当たり前をつくるのではなく、感動をつくりたい

プロフィール
本岡 真也

1983年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、SEとして富士通株式会社に入社。2年後、以前からの憧れであったゲーム業界へ挑戦するため退職。ゲームの専門学校へ入学する。在学中からシリコンスタジオ株式会社でプログラマーとしてゲーム開発に携わるようになり、念願の業界入りを果たす。2010年、子供の頃から大ファンであった株式会社スクウェア・エニックスへ転職。現在「ファイナルファンタジーXIV」の開発にプログラマーとして参加している。

子供の頃からドラクエ(ドラゴンクエスト)やFF(ファイナルファンタジー)などのRPGが大好きだったという本岡さん。現在、29歳のまさにど真ん中のゲーム世代だ。現在ゲーム会社の超大手スクウェア・エニックスでプログラマーを勤める彼は、服装の自由なゲーム会社の中であえて自らスーツを着て仕事に臨んでいる。一度就職したSEの仕事を辞め、改めてゲーム専門学校からプログラマーを目指した経歴の持ち主だが、そこには一本筋の通ったゲーム開発への思いがあった。

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自分の子供に「何を伝えられるのだろう?」

―ふと気になったんですが、ピアスしてらっしゃいますよね。それって会社の規定的には大丈夫なんですか?

本岡 真也

本岡:服装は基本的に自由です。ゲーム業界を通じて自由な社風のところが多いので、髪の色が派手な人やアクセサリーをしてる方は非常に多いですよ。僕は自主的にスーツを着てるんですけど、そんなプログラマーはほとんどいないので、むしろ周りからは変な目で見られてます(笑)。

—一般の会社とは逆ですね(笑)。スーツを着るのは、何かポリシーがあってやってらっしゃるんですか?

本岡:大学を卒業して最初に入社したのが富士通だったんです。そこはもちろん皆スーツを着てますし、その時に社会人としての基本的な心構えをすごく叩き込まれたんです。その考えが自分の性に合ってるので、今でも仕事をする時はスーツを着てやってます。いい点もあるんですよ、「あのスーツの人だ」ってすぐ覚えてもらえるので(笑)。

―一度他業界に就職をしてからゲーム業界を目指したんですよね。学生時代からゲーム業界を目指していたわけではないんですか?

本岡:小さい頃からスポーツもやらずにゲームをやっている子供だったのですけど、あくまで趣味という感じでした。だからゲーム業界に就職して食べていくことを現実的に考えることもなかったですね。

―では新卒で富士通を選んだのは何故だったんですか?

本岡:僕が学生の頃は就職氷河期で、資格とかないとまずいなと思っていたんです。学生の頃に「IT革命」という言葉が流行語になったりして、ちょうどITブームがきていたのもあって、大学の勉強とは別に、いわゆるITの勉強を始めました。PCスキルはこれからの時代の必須項目だろうというのも思っていましたね。そういう経緯があったので、就職活動の時はSE一本に絞っていました。

―安定志向で、はっきりした意思を持って入社したように見えるんですが、2年で富士通を辞めるという大きな決断をしてますよね。何かよっぽどのきっかけがあったんですか?

本岡:特に大きなきっかけがあったわけではないんです。ある程度の勉強をしていたので、SEとしての飲み込みは早かった方だと思いますし、仕事や仲間も充実していて楽しかった。ただ、将来ずっとその仕事を続けるイメージが湧かなかったんです。たとえば自分が結婚して子供ができたときに「自分は子供に何を伝えられるんだろう?」ってふと思った時に、この仕事を続けていくのは自分の方向性とはちょっと違うなと思った。僕は結構なんでも自分でやってみないと気がすまないタイプなんです。それで退職して、昔から好きだったゲームにチャレンジしてみようと決めました。

―特に社会人生活に不満や不安があったわけではないんですね。

本岡:そうですね。今でもスーツ着てるくらいですし(笑)。富士通時代に学んだことは今でもすごく役に立っています。やっぱり、みっちりと社会人の基礎を学ばせてくれたように思いますね。たとえば「PDCA(Plan Do Check Action)」っていう考え方。計画を立てて、実行して、評価して改善していく。こういうことはゲームづくりの現場でもすごく活かされています。

仕事をやる上で、一番求めていたこと

―富士通を辞めてからはすぐにゲーム業界に入ったんですか?

本岡:もともとドラクエやFFなどのRPGが大好きだったので、すぐにスクウェア・エニックスを受けたんです。でも、ほとんど門前払いに近い形で落ちてしまった。当時の自分には、スキルも経験も全くないと痛感して。経験はどうしようもないので、まずはスキルを身につけようと思ってゲームの専門学校に通おうと思ったんです。それからゲーム会社ってあんまり求人も世の中に見えやすい形では出てこないので、専門学校にいけば求人があるだろうとも思っていましたね。

―専門学校ではどんなことをやっていたんですか?

本岡:2年制の学校で、最初の1年間はひたすらプログラムの勉強をしていました。就職活動の時には自分がつくったものを見せることもあるので、実際にミニゲームなどの作品をつくったりしました。2年生になってからはすぐに就職先をどうするか、って話になるので、そこからはひたすら就職活動でしたね。

—1回社会人を経験してから学生に戻ると、色々と新鮮に感じられたのでしょうか?
 
本岡:時間が増えたことがすごく嬉しかったです。授業が終わった後の時間を自由に使えるので、勉強はもちろん社会人の時にできなかった遊びをしたり、色んなことを経験しようと走り回ってました。その中で自分はやっぱり「ゲームの仕事がやりたいんだ!」ということを再確認できましたし、今思うとすごく有意義な時間でしたね。

本岡 真也

—では実際に、ゲーム会社で働くようになったのはどういう経緯があったんですか?

本岡:2年次に、シリコンスタジオというゲーム開発会社から内定をいただきました。ゲーム業界って大抵内定をもらうと入社を待たずして「すぐ働いてくれ」って言われるケースが多いんですが、僕もその例に漏れず2年生の夏からインターンという形で開発に携わるようになって。その時に開発中だったPS3のゲームがあったんですが、その中のミニゲームをつくってくれって言われまして……。

—えっ、いきなり本番なんですか!?

本岡:ほとんど丸投げでした(笑)。でも、すごく勉強になりましたね。富士通の頃は仕事に関わる人数も多くて新人の僕には何の裁量もなかったんですが、ここでは新人なのに「自由にやっていいよ」って感じで、どんどん仕事を投げられる。規模や責任の違いはすごく感じましたし、逆にそれだけ動きやすいということも感じました。

—自由にできる喜びがあったんですね。

本岡:もちろん戸惑いもありましたよ。「ほんとに勝手にやって大丈夫なのか?」って(笑)。でも、富士通では研修期間も長くて日々インプットだったのに、シリコンスタジオでは最初からアウトプットの日々で、足りない経験の部分を積むチャンスをすごくもらいました。プレッシャーはすごかったですけど、楽しかったですね。

—実際に自分のつくったゲームが、製品として世の中に出たときはどうでしたか?

本岡:それは嬉しかったですね。今ってネットですぐに反応がわかるじゃないですか。もちろんネガティブな意見もありますけど、それも含めて反応があるということが一番嬉しかったです。そこがシステム開発とは決定的に違うところというか。

—といいますと?

本岡:全てという訳ではないですが、僕はシステム開発というのは「当たり前」をつくるものだと思うんです。たとえば銀行のATMが動くことは便利ではあるけど、それは徐々に当たり前になっていくことで、感動を得るものではない。でも、ゲームを出せばそこには喜んでくれたり怒ってくれたりという反応があるんです。その「反応」っていうのが、当時の僕が一番求めていたことだったのかもしれませんね。

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作品が受け入れられるかどうかは、出してみるまでわからない

作品が受け入れられるかどうかは、出してみるまでわからない

—その後、シリコンスタジオからスクウェア・エニックスに転職したのは、どういう経緯があったんですか?

本岡:シリコンスタジオに以前スクウェア・エニックスで働いてた人がいたのですが、その人からFF14のプログラマーを探してるって話をいただいたんです。元々FFやドラクエが好きだという話はしていたので、紹介していただいてからは、とんとん拍子で今に至っています。一度受けてダメだったという経緯もあって、いつかは働きたいと思っていた会社だったのですごく嬉しかったですね。

—まさに念願が叶ったと。スクウェア・エニックスに来てプログラマーの仕事で変化した部分はありましたか?

本岡:シリコンスタジオでは主に、少人数で開発期間の短いソーシャルゲームなどをつくることに携わったのですが、スクウェア・エニックスでは大規模プロジェクトに関わっているので期間も長いし関わっている人数も多いです。

—関わる人数が増えるとやっぱり違うものなのですか。

本岡 真也

本岡:規模感は大きく変わりましたね。プログラマーってパソコンに向かってずっとプログラミングをしているイメージがあるかもしれないですが、企画の人たちと何度も打ち合わせをしなければいけないし、すごく考えることの多い職業なんですよ。よく家づくりにたとえられるんですが、外装やインテリアを考えるのがデザイナーやプランナーで、実際に設計図を書いて大工作業をするのがプログラマー。つくる家が大きくなればその分、考えたりすり合わせなきゃいけないことも増えるんです。

—本岡さんは一般企業出身で珍しいタイプかもしれませんが、ゲーム業界で働いている人というのはどんな人が多いんでしょうか?

