奥山由之、川島小鳥、藤田一浩が仕事抜きで臼田あさ美を撮った話

三人の写真家を惹きつけた、臼田あさ美の実態とは?

この写真集は小さな奇跡かもしれない。女優の臼田あさ美を、奥山由之、川島小鳥、藤田一浩の写真家三名が撮影した『みつあみ』は、いわゆるタレント写真集とはまったく違う経緯と理由で生まれたからだ。

『臼田あさ美写真集 みつあみ』表紙
『臼田あさ美写真集 みつあみ』表紙

4月24日、刊行を記念して青山ブックセンター本店で開催されたトークイベントで、本書が生まれた経緯について四人はこう言っている。

左から:藤田一浩、臼田あさ美、奥山由之、川島小鳥
左から:藤田一浩、臼田あさ美、奥山由之、川島小鳥

臼田:奥山さん、川島さん、藤田さんとは、これまでにもお仕事でご一緒してきたんですけど、この写真集に載っているのは、何枚か撮影中のオフショットが混じってはいるものの、ここ数年プライベートで撮りためていたものです。それをたまたま双葉社の安東さんが見つけてくれて、日の目を見ることになりました。もちろん自分にとって大切な写真だから、いつかかたちにはしたいと思っていましたけど、三人の合本写真集になったのは本当に偶然なんです。

左から:藤田一浩、臼田あさ美

奥山:共通の友人とご飯を食べた帰り道とか、日常生活の延長線上で撮影していましたね。そういう意味で「写真を撮ること」が目的になっていない珍しい写真集だと思います。臼田さんも、芸能界で働いている人なのに「(私は)撮られるぞ!」という意識の少ないフラットな人だから、大学の友達にたまに会う、みたいな日常感を持って撮影ができました。

奥山由之

川島:僕は10年くらい前にファッション誌の仕事で初めて会って、あさ美ちゃんが足湯で魚に角質を食べられる様子を撮ったんだよね(笑)。そのとき、帰り道が一緒になっておしゃべりしたんだけど、ちょっと人見知りな、私服のかわいい女の子だなって思った。将来の夢を聞いたら「パン屋さんになりたい」だったし(笑)。

川島小鳥

藤田:僕が撮っていた臼田さんの写真を、安東さんに見せたのが写真集を作る直接のきっかけだったんだけど、いろいろ話を聞いていたら奥山くんも川島さんも彼女を撮っていたことがわかったんだよね。僕にとって臼田さんは「素の自分を出してくれる」人で、例えば雪の上で仰向けになった写真なんて、お酒飲んで酔っぱらった帰り道だったりする(笑)。そういう自然体なところにみんな惹かれたんだと思うな。

左から:藤田一浩、臼田あさ美

©藤田一浩
©藤田一浩

臼田と写真家の組み合わせでまったく違う仕上がりに。三者三様の「型破り」な撮影エピソード

『みつあみ』を手にとってパラパラとめくっていると、三人が言うようにテレビやファッション誌では見たことのない臼田あさ美の姿が次々と現れる。台湾の猫とベッドの上で戯れるという、いかにもガーリーなシチュエーションのすぐ後に、猫を抱いたまま大股を開き「うぉー!(にゃー! かもしれない)」と絶叫する豪快な写真がページぶち抜きでどーんと現れたりする。

©川島小鳥
©川島小鳥

あるいは夜の公園で男の子みたいに木登りする写真や、路上でお茶をする台湾のおじさんたちと記念に撮影した一枚が登場したりする。そのどれもが臼田の柔らかでちょっと真面目な人柄(トークイベントの司会進行を思わず買って出てしまったり)を伝えてくれるし、そんな彼女を好ましく思う三人の写真家の気持ちや、心地よい関係性が伝わってくる。

©奥山由之
©奥山由之

©川島小鳥
©川島小鳥

ちなみにそれぞれの写真には面白いエピソードがあって、猫と戯れた部屋の持ち主は、たまたま仲良くなった台湾の大学生で、窓越しに目が合っただけの臼田と川島を快く自室に迎え入れてくれたそうだ。トークではそんな撮影こぼれ話がいくつも披露された。さて、そんな型破り(?)な撮影を、臼田はどんな風に感じていたのだろう。

