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大手企業から、サイゾー編集部へ。

大手企業に就職して営業をしていた「げんさん」は30歳の時、安定した道を全て捨て、かつてからの憧れであった編集者の道を歩き始めた。入社したのはメディアの中でも鋭い切り口の情報発信で知られる株式会社サイゾー。世間一般的には、冒険とも思われる転職だが、そんな彼を動かしたのは一体なんだったのだろうか。サイゾーといえば、どんなとんでもない人が働いているか?
と思いきや、げんさんの視点は驚くほど現実的だ。「楽しいことをきちんとやって、ビジネスを成立させたい」と語るげんさんが、夢と現実の間で持つべき冷静な視点について語ってくれた。

Profile

げんさん

1981年7月3日生まれ。大手企業で営業として7年を過ごすが、30歳になることをきっかけにかねてから憧れていた編集者になるためサイゾーに転職。「サラリーマンだったから、ビジネスサイトを運営できるだろう」という“安易な”理由で、WEBサイト「Business Journal」に立ち上げから関わり、現在も編集を担当している。

※「げんさん」はニックネームです。本名を掲載すると業務に支障をきたす可能性があるとのことで、ニックネームでのご登場となりました。

大手メーカーでの安定を捨てる

―今日は顔出しNGなんですよね……?

げんさん:そうなんです。いろいろワケがあって……すみません(笑)。

—了解しました(笑)。げんさんは30歳から編集者になるという、珍しいケースだと思うんですが、そもそもの経緯を聞かせていただけますか?

げんさん

げんさん:大学生のときは漠然と、新聞記者や編集者になりたいなっていう憧れはあったんですけど、あくまでなんとなくでした。マスコミ系の就活をしている人ってもう2年生くらいの段階から準備してる人がほとんどなんですよね。僕は大学で映画研究会に入っていて、自主制作映画を撮ったりするのに夢中で、気がついた時にはもう出遅れていたんです。その頃は就職の超氷河期だったので、自分はとてもじゃないけど、そっち側にはいけないだろうって。それで、当時興味を持っていたメーカーや金融系の企業を中心に就活していました。

―氷河期となると、就活はやっぱり大変だったんですか?

げんさん:毎日休みなく2、3社受けたりしていましたね。僕、東京で就職できずに田舎へ帰るのだけは絶対嫌だったんで、それこそ焦りを感じながらも「こっちで就職しないと生きていけないぞ」と思って、頑張ってました。

―それで見事、大手企業に就職できたんですね。

げんさん:そうです、そこではシステムの営業として働いていました。お客さんが構築したいシステムがあった時に「ウチはこういうことができますよ」と提案して他の会社とコンペをして、うまくいけば受注するというような営業の仕事ですね。

―その会社での仕事に、何か不満などがあったんですか?

げんさん:今思うと大企業なりの、「古い仕組み」というか嫌な部分はありましたね。なんというか社内のことに異常に気を遣うんです。「こうすれば受注できる」とわかっていても、会社の理不尽な理由でそれを実現できず、なくなく契約を逃すこともあったり。また、結構ヤクザな文化も残っていたので、いつもフロアにエラい人たちの怒号が飛び交ってもいましたね。

―すごく体育会系な会社だった、と。

げんさん:大企業って出世しないとキツいみたいなところがあるんですけど、出世するためには社内での「出世活動」みたいなものも必要なんですよ(笑)。言い方は悪いですけど、上司にゴマをすったりするようなこともしなきゃいけないし、当然成績も出していかなくちゃいけない。僕は下っ端で、正直そんなに優秀な営業というわけでもなかったし、出世することもさることながら、そもそもその仕組みには適応できないなって。

―それでも7年間は働いていたんですよね? 転職をすると決意したきっかけはなんだったんでしょうか?

