演:鼓童

2018年11月3日(土)
会場:香川県三豊市 三豊市文化会館マリンウェーブ

2018年11月4日(日)
会場:愛媛県松山市 松山市総合コミュニティセンター 文化ホール

2018年11月7日(水)
会場:高知県高知市 高知市文化プラザ かるぽーと 大ホール

2018年11月9日(金)
会場:広島県広島市 アステールプラザ 大ホール

2018年11月10日(土)
会場:山口県下関市 菊川アブニール

2018年11月13日(火)
会場:岡山県倉敷市 倉敷市芸文館

2018年11月15日(木)
会場:鳥取県鳥取市 鳥取市民会館 大ホール

2018年11月17日(土)
会場:山口県岩国市 シンフォニア岩国 コンサートホール

2018年11月21日(水)~2018年11月22日(木)
会場:大阪府大阪市 森ノ宮ピロティホール

2018年11月23日(金)~2018年11月24日(土)
会場:滋賀県大津市 滋賀県立芸術劇場 びわ湖ホール 中ホール

2018年11月27日(火)
会場:愛知県刈谷市 刈谷市総合文化センター大ホール

2018年11月28日(水)
会場:岐阜県多治見市 多治見市文化会館(バロー文化ホール)

2018年11月30日(金)
会場:新潟県新潟市 新潟県民会館 大ホール

2018年12月1日(土)
会場:長野県長野市 長野市芸術館 大ホール

2018年12月7日(金)
会場:千葉県船橋市 船橋市民文化ホール

2018年12月8日(土)
会場:神奈川県茅ケ崎市 茅ケ崎市民文化会館大ホール

2018年12月9日(日)
会場:埼玉県熊谷市 熊谷文化創造館 さくらめいと

2018年12月11日(火)
会場:神奈川県横浜市 神奈川県民ホール 大ホール

2018年12月15日(土)
会場:東京都調布市 調布市グリーンホール 大ホール

2018年12月16日(日)
会場:東京都福生市 福生市民会館

2018年12月19日(水)~2018年12月23日(日)
会場:東京都文京区 文京シビックホール 大ホール

プロフィール
住吉佑太 (すみよし ゆうた)

1991年生まれ。小学校2年生より和太鼓を始める。2010年研修所入所、2013年よりメンバー、「大太鼓」やソリストに抜擢される。舞台では主に、太鼓、笛、『混沌』公演ではドラムを担当。軽やかなバチ捌きを得意とし、また“草分け”、“結”、“炯炯”、“綾織”など舞台の要となる数々の楽曲を生み出す、鼓童のサウンドメーカー。2017年、『打男』北米・国内ツアー参加。『坂東玉三郎がいざなう鼓童の世界』、『幽玄』で坂東玉三郎氏と共演。2018年『Evolution』ヨーロッパツアー参加、『巡 -MEGURU-』で初演出を務める。



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