枝優花×松居大悟対談 エゴサで見る熱い感想が、次を生み出す

「邂逅」──思いがけなく出会うこと、偶然の出会い。人生には運命的であり、必然的な出会いが数多く存在し、あらゆる出会いによって自身の人生が形成される。

今年、インディーズ映画ながら数々の国際映画祭に出品され、新宿武蔵野館で9週間のロングラン上映がされた『少女邂逅』。本作の監督、枝優花はこの作品をきっかけに若手監督 / 写真家として注目を浴びることになった。学生時代に彼女が監督の道を進むことになるきっかけを与えたのが、映画監督であり劇団ゴジゲンを主宰する松居大悟。

答えのない表現という世界で、2人はいつ、どのような邂逅を重ね、作品作りや自分自身を形成してきたのか。作中で2人の少女が互いを撮影し合うように、枝と松居にもインスタントカメラを渡し、気の向くままに撮影し合ってもらった。言葉を通して、フィルターを通じての対談となった。

松居さんから「どんなブスが撮った映画かと思ったけど、意外と可愛いですね」って(笑)。(枝)

—お2人の出会いは2013年の『早稲田映画まつり』、枝監督が処女作『さよならスピカ』を出品されたことがきっかけだったんですよね。

松居:僕は審査員で参加していて、枝さんの作品が僕の中ではダントツでよかったんです。他の審査員も満場一致だと思っていたんですけど、フタを開けてみたら枝さんの作品に全然票が集まっていなくて(笑)。審査員会議で「枝さんには絶対に賞をあげるべきだ」と主張した結果、審査員特別賞という形で賞を渡したのがきっかけですね。

:もともと私が松居さんの作品のファンで、ちょうどその頃に『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(2013年)が公開されていたんですね。それで、『さよならスピカ』の助監督が、パンフレットにサインを貰ってくれて、私にプレゼントしてくれたんです。

松居:そうだ。僕が初めて書いた連続ドラマ『ふたつのスピカ』(2009年、NHK)で僕のことを知ってくれていたって聞いて、そんな人初めてだったからすごく嬉しかった。

左から:枝優花、松居大悟
インスタントカメラで撮影し合う様子

:高校2年生の時に見てハマっていて、ドラマが終わると友だちと感想をメールで送り合っていました。高校生の私に刺さる内容で、すごく楽しみに見ていたんです。

松居:ああ、本当に嬉しいな。

—『早稲田映画まつり』で審査員特別賞を受賞された時に印象に残っていることはありますか?

:あります、あります。そのことでサークルのみんなにいじられました(笑)。

松居:何、何?

:審査員のみなさんは私の顔を知らないので、松居さんから「どんなブスが撮った映画かと思ったけど、意外と可愛いですね」って(笑)。

枝優花(撮影:松居大悟)

松居:すみません(笑)。

:三浦大輔監督にも同じことを言われたので、何か舞台作家の方の共通点なのか……と思ってしまいました。

松居:枝さんの作品は屈折しまくっていて、世の中全てに苛立っている感じが伝わってきたから、そう思ったんじゃないかな。

松居大悟(撮影:枝優花)

—松居さんが『さよならスピカ』をおもしろいと感じたのは、どのようなところですか?

松居:上手にまとまっている作品よりも、多少荒削りでも「私はこれをやりたい」という気持ちが表出している枝さんの作品に引き込まれましたね。

「何が起こるのかわからない」物語の型にはまっていないところと、それでも観客を置いていかずに物語に引き込む力、ワクワクする空気感は僕も大事にしているのですが、枝さんの作品はそういう力がありました。

:ありがとうございます!

枝さんは、続ければ絶対売れると思っていましたが、1作目でここまで話題になるとは……。(松居)

—松居さんは『少女邂逅』をご覧になっていかがでしたか?

松居:『さよならスピカ』の時から、枝さんは映画作りを辞めずに続ければ絶対売れると思っていましたが、1作目でここまで話題になるとは……。早すぎじゃない?(笑) 作品は、色味や綿密な物語もいいし、同時期に公開していた僕の作品『君が君で君だ』と共通性が偶然あった。

:松居さんの映画は密室劇で。3人の男性が生活している場所はすごく狭いのに、全く小さく見えないのがすごいと思いました。3人にとってこの世界がすべて、という強さが部屋の狭さと相反していて。

松居:逆に、枝さんの映画は田舎が舞台だから周りの景色はだだっ広いのに、主人公の心理状況が影響してすごく窮屈に感じるんですよね。心理状況と実際に存在している空間、相反する関係性が両方の映画に共通していた。

:私は舞台の演出経験がないので、ひとつの舞台上で物語を展開させていく演出方法は気になっています。『君が君で君だ』の演出は、舞台経験のある松居さんだからこそ撮れたものだなと。

最初は、演劇って大声でしゃべるダサくて恥ずかしい表現だと思っていたんです。(松居)

—松居さんは、枝さんにとっての松居さんのような、若い自分を発掘してくれたり、きっかけを与えてくれた人というと、誰が浮かびますか?

