長谷川白紙の初ワンマンをレポート 身体の躍動こそが表現の核心

7月20日、長谷川白紙による初めてのワンマンライブ『ニュー園 ショーケース』が恵比寿・LIQUIDROOMで開催された。コロナウイルスの感染拡大とそれにともなう政策を受け、二度の延期を強いられたのち、ようやく訪れた晴れ舞台。「おはようございます」と舞台に登場した長谷川は、「昔見た夢みたい」とこぼしつつ、歌い、踊り、観客と手を振り合いながらその実感を全身で噛み締めていた。

シークレットゲストとして出演した諭吉佳作/men、yuigotとの共演やVJ、照明、音響との融合も素晴らしかったこの日のステージ。『ミュージック・マガジン2020年9月号』における巻頭特集「日本音楽の新世代2020」で長谷川のインタビューを担当した音楽評論家・小野島大にレポート執筆を依頼したところ、返信には興味深い内容が添えられていた。

それは長谷川が当該記事のなかで「すべての固定された枠組みを壊したい」「ライブとは壊しきれない身体をさらけ出すもの」という旨の発言をしていたということだ。

初のワンマンライブにおいて、その意志がどのように立ち現れていたのか、この記事をとおして少しでもお伝えできれば幸いである。原稿の節々には、一見カオティックな長谷川の音楽が、しかし心地よく響く理由のヒントも散りばめられている。

長谷川白紙(はせがわ はくし)
1998年生まれ。2016年頃よりSoundCloudで発表していた音源が注目され、2017年にEP『アイフォーン・シックス・プラス』を発表。2018年に初CD『草木萌動』、2019年に1stアルバム『エアにに』をリリース。DAWを駆使した作品やキーボード演奏を交えたライブで注目を集めるなか、2020年に歌と鍵盤のみの弾き語りカバー集『夢の骨が襲いかかる!』を発表した。

最新ライブ開幕。爆音が容赦なく畳みかけ、しかしこの上なく気持ち良い

長谷川白紙の初ワンマンライブ『ニュー園 ショーケース』は最高だった。本当に最高だった。今年、これ以上のライブには巡り会えないかもしれない、と思った。とてつもなく美しく、とんでもなくチャーミングで、恐ろしいほどに才走っていて、素晴らしく自由で、そして愛に満ちあふれていた。

当初1月に予定していたはずが、5月、そして7月と2回の延期を経てのやっとの開催。しかしそのことで“巣食いのて”“わたしをみて”という素晴らしい新曲を2曲と、東京スカパラダイス・オーケストラとの共作曲“会いたいね。゚(゚´ω`゚)゚。 feat.長谷川白紙”をリリースした後の、最新バージョンにアップデートされた長谷川白紙を観られたことをポジティブに捉えたい。

東京スカパラダイス・オーケストラ“会いたいね。゚(゚´ω`゚)゚。 feat.長谷川白紙”ミュージックビデオ

場内が暗転し、しばしの間が空いて明滅する光が背後から照らす。白いコスチュームを着た長谷川が登場し、激しく鍵盤を叩き始め、1st EP『アイフォーン・シックス・プラス』収録の“横顔S”が始まる。続いて『エアにに』収録の“怖いところ”“o(__*)”、『草木萌動』収録の“毒”、再び『エアにに』から“砂漠で”と、畳みかけるような高速ナンバーが怒濤のごとく続き、凄まじく複雑なパターンのビートが間断なく爆音で鳴らされる。

パーカッション音は容赦なくカラダに突き刺さってくるが決して耳障りでなく、音数は多いが一つひとつの音の鳴りが柔らかいから、決して必要以上に攻撃的にならない。

ドリルンベース的な高速変則ビートと偏執狂的な音数の多さという点ではスクエアプッシャーにも似ているが、長谷川の音には硬質な刺激はなく、中性的なしなやかさと芯の強さがある。フロアから直接地響きを伴って肉体に作用する重低音の強烈なアタックと柔らかいが強靱な上モノのバランスが抜群で、気持ちいいことこの上ない。

一見カオスなサウンドであっても、エンジニアのZAK(長谷川も多大なる影響を受けたというレイ・ハラカミも担当)が巧みにさばきながら整然とした音列に導くことで、メロディーの強さと歌のエモーションを浮かび上がらせていた。

