自分らしい文章、どうしたら書ける?230人を「文体模写」したライターに聞く

プロフィール
神田桂一
神田桂一

1978年生まれのライター、編集者。週刊誌『FLASH』記者、ニコニコニュース編集部記者を経てフリーに。『スペクテイター』『POPEYE』『ケトル』『DANRO』『yomyom』などに執筆。現在、台湾のサブカルチャーに関する単行本を執筆中。

菊池良
菊池良

1987年生まれのライター、WEB編集者。学生時代に制作したWEBサイト「世界一即戦力な男」が話題となり、書籍化、WEBドラマ化。WEB制作会社の株式会社LIG、ヤフー株式会社を経てフリーに。『ダ・ヴィンチ』『&Premium』『ケトル』などに寄稿。最新の著書は、歴代の芥川賞著作180作を読破して書き上げた『芥川賞全部読む』(宝島社)。

太宰治にドストエフスキー、星野源、『POPEYE』……。文学者や著名人など、230人もの「文体模写」で綴られた『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら(以下、もしそば)』シリーズ。累計17万部を達成したベストセラーの著者は、それぞれ村上春樹の文体模写をしていたライターの神田桂一さんと菊池良さんです。そもそも書き手の「文体」とは、いったいどこから生まれるものなのでしょうか?
「村上春樹っぽい」文体のつくり方から、文体模写を経て考える、二人自身の文体のあり方まで、「文章の個性」をテーマに話を聞きました。

取材・文:原里実(CINRA) 撮影:丹野雄二

「おれ、いま村上春樹じゃないか?」みたいな。シンクロできる瞬間がすごい快感

—まずはそれぞれ、どういうきっかけで村上春樹の文体模写を始めたのか教えてください。

菊池:じゃあ、五十音順で神田さんから……。

—お願いします(笑)。

神田:ぼくの場合は、『ケトル』という雑誌の企画で編集長から無茶振りされました。

菊池:その前から、ずっと村上春樹は好きだったんですよね。

左から、神田桂一さん、菊池良さん

左から、神田桂一さん、菊池良さん

神田:そうですね、全部読んでました。それで村上春樹特集のときに、彼の文体でルポを書けと言われ、焦ったんですが意外に上手くできて。調子に乗っていろいろなところで村上春樹模写を書き散らしていたら、菊池くんと出会ったんです。

菊池:引き寄せられましたね。ぼくも村上春樹が好きで、長編は全部読んでて、Twitterとかで文体模写をやってました。村上春樹の文体って、なぜかみんなが知ってるんです。で、みんなが知っている文体で、予想外のことを書くとウケがいい。それに、村上春樹の模写って、やってて楽しいんですよ。

↑『もしそば』出版のきっかけとなった菊池さんのツイート

神田:楽しいよね。

菊池:作品のなかの「ぼく」になったかのような錯覚を起こすんです。

神田:村上春樹と、がっつり同化できる瞬間があって。「おれ、いま、村上春樹じゃねーか?」みたいな。シンクロできる瞬間がすごい快感ですよね。

村上春樹の文章って、汎用性があるのかもしれない

—お二人とも村上春樹の小説をよく読んでいたということですが、だからといってすぐに真似して書けるものなんでしょうか。

神田:その特集の原稿の締切が、取材の1日後だったんですよ。それで勢いに乗って書いたんですけど、意外と書けました。相性がよかったのかもしれない(笑)。

菊池:ぼくもわりとすぐ書けましたね。

神田:村上春樹の文章って、汎用性があるのかもしれない……。

菊池:汎用性はすごいありますね。

—どういう意味ですか。

神田:誰にでも真似できそう、みたいな感じです。平易な言葉を使っていたりとか。

菊池:特に初期の文体は、文章の構造もすごいシンプルですね。

—とはいえ、シンプルに書いたら村上春樹になるというわけでもないですよね。

神田:ないですね、これが。

—すると、シンプルで汎用性があるなかに、プラスアルファで村上春樹のエッセンスが入っている。

神田:入ってるんですよ。

菊池:よく使う、技法とかがあって。例えば同語反復。「ぼくはわからない」って言ったら、相手が「わからない」って相槌を打つとか。

神田:法則がいろいろあるんですよね。「わりに」って単語がやたら出てきたり。

菊池:そう、出てきますね。

神田:「いい」って言わずに「悪くない」って言ったり。この間の『文芸春秋』に、春樹がドイツにワーグナーの演奏を聴きにいくっていうレポートエッセイが載ってたんですよ(2019年10月号)。読んだら、「わりに」と「悪くない」両方書いてました(笑)。

