全て曝け出したBLUE ENCOUNT 成功を超えたバンドの葛藤と本音

BLUE ENCOUNT・田邊駿一は心底めんどくさい表現者だ。本当の自分を曝け出せる場所を音楽とバンドに求めながら、その居場所のなさ自体を器用に音楽にできる作曲脳も持つ。そんな器用さを自分で嫌い、自分を疑い、曲ごとに過去のイメージにカウンターを打つ。そしてまた心からの表現を探し求めては喚き、そのカオスと喚きこそがブルエンの代表曲の数々となってきた。彼の音楽の原風景であるELLEGARDENから連なる2000年代~2010年代の日本のロックを次々に喰らうミクスチャーな音楽性も、そんな脳内カオスを抱える田邊の性質が呼んだものだと言えるだろう。

そうして「ジャンルに縛られない」ことこそを真ん中に据えてきたのがBLUE ENCOUNTだ。しかし彼らが6月5日にリリースしたミニアルバム『SICK(S)』は、上述した歩みと逆行するように、過去の代表曲を裏切っていない王道感だけがズバリと突き抜ける作品だ。バンド4人を繋ぐ原風景であるELLEGARDENへの憧憬を否定しない疾走感の上で、これまで喰ってきたオルタナティヴロック、ギターロック、メロディックパンク、ラップメタルが曲の筋肉となって躍動している。居場所のなさ自体を音楽にしてきたBLUE ENCOUNTが、今こそBLUE ENCOUNT本来の姿になったと掲げる金字塔。そこに至るまでの全部を唾を飛ばしながら語り合うインタビューをここに贈る。なお、今回はBLUE ENCOUNTチームとの取り組みで、インタビューの様子を収録した動画も同時に公開した。動画はオフィシャルサイトにて閲覧可能。赤裸々な語録を、テキストと動画でがっつり浴びてほしい。

「俺はアーティストじゃなくちゃいけない」と思った1、2年がキツかった。

―『SICK(S)』というミニアルバムがリリースされます。この作品を作り終えた今、田邊くん自身はBLUE ENCOUNTをどういうバンドだと捉えられています?

田邊:そうだな……この作品を作ってみて、やっと「アーティスト」になれたっていう気がします。これまでは「アーティスト」っていう言葉が嫌で、「自分はアーティストだ」って言うのも嫌だったんだけど。

BLUE ENCOUNT(ぶるー えんかうんと)
田邊駿一(Vo,Gt)、辻村勇太(Ba)、高村佳秀(Dr)、江口雄也(Gt)よる4ピースロックバンド。2004年に活動開始。2014年9月にEP『TIMELESS ROOKIE』でメジャーデビュー。2015年7月に1stフルアルバム『≒』(ニアリーイコール)をリリースし、2016年10月には日本武道館公演を開催。2017年1月には2ndフルアルバム『THE END』を、2018年3月に3rdフルアルバム『VECTOR』をリリース。結成15周年となる2019年は、バンド史上初のホールツアーを開催する。

―これまでは自分と「アーティスト」をどう位置づけていたから、アーティストっていう言葉を嫌ってたんですか。

田邊:基本的に世の中の人が思うアーティストって、理想の楽曲を作るためのゴールに向けて時間をかけていたりする、「完全無欠で唯一無二で人を連れて行ける存在」だと思ってて。でも俺はそうなりたいと思って音楽を始めた人間ではなくて。

ただ、メジャーで5年間頑張ってきて、武道館やアリーナでもやれるようになって、「俺はアーティストじゃなくちゃいけない」って思ったことがあったのね。「アーティストだからこういうことを言います」みたいなフィルターをかけて言葉を発する必要があるんじゃないかって。それがこの1、2年だったんだけど、やっぱり結構しんどくて。でもここまでの1年くらいに紆余曲折があって、『SICK(S)』を作れたことで、自然体でアーティストになれたんじゃないかなって思う。

