第5回:嫌いなものを好きにさせてくれる仕事。

プロフィール
寺坂 直毅
寺坂 直毅

1980年宮崎生まれ。 放送作家として、テレビ、ラジオ番組の構成を担当。 家から徒歩圏内にデパートが何軒も乱立する環境で幼少期を過ごし、 魅力に憑りつかれたために日本全国のデパートを行脚した 「胸騒ぎのデパート」(東京書籍)を刊行。 紅白歌合戦、黒柳徹子研究などの趣味を持つ。

放送作家として知られる寺坂直毅さんは、デパート、紅白歌合戦、徹子の部屋など、とてもピンポイントなコトに膨大な知識を持つ、その分野の“博士”。いわゆる“マニア”だ。寺坂さんによるコラムも、今回で最終回。最後は、寺坂さんのメインの顔である「放送作家」の仕事について。放送作家として、多くの現場を乗り越えてきた寺坂さんが考える仕事論に迫る!

ラジオの放送作家の仕事とは?

今回は、私が今やっている仕事についてご説明したいと思います。私は肩書きを「放送作家」と名乗らせて貰っています。一般的に「放送作家」とは、テレビ番組やラジオ番組の台本を書いたり、会議に出て、ネタを考えたり、番組の展開を考えたり。
またこれから考える番組の企画を考えたり、ナレーションを書いたり。スタジオの本番で演者の皆さんと打ち合わせをしたり……。

業務的にはそういう内容のお仕事ですが、テレビとラジオでは仕事内容が色々と違うなぁと感じています。テレビは1つの番組に大人数で動いていますが、ラジオは本当にスタッフが少ないのです。放送作家とはいえ、ほとんどの作業に同行し参加します。
 
job_column_illust5_1

例えば、今J-WAVEで毎週月曜~金曜まで22:00~23:30までOAされている
「HELLO WORLD」。こちらを例にとりましょう。

この番組は、毎日1つの特集を設け、そのテーマを追求する番組です。
FMラジオらしく音楽の特集もあれば、「タオル」「看板」「牡蠣」「制服」など、どんな内容でも、
1時間30分にわたり、様々な角度から、その物事の「旬」を取り上げる番組なのです。

放送は1時間30分ですが、番組ができるまでにおよそ3~4週間前から動いています。

まず、流れとして毎週1回の定例会議で、テーマを出します。放送作家は6人。ディレクターは5人。合計11人でネタをだし、全体会議でネタを決めるのです。

その中で、それぞれの作家さんの特色によって、提出するネタが分かれます。
音楽が得意な作家さんは、世界の音楽を特集するようなネタを。プロレスが好きな作家さんは、格闘技のネタを。女性の作家さんは、占いや健康ネタ、食ネタ、美容ネタが多いです。(私はこれといって特色がないのが欠点です)。

みんなで話し合い、おおよそ3週間先まで、ネタのジャンルをバランスよくわけます。ネタが決まってからはゲストの交渉を行います。テレビ番組でこの仕事をするのはプロデューサーですが、ラジオはまさに「全員野球」。交渉が出来る人は役職を問わずに全てやります。

そして、ラジオで大切なのは「声の取材」です。
そのテーマに関する当事者の声を録音します。こちらから出向き、ICレコーダーで声を録音します。インタビューをし、録音するのもラジオでは放送作家がやる事があるのです。

そんな風に毎回、各テーマに精通した方とお話し出来るのは、ラジオの仕事をする作家の醍醐味といえるかもしれません。自分の知らない世界を、その筋の先端を行く方にじっくりお話を聞けるのは幸せな事です。

その後、番組の構成を立てます。ラジオは生放送なので、その瞬間の面白さやインパクトよりも、1本のドキュメンタリーのように、感情の流れを大事にして内容を考えます。

そしてその台本を書き、いざ本番。本番中は、ナビゲーターの方と打ち合わせしたり、番組に寄せられるメールをチェックしたりする作業を行います。人数が少ないだけに、面白かった、面白くなかったが瞬時に反応が返ってくるのもラジオならでは。毎回貴重な体験をさせていただいてます。

デパートと紅白のマニアでよかったこと

この仕事をやっていますと、放送以外の仕事を行う事があります。音楽に関するイベントの仕事や、自分の趣味がそのまま仕事になるパターンです。

最近では趣味のデパートにまつわる記事を書いたり、デパートを特集する番組のお手伝いをすることもあります。また、紅白歌合戦の曲紹介を覚えているという特技が延長し、曲紹介のナレーションを考えるという仕事もしています。

以前は、往年のヒット曲を歌手がカバーするライブがあり、80曲ほど、曲紹介ナレーションを考案しました。役得だとは思うのですが、大抵、オファーがあってから締切までは短期間なので、結構ハードですが、僕なりに力を入れて考えます。

そんな曲紹介ナレーションですが、研究すると、いろいろな法則があるように思います。

通常のレギュラー番組の曲紹介は、その曲が描く世界を情緒たっぷりの言葉で煽るパターンが主流です。しかし紅白歌合戦は別で、その歌手のこれまでの人生を労う言葉、この1年の活躍を盛り込んだ言葉をナレーションに盛り込みます。レコード大賞も同じでしょう。
また、ザ・ベストテンでは、視聴者のハガキの内容を読み上げるというパターンもあります。

グッとくる曲紹介には法則があるように思います。
例えば、生放送であれば、ナレーションに時間を入れるとか、その歌の舞台の今の気候を入れる、というようなものです。(詳しくは、『第3回:私は、紅白が大好きです。』「紅白歌合戦の凄さ」参照)

これほど趣味を持って良かったと思える瞬間は他にありません。しかし、それは稀な事で、基本は、全く知らないことをネタにしてまとめなくてはいけない事ばかりです。もちろん僕だって、自分の好きなことの全てを仕事に出来るわけではありません。

Next Page
知らぬ間に猫アレルギーを克服!