身体の躍動こそが表現の核心。ライブで際立つ肉体の存在感

長谷川の音楽上の最大の特徴はその圧倒的な情報量の多さ、言い換えると語法の過剰さである。ジャズ、プログレ、テクノ~エレクトロニカ~IDM、ブレイクコア~ドリルンベースからポップス、ロックに至るさまざまな音楽要素が過剰なほどぎっしりと詰め込まれ、拍数も調性も自由なブロークンビーツが怒濤のように押し寄せてくる。その駆け抜けるスピードは快感そのものだ。

といって少しもぺダンティック(知識をひけらかす様子)にならずマニアックな印象も受けないのは、J-POPに通じるような突き抜けたポップセンスと、歌い演奏する長谷川の優れた身体性ゆえだ。激しく鍵盤を叩き、歌う身体が目の前で躍動する。その身体の躍動こそが長谷川の表現の核心であることがはっきりと確認できた。

特筆すべきは長谷川のボーカルである。パワフルであり、繊細であり、押しつけがましさなど微塵もないけれど優れた感情表現と個性があり、そして何よりチャーミングだ。その表情は、背後で間断なく明滅するカラフルなVJ映像とストロボライトの逆光になってほとんどうかがえないが、それによりさらに肉体の存在感は際立つ。

諭吉佳作/menとの共演やサカナクションのカバーで響かせるメッセージ

いったん舞台が暗転し、長谷川が『草木萌動』でカバーしたYMOの“キュー”をゲストの諭吉佳作/menが歌う。この日のアレンジは『草木萌動』収録バージョンともかなり違っていて、よりグルーヴィーで肉体的。ハンドマイクを持ち、舞うように歌う諭吉佳作/menのボーカルは喜びに満ちていて素晴らしい。

長谷川白紙“キュー”を聴く(Apple Musicはこちら

ステージ袖で休憩がてらその様子を見ていたらしい長谷川が、演奏後興奮さめやらぬ様子ではしゃぎ気味に諭吉佳作/menに話しかけるあたりで、息を詰めて見守っていた観客もホッと肩の力を抜き、長谷川の憎めぬ天真爛漫なキャラクターが露わになってくる。

続く“巣食いのて”では両者のデュエットが披露された。諭吉佳作/menとの共作によるこの曲の歌詞は観念的で難解だが、<x-y,yy-x><yy-x,yy-,>などと、男 / 女の単純な二元論を無効化するようなメッセージが忍ばせてあるようでもある。

かつて私とのインタビューで長谷川は「自分を固定する枠組みを破壊し続けたい」と語り、その枠組みを最初に意識したのはジェンダーロールだったと語っている。長谷川のなかには性の二元論を拒絶し、ただ誠実で真摯な一人の人間でいたい、一人の人間としてあなたとわかり合いたいという思いがあり、それを音楽で表現しているのかもしれない。そうした長谷川の姿勢がライブの後半ではより顕著に表れたように思う。

左から:諭吉佳作/men、長谷川白紙
長谷川白紙 + 諭吉佳作/men“巣食いのて”ミュージックビデオ。監督は長久允

Flying Lotusの配信ライブ『THE HIT』で初披露された“わたしをみて”に続き、長谷川はエレクトリックピアノの弾き語りで『夢の骨が襲いかかる!』に収録されたサカナクションのカバー“セントレイ”とオリジナル楽曲“シー・チェンジ”を続けて演奏する。これはこの日のハイライトとも言うべき瞬間だった。

<まだまだ言えないこともたくさんあるけど / 夜には言えるさ><見えてきたんだ / 1000と0と線と点の裏 / 重なる世界 / 僕と君が繋がる世界>という“セントレイ”の歌詞は、一つの単語を分解して提示したり筋道立った論理性を拒絶する側面もある長谷川の歌詞よりも、ある意味でストレートで強いメッセージを伝えてくる。

長谷川白紙がカバーしたサカナクション“セントレイ”を聴く(Apple Musicはこちら

もともとは内省的なシンガーソングライターの資質の持ち主である山口一郎は、サカナクションにおいて多種多様のエレクトロニックな意匠を用いることで、さまざまな層のリスナーとつながることができた。

