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「見知らぬ場所だからといって諦めたくなかった」東京のラジオファンが単身大阪移住してFM802で働くまで。

日本一長い商店街と呼ばれる大阪・天神橋筋。そのど真ん中にスタジオを構えるラジオ局が、FM802だ。人気番組を世に送るだけでなく、『FM802 RADIO CRAZY』や『FM802 MINAMI WHEEL』など、大規模な音楽イベントの主催でも知られる。そんなFM802の広報を務める横山さんは、幼少の頃から生粋のラジオファンだった。東京生まれ・東京育ちの彼女が、単身大阪へ向かった背景にある熱意とは?
  • 取材・文:山本梨央
  • 撮影:原祥子

Profile

横山佳奈

上智大学卒業後、ベネッセコーポレーションに入社。マーケティング部での業務を経て、FM802へ転職。現在は広報を担当。

ラジオをたくさん聴いて、公開収録にも通うように。投稿を読んでもらえる喜びも。

—幼少期はどんな環境で育ったんですか?

横山:子供の頃から今の職に就くまで、東京で生まれ育ちました。テレビがない家だったのでセーラームーンとかモーニング娘。が流行っていても、楽曲はなんとなくわかるのに何人組かも分からない(笑)。そういう周囲とのギャップは時々ありましたね。家では、両親の趣味でモーツァルトとかバッハとかクラシックの音楽に加えて、ビートルズとか、ローリングストーンズ、ピンクフロイドが流れていて。ただ、「これがピンクフロイドというバンドだ」という認識があまりなく、なんとなく風景として流れていたという感じですね。ラジオもこの頃から聴いていました。

横山 佳奈

―どんな番組が印象的でしたか?
横山:一番の思い出は、学生向けの番組ですね。投稿もたくさんしていました。その番組以外にも、暇さえあれば公開生放送や公開収録イベントなどにも通っていました。公開生放送って、裏方の人の動きも見えるじゃないですか。なので「このタイミングでメッセージを持ってくるんだ」とか「曲の間にメッセージを準備するんだ」という気付きも得られて。投稿を読んでもらうために、曲の前など、投稿メールを送るタイミングを考えたりしましたね(笑)。自分のメッセージが読まれるようになると、短く要約してもわかるようなメールのほうが読まれるのかと学んだり(笑)。

—それだけ熱心なラジオファンだったんですね。

横山:はい。この番組はメインのリスナーが中高生の番組で、電話を繋ぐ企画を頻繁にやっていたんです。ある日、不登校の子が学校に行けなくなってしまった原因などを電話で赤裸々に語る放送を耳にして。私が通っていたのは中高一貫の女子校で、いじめや不登校がほとんどなかったんです。だから新聞やテレビだけで見る、かけ離れた問題だと思っていた。正直、本当に実在するのかなという疑問すらあったんですけど、ラジオを通して自分と同世代の普通の女の子が電話で話しながら泣いているのが衝撃で。初めてリアリティをもって感じて、教育を勉強したいなと思いました。それがきっかけとなって、進学先は上智大学の教育学科を選んだんです。

「教育」一筋の大学生時代

―大学に入ってからは、教育関係の勉強を?

横山:そうですね。あとは心理学や社会学を学んだりしていました。大学では社会学がメインだったんですけど、一人ひとりに接することにも興味があり、個別指導の塾でもバイトを始めました。

横山 佳奈

―大学卒業後の就職先は?

横山:ベネッセコーポレーションに新卒の社員として入りました。配属先はマーケティングの部署だったので直接子どもの悩みを解決するのではなく、別の部署で作ってもらった教材を売る仕事でした。主にダイレクトメールを作っていましたね。小学一年生担当だったんですけど、子どもたちを集めて、チラシを見たらどこから順に目が動くのか、どのくらいの発達段階でお試し見本が解けるのかなどを調べるのはとても興味深くて面白かったです。ダイレクトメールはまず前年の応答率を調べて分析し、どこを改善するか企画として考える。次に自分でラフを描いて、文章も書くし、キッズモデルの撮影もするしイラストの発注もする。実際にものを作っていく過程が楽しかったです。

―マーケティングといいつつ、編集者にも近いお仕事だったんですね。

横山:そうですね。教材作りではなくても、その点ではある程度やりたいことができていた部分があるかもしれないです。ラジオもそうですけどダイレクトメールも誰に届いているかって目に見えないじゃないですか。だから、想像しながら作業するという意味では似てるかなと思います。

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今しゃべったことに、今リアクションがある。
やっぱり生放送ってすごい。

今しゃべったことに、今リアクションがある。
やっぱり生放送ってすごい。

―社会人になっても、ラジオ熱は冷めずに続いていたんでしょうか?

横山:実は、大学生の頃から社会人になっても、パーソナリティカレッジというラジオの講座に通い続けていたんです。本当はディレクターコースを希望していたんですが、残念ながら開講されず……。本当は表に出るのが得意なタイプではなかったんですけど、唯一開かれていたパーソナリティのコースの受講をしていました。

―そのカレッジでは、具体的には何をしていたんですか?

横山:実際のラジオのスタジオで授業があり、基礎・応用・実践ってクラスが上がっていくんです。基礎はアナウンサーみたいに滑舌の練習をしたり、ラジオでいうとイントロにのせる20秒ぴったりの曲紹介をやったり。5秒ぴったり言い切る紹介を千本ノックのように訓練したこともあります。応用からは自分で食レポとか映画とかテーマを選んで原稿を書き、選曲もして、簡単な小さい番組を作る練習もありました。実際にレポーターとしてラジオに出る機会も何度かありましたね。

横山 佳奈

―かなり本格的だったんですね。出演された番組で、これは上手くいった、という回は挙げるとすると?

