中小企業×クリエイター。普段出会わぬ才能が化学反応を起こした5日間

「企業とクリエイターの団らんの場」が生まれた5日間

11月4日から8日までの5日間、YCCヨコハマ創造都市センターで『YOKOHAMA CREATIVE WEEK』が行なわれた。横浜市では、市内の企業とクリエイターのコラボレーションをコーディネートし、ビジネスに新しい付加価値を生み出す「創造的産業の振興」に取り組んでいる。今回のイベントは全体のプロデュースに「PASS THE BATON」「Soup Stock Tokyo」などで知られるスマイルズが加わり、期間中はコラボレーションによって生まれたプロダクトの展示やワークショップなどで、その活動をアピールした。

『YOKOHAMA CREATIVE WEEK』会場風景 photo by Toshiyuki Udagawa
『YOKOHAMA CREATIVE WEEK』会場風景 photo by Toshiyuki Udagawa

エキシビション『ヨコハマの家』では、YCC内に小さな家が設置され、計7社4組のコラボレーションによって作られた実験的なプロダクトを展示。初日には、参加企業とクリエイターたちによるトークイベント&交流会『ヨコハマの家ができるまで』も行なわれた。

トークイベント&交流会『ヨコハマの家ができるまで』会場風景 photo by Toshiyuki Udagawa
トークイベント&交流会『ヨコハマの家ができるまで』会場風景 photo by Toshiyuki Udagawa

『ヨコハマの家』では、スモールハウスや空き家の再生などで、「小さな暮らし」に特化した活動をするYADOKARIがディレクションを担当。トークイベントでも同社のさわだいっせい、ウエスギセイタが進行を行ない、二人は今回のテーマについて、企業とクリエイターの団らんの場になってほしいという想いを込め、家の中でも「食卓」というシーンを切り取ってディレクションしたと説明した。

『ヨコハマの家』 photo by rakuda
『ヨコハマの家』 photo by rakuda

長年培ってきた技術とグッドアイデアの出会い。7社4組の制作の裏側

続いて展示された各作品が紹介されると、参加した企業とクリエイターが制作の過程や、終えてみての感想を述べ合った。CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の製造・加工を得意とするACMと、被災地で活きる知識共有サイト「OLIVE」などで知られるNOSIGNERのペアは、軽量で丈夫なCFRPの特性を活かした屏風を制作。「この枠組の薄さで、歪みなく立っていることはすごい」(NOSIGNER・太刀川代表)、「炭素繊維のすぐれた部分を表現したデザイン」(ACM・大久保代表)と互いの仕事を評価した 。

NOSIGNERとACMが共同制作した屏風 photo by rakuda
NOSIGNERとACMが共同制作した屏風 photo by rakuda

化粧箱をはじめとする紙工品を手掛ける荒井紙器製作所と、日本・フィンランド・デンマーク出身のメンバーによるデザインユニット・KANPISのペアは、貼り箱の技術を使って美しい色合いに仕上げた紙製の照明家具を制作。

KANPISと荒井紙器製作所が共同制作した照明家具 photo by rakuda
KANPISと荒井紙器製作所が共同制作した照明家具 photo by rakuda

KANPISの岩佐代表は、3年ほど前から段ボールを使った家具を手がけてきたそうだが、今回は膠(にかわ)を使うことで歪みや反りをなくし、通常の段ボール工場ではできないと言われていたデザインを実現したと話した。一方、荒井紙器製作所の荒井代表も、かなりの紆余曲折があったことを話しつつ、これまで培ってきた技術を活かして新たな挑戦ができたことに手応えを感じていたようだった。

KANPISと荒井紙器製作所が共同制作した照明家具 photo by rakuda
KANPISと荒井紙器製作所が共同制作した照明家具 photo by rakuda

高精度のガラス部品を制作する横浜石英と、リノベーションの設計・施工などを中心に活躍するROOVICEのペアは、木製家具をガラスでリペアすることにチャレンジ。古い木製家具になると、経年による収縮があるため補修が難しいことが課題だったが、「横浜石英さんの高い技術のおかげで、形状は変わらないが、まったく新しいものができた」とROOVICEの福井代表は新たな可能性を感じた様子。普段はミクロン単位のガラス加工をしている横浜石英の新川代表も、「図面もなく、測る場所によって寸法が違うので困ったが、なんとか形にできて安心した」と、高い技術が必要となる制作の裏側を話していた。