―自然体で、というのは、『SICK(S)』はこれまでで一番素直に曲を作れたとか、自分らしさを掴めた感覚があるとか、そういう話なんですか。

田邊:うん、うん。そうだと思う。

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―自分達の立ち位置を決めず自由でいたいからこそ、田邊くんが生きてきた2000年代から2010年代を網羅した、ロック全方位的な音楽性だったと思うんですね。でも今回は、直球と王道だけをズバリと鳴らしている作品だと思ったし、だからこそBLUE ENCOUNTとはどんなバンドなのか、という質問から始めたんです。そのあたり、自分で思い当たることはありますか。

田邊:言ってもらった通りで。『SICK(S)』を作り始めて1曲1曲の断片が見えてくるにしたがって、今「王道」って言ってくれたような作品にしたい気持ちになっていって。この作品に至るまでの1年くらい、自分にとってのアーティスト像も含めて、「どうしたらいいかわかんない」って感じでキツかったし、それを乗り越えられたからこそ作れた作品だと思っていて。

「熱血」みたいな自分達のパブリックイメージを壊したくて『VECTOR』というアルバムを作った。

―そのキツさっていうのは?

田邊:場数は踏んできてるし、言ってくれたように曲のバリエーションもある。だからどんな場所でもやれる自負はあるのね。ただ、できることが増えるのと反比例して、自分がなにをしたいかがわからなくなっていったところがあった。だからこそ、その時に自分達の持っている引き出しを確認してひとつの作品にしたのが2018年3月に出した『VECTOR』だったし、間違いなくベストを尽くせたアルバムだったと思うんだよ?

ただ、『VECTOR』の曲をツアーで歌っている時がキツくて。自分の中で違和感になっていたのが――自分達4人の持っているものを磨いて作れた作品ではあったけど、結局は「CD容量をギリギリまで使って幅を全部見せよう」っていうところから始まってた作品な気がして。で、それはなぜかって考えたら、自分達のパブリックイメージを壊して、イチから作りたかったからなんだよね。

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―パブリックイメージとは、熱血とか、涙を流すMCとか、その過剰性で語られるっていう部分? それが枷になっていたと。

田邊:そう。俺がMCで泣いていた部分とか、とにかく熱血、みたいなところが変に切り取られて伝わることは未だにあって。だったらBLUE ENCOUNTのイメージをイチから作り直して「自分達とは?」っていうことの答えを出そうと葛藤していたのが『VECTOR』の時期だったと思うんだよね。

―はい。

田邊:でも結局「BLUE ENCOUNTとは」っていう答えはなかなか言葉にならなかったし、ラストに“こたえ”っていう曲もあったけど、あそこでも結局は<なにが正しいかわからない>って歌ってたんだよね。正攻法の曲を作ったはずなのに、その正攻法がなんなのかが全然わからないままだったから。

パブリックイメージを壊したいと思ったことで、本当の自分が求められてるのか? っていう不安もあった。

―自分達とは、っていう根っこに向き合ったはずなのに、それも結局は自分達に対するカウンターでしかなかったのがキツかったということですか。

田邊:そうだと思う。そもそもBLUE ENCOUNTがイメージを固定せずいろんな曲をやってきたのはなぜかって考えたら、俺らがバンドを始めた高校時代――2000年代アタマって、いろんな音楽がフィーチャーされて、マイナーな人やアンダーグラウンドな音楽がテレビ番組でも紹介されるカッコよさを目にした時期だったのね。

それを見て音楽の面白さを知ってきたからこそ、いろんな音楽性を持って、イメージを定めないバンドでいいじゃないかって思ってきたところはあるんですよ。だけど、アーティストでなくちゃいけないし、このままじゃイメージに消費されるし、っていう気持ちで焦って、なんとなく生き急いでた感じがして。そこでバンドの答えを全部出して、なんなら完結させようとしてた。で、眠れなくなって……思ったのは、このモヤモヤした状態の自分をなぜ外に出せないんだろうなって。

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―そうですよね。眠れない中での葛藤はまさに“幻聴”でも歌われている。

田邊:パブリックイメージを壊したいと思ったことで、本当の自分が求められてるのか? っていう不安もあったし……だから『VECTOR』を発売する頃って、俺もバンドもピリピリしてたんだよね。しかもなにをやっても結果が出てこないから、どんどん意気消沈していって。