臼田:藤田さんが一番丁寧で慎重。毎回「こんにちは」の挨拶から始まる礼儀正しさがありました。小鳥さんはときめき系で、撮影はホントに楽しい時間だったんですけど、写真を見返すと切ない気持ちになっちゃうんですよね。「なんでだろう?」と考えたんですけど、卒業アルバムを見ている気持ちに近いのかもしれません。それで、奥山くんが三人の中で一番ヘンタイだったな(笑)。たぶん私のことを珍しい動物か何かだと思っているんですよ! シャッターチャンスの瞬間じゃなくて、そのちょっと後や前を狙ってずらして撮っている。覗きっぽい。だから奥山くんの写真にかわいく写るのは難しいと思います。でも、動物として生き生きしている瞬間を捉えてくれる人だから、やっぱり大好きなんですよね。

「外し」や「ずらし」の感覚がもたらした、写真集の中でも異質の「強さ」

トークの中で、奥山は『みつあみ』を「写真集として強い」と表現していた。それはおそらく、男性目線のかっこよさや色っぽさに由来する「強さ」ではなく、写真が本質的に持つ特長や弱点をありのままに受け入れた写真集であることの「強さ」ではないかと思う。

写真は「真を写す」と書くが、当たり前に写真は真実を写すことができない。ある状況で感じた感覚や衝動は、シャッターを切った瞬間には既に失われているし(原理的に0.1秒、0.01秒、0.00001秒~と、アキレスと亀の関係のように遅れてしまうから)、被写体の「かわいく写りたい」という気持ちや撮影者の「かっこよく撮りたい」という作為は、常に嘘っぽさを写真にまとわせてしまう。多くのタレント写真集はそれらの瑕疵を高度な技術によってカバーするが、字義通りに考えるなら、それは「写真」ではなく「作られたイメージ」なのだ。

では『みつあみ』はどうだろう。同書は、写真が持つ本来的な弱点をさまざまな方法で受け入れようとしている。トークの中で臼田が指摘した、シャッターチャンスをあえてずらすような奥山の撮影意図はその一つの手段だ。あるいは、ブックデザインを務めた祖父江慎+鯉沼恵一(cozfish)によって編纂され直した、三人の写真が混在するユニークなフォトストーリーは、写真が持つ「作られたイメージ」に、もう一つの虚構の物語を上書きすることで、嘘が嘘であることの自明性と、それ故の美しさを同時に伝える。

©川島小鳥
©川島小鳥

臼田いわく「本当に最高な一枚」は『みつあみ』には収められていないらしい。それは、レイアウト決定の判断を祖父江に一任したが故のことだが、むしろその「外し」の感覚が、この一冊に強さを与えているのだと思う。

いつかその一枚が日の目を見るときがやって来るかもしれない。しかし、記憶は記憶の領域にあるからこそ、その輝きを永遠に失わない。それは儚い断念ではあるが、同時に美しい断念でもあるだろう。もしも臼田が『みつあみ』を卒業アルバムのように感じたのだとしたら、それはとても鋭い感覚である。かつてはたしかに存在していて、しかし今ではもう失われた時間の青春期がここには残っているのだから。

なおこのトークの後に、臼田以外の三人による鼎談も実施。三者三様の写真論が交わされたインタビュー記事は、後日掲載予定なのでお楽しみに。

書籍情報
『臼田あさ美写真集 みつあみ』

2016年3月23日(水)発売
著者:臼田あさ美、川島小鳥、奥山由之、藤田一浩
価格:2,160円(税込)
発行:双葉社

プロフィール
臼田あさ美 (うすだ あさみ)

1984年生まれ。映画『色即ぜねれいしょん』『キツツキと雨』『鈴木先生』『グッド・ストライプス』、ドラマ『Woman』『問題のあるレストラン』『双葉荘の友人』などに出演。

奥山由之 (おくやま よしゆき)

1991年生まれ。大学在学中の2011年に、第34回写真新世紀優秀賞受賞。受賞作『Girl』が2012年に写真集として出版される。2016年、写真集『BACON ICE CREAM』が第47回講談社出版文化賞写真賞を受賞。私家版写真集に『THE NEW STORY』『march』がある。

川島小鳥 (かわしま ことり)

1980年生まれ。早稲田大学大一文学部仏文科卒業後、沼田元氣氏に師事。2007年、写真集『BABY BABY』発売。2010年、『未来ちゃん』で第42回講談社出版文化賞を受賞。2015年、『明星』で第40回木村伊兵衛賞を受賞。

藤田一浩 (ふじた かずひろ)

1969年生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、文化出版局写真部、中込一賀氏のアシスタントを経て1997年渡仏、2000年帰国。主にファッション、ポートレイト、風景の撮影を手がける。



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