本岡:たしかに僕は周りからよく「営業の人っぽい」って言われますけど(笑)、基本的にゲーム業界にいる人って、世間一般で言われているオタク以上にオタクな人が多いと思います。自分の好きなことをとことん追求する。でも、もちろん会社では人とやりとりをしながら仕事をしなきゃいけないので、あんまり偏屈な性格をした人はイメージほど多くないと思います。日々、コミュニケーションをとりながら仕事を進めないといけないので。

—そんなゲーム業界で働く上で、難しさはあったりしますか?

本岡:自分が作ったものが受け入れてもらえるかどうかは、作品を出してみるまで全くわからないというところですね。長い開発期間をかけていいものができたと思っても、全くいい反応が返ってこない時もあります。もちろん万人に受けるものは難しいということは頭ではわかっているんですが、自分で体験してみて強く実感するようになりました。

—なるほど。では逆に、魅力はどんなところにあるのでしょう?

本岡:それはプログラマーに限らないですけど、自分が作ったものがダイレクトにお客さんに届いて感動してもらえることですね。僕は「人を幸せにする仕事がしたい」という気持ちが一貫してあって、そういう意味では、システム開発で当たり前のものを作って世の中を豊かにすることも一つの道だったのかもしれません。だけど、それを自分の好きなゲームで、自分が感動したものと同じような体験をプレイヤーの人にもしてもらえたら、こんなに嬉しいことはないですね。

仕事とは、ロールプレイングゲーム

—今後の目標はありますか?

本岡:やっぱり自分が作ったものを多くの人に見てもらいたいですね。僕の友達では、仕事が忙しかったりするのでゲームをやってる人はすごく少なくて、せっかくゲームを作ってもそこまで遊んでくれる人がいないんです。会社なのでもちろん売れなきゃいけない、っていうことは大前提としてあるにしろ、手にとって何かを感じてもらいたい、その上で何か心に残るものがあったらすごく嬉しいです。自分が小さい頃にゲームで遊んですごく面白かったという体験があるので、自分の友達や今の子供たちにも同じ感動を与えられたらいいなと思っています。

—素敵な動機ですね。プログラマーとして上を目指したいという欲求はありますか?

本岡:将来的にはディレクションをやってみたいですね。やっぱり僕は、人との関わりや一緒に作っていく一体感がすごく好きなんです。上の立場になると多くの人に関わることができますし、将来的にはそういう仕事ができたらいいなと思います。

—本岡さんは自分が好きなことを仕事にできたわけですよね。好きだからこそ仕事にするのが辛い、ということはなかったですか?

本岡 真也

本岡:もちろん最初は葛藤もありました。「ゲームで遊ぶこと」と「ゲームをつくること」は全然違うことなんですよ。僕らがやっていることは趣味の延長ではなく、仕事として考えてやっているということは大きな違いだと思います。ゲームで遊ぶことが好きでこの業界を目指す人は多いんですが、それをつくるとなると苦労することはすごく多い。そこでイメージの違いを感じて脱落していく人は多いかもしれませんね。

—では、なぜご自身は脱落せずに続けられたと思いますか?

本岡:まぁ仕事を辞めてまで入ったからっていう、意地みたいなものもありましたし(笑)。体力的にきついこともあるので根性は大事だと思いますけど、その苦労も含めて仕事としてすごく面白いので、今はゲームを遊ぶこと以上につくることが好きになりましたね。あとゲーム開発者ってゲームを遊ぶだけじゃなくて、色んなことを経験したほうがいいなと思うようになりました。例えば、ラスベガスへカジノに行ったり、スカイダイビングをしてみたり、そういう経験のほうが実はゲームに活かせると思います。

—最後に本岡さんにとって「仕事」とはどういうものなんでしょう?

本岡:そうですね……(笑)。難しい質問ですが……やっぱり僕にとって仕事とは「RPG」ですね。今はプログラマーという「ジョブ」を与えられて、スーツという装備でパラメータを上げて仕事をしてます。仲間と協力してゲーム開発というボスを倒して、皆が喜んでくれるゲームができあがれば世界が平和になる(笑)。そんな思いを胸に秘めて仕事をしています。



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