バンドのリーダーは江口。でも、結局は俺なのよ。俺がやると言えば決まることもあるし、実際に曲を書いているのも俺で。一度自分の答えを出したと思ったからこそ、その後の羅針盤を俺がなくしちゃった感覚は相当あった。誰かのせいにしたかったけど、みんな頑張ってるのもわかってるじゃない? だから、結局は俺なんだなって思うしかない辛さだった気はする。

―そこは、どうやって打破していったんですか。

田邊:去年の10月かな。山口県の大学の学祭でライブをやらせてもらった時に、MCでも演奏でもベースの辻村と俺が上手く疎通できない場面があって。で、楽屋に戻った瞬間に俺がいきなりキレちゃったの。で、その時に、「これはいよいよヤバいぞ」と。最近はメンバーともライブの反省みたいな話をしてなかったなって気づいて。そんな様子を見て、スタッフさんも「これは終わるな」って思ってたみたい。

でも、そんな時でも曲は謎に作りまくってて。2019年の1月は、リリースの予定がないにもかかわらず謎に曲作りの期間があったの。なんなら「どんな曲作ればいいんですか?」なんて聞いちゃうくらいのモチベーションでさ。でも、1ヵ月で100曲くらい作ったんだよ(笑)。

自分が舵をとると言いながら、3人に寄りかかってたのは俺なんだって思った。

―モチベーションとは別に、メロディと曲が一切涸れない人ですよね。そこが面白いし凄まじいところだと思います。作曲エンジンだけが独立しているというか。

田邊:曲がとにかく多いから、ブルエンってデビューの時から毎回、チーム全員で「この曲の中でどれをレコーディングしようか」って話し合う会議があるの。そこで各々が曲への想いを述べていくんだけど……それをまた1月にやろうって時に、俺は何を思ったか「その会議、要ります?」って言っちゃったの。

―……。

田邊:もう、サイコパス過ぎる発言をしちゃったんだよ。そこが唯一、みんなの熱意を繫ぎ止める場所だったのに。曲が出ることは出る。だけど、何に対して曲を生むのかっていうのは一切なくなってて、モチベーションが底をついてたんだよね。

で、その発言にマネージャーさんが珍しく本気で怒って、その時に初めて「このままじゃ本当に終わる」って実感して。それで俺が誘って、100年ぶりかと思うくらい久々に4人だけで飲みにいったの。で、まずは「最近どう」みたいな話から始まってさ(笑)。

―でも田邊くんが珍しく4人で飲もうと言い出した時点で、きっとみんなわかってますよね。

田邊:そう。だから結構早めに本題にまでいって。なぜこんなにギクシャクしているのか――結局は、4人とも「答えも正攻法もわからない」っていうのが大きくて、混乱してて。終わりを予感してたのも一緒だったんだよね。それに学生の時以来かな、江口が弱音を吐いたの。「俺はパフォーマンスについてもどうしたらいいかわからない」って。あいつはいい意味で自分に徹するタイプの人間だから、人に弱音を吐くなんて思わなくて。

そしたら辻村が江口に「じゃあ俺が支える」って言い出して。そうやって、飲み屋で話している時にそれぞれのいいところを改めて見返せてさ。よっちゃん(高村)は、他のメンバーを一番大事にしてるお母さんみたいなヤツ。辻村は辻村で、嫌なことは嫌だって言いつつ、ベースがむちゃくちゃ上手いから、そこに徹する。江口は、バンドのことも落ち着いて俯瞰してまとめてくれる。……自分が舵をとるって言いながらも3人に寄っかかってたのは俺なんだと思って。それで気づいたら、4人とも自分の弱みを吐き出せていて。だからこそ、お互いに助け合おう、このままじゃ死ねないって話になったんだよね。

本インタビューの現場の様子は動画で公開中(オフィシャルページで見る

これまで曲はできても、そこに何を乗せられるのかっていう部分で薄味になって流れていくものがたくさんあった。

―勇気の要ることをお互いに話したし、嘘をつく必要がもうなくなったということですよね。だからこそこのままじゃ死ねないっていう言葉になったと。

田邊:その次の日に会社で会議して、スタッフさんたちに「皆さんが信じてくれているBLUE ENCOUNTをたくさんの人に伝えたいです」っていう話をして。そのまま1ヵ月で作り終えたのが、『SICK(S)』なんですよ。

―なにに葛藤してたかって、状況やパブリックイメージに対する不安も、規模に対する「アーティスト」っていう責任感もあったんだろうけど、それ以上に、この先どんなバンドとして人の心になにを残すのか、っていうバンドの在り方が見えないのが大きかったんでしょうね。

田邊:……そういう葛藤を乗り越えて、メンバーそれぞれに弱みも見せて嘘をつかなくていい状態になったからこそ、今回は「BLUE ENCOUNTとは」っていう答えが初めて見えた作品を作れたと思うんですよね。だって、初めて歌詞を書くのが楽しいと思えたんだから。今までは「どんな言葉なら響くかな」とか考え込んでたから、歌詞がとにかく大変だったんだけど。

―“アンコール”の<これからもあなたと歌いたい>っていうのは、お客さんはもちろんだけど、仲間を思い切り信頼して、一番近い人に向けて本心を歌えたところもありますか。

田邊:それは大きいと思う。だから、この『SICK(S)』を作り終えた時に初めて、自分なりに「アーティスト」の定義を持てたの。アーティストって、自分の本当の気持ちを音楽にできるヤツなんだなって。言葉にすると簡単だけどさ、それがずっと辿り着きたかったところだったんだよね。

BLUE ENCOUNT“アンコール”を聴く(Apple Musicはこちら

―さっきも話したように、想いとは別に作曲し続けられる器用な作曲家の部分と表現者の部分が、違う場所で独立している捻れが田邊くんの面白さでもあったと思うんです。でも今の話は、それが合致して塊になった感覚があるということですか。

田邊:そうだと思う。初めて想いと曲が一枚岩になったのが今回で、それがBLUE ENCOUNTらしさの始まりなんだなって思いますね。 器用さの前に、作品と楽曲で自分の気持ちを吐き出すのが一番大事だと改めて思った。自分が思っていたアーティスト像とは違って、こんなにも血の通った存在がアーティストなんだなって理解した感じに近いかもしれない。

これまで曲はできても、そこに何を乗せられるのかっていう部分で薄味になって流れていくものがたくさんあったんだなって。だから説明が必要で、MCが長くなってたんだろうし……。

―作詞の話もあったけど、ハッキリ言ってしまえば、人の顔色を横目に見て器用に曲を書ける部分もあったじゃないですか。だからこそ、「あの時の自分は本当の自分だったか」と疑って、それをガソリンにして歌でも曲でも自分を探してきた人だと思っていて。その性質は、ご自身のどういう背景から生まれてきたものなんだと思います?

田邊:よく言われるのよ、「本当のお前を見せてくれ」って。でも、これは昔から同じで、自分の中では普通なんだよ。ただ、この俺を形成したものが何かと言ったら、教育かもしれない。

両親がとにかく「外に出た時に恥ずかしくないように」って言う人だったのね。で、7つ上の姉も学校の弁論大会ですごい成績を残すような人だったから、姉にも「ちゃんとしなさい」って言われてきて。親父は飲みに行く先には必ず連れて行ってくれてたし、ずっと大人と一緒にいたのが大きいと思う。人の顔色を窺うというより、人のツボがすぐにわかっちゃうんだよね。

たとえばテストで100点を取って誇らしげに親父に見せた時に、「ふーん」みたいな感じだったの。で、普通だったら「喜ばないなんてショック!」ってなるところが、俺の場合は「この人が喜ぶポイントはそこじゃないんだ」ってやけに冷静に分析してたんだよね。そのあたりから、人が何をしたら喜ぶのかをやけに冷静に見る自分は生まれてたと思う。

音楽によって自分本位に考えられるようになりたいって思い続けてきたんだよね。俺の場合はずっとそれだった気がする。

―そんな自分が、何より自分を喜ばせるものとして出会えたのが音楽だったんですか。

田邊:そう、まさに一番自分が喜べるのが音楽だった。その時に出会ったのがELLEGARDENで、細美(武士)さんだったの。あんなふうに歌えたら気持ちいいだろうなって純粋に思えて。誰のことも考えず、自分がカッコいいと思う自分になれると思えたのは、音楽が初めてで。だから音楽は諦めず続けてきたし、音楽によって自分本位に考えられるようになりたい、って思い続けてきたんだよね。俺の場合はずっとそれだった気がする。

―実際、今回の歌詞は以前と比べて、歌詞が「誰かの目線に合わせていない」という感じがするんですよね。

田邊:そう、今回の曲は自分のために書いた歌ばっかりで。今までは、どうしていいかわからないけどみんなに光を与えたいっていう歌を歌ってきたと思うのね。

田邊:でも「このままじゃ死ねない」って思ったからこそ、もう着飾る必要はなくて。ただ「こういうことがムカつきます」「こういうことに悩んでます」「なにも諦めたくないです」って書けて、だからこそ「あなたも一緒なら、俺達と来てほしい」って歌えたんだよね。どういうバンドになりたいですか? ってよく聞かれる質問にもやっと答えられる気がしてる。誰かを連れて行きたいなんて今は思わない。遥か向こうで待ってるよ、とも思わない。向こうが見えないからこそ、闇雲にもがいて、一緒に生きませんかって言えるバンドなんだと思う。

歌詞以上に想いの部分が曲を引っ張った感覚が強い。

―自分はどう生きていて、自分はどう在りたくて、だから言いたいことがあるっていう個の部分が、ロックバンドに限らず全部の表現の熱量、人を高ぶらせるものになっていくと思うんです。それは表現すべてに通ずると思うし、『SICK(S)』はその気持ちが疾走感と歌の熱に直結していて、だからこそ王道を感じるメロディと直球感が生まれていると思うんですよ。

田邊:本当に曝け出せたし、この6曲に自分が一番救われてる感覚がある。だから今回って、作曲始まりじゃなくて作詞始まりが多くなったんですよ。今までだったらメロディ先行だったから、そこに歌詞を入れる順番だったのね。メロディから曲を形にする前に、メロディに対して歌詞を書いて、そこから4人で曲にして。そうすると、またメロディが新しい形に変わっていくこともたくさんあって。で、新しいメロディのほうが格段にいいっていう。

―歌いたい言葉と、バンド全体が本当の意味で束になれたことが、新しいメロディを呼んだっていうことですよね。

田邊:自分の作詞作曲バランスが変わってきたというか。詞ではあるんだけど、歌詞以上に想いの部分が曲を引っ張った感覚が強いんだよね。メンバーと腹割って話せて、何年も一緒にいるスタッフさんを笑わせたいと思えて――その喜びが大きいし、それによって自分らしく歌えた。ようやく、音楽を始めた時に思い描いてたBLUE ENCOUNTになれたと思ってる。

―今おっしゃった自分への肯定、どんなに痛みがあっても進むんだという意志がそのまま、“アンコール”という曲になっていると思ったんですが。このどでかいメロディを通常だと乗せないであろう2ビートになっていることも含め、ものすごい過剰さと熱量が込められていて。

田邊:まさに、ここまで話したこと、このままじゃ死ねないと思ったこと、全部が入ってる曲だと思う。サビ前の<巨大な砂漠の中で / 一つの花を探すような毎日だけど>っていう歌詞も、俺が上京する前に親父がくれた言葉なの。

―音楽の始まりの光景から歌になっているということ?