菊池:決め台詞ですね。

神田:決め台詞はありますね。あと特徴的なのは、比喩ですね。「T型フォードのような昼下がり」だとか「なんとなく北極の天体観測所を想起させる」とか(「もし村上春樹がタイの風水師に2019年のタイを占ってもらったら」より)。

あとは、「スパゲッティはアルデンテに到達しようとしていた。僕は、この話を早く切り上げて、茹で上がったスパゲッティを次の工程に進める必要があった(スパゲッティを作るには全部で10の工程がある)。」みたいに、細かい数字を入れるとか。

菊池:年号を入れるとかね。

—そういうものをトッピングしていくことによって、村上春樹らしさが出てくると。

春樹にはおしゃれなイメージがあるけど、単なる「独身男性の自炊」なんですよ

菊池:でも面白いのが、あんまり細かくやっちゃうと、だんだん似てなくなってくるんですよ。

—それはなぜでしょうか。

菊池:みんながみんな、村上春樹作品を読んでるわけじゃないからです。読んでない人が感じる「村上春樹っぽさ」って、ちょっと……というかだいぶ、ずれてるんです。本当は。

例えば、「村上春樹の酒」といえば、ピニャ・コラーダを思い浮かべる人が多いんですけど、実際に作中でピニャ・コラーダを飲んでるのは『ダンス・ダンス・ダンス』だけなんですよ。他は、ビール。ワインはあんまり出てこない。でも春樹にビールのイメージがあるかというと、そうじゃないんです。

たとえば、「パスタ」って言わないとかもありますけど。

神田:「スパゲッティ」ですね。

菊池:そのスパゲッティも、店で食べてないんですよ。

神田:家で、自分でつくってる。

菊池:そう、単なる「独身男性の自炊」なんですよ。でもなぜか、おしゃれなイメージがあるっていう。

—なるほど。再現しているのは「村上春樹そのもの」ではなく、「世間一般に流布した、デフォルメされた村上春樹のイメージ」なんですね。

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重要な要素として、その人の「思想」を模写するっていうのがあるんです

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—『もしそば』でいろんな方の模写をするにあたっては、まずどういうことから始めたんですか。

続編の『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら 青のりMAX』も発売中

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神田:基本的には自分たちの好きな作家を選んだんですけど、未読の場合は少なくともデビュー作と代表作を読みました。

—それで、特徴をリストアップしたりとか。

菊池:しましたね。頻出単語を。

神田:単語と、語尾。

菊池:あとは、全体の見た目とか。

神田:ひらがなが多いとか少ないとか、結構違いがあるんですよね。

—『もしそば』のなかには、ルビがたくさんふってある作品もありますよね。それも「見た目」ですね。

神田:ただ、重要な要素として、その人が言いそうなことや「思想」を模写するっていうのがあるんです。

—たしかに、カップ焼きそばのつくり方のなかでも、どこにフォーカスして何を描写するかにすごくいろいろなバリエーションがあるなと思いました。

神田:村上春樹にしても、さっき言ったようなテクニックはたしかにあるんですけど、最終的には登場人物が言いそうなことを掴むのが一番。そして、それはたくさんの著書を読まないと掴めないと思います。

本筋と関係ないところをどう書くかが「個性」だと思います

—文体模写ってもしかして、「自分の文体」というか、自分が書いていて心地いい言葉を探し出すためのヒントになるんじゃないかと思いました。

神田:そうですね。いろんな文体を体験するのはすごくいい経験になったと思います。

菊池:なんて言うんだろう、ぼくはすごく「わかりました」ね。わかりませんでした?

神田:うん、わかりました。

菊池:わかったんです。文章の構造とか、それをどう配置したら伝わるのか、個性が出るのか、そういうことがすごくわかるようになりました。人の文章を読んだときに、「骨格」だけ読める。これは本筋に関係ない話だなとか、この一文ってなんの意味もないなとか、「無駄な肉」が見えるというか。

—逆に、その「いらないもの」をあえて入れるというのが、その人の個性だったりするんでしょうか。

菊池:まさに。その「本筋と関係ないところ」をどう書くかが個性だと思います。

—でも、書き手自身はそれを無駄とは思っていなくて、自然に書いてしまうからこそ「個性」なんでしょうか。

菊池:そうだと思います。『もしそば』で本当に伝えなきゃいけないのは「カップ焼きそばのつくり方」で、その工程は決まってるんですけど、それぞれの著者らしさを出すには、関係のないことを書かなきゃいけないんです。

神田:そうだよね。

いまは「無」の文章が書けるようになりました

—ご自身の文体は、どのようなものとしてとらえていますか。

菊池:難しいですね。10年くらい前は、山本一郎さんみたいな文体だったんですよ。本筋と関係ないことをいっぱい書いて、それが笑えるみたいな。でも、いまはそうじゃないですね。

—なぜ変わったんでしょうか。

菊池:文体模写をしたことが大きいですね。いまは……IKEAの説明書みたいな文体ですかね。あれ、IKEAの説明書って文章書いてないんでしたっけ(笑)。

ユニバーサルな表現として知られるIKEAの説明書(編集部撮影)

ユニバーサルな表現として知られるIKEAの説明書(編集部撮影)

菊池:いまは誰とも似てないんじゃないですかね。わざとまったく個性がない書き方をしてます。いま思えば、ぼくは「文体模写体質」だったんだと思います。最初の山本一郎さんにはじまり、LIGブログのときは周りのWEBライターの模写をやってたようなもんです(LIGブログ:LIGが運営するブログ。菊池さんも在籍時、書いていた記事がバズっていた)。最近、メールを書くときはビジネスメールの模写してますね。そういうことを経た結果、「無」の文章が書けるようになった気がします。

—あえて、個性がない書き方をしているのはなぜなのでしょうか。

菊池:それはさっき言った「IKEAの説明書」がぼくの理想だからですね。誰にでも伝わる文章が書きたいのです。あまねく人に伝わって、大勢の人に面白いものを書きたいので、そういうふうに考えてるのかもしれません。

菊池さんが学生時代に制作したWEBサイト「世界一即戦力な男」は、書籍化、WEBドラマ化もされた

菊池さんが学生時代に制作したWEBサイト「世界一即戦力な男」は、書籍化、WEBドラマ化もされた

ノンフィクションでも「主観報道」なら、文章の個性は重要です

—ご自身の文体について、神田さんはどうですか。

神田:ぼくも、割と誰にも似てない文体だとは思ってて。「ノンフィクション文体」というか、あまり装飾がない、乾いた文体というか。でも一部では「エモい」とも言われます。それは多分、沢木耕太郎をはじめとする、ニュージャーナリズムに影響されてるからなんだと思うんですよね。

現実を伝えるにも、客観報道と主観報道とがあって、どっちが有効なのかっていう問題があるんです。そのなかで、客観報道だとなかなか伝えられない細部を、主観報道なら生々しく伝えられるという議論がある。ニュージャーナリズムは、主観に重きを置く、アメリカ発祥のジャーナリズムのスタイルです。同じノンフィクションでもこういう手法をとるときには、文章の「個性」は重要になってくると思います。

—神田さんの文章はたしかに、さらっとしているなかに、たまに個性的な単語が出てきたりする印象があります。

神田:それも、文体模写をした挙句に「はみ出た」文体、いろんな真似をした挙句にそこからはみ出た、自分なりの個性だと思ってはいるんですけど。それでもやっぱりどこかに、影響を受けている人の影がいるものなのかもしれないです。

—そもそも書くことを仕事にしようと思ったのには、どういうきっかけがあったんですか。

神田:ぼくは大嫌いだったんですよ。小学校のときから、読書感想文が大っ嫌いで。400字詰の原稿用紙1枚が埋まらない。何を書けばいいのか思いつかなくて。大学も法学部で卒論がなかったので、大学卒業まで長文をほぼ書いたことがなかったんですよ。

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文体模写を経て気づいた。「あの作家とあの作家は文体が似ている」

1日に2万字書いて、2万円もらったりとかして

—ずいぶん長い間ですね。そこから書くことをまた始めたきっかけというのは。

神田:雑誌が好きで、編集者に興味がありました。文章は書く気なかったんです。でも、記者の試験に合格して、書かなきゃいけなくなって。もちろん最初はボコボコに言われましたけど、だんだんまともに書けるようになって。人から褒められることで自信が出てきたり、やってみようって気持ちになったりしながら、だんだん楽しくなって、いまに至る感じです。