げんさん:もちろんやりがいはあったんですけど、その反面、自分のやってることが時代遅れなんじゃないか? という思いもあったんですよね。なんというか、何年か後にはこの仕事なくなるんじゃないか、っていう。入社当時は土日も深夜まで働いたりすごく忙しくて、あまりそういうことも考えられなかったんですけど、30歳を前にしてぼちぼち同僚が主任になったり責任のある立場につき始めてきて、辞めるならそうなる前だろうと思ってきたんです。それで前から好きな雑誌だった「サイゾー」宛に履歴書を送りました。独身で、あまり結婚して子供を作ろうというような将来のビジョンもなかったので、アクションを起こしやすかったというのもありますね。

すごく健全な光景だと思った

―では、編集という仕事に憧れたきっかけは何だったんですか?

げんさん

げんさん:昔から雑誌が大好きだったんです。休日とかもあまり外に出るタイプじゃなくて、家にこもって雑誌を読んでるのが一番幸せだった。それだけ好きならこれを仕事にするのが一番幸せなんじゃないかなって単純に思ったんです。

―シンプルですね。でも30歳から編集者になったというような人は珍しいですよね?

げんさん:異業種から来るというのはほとんどないでしょうね。どこの出版社も未経験から編集者の中途採用というのは珍しいですし、あるとしても他の出版社で編集やライターをしていたという人。そういう事情があるというのはわかっていました。

—そのときは編集の仕事に転職できないかもっていう不安はなかったんですか?

げんさん:普通なら無理ですよね。だから、そこは開き直ったような感じで(笑)。僕は元々サイゾーが大好きだったので、採用募集はしてなかったんですけど、とりあえず履歴書を送ってみたんです。当然反応はなかったんですけど、諦めずにもう一回送ってみたら社長からメールがあって「そんなに言うなら、とりあえず何か書いて送ってください」と返事が来たんです。あとから聞いた話だと、「何度も履歴書送ってきて気持ち悪いから、反応しないと危ないことになるんじゃないか」って思われてたみたいです(笑)。

—流れはともかく熱意は伝わったんですね(笑)。

げんさん:それでいきなり転職するは無理だけど、お手伝いをするようになって。そうこう続けていくうちに社長と話す機会を持って、徐々に入社する形でまとまっていきました。

—憧れの会社に辿り着いたと。実際に仕事をするようになってからの、会社の印象とかはどうでした?

げんさん:あんまり会社っぽくない、って言ったら怒られちゃいますけど、初めてこの会社に来たときはびっくりしましたね。夏場とかだと普通にアロハシャツにサンダルで出勤してたり、昼の3時くらいに牛丼食べてそのまま席で昼寝してる人がいたり、ここは本当に会社なのか? って(笑)。でも、やっぱりみんなものすごく働いてるんですよ。前の会社だとすごく忙しい人もいれば、余剰人員であんまり働いてない人とかもいた。それに比べるとこの光景はすごく健全だなと思いました。

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仕事で会いたい人に会えるって喜び

仕事で会いたい人に会えるって喜び

—現在は「Business Journal」の担当とお伺いしました。入社からそこに至るまではどういった流れで?

げんさん:実はWEBにはほとんど興味がなかったんです。ITの仕事をしてる人って家では一切ネットを見ないとかパソコンすら持っていないっていう人もいるくらいなんです。最初は「別冊サイゾー」という雑誌を手伝ったりしていたんですけど、去年の年末に社長から突然「サラリーマンだったからビジネスサイト作れるよね?」って言われまして。

—すごい理屈ですね(笑)。

げんさん:そうです(笑)。僕はただのサラリーマンだっただけで、経済とか企業に詳しいわけじゃないんですけどね。ただ、「サラリーマンだったからサラリーマンが見たい情報はわかるだろう?」って。もちろんサイトなんて作ったことがないので、プロデューサーの指示を受けながら手探りで企画を練ったりライターを探したりしました。そうやって2012年の4月にオープンして今に至ってる感じですね。

—実際に編集の仕事をしてみていかがでした?

げんさん

げんさん:メディアや雑誌の仕事につきたかった理由の一つに、「仕事で好きな人に会いたい」というのがあったんですが、それが予想以上にできるというのが嬉しかったですね。「この人を呼んだらヒットする」とか言って企画を出しつつ、実は僕がただ会いたいだけということもあります……(笑)。

—例えでいいますと?