松居:ヨーロッパ企画の上田誠さんですね。コメディーに憧れて一生懸命舞台を作っていた大学時代、最初は演劇って、大声でしゃべるダサくて恥ずかしい表現だと思っていたんです。でも、ヨーロッパ企画の舞台を観て、衝撃を受けて。

こんなコメディーを作れるなら挑戦したいと思って、上田さんに「手伝いたい」とメールを送ったら「命がけでコメディーを作っているというだけで、僕たちは仲間です。ぜひいつか話しましょう」と言ってくれたんです。

—わあ、いい言葉ですね。それが何年前ですか?

松居:もう11年前ですね。そこで創作活動がスタートしました。最初はあまり自信がないから、とにかくストイックにやることが正しいと思っていたんです。飲む時間も寝る時間も削ってコメディーを書くぞ、と。だから、部屋の壁中に自己啓発の言葉が書かれた紙を20枚くらい貼っていました。枕元には「目が覚めたら走り出せ」、うつむきがちだったので床に「下を見るな上を見ろ」、上を見ると「開き直れ、お前はお前」って。

:ええー! すごいですね。

松居:そうしたら上田さんが東京に来て初めて会った時に飲みが盛り上がって、「今日松居くん家行っていい?」って言われたんだけど「いやー、今日はまずいですね」って答えざるを得なくて(笑)。でも結局家に来て、壁中に貼ってある紙を見ながら上田さんがボソッと「東京来てよかったな」ってつぶやいて。そこからすごく、仲よくなったんです。

走りながら撮影中の様子

若い女性が映画を撮ることに対して、敵意むき出しな感想が届いたことは驚きました。(枝)

—『少女邂逅』は、新宿武蔵野館で9週間に渡り異例のロングラン上映でしたね。公開中はどんな心境でしたか?

:作るのも大変だけど、公開してからも大変なんだと痛感しました。毎日、劇場のお客さんの入りをチェックして、口コミをエゴサーチしていましたね。9週間も公開していただけたことは嬉しかった反面、公開が終わった時はもうお客さんの入りを心配したりエゴサしなくていいんだって、ホッとしました。

松居:どんな口コミが多かった?

:最初はキツい反応も多かったです。若い女性が映画を撮ることに対して、敵意むき出しな感想が届いたことは驚きました。自分が若い女性であることを武器にしたつもりはないけれど、そういう評価も受けるんだなと。でも、好意的な口コミも広がって、そこから気になって観に来てくれる人も多かったみたいです。何度も観てくださる人もいたりして。

撮影:松居大悟

松居:ああ、そういう反応は嬉しいよね。

:口コミをいろいろ見ていたら、1回目は1人で観て、2回目は身近な大切な人を連れて観に行ってくれる人が多かったんです。母親が観て、不登校の娘を連れてもう1度観に行ってくれたり、しばらく連絡をとっていなかった友だちにわざわざ連絡をとって観に行ってくれたり。私は、誰かと一緒に観るためにもう一度映画館に行く経験がなかったので、意外な反応でした。

—「この人と映画を一緒に観たい」と思うのは、とても特別な感情ですよね。

:感想のお手紙に「この映画は不特定多数へ向けられたものではなく、特定の人へ向けられた手紙のような映画だったので、一緒に観たいと思い浮かんだ子を連れていきました」とあって。私自身、必要な人に刺さってほしいと思って作った作品なので、こういう反応はすごく嬉しかったです。

松居:高校生や20代前半くらいの若い子もたくさん観てくれたんじゃないですか?

:はい。20代前半の学割がきかない世代にとって、1,800円って高いじゃないですか。映画業界にいる私でさえ高いと思うので。それでも観たいとお財布を広げてもらうにはどうしたらいいんだろう、と一生懸命考えました。

映画は完成したら終わりではなく、観てくれたお客さんと育てながら形が変わっていく。(松居)

—松居さんの処女作は、客観的に言うと『アフロ田中』(2012年)だと思いますが、ご自身としての「処女作」はどの作品でしょうか?

松居:そうですね……自分のやりたいことをやらせてもらった初めての作品という意味で『自分の事ばかりで情けなくなるよ』(2013年)ですかね。『アフロ田中』の時は映画の作り方もお金のことも何もわからず、口コミなんて全然見れなかった。でも『自分の事ばかりで情けなくなるよ』は、自分自身をむき出しにして作れたんです。自分の感覚はマイノリティーだと思っていたけれど、その感覚のまま作ることを許してもらえた。

松居:そんな作風になって公開規模は小さくなる一方ですけど、作品に関するTwitterの感想はひとつたりとも見逃していないですよ。なんなら、タイトルの「事」を漢字にしているのと、ひらがなの「こと」にしているのそれぞれ検索します(笑)。

:(笑)。客観的な意見が知りたくて調べちゃうんですか?

松居:病的な感じだったと思う。批判的な意見に対してスマホを床に投げつける夜もあったけれど、逆に長い感想を書いてくれた人の解釈が、自分が描こうとしていたことよりもさらに深いものになっていることがあって、それはいいなあって。

:ありますね。

松居:そういう熱い感想をくれるファンの話を書きたいと思って作ったのが『私たちのハァハァ』(2015年)なんです。だから、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』の時に熱い感想を書いてくれた子たちの名前を、『私たちのハァハァ』の女の子の役名につけました。

:えー! それは、その方は知っているんですか?

松居:「これは私の映画です」ってつぶやいてた。そういう風に、次の作品が生まれたりもするという意味では、エゴサーチもいいのかなと思います。

:『私たちのハァハァ』は劇場で観て、泣きました。

—『私たちのハァハァ』は、福岡に住むクリープハイプのファンの女子高生が、ライブのために自転車で東京を目指す作品ですね。

:私も高校生の時、クリープハイプさんが大好きだったんです。修学旅行の時に、友達といろんな曲をシャッフルで聴いていた時にクリープハイプが流れてきて。中毒的に好きになって、友だちとライブにも行って。だから、『私たちのハァハァ』は、自分と重なるところがありました。

しかも私も群馬県出身で、華やかな東京でライブをしている人たちは自分とは遠い存在だった。でも、そんな場所に私たちよりも遥か遠い福岡に住んでいる女の子たちが自転車で向かうというアホな発想が、すごくよくて。最後は涙がとまらなかったです。

松居:女の子たちとまったく一緒の境遇だったんだ。

—観た人たちの感想は、エネルギーになりますか?

松居:なります。なりますし、自分自身の作品に対する解釈が変わることもありました。

例えば、『アイスと雨音』(2018年)のタイトルは、単純に主人公の好きなものを並べただけだったんですけど、何度も映画を観てくれている方からタイトルの由来を聞かれて。そんな浅い理由だったから「逆に何だと思いますか?」って聞いてみたんです。

:(笑)。

松居:作品の最後に、誰もいない客席から拍手が聞こえてくるというシーンがあるんですけど、その方の答えは「彼らだけに聞こえる拍手が雨音のようで、一瞬で溶けてしまうアイスと一瞬しか訪れない時間をかけているのでしょうか」と。「……そうです」って言いました(笑)。それ以降は、タイトルの由来を聞かれたらそう答えています。

:私もそうだと思っていました!

松居:作っている時って感覚的なゴールしか見えていなくて、自分の中でなぜそうしたのか、作品について言語化できていないんですよね。映画は完成したら終わりではなく、観てくれたお客さんと育てながら形が変わっていくんだなぁって。特に2018年に公開した『アイスと雨音』と『君が君で君だ』で思いました。

:感想から発展するものはありますよね。私は聖地巡礼とか、映画と日常がつながる瞬間が好きで。『少女邂逅』では劇中に出てきたクリームソーダを象徴的に押し出したんですが、実は映画の中でクリームソーダは一瞬しか出てこないんです。公開してからのお客さんの「クリームソーダ」への反応を見て、映画館の方にお願いしてクリームソーダの提供を始めました。

松居:枝さんはプロデューサー的な視点もあるんだね。

:パンフレットは自分で写真を撮ったので、監修することにしました。自主制作映画ですしどうせなら色々やってみたいと思い、いろいろ言わせてもらいました。

今度、枝さんにも舞台やってみてほしいんですよね。(松居)

—映画監督の方は、自分を削って作品を生み出されていますが、その削り方の違いはそれぞれ違うと思います。苦しみながら自分を削って生み出す人もいれば、ポップに軽く生み出せる人もいる。お2人はどのようなタイプですか?