知らぬ間に猫アレルギーを克服!

先日は「猫」の特番をやりました。スタジオで猫を放し飼いにし、トークをするという番組で、ナレーションも猫っぽく、猫まみれな空気感にあふれていました。
しかし、私は大の猫アレルギーです。猫が嫌いなのです。鳴き声を聞くだけで鳥肌が立ちますし、道端に猫がいると遠ざけて歩いています。

そんな猫の特番だという事で怯えていたのですが、収録になると、とにかく猫を愛そうという気になり、結果、物凄く猫が好きになりました。

目の前を猫が飛び跳ねようが、指を舐めようが全く平気で、なにより猫がかわいくて仕方ありませんでした。

得意不得意言ってられないというスイッチが入ったからなのか、なぜでしょう。とにかく、それぞれの趣味や造詣を、多くの人に広めるのがこの仕事なので、猫が平気になったのです。

この仕事は、嫌いだからやりたくない! と言ってしまってはNGなのかもしれません。苦手なものを好きになるほど研究するのが楽しいのです。

テレビやラジオをつくる醍醐味

以前も「高校野球」を特集する仕事がありました。お察しかもしれませんが、私は大の運動音痴。体育の成績は常に1。ボールを投げても2mしか距離が飛びません。そして野球のルールもよくわかっていません。そんな私に「高校野球」のネタをやれというのです。

しかし、私がやるからには、興味ない人、関心が薄い人に高校野球の面白さを伝えられる可能性があるとも思いました。自分で朝日新聞と高野連に取材を交渉し、甲子園の夏の高校野球の取材の許可をもらいました。これはなかなか許可が下りず、今までで一番大変な交渉でした。結果、電話で土下座しそうな勢いで、泣きそうな声を出して許可をもらいました。

その後、ディレクターやプロデューサーと相談し、「高校野球の応援」という観点から取材しました。そこで知ったのですが、様々な応援歌が高校野球には存在するのです。

「チャンス法政」「ファンファーレ(天理高校オリジナル)」「アメリカン・シンフォニー」など、定番の応援歌を、全国の高校野球の応援で使用している事を知りました。そういうCDを前もって聴いたり、甲子園に関する書籍を読んで、収録に挑むのです。  

そして取材当日。35度もいくかという炎天下の中、夏の高校野球を取材するのは僕にとって大変憂鬱でしたが、実際に甲子園に行き、応援歌を声を枯らせながら歌う生徒、負けた高校球児が涙を流している姿を見ると、自然に私も涙を流していました。

まさかこんなに感動するとは……。

job_column_illust5_2

どんなジャンルでも実際に詳しく調べ、取材をすると、本当に好きになってしまします。いろいろ辛くても吹き飛びます。

それがテレビやラジオを作る仕事の醍醐味なのかもしれません。

そんな私は今、「牡蠣」の特集のネタを考えています。実は私は2014年2月、牡蠣にあたり、ノロウィルスにかかりました。3日間出るものは上から下から全て出て、それはもう地獄でした。それまで牡蠣は一番の大好物でした。しかし大好きな牡蠣が、毒になったのです。

それ以降、1年間牡蠣を封印していましたが、この企画の担当を命じられ、ひと月前から徐々に生牡蠣を食するようにしています。とにかく牡蠣に裏切らた私が、再び牡蠣が大好物になるほどの絶品を紹介する特集にしたい、それが今の私の任務です。

とにかく苦手なものほどやりたい、そしたら何か道が出来る。今わたしが一番強く思う事なのです。

 

ということで、5回続いた私のコラムですが、読んで下さりありがとうございました。

正直なところ、取材をしたり、何気なく経験した事を文章にするのは慣れています。
しかし、自分自身について書くことは初めてです。

私なんぞ、何も出来ていない人間だという事を痛切に感じ、ブルーになっていました。自分の経験など、読んで下さる方にとって意味がないのではと、常に疑問に陥りました。

しかし、そういう中でも、自分の趣味や嗜好を堂々と宣言していれば、
自ずと、その価値観を分かち合える人物にめぐり逢えるという事は、事実です。

それがこの仕事、今の人生の最大の喜びだと思います。
そういう日々を過ごすために、この仕事をしているのではないかと思います。



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Work
  • 第5回:嫌いなものを好きにさせてくれる仕事。

Special Feature

Habitable World──これからの「文化的な生活」

気候変動や環境破壊の進行によって、人間の暮らしや生態系が脅威に晒されているなか、これからの「文化的な生活」のあり方とはどういうものなのだろうか?
すでに行動している人々に学びながら、これからの暮らしを考える。

記事一覧へ

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて