和田彩花が語る『野球少女』 悩みながら諦めない姿に自分を重ねた

女性の生きづらさを描いた『82年生まれ、キム・ジヨン』、現代社会の問題を厳しく映した『梨泰院クラス』など、社会問題をエンターテイメントに昇華する韓国より最新作が到着した。映画『野球少女』は、「女性」という理由だけでプロ野球への門戸を閉ざされた天才野球少女が、周囲のサポートを受けながら、自分の夢に向かって突き進む希望的映画だ。

時代がいくら変わろうとも、「女性は/アイドルは、こうあるべき」という固定観念は世間に蔓延している。『野球少女』の主人公同様、偏見が強い社会に対して疑問を持ち、発信や音楽表現を通して私たちに戦う姿を見せてくれている和田彩花。心折れそうな時、主人公の姿に勇気をもらったと話す。「野球少女」と和田彩花、2人を重ねるように夢や偏見と向き合うことについて考えた。

「好きだから」という単純な気持ちが、この先の自分を作っていく

―近年、フェミニズムやジェンダーなど社会問題を取り扱うエンターテイメント作品が増えましたよね。小説や映画などジャンルも多岐にわたる韓国エンタメは、その一つのきっかけのように思います。

和田:自分自身がそういう作品に積極的に触れていることもありますけど、増えましたよね。今回『野球少女』を観させてもらって、こういう物語は何度観ても勇気をもらえると感じました。私自身、一人で表舞台に立ち、社会的な発言をしていると、やっぱりずっと強くいられるわけじゃなくて。迷ったり、葛藤したりすることが最近は特に増えていたので、そんなタイミングでこの映画を観られたことは心強かったです。

あらすじ:最高球速134キロを誇り、「天才野球少女」とたたえられてきたチュ・スイン。高校卒業を控えたスインは、プロ野球選手になる夢を叶えようとするが、「女子」という理由だけでプロテストを受けられない。母や友だち、野球部の監督からも、夢をあきらめて現実を見ろと忠告されるが、それでも自分を信じて突き進むスインの姿に、新任のコーチは心を動かされる。同じくプロになる夢に破れたコーチは今までとは真逆の特訓を開始。次々と立ちふさがる壁を乗り越えたスインは、遂にテストを受けるチャンスを掴むのだが――。
© 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

―天才野球少女チュ・スイン(イ・ジュヨン)は「女性」という理由だけで、プロ野球選手になるためのテストさえ受けさせてもらえません。周りに「現実を見なさい」と言われても、決して夢を諦めず邁進する姿は素敵ですよね。和田さんは具体的に、主人公のどういった部分に勇気をもらいましたか?

和田:スインは諦めないじゃないですか。ただただプロ野球選手になりたい、母親やコーチから「無理だ」と否定されても本人がやりたいことをやる。その、一直線なところが自分自身にも重なりました。スインの姿を見て「ああ、そうそう。この先の自分を作っていくのは『好きだからやりたい』という、単純な気持ちだよね」と思い出すこともあって。実は、発信活動について少し悩んでいたんですよ。反発や批判も受けるようになり、自分の言葉がうまく伝わらないこともありました。でも、心折れそうな時ほど自分の思いを信じるべきだし、まっすぐな気持ちの強さは私も知っています。映画を観ながら、主人公のことも自分のことも応援していましたね。

和田彩花(わだ あやか)
1994年8月1日生まれ。群馬県出身。アイドル。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。特技は美術について話すこと。特に好きな画家は、エドゥアール・マネ。好きな作品は『菫の花束をつけたベルト・モリゾ』。特に好きな(得意な)美術の分野は、西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。

―スインは、自分を信じることや諦めない心が強かったですよね。社会的な前提に疑問を持って、自分の意志を貫く姿は胸打たれるものがありました。

和田:単純な思いを大切にするって、難しいことですよね。私はフェミニズムやジェンダーの視点を持ったままアイドルを語ることも多いけれど、その発信に対する反発はもちろんあります。意見が様々あることは理解しているし、単純な批判であれば一つの意見として受け止めるけれど、言葉の一部を切り取って都合のいいように解釈されることもあって。時々すごく、「ああ。私がやっていることはそんなに悪いことなのかな」と自分を責めてしまうこともあって。「未来をこうしたい」という素直な気持ちで動いていて、時代や周りの応援もあるのに、進んでいるようで進んでいない現実もある。苦しくて立ち止まってしまいそうになることもあるんですけど、スインのように自分のやりたいことを追い求める純粋な思いは大切にしたいですね。

―スインは社会の偏見に対して戦い、自分の意見を言葉にして伝えたり行動に示したりします。同様に、和田さんも社会問題への疑問を積極的に発信され、自分を信じて夢を追う姿はどこか重なる部分があるように思いました。

和田:私はあんなに強くはないけれど(笑)。でも、根本的な葛藤は似ているのかもしれません。自分がやりたいことをするには努力が必要じゃないですか。自分なりにできることを積み重ねないと、何事も前に進まない。スインは、すごくコツコツ頑張るタイプでしたよね。投球速度を上げるために夜遅くまで居残り練習をして、何回も何回も投球を重ねて。

―手のひらのマメが破れて、彼女が投げた野球ボールに血がたくさんついていました。

和田:私も似たようなタイプです。ここ一年、自分の言葉としてうまく発信できないことに悩んだ時期があって。それで、一年を通して自分の問題意識に近いテーマの専門書をたくさん読んだんですね。すると理解が深まってきて、モヤモヤを自分の言葉で置き換えられるようになってきました。今でも日々の勉強は欠かせません。

『野球少女』 © 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

―コツコツ知識を積み重ねたことで、和田さんの表現が広がったんですね。

和田:はい。あとは、スインのように行動に移すことも大事ですよね。私の場合も、発信しているだけでは説得力がないから、バンドや音楽活動を通じてメッセージを表現に落とし込もうと試みています。日々悩みは絶えないけれど、コツコツ毎日努力を重ねていくと、数年後には違った自分の姿が見えてくるというのは、私もきっとスインも知っているのだと思います。

―自分に合った努力の仕方はどのように見つけられましたか?

和田:私の場合は、長年仕事と学業を両立してきたので、仕事をやりながら隙間時間で本から知識を得たり考えをまとめたりすることが当たり前になっていました。それが偶然、自分に合う方法で。いろいろ試してみないと方法はわからないかもしれません。

夢を追う主人公と、長所を伸ばして支えるコーチ。その関係から学ぶこと

和田:スインの考え方でいいなと思ったことがあって、彼女は自分自身を見ていない人──つまり「女性の野球選手」と一括りで捉えられて、価値を決められることにすごく抵抗するじゃないですか。映画の中である決断をしますが、そこで自分自身の「長所」は、回転数の早いボールを投げられる技術であって、女性であることではないと。

差別やジェンダーといった大きな問題に関心が集まるようになってよかったけれど、その次には「個人を理解する」というステップがあるのだと思いました。その人の長所を履き違えてしまわないように、これまで良しとされてきた評価基準以外の側面からも個人を見つめる大切さを、映画から感じました。

『野球少女』 © 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

―プロ野球選手になる夢に敗れたスインのコーチ(イ・ジュニョク)が、「自分の長所を伸ばすことは良いことだ」と彼女に伝えるシーンがあります。彼女の技術力や体力などを丹念に分析して、長所を見つけ出してくれる。対個人を見つめるコーチの姿も良かったですね。

和田:コーチは心強い味方でしたよね。最初は、コーチも「諦めろ」と言っていたけれど、次第にスインの熱量に感化されて、個人の必勝法を熱心に考えるようになっていく。一人でも、こういう味方が居てくれると良いですよね。

思うのは、女性同士の連帯というのは最近多く描かれるテーマじゃないですか。一方で、女性の声に対して何かしたいけどどうしたら良いのかわからない、どう理解を進めたらいいのか迷っているという声も、私の元に多く届きます。そういう人は、このコーチとスインの関係性から学ぶことは多いんじゃないかなと思いました。

『野球少女』 © 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

―たしかにそうですね。男女の連帯が描かれているのは、今作の魅力だと思います。コーチのように支えてくれる人を探すために、大事なことは何だと思われますか?

和田:素直に、思ったことを口にすることでしょうか。口にすると伝わるもので、反応してくれた人が自然と集まってきてくれるように思っています。いきなり、すべて本音で話すことは難しいかもしれないので、隙間を見つけて少しずつ発信をすると関係性が繋がっていく。そういったことが自分を支えてくれていると思います。

―周囲と衝突した場合、和田さんはどのように振る舞われていますか?

和田:近しい人の場合は、はっきり自分の意見を伝えますね。お互いの意見を交換したいと思っています。

―それは訓練が必要なことのようにも思います。

和田:そうですね。自分の気持ちが固まってないと、言葉にならないですよね。なので、意志になる前の自分の気持ちと、とことん向き合うようにしています。なぜ悔しいのか、怒っているのか、自分はどう思うのか。自分の中だけで問いかけてもわからない時は、違う分野で活躍している人を参考にすると、ヒントが見つかることがあります。でも、難しいですよね。私もスインも強く言える方ですが、みんながみんなその場で言えるわけじゃないと思うから。

和田彩花

―表に立って発信する機会が増えるほど、顔の知らない人たちの声という意見も増えてきたと思うのですが、それらとはどのように付き合っていますか?

和田:難しいですね。気にしないのが一番ですけど、無視できないこともあると最近思うようになって。誹謗中傷に対して、明らかに自分が傷ついた時はどうしたらいいのだろうと思います。今はまだいい解決方法が見つかっていないので、応援してくれる方々からのメッセージをスクショして、時々見返しては自分を立ち直らせています。

夢を追いかける楽しさと辛さ。繰り返したのは挑戦と反省

―『野球少女』は、「夢を諦めない」という輝きも映画としての魅力だと思います。青春映画の側面から、夢を追いかけることの楽しさや辛さについて、和田さんはどう感じていますか?

和田:私の場合、「何かになりたい」という気持ちは20歳過ぎまでで一旦区切りがつきました。10代の頃は、大人な女性像に憧れてそういうパフォーマンスを目指した時期もありましたけど、ある時これまでの自分を振り返って「私はあの頃思い描いていた自分になれているな」と思ったんです。今は、視野が広がって社会のことや環境のことに目を向けるようになって。考える中で見つけたメッセージを、自分の活動の中で伝えたり、アクションを起こしたりしたいです。

2020年8月にZepp Tokyoで行なわれた和田彩花ライブ『2020 延期の延期の延期』より

―10代で夢を追いかけていた過程では、どのような苦労がありましたか?

和田:なんだろう、たくさんありますよ(笑)。たとえば自分の技術が追いつかないことが、悔しかったですね。だから何度も練習をして、練習段階だとしてもステージでやってみる。ビデオで見返すとウッとなるけれど、完璧になるのは難しい。挑戦と反省を繰り返すのみでした。

―何者かになるところから、やりたいことに視野が広がっていく変化の中で、次世代や後輩への意識は芽生えましたか?

和田:グループ活動の半分以上は後輩と過ごしていたので、次世代に何かを受け渡す意識は強かったと思います。私が悩んだことと、同じことで悩ませたくなくて。だから、自分の経験から不自由に思ったことを口にして、周囲の意識が少しずつ変わっていってほしいと思っています。いつになるかわからないけれど、今も受け渡している途中ですね。

―和田さんが、ロールモデルにされている方はいらっしゃいますか?

和田:10代の後半から20代にかけては、同じ事務所の先輩や少女時代などK-POPアイドルに憧れていました。「何かになりたい」っていう思いに一旦区切りがついて、社会のこととかに目を向けるようになってからは、なかなか見つけられなかったんですけれど、最近はオノ・ヨーコさんを追っています。

―ニューヨークを拠点に1950年代から前衛芸術活動を行なってきたアーティストで、ジョン・レノンのパートナーとしても有名ですね。

和田:美術を学ぶ中で彼女の存在を意識するようになりました。音楽をやっていたり、自分の強い意志を表現にしていたり、実は自分と考えが近いのかもしれないと思って。違う時代に道を切り拓いた方ですが、エッセイを読んだり、展覧会にも足を運んだりして学びを深めています。

彼女から学んだことはたくさんあって、まず固定観念に縛られない女性のあり方について表現されているんですよ。“女性上位万歳”みたいな歌があって、力強いなって思います。曲自体もアヴァンギャルドで素敵。主流とはまた違ったところに価値を見出していく姿もカッコいいなと思いますね。

2020年8月にZepp Tokyoで行なわれた和田彩花ライブ『2020 延期の延期の延期』より

社会問題に切り込むエンタメ作品が続々。表に立つ者としての意識

―和田さんは、映画『82年生まれ、キム・ジヨン』や、今作の主演であるイ・ジュヨンが出演したドラマ『梨泰院クラス』も観られていると伺いました。こうした、社会問題に切り込んだエンターテイメント作品についてどう思われますか。

和田:小説や映画など、いろいろなメディアで語られることはいいことですよね。話題に上げることが気軽になったり、生きている中で感じたモヤモヤに気づきを与えてくれたりする。韓国作品ではないのですが、私は『軽い男じゃないのよ』(2018年配信のNetflixオリジナル作品)というフランスの映画を最近見て、モヤモヤが結構解消されました。男女の世界が逆転しちゃうっていうコメディ映画なんですが、自分が感じていたこの感情は環境や構造的な問題に由来するんだなって見えてきたりして。

フェミニズムやジェンダーといった考え方が以前よりもだんだん広く認識されはじめていますよね。これを一過性のブームで終わらせてしまっては悲しいし、取り扱われ方にも目を向けたい。私のような表に立つ者が根本的な構造にも気づいて、発信したいと思う日々です。

―イ・ジュヨンは『梨泰院クラス』でトランスジェンダーの料理長役を演じて、話題になりました。彼女は別のインタビューで、俳優としてジェンダーや差別などにまつわる社会問題にも関心が高く、自分なりの基準を設けて作品を選んでいると仰っていました。

和田:そうなんですね! 素晴らしい俳優さんですね。

『野球少女』 © 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED
『野球少女』 © 2019 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED

―和田さんも表舞台に立つ者として、どのようなことを意識されていますか?

和田:私をまなざしてくれる視点は、一つじゃないということです。アイドルでありながら、フェミニズムやジェンダーについて発信できるのは、受け入れてくれる土壌があるから。一緒に共感したり、楽しんでくれたりする人たちの存在が、すごく支えになっています。グループの時は、仲間との絆でいろんなことを乗り越えられたけれど、一人になってから多様なまなざしやファンの方との仲間意識が私の味方になりました。批判もあるしそちらに目がいってしまうこともあるけれど、そうじゃない肯定的なまなざしがある、という事実は忘れないようにしたいです。

―支えてくれる存在は大切ですね。

和田:どんな人でも、必ずどこかに手を差し伸べてくれる存在がいるはず。もし、いない場合は私がなります。

和田彩花

―最後に、『野球少女』をどのような方に観てほしいか教えていただけますか。

和田:最近思うのは、フェミニズムやジェンダーのお話をできる人って私よりも少し年上の方が多いんです。同世代だと、その苦しさの根源に気づいていなくて、女性蔑視や差別と言われてもピンと来ていない人もいると思うんです。そんな人にこそ観てもらったら、「ああ、こういう偏見が根本にあるんだな」とか感じられる作品ですよね。「女性」という理由だけで叶わないこと、偏見との向き合い方、周囲の壁や支えてくれる存在。問題に向き合う、となると堅苦しくなってしまうけれど、この作品はそういった問題を普段意識していない人も楽しめるし、私のように勇気づけられる人も多いのではないかと思います。

『野球少女』予告編

―和田さんのこれからの表現活動や発信がとても楽しみです。どのようなことを計画されているのですか。

和田:10年ほどライブ活動をしてきましたが、私は今はショーをやることは目指していません。もっと、楽しさや盛り上がりだけでは消化しきれない人の感情に寄り添いたいと思っていて。そのためにはきっと、必ずしも従来的なあり方ではない音楽表現を選ぶことになるのかもしれないと思っています。楽器の音を通してなのか、コンテンポラリーダンスなのか、ポエトリーリーディングなのか。自分の感覚を見つめ直しながら、表現を続けたいですね。

作品情報
『野球少女』

2021年3月5日(金)からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国で公開

監督・脚本:チェ・ユンテ
出演:
イ・ジュヨン
イ・ジュニョク
ヨム・ヘラン
ソン・ヨンギュ
上映時間:105分
配給:ロングライド

プロフィール
和田彩花
和田彩花 (わだ あやか)

1994年8月1日生まれ。群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月『夢見る15歳』でメジャーデビューを果たし、同年『第52回日本レコード大賞』最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術にも強い関心を寄せる。特技は美術について話すこと。特に好きな画家は、エドゥアール・マネ。好きな作品は『菫の花束をつけたベルト・モリゾ』。特に好きな(得意な)美術の分野は、西洋近代絵画、現代美術、仏像。趣味は美術に触れること。



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