松居:昔と今で少し違いますけど、昔の僕は自分の中の一番ネガティブな部分や見たくない部分を無理やり見つめて、自分をかなり削って作品を生み出していました。でも、それはすごく疲れるんです。そんなことをしていたら表現を嫌いになってしまいそうで。ゴジゲンを休止したのも僕が苦しくなったからでした。

30歳をこえてからは、この人となら命をかけられる、という「人」をベースに作品を作るようになりました。今までは1人で生み出そうとしていたけれど、今は一緒におもしろがれる人たちと作っていきたいと思っています。

撮影:枝優花

—人と生み出すことで広がった世界はありますか?

松居:あります、あります。ゴジゲンも復活して、メンバーとおもしろいことをやろうと思えるようになったし、映画は共に作る人がおもしろがってくれそうなことを提案するのが楽しいです。

:私は結構、自分を削って生み出すタイプで。脚本書く時も1人で喫茶店にこもって、黙々と書いています。

松居:まだ若いから、その方がいいと思う。

:脚本を見せるのって考えていることがバレそうでちょっと照れるんです。でも、最近は信頼できるスタッフさんに脚本を見せると、私以上に真剣に作品のことだけを考えてくれることに感動を覚えました。最初から否定せず、作品のためにどうしたらいいのか考えてくれる仲間がいることはとても心強いです。

撮影:松居大悟

松居:今度、枝さんにも舞台やってみてほしいんですよね。合うと思います。

:舞台は興味あります。以前、松居さんの舞台をお手伝いさせてもらったことがあったんですけど、すごく大変でした。映像と違って、舞台は何時間も稽古をして構築しなきゃいけない。それと、劇団の方が「台本はまだないけど、とりあえず稽古しましょう」と言っていて、すごく驚きました。「何の稽古をするの!?」って(笑)。

—映像と舞台、それぞれ作る時の向き合い方は異なりますか?

松居:僕の場合は違いがないです。作りたいテーマがあって、物語を作って、稽古をして、その先に撮影があるか上演をするかの違い。

ただ、演劇の方が役者に委ねる要素が断然多いです。今の枝さんは自分の世界観がどんどん強くなっている時期だから、舞台は相反するかもしれないね。舞台を自分の作品として完成させたい気持ちと、演者に魂を託さなきゃいけない難しさ。でもそこから意外な世界が生まれるおもしろさもあるよ。ぜひやってほしい!

リリース情報
『少女邂逅』監督・枝優花 完全監修パッケージ仕様(Blu-ray)

2019年1月16日(水)発売
価格:6,264円(税込)
PCXP.50618

『少女邂逅』(DVD)

2019年1月16日(水)発売
価格:4,104円(税込)
PCBP.53868

イベント情報
『みみばしる』

2019年2月6日(水)~2月17日(日)
会場:東京都 下北沢 本多劇場

作・演出:松居大悟
音楽監督:石崎ひゅーい
主演:本仮屋ユイカ

プロフィール
枝優花 (えだ ゆうか)

1994年3月2日生まれ。群馬県高崎市出身。監督作『さよならスピカ』(2013年)が第26回早稲田映画まつり観客賞、審査員特別賞を受賞。翌年の第27回早稲田映画まつりでも『美味しく、腐る。』(2014年)が観客賞に選ばれる。大学時代から映画の現場に従事し、山下敦弘監督『オーバー・フェンス』特典映像撮影編集、吉澤嘉代子、indigo la End、マカロニえんぴつのMV監督なども務める。その他も、「ViVi」「装苑」などでのスチール撮影、メイキング、助監督とその活動は多岐に渡る。初長編監督となった『少女邂逅』は、2018年3月の香港国際映画祭にも正式出品されて話題作に。6月30日から全国で上映され新宿武蔵野館では9週間のロングランとなった。

松居大悟 (まつい だいご)

1985年11月2日生まれ、福岡県出身。ゴジゲン主宰、全作品の作・演出・出演を担う。12年に「アフロ田中」で長編映画初監督。その後「スイートプールサイド」、「私たちのハァハァ」、「アズミ・ハルコは行方不明」など監督作を発表、枠に捉われない作風は国内外から評価が高い。近年は、テレビ東京ドラマ「バイプレイヤーズ」シリーズ、若者たちの1ヶ月間を74分ワンカットで撮った「アイスと雨音」、「君が君で君だ」など。ナビゲーターを務めるJ-WAVE『JUMP OVER』は毎週日曜23時から放送中。



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