げんさん:そうですね……ジャーナリストの田原総一朗さんに会えたのは本当に嬉しかったですね。その時は「田原総一朗が愛について語る」っていう企画を立てたんです。田原さんって不倫をきっかけに再婚したり、「日本初のAV男優」って肩書きを持ってたりする方で赤裸々に色々とお話を聞かせてもらいました。前職だったら、どうあがいても仕事で田原さんには会えることは無かったと思うんですよ。そう考えると、この仕事をしてよかったなぁって思えた瞬間でしたね。

—では、げんさんが編集の仕事をする上で大切にしていることってありますか?

げんさん:報道されていないことの裏側をしっかりと見せるということですね。WEBって読まれている記事がPV数として如実に出るので、その数字が高いものを出したい。やっぱり裏側を描いたものはPV数が高いんです。例えば、がん患者の多くが使っている抗がん剤ですが、医者自身ががんになった時には8割くらいの人が抗がん剤を使わないっていう統計があったりします。

—そうなんですか!? 全然知らなかったです。

げんさん:うちの媒体は、そういう企業だったり、世の中の常識をちゃんと裏側から掘り下げることができるのがウリです。大手メディアだと制約があって書けない部分を、しっかりと事実に基づいて取り上げていきます。やっぱり読まれないと意味がないですし、読まれるということは読者の人にとっても面白くてためになるものだと思うんです。だから、今は「Business Journal」を全部面白い記事で埋めて、読者が読みたいものしか掲載されないというサイトを目指していきたいですね。

壮大なロマンは求めず、まずは目の前のことをしっかりと

—憧れでもあった編集者になって、充実した毎日を送っているんですね。

げんさん:でも、会社を辞めなくて済むなら辞めないほうがいいですよね。僕が言うのもなんですけど、ポンポン転職してる人とかあんまり信用できない(笑)。ちゃんと一つの会社で意義のあることをやって、スキルを身につけてる人のほうが僕はよっぽど尊敬できます。

—それは、ちょっと矛盾しているような気もしますが(笑)。

げんさん:そうかもしれませんね(笑)。僕の究極の目的としては、自分が楽しいことをやってちゃんとビジネスとして成立させたい。でも、それが実現できる人ってすごく少ないので、あまり仕事に自己実現を求めるというのもなんか違うと思うんですよ。よく就職活動生の話を聞いてると「楽しい仕事をしなきゃいけない」「仕事で輝かなきゃいけない」っていう強迫観念があって、自分がやることを絞っちゃって、結果、苦しんでる。だったらあんまりそういうロマンを求めないほうがいいと思う。それよりもちゃんと納期は守るとか、数字を間違えないとか、読みやすい資料を作るとか、そういうことのほうがよっぽど大切だと思うんです。だからもう少しそういうところに喜びを覚えてもいいんじゃないかなと思います。

げんさん

—それは一理あるかもしれませんね……。

げんさん:すごく夢の無い話かもしれないですけど、まずは目の前のことをしっかりやるということが一番大切なんですよ。そうしているうちに見えてくるものがあると思います。この仕事をしているとすごく成功している人の話を聞くことも多いんですけど、そういう人たちは人間としてのそもそもスペックが違うんです(笑)。そんな話を真に受けて真似しても、自分は絶対同じようにはできないだろうなと思いました。だから己の能力の無さをなるべく早く気付いて、地に足をつけた仕事の仕方をすることも大事だと思いますね。

—なるほど(笑)。このコーナーでは自己実現を求める人の登場が多い中で、げんさんのような現実的な目線でのご意見はすごく貴重だと思います(笑)。

げんさん:僕も仕事をしながら転職活動をして、サイゾーに入社が決まってから前職を辞めたクチですからね。やりたいことじゃなかったら、すぐに会社を辞める人もいるかもしれないけど、できることをしっかりとやってからでも辞めるのは遅くないと思うんですよ。多分ベンチャーの人たちはそんなこと考えないと思うので、結局のところ僕はサラリーマン思考なのかもしれませんね(笑)。

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