—菊池さんはいかがですか。

菊池:ぼくはブログブームの頃にブログを始めて、それからバイトでライターを始めたのがきっかけです。昔、「ライター募集WEB」っていう掲示板がありまして、そこに日々求人が投稿されるんですよ。「ブログ100記事納品、1記事200円」みたいな求人がバーっとあって、そこから応募してやってましたね。

1文字1円の案件があったんですが、上限が決まってなくて、書いたぶんだけ払ってくれて。なので1日に2万字書いて、2万円もらったりとかして。いいバイトでしたね。

—1日に2万字書くことも、苦ではなかったんですね。

菊池:まったく苦ではなかったですね。いくらでも書けました。

調べていくと、二人の接点はトルーマン・カポーティの『冷血』に行き着くんです

神田:文体の話でいうと、村上春樹と沢木耕太郎、二人の文体は似てるんじゃないかっていう説を唱えてるんですよ、いま。

菊池:「文体似ているバナシ」ですね、ありますね。

神田:沢木耕太郎の『ポーカー・フェース』っていうエッセイに、「ブラッディ・マリーが好きで、飛行機でよく飲んでる」って話が出てくるんですよ。そして「ムラカミさんと一緒ですね」って、客室乗務員に言われる。エッセイのこの部分では「ムラカミさん」が村上春樹であるとはまだ明かされないんですが、ぼくは村上春樹も飛行機でブラディ・メアリー(村上春樹の書き方ではこうなる)を飲むのが好きだというのは知ってたんですよ。だからすぐにわかった。

それで、二人の著作をパラパラと読んでいるときに、文体が似てると気づいて。調べていくと、接点がトルーマン・カポーティの『冷血』に行き着くんですよ。

あれってノンフィクション・ノベルって呼ばれてて、ノンフィクションであり、小説でもある。で、村上春樹も沢木耕太郎も、カポーティが大好き。二人とも、小説もノンフィクションも書いている。……っていうようなことを、ちょうど掘り下げようかなと思ってたところなんです。

菊池:面白い! 言われてみれば村上春樹の文体は、ニュージャーナリズムっぽさがありますね。ぼくは、小説家でノンフィクションも書くトム・ウルフの文体が好きなんですが、わかる気がします。

神田:カッコつけ方が似てるというか、これもやっぱり、ニュージャーナリズムなんですよね。アメリカ人のトルーマン・カポーティはその第一人者なんですけど、沢木耕太郎は日本の旗手といわれてて。村上春樹も、ノンフィクションとして、阪神大震災を扱った『アンダーグラウンド』という作品を書いています。これも、ニュージャーナリズムを意識したのかなって。

—トルーマン・カポーティの文章は、英語の原文を日本語に翻訳したものですよね。

神田:そうなんですよ。翻訳文体なんですよね、要は。他にも二人の共通点はいろいろあって、年齢もたったの1歳違い。しかもすごいのが、村上春樹が『風の歌を聴け』で群像新人賞をとったのと、沢木耕太郎が『テロルの決算』で大宅壮一ノンフィクション賞をとったのは同じ年。二人ともデビューが1979年なんです。

いっぱい本を読んで、「浴びる」ことが大事だと思います

菊池:面白いですね。ぼくも文体模写して気づいたことなんですけど、現代小説家の町田康さんと、夏目漱石の『坊ちゃん』の文体がそっくりなんですよ。主人公の主観で勢いよく江戸言葉で喋るところとか、啖呵の切り方とか。

町田康さんって最初バンドをやってたんですけど、1980年代後半に音楽活動を一切やめて、3年くらい図書館で近代文学を読むだけの時期があったらしいんです。そのときに夏目漱石も全部読んだって言ってて。それを知って町田康さんの作品を読むと、芥川賞をとった『きれぎれ』って、ベースが夏目漱石の『それから』なんですよ。遊び歩いてる放蕩息子がいて、とか、設定がおんなじなんですね。

神田:村上春樹と安部公房も似てるしね。

菊池:あ、似てる! 似てるし、安部公房読んでるって言ってましたよ、村上春樹。

神田:両方とも影がない人とか出てくるし。

菊池:確かに……! シュールなところすごく安部公房ですね。

—そう考えると、完全なオリジナルって存在しないのかもしれないですね。何かをインプットしてはじめて、アウトプットにつながるというか。

菊池:そうですね。

—そうするとやっぱり、自分なりのアウトプットの方法を探るためには、いろんな人の文章を読むことが大事なんでしょうか。

神田:そうですね。いっぱい本を読んで、浴びることが大事だと思います。



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