横山:基本的には収録だったんですが、何回か生放送に出たことがあったんです。土曜日の朝6時からの番組で、すごく朝早くに起きなければならない。ずっと原稿を読んでドキドキしながら、タクシーでスタジオまで行って。放送が始まればメッセージもリアルタイムで送られてくるし、Twitterが動いている様子も見える。今しゃべったことに、今リアクションがあるというのが一番感動的でした。やっぱり生放送ってすごいなと、気持ちがしゃんとしましたね。

―転職先として、FM802を選んだ決め手はなんだったんでしょう?

横山:検索で引っかかった、というのが本当のところです(笑)。就職活動のときもラジオ局で働くことを考えなかったわけではありません。でもどのFM局も2年に一度くらい、若干名の募集しかしていなかったので、新卒の時は諦めたんです。FM802は大阪のラジオ局なので、東京育ちの私は放送を聞いたことは全く無かった。でも主催しているイベントも多いし、話題の番組もあるし、名前も聞いたことがあったので、ここなら受けてみようかなと。初めての一人暮らしな上に、大阪に友達もいない。不安もありましたが、高校生の頃からずっとラジオに関わりたいと思って日記に何度も書いてたんですよ。ラジオ局にいつか行けたらいいなって。だから見知らぬ場所だから諦めるというのは嫌だなと思って決意しました。

―生活もガラっと変わったのでは?

横山:最初何もかもがわからなくて、大阪駅と梅田駅が同じ場所だとも知らず、エスカレーターも右側に並ぶし、「みんな本当に関西弁しゃべるんだ……」みたいな。何もかもがカルチャーショックでしたね(笑)。でも、職場のフロアで当たり前のように大好きなラジオが流れている。流れているどころか、同じフロアから発信されている。それだけでも幸せでしたし、最初の頃はミーハーというか「本当にラジオの中に入れた!」という興奮が大きかったかもしれないです。

ラジオを聴いていることがもっとおしゃれなことだと思ってもらいたい

—ラジオ局の広報というと、具体的にどんなお仕事をしているんですか?

横山:番組のSNS公式アカウントの運用や、公開収録・イベントのプレスリリース配信、雑誌や新聞への声かけなどですね。あと、とにかくイベントの多いラジオ局なので年間に大きなものだけでも4つイベントがあるんです。映像素材があるときは、それを持って東京にあるテレビのキー局に持って行ったりもしています。

—ラジオ局が番組だけでなく、イベントにも力を入れている背景も気になります。

横山:ラジオファン以外の人にラジオのスイッチを入れてもらうのは、かなりハードルの高い作業だと思うんです。たとえばショッピングモールで買い物してたら、公開収録でゲストの著名人のトークを見るかもしれません。すると「これ来週放送されるなら、聴いてみようかな」と思っていただけることもあると思うんです。そういうきっかけづくりになれていたら嬉しいですね。

—なるほど。イベントはリスナーを増やしていくための活動にもなっているんですね。

横山 佳奈

横山:あと、学校訪問企画というのを不定期でやっていて、アーティストと一緒に学校で公開収録をするんです。高校生全員がラジオ聴いてるわけではないので、ラジオ好きな学生さんたちが応募してくれて。そのイベントから初めてラジオを聴く子に広がっていくのは効果を感じますし、そうやって広まってくれたらいいなと思ってやりがいを感じます。

—今まで学校訪問で、一番反響の大きかった企画は何ですか?

横山:コブクロさんの公開収録ですかね。中高一貫の女子校だったので私の母校に似た雰囲気を感じながら、体育館に800人ほどの生徒さんに集まってもらいました。いつもだったらどの学校に行くのか事前に発表するんですけど、学校側の計らいでサプライズだったんですよ。だから「先生に怒られるのかな。なんで集められたんだろう。」というところに、突然コブクロのお二人が現れた。体育館で、しかもこの日は歌っていただいたので、ワーって泣き出しちゃう子もいましたね。

—それは感動的な一幕になりそうですね。広報としての目標は、どんなところにあるんでしょう?

横山:個人としてはもっとリスナーが増えていけばいいなと思っています。今は広報として音楽情報サイトなどのメディアとふれあうことが多いですけど、もっと違うところでもさらに広げられないかなと常々思っていて。例えばラジオを聴いていることがもっとおしゃれなことだと思ってもらえたら良いのにとか。ファッション誌と一緒に何かできたら嬉しいですね。フェスに来てくれる人がラジオを聴いてくれるのが当たり前のことになってほしいし、もっとそうじゃないジャンルにどうアプローチするかを考えなきゃいけないなと思っています。

—FM802だけではなく、ラジオ自体の広報という気概が感じられます。

横山:いえ、まだまだそこまでは……(笑)。でも、最近はradikoに2つの画期的な新機能が追加されたんです。1週間遡って番組を聴ける「タイムフリー」や、さらにそれをSNSでシェアできる「シェアラジオ」。それにうまく合った企画を考えられたら嬉しいですね。もちろん生放送で聞く楽しさはずっとあり続けるものだと思うのでそこは残しつつ、ラジオの魅力をちゃんと広めていけたらいいなと思います。

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寺村光輔さんの食器

一人暮らしをしてから、あんまり自炊は上達しないんですけど(笑)、お皿が好きになってきました。そんな高いものではないんですけど、こういうお皿を探して買いにいくのが凄い好きで東京から大阪に引っ越してくる時に、東京で良い色だなと思った食器を買ったんですよ。そのあと大阪に来てから、何となくはいった食器屋さんで買ったものが、たまたま同じ人の食器だったんです。それから興味が出てきて、食器の展示にも行くようになりました。
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