ROOVICEと横浜石英が手がけた木製家具 photo by rakuda
ROOVICEと横浜石英が手がけた木製家具 photo by rakuda

そして、0.1マイクロメートル単位の超高精度なピアノ線・ステンレス線を製造する協立金属工業は、作品展示に使用するワイヤーを提供。施工を手掛けたROOVICEの福井代表は、「ある程度は存在感を感じてもらわないとイリュージョンになってしまうので」と、ギリギリ視認できる細さのワイヤーを選んだそうだが、「展示した作品が宙に浮いているような感覚を楽しんでほしい」と見どころを解説。

ワイヤーで吊られて浮いているように見える作品 photo by rakuda
ワイヤーで吊られて浮いているように見える作品 photo by rakuda

協立金属工業の松村代表は、「技術を持っているだけでは売れないので、クリエイターの方の視点を勉強させていただいた」と、今回の経験を振り返った。

ROOVICEが手がけた協立金属工業のワイヤーによる作品展示 photo by rakuda
ROOVICEが手がけた協立金属工業のワイヤーによる作品展示 photo by rakuda

トライ&エラーで模索する、企業とデザイナーのこれからの関係

各社とも制作は順風満帆だったわけではなく、何度もトライ&エラーを繰り返して完成にこぎつけたことを話していたが、企業側は素材や技術の新たな活用法を見出すきっかけとしても、有意義なコラボになったのではないだろうか。NOSIGNERの太刀川が、かつて需要が減少していた徳島の鏡台産業に携わった経験から、「デザイナーとして携わるときに、かっこいい鏡台を作るのではなく、新しい用途に転換しないといけない」と話していたことも印象的だった。

『YOKOHAMA CREATIVE WEEK』トークイベント風景(右から4人目がNOSIGNER太刀川英輔) photo by Toshiyuki Udagawa
『YOKOHAMA CREATIVE WEEK』トークイベント風景(右から4人目がNOSIGNER太刀川英輔) photo by Toshiyuki Udagawa

また、クリエイター側も普段なかなか出会えない技術を持った企業と仕事ができる貴重な機会となったはずだ。インターネットや交通手段の発達も手伝い、近年は地方を拠点に活動するクリエイターも増えている印象があるが、どうしても仕事の数や質は東京のほうが優れていると認識している人も多いだろう。しかし、市が企業とクリエイターを結びつけるサポートをすることで、こうした点がクリアになるなら、横浜に住んで活動することも、クリエイターにとってひとつの選択肢になるのではないか。東京のすぐ隣という立地条件も考えれば、横浜を拠点にしつつ、都内で仕事をすることも難しくない。

このほかにも横浜市では、アーティストやクリエイターに対する相談・支援・情報提供のワンストップ窓口や事務所開設に対する助成支援などを行うアーツコミッション・ヨコハマや、アーティストやクリエーターの制作・発表・滞在支援を行う創造界隈拠点(YCCヨコハマ創造都市センター、BankART Studio NYK、黄金町エリアマネジメントセンター、象の鼻テラス、急な坂スタジオ)など、クリエイターやアーティストに対する支援は少なくない。こうした横浜市や市内各団体の取り組みが積み重なれば、クリエイターが活動しやすい街として認知される日も来るかもしれない。優秀なクリエイターが集まれば、市内の企業もビジネスに活用しやすくなり、仕事が増えれば横浜に拠点を置くクリエイターも増える。口で言うほど簡単なことではないだろうが、こうした好循環が生まれれば理想的であることは間違いない。今後の横浜市の取り組みにも注目したいと思う。

イベント情報
『YOKOHAMA CREATIVE WEEK』

2015年11月4日(水)~11月8日(日)
会場:神奈川県 横浜 YCC ヨコハマ創造都市センター
時間:11:00~22:00(最終日は20:00まで)



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