もしかしたら長谷川はそんな山口一郎 / サカナクションのあり方に共感を抱き、自作曲ではあまり前面に出さないストレートなメッセージを“セントレイ”に託したのかもしれない。そう思うほど感動的なプレイだった。

聴くことは歌うこと。固定化された身体を更新し、辿り着いた光と愛の地点

続く“悪魔”や“いつくしい日々”のカラフルな音の星屑が降り注いでくるようなサイケデリックな体験、“山が見える”のシャープでキレのいい音像は、いずれも音源で聴くよりもマッシブで実在的、かつポップに聞こえる。

自在な曲想と自由なアイデア、クリアな音響と曲の世界観を的確に表現したVJ、切れ味のある照明、溢れ出るリズムとメロディーが一体化して、いつしかダンスフロアは幸福な一体感で満たされている。感極まった長谷川が言う。

「(コロナ禍のライブで)声が出せなくても、聴くことは歌うのと同じだと思う。だから、聴いてくれてありがとう」

ここではすべての光と愛が長谷川に集中している。

以前、長谷川は私に「いまある全部を破壊したい」と語った。それは自分を縛り付けるあらゆる制約から自由になりたいということだ。固定化された身体は長谷川を縛る制約だが、それを破壊することはできない。だからこそ、長谷川はその身体をさらけ出し、躍動させ続ける。そうして躍動する身体こそがこんなにも美しい音楽を作る。

長谷川は誰よりも美しく激しく新しく暖かい音をつくり、固定化された身体を更新しつづけることでこそ、自分が愛する人・愛してくれる人とより一層深く強くつながりたいと望んでいる。

オーディエンスとアーティストの幸福な一体感がフロアを満たすフィナーレへ

“音がする”でのyuigotとの共演も、この日のハイライトだった。軽妙なリズムとメロディー、研ぎ澄まされた音の応酬に拍手とダンスで会場が一体となる。yuigotのセンスに唸る。

yuigot + 長谷川白紙“音がする”ミュージックビデオ

思わず長谷川が発した「ここにいる人たちは全員私のことが好きなんだね」という言葉は、初ワンマンライブの音楽家らしい初々しいものだったが、そうした実感と手応えをたしかに長谷川は得たのだ。

そんな音楽家がいかに輝くか、そうして輝く音楽家とともに過ごすことがファンにとってどんなに幸福なことか、この日のライブは示していた。何より長谷川自身が、この場でプレイできることを心から楽しんでいた。逆光で見えなかった長谷川の素顔は、その表情は、もう遠目にもはっきりと見えていた。

“あなただけ”で本編は終了。アンコールで出てきた長谷川はヘンデルのオペラ作品『セルセ』から“オンブラ・マイ・フ”を演奏。「この曲をやった意味は次までの宿題にしておきます」という思わせぶりなMCのあとは出世作“草木”。フロアが一気に沸騰する。

演奏が終わったあとも鳴り止まない拍手に、おそらくは予定になかったダブルアンコールに引っ張り出された長谷川は、歌詞ノートを見ながらSAKANAMONの“ミュージックプランクトン”を弾き語って、今度こそおしまい。

音楽ファンを憂鬱にさせるような出来事が次々と起こった『東京オリンピック』直前。せめてこの日だけはと駆けつけたオーディエンスとアーティストの幸福な、そして理想的な一体感を実感した夜だった。

イベント情報
『ニュー園 ショーケース』

2021年7月20日(火)
会場:東京都 恵比寿LIQUIDROOM

リリース情報
長谷川白紙
『わたしをみて』

2021年7月9日(金)配信

長谷川白紙 + 諭吉佳作/men
『巣食いのて』

2021年6月18日(金)配信

プロフィール
長谷川白紙
長谷川白紙 (はせがわ はくし)

1998年生まれ。2016年頃よりSoundCloudで発表していた音源が注目され、2017年にEP『アイフォーン・シックス・プラス』を発表。2018年に初CD『草木萌動』、2019年に1stアルバム『エアにに』をリリース。DAWを駆使した作品やキーボード演奏を交えたライブで注目を集めるなか、2020年に歌と鍵盤のみの弾き語りカバー集『夢の骨が襲いかかる!』を発表した。



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