田邊:そうそう。ブルエンというバンドの人生がそのまま入っている曲なのかもしれない。“アンコール”って、こちらから鳴らさせるものじゃないけど、アンコールが鳴るような人間にならなくちゃいけない。求められないかもしれないけど、求められる人間になれるように、精一杯生きていくんだって歌えて。

―そこが、この作品の心臓ですよね。

田邊:これは今回の作品の中で一番最初に書いた歌詞なんだけど、曲としては一番最後にレコーディングしたもので。だから、今回の作品のテーマがまさに“アンコール”だったの。まだ死ねないし、まだ終われない。4人ともそれだけを考えてたし、絶対に悔いのないようにメロディを作りまくったし。自分達自身と言える曲だからこそ、いろんなリズムの中で2ビートが一番合うと思ったし……この曲を歌っていて一番気持ちいいのが、なにもかもを振り切るような速さだったんだよね。メロディがバンド4人の中でよりよくなっていくことも知ったから、これからさらにいい歌を書けるんだっていう可能性も掴めたと思う。

―<悲しみと歓びの先に待ってる / 未来を見に行こう><悲しみと歓びに出会えたから 現在の僕らがいる>と歌っているじゃないですか。やればやるほど自分を疑ってしまったり、誰に求められているかを考えてさらにカオスになったり、自分の中だけでズタズタになっていくんだけど、それでも諦め切れないんだって喚きながら何度でも立ち上がる姿がブルエン自身だと思ったし、それがらしさだなって改めて思ったんです。

田邊:……もう、「伝えなきゃ」って思うことはないんだろうなと思った。ちゃんと自分の心から歌えば「伝わる」って信じるバンドになれたと思う。それがBLUE ENCOUNTなんだよね。伝えなきゃ、って考え過ぎていたから、やりたいことよりもすべきことばっかり考えてたと思うし、見られ方を気にしていたと思うし……でも、自分達自身を丁寧に表現していけば、伝わる。それを信じて、これからも歌っていきたいと思ってますね。

―結局「本当の自分」って、ダサくてカッコ悪くても「これは諦め切れない」って言えてる時のことなんじゃないかって思うんですよ。それがどんなに不細工な姿だったとしても、それを言える時の気持ちを忘れちゃいけないなって思わされます。

田邊:伝わると信じているのは何かって、稚拙な言い方だけど「頑張っている姿」なんだよね。カッコつけても泥まみれでもいい。その人に合った頑張り方があるし、頑張った分の力はきっと人に伝わる。だから正解や不正解じゃなく、頑張っている人を肯定したいし、俺達も本当に必死にやるしかない。

だってさ、みんなすごい気持ちで、今見ている場所からなんとか自分の日々を操縦しているわけじゃないですか。どんなに最悪な今だって、起き上がって学校や職場に行くでしょう? それは本当にすごいことだし、俺達も必死にもがいて頑張る今を音楽にしていくしかないんだよね。

BLUE ENCOUNT『SICK(S)』を聴く(Apple Musicはこちら
リリース情報
BLUE ENCOUNT
『SICK(S)』完全生産限定盤(CD+Tシャツ、ピックキーホルダー&ステッカー)

2019年6月5日(水)発売
価格:4,500円(税込)
KSCL-3168

1. PREDATOR
2. ワンダーラスト
3. ハウリングダイバー
4. #YOLO
5. 幻聴
6. アンコール

『SICK(S)』通常盤(CD)

2019年6月5日(水)発売
価格:1,800円(税込)
KSCL-3170

1. PREDATOR
2. ワンダーラスト
3. ハウリングダイバー
4. #YOLO
5. 幻聴
6. アンコール

イベント情報
『HALL TOUR 2019 apartment of SICK(S)』

2019年6月9日(日)
会場:熊本県 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)

2019年6月21日(金)
会場:東京都 中野サンプラザホール

2019年6月28日(金)
会場:大阪府 大阪オリックス劇場

2019年7月15日(月・祝)
会場:愛知県 名古屋市公会堂 

プロフィール
BLUE ENCOUNT (ぶるー えんかうんと)

田邊駿一(Vo,Gt)、辻村勇太(Ba)、高村佳秀(Dr)、江口雄也(Gt)よる4ピースロックバンド。2004年に活動開始。2014年9月にEP『TIMELESS ROOKIE』でメジャーデビュー。2015年7月に1stフルアルバム『≒』(ニアリーイコール)をリリースし、2016年10月には日本武道館公演を開催。2017年1月には2ndフルアルバム『THE END』を、2018年3月に3rdフルアルバム『VECTOR』をリリース。結成15周年となる2019年は、バンド史上初のホールツアーを開催する。



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