来場者数約2万人! ソウルのインディペンデントマガジンが集結。アートブックフェア『UNLIMITED EDITION 9』レポート

ソウルの独立書店『YOUR MIND』が主催するアートブックフェア『UNLIMITED EDITION』の9回目が、2017年12月2日と3日の2日間『ソウル市立北ソウル美術館』で開催されました。インディペンデントマガジンの他、作家、フォトグラファー、イラストレーターなどが、自分たちが作った本を直接販売することを念頭に、年々来場者が増え続けている人気イベントの1つです。そんな盛り上がりを見せる『UNLIMITED EDITION 9』のレポートとともに、5組のオススメ作品を紹介します。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

ジュ・ジェボム(Joo JaeBum)

まず最初に紹介するのは、ピクセルアーティストのジュ・ジェボム(Joo JaeBum)。デジタルディスプレイの最小単位であるピクセルを利用したアートワークを作るアーティストです。

彼は、幼い頃から8ビットコンピュータゲームを楽しみ、自然にピクセルアートに慣れ親しむようになり、アニメーターとして活動した後、SNSのプロフィール写真をピクセルで作成したのをきっかけに、ピクセルアーティストの道に進んだんだそうです。そんなジュ・ジェボムが『UNLIMITED EDITION 9(以下、UE9)』で販売していたのはソウルの特徴的な場所を3Dピクセルで作成した「Welcome to Seoul」。

韓国に住んでいるレトロゲームの主人公JoyとBODYというキャラクターが、ソウルを旅行するコンセプトに、ソウルの風景をピクセルアートで表現したアートブックです。混み合う地下鉄や路上ライブをするストリートミュージシャンのようなソウルの平凡な日常を切り取り、ソウルに住んでいる人にとっても新鮮なソウルを知ることができる作品でした。

彼の将来の夢は、誰もがピクセルアート作品を日常的に一つずつ持つようになる、「ピクセルアートの世界征服!」だそう。ジュ・ジェボムのピクセルアートの世界がどんどん広がっていくのを期待したいです。

instant roof

次に、アートブックの販売だけでなくタトゥーサービスを披露し、多くの来場客で賑わっていたギャラリー『instant roof』のブース。

『instant roof』はソウルの古い街並みの残る安国洞(アングクドン)の韓屋で展開するギャラリースペースで、小さな壁での展示(tiny wall show)と、ブルースクリーン(blue screen)と呼ばれるスクリーンを介して、様々なアーティストの展示・紹介をしています。

当日人気を集めていたタトゥーアーティストは、所属グラフィックデザイナーiiさん。今年からii tattoo serviceというタトゥーアーティストとして活動を開始することになったのだとか。可愛らしいモンスターのタトゥーの中から好きなものを選び、タトゥーシールを付けてくれました。

そんなiiさんの可愛らしいイラストが人気を呼び、2日間で200人もの人がタトゥーサービスに参加したそう。若者にオシャレなワンポイントタトゥーが人気な韓国ならではのブースでした。

instant roof

オ・ヘジン(O hezin)

壁に貼られたリトグラフ印刷の美しい色合いの製作物が目を引いたのが、グラフィックデザイナー、オ・ヘジン(O hezin)のブース。

2014年からOYE studioを運営するオ・ヘジン。広告物のグラフィックの他にも、視覚的な研究を元にした様々なイラストレーションを発表しています。彼女自身は、印刷物として出力される様々な方法に関心が高いらしく、主にリトグラフ印刷で制作。色鮮やかで蛍光色の独特の風合いが美しい作品が目立ちます。

そんな彼女が販売していたのはカレンダー。カレンダーは限られた数の文字のみからなる為、どのようにグラフィックにするか常に悩みながら制作していたそう。しかし、そのような限られた文字から構成される特性から、人がアルファベットだけを見ても、それが意味するものは何なのかをすぐに認知できるという特性(例えば、MならMonday、最初のページにJがあればJanuaryだとすぐに分かるなど)があることを発見し、1月から12月までの最初のアルファベットを使用して、まるでアルファベットの単語カードのようなフォーマットで制作したと言います。

カレンダーは、製本をしていない代わりに上部に穴を開けて壁にかけれるようなカードのフォーマットになっていて、1年が終わってカレンダーの機能が寿命を尽くせばミシン線に沿って上部を取り外した後、そのままカードとして活用することも可能。毎月異なるカラーで印刷され、オ・ヘジンの特徴的なグラフィックアートが目立つ美しい作品でした。

オ・ヘジン(O hezin)

ハンギョンホ

今年の『UE9』では、出版物だけではなくイラストレーターやデザイナーのポスターに特化したブースも多く見られました。その中でも一際人気だったのがハンギョンホのブース。

ハンギョンホはRAM HAN(ハン・ジヘ)、キム・ギョンリム、キム・デホのイラストレーターとデザイナーで構成された3人組のグループ。元々、似たような趣向と制作活動をしていたことから、今回のアートブックフェアの為にグループを結成したんだそう。

過去と現在の様々なサブカルチャーにインスピレーションを得て、形式にとらわれず、それぞれの視線を通じた活動をしてきたと言います。3人の作品は妖怪や怪物のモチーフ、少し薄気味悪い雰囲気やガロ系とも言える日本のアングラなコミックを思わせる絵のタッチと、裏腹にポップなカラーリングのギャップが目立ちます。

そんな3人は、古く捨てられたことに愛着を持ち、それらを再解釈することで 制作者と読者の両方が楽しめる作品を作り出そうと考えているそう。イラストのテイストや色使いを踏まえ、他のブースでは見られない一際目立つブースでした。

イ・ドンヒョン

今回のソウルアートブックフェアで感じたのは、フェミニズムやLGBTなど今の社会問題をテーマにした作品も多く見られた事。最後に紹介するイラストレーターのイ・ドンヒョンは、瞬間的に認識される風景、物体、状況、事件などを文章、写真、画像の形で収集し、その収集したイメージを様々な媒体上に再編集・再構成する研究をしているアーティストです。

彼のブースの壁には「少年たちはお互いを愛する」といったメッセージが掲げていて、今回の作品は、イ・ドンヒョンの個人的な好みをたっぷり詰めたイラストプロジェクトだそう。同性愛者である彼の男性の嗜好を詰めたイラストはカレンダー、ポスター、ステッカー、ハガキなどにプリントして販売されていました。

イ・ドンヒョンは、「(自分が)男性が好きな男性です。それはゲイです。最近自分の仕事の中で、自分のアイデンティティをさらすことを楽しんでいます。私は私が好きなものを描くのが好きだからです」と話してくれました。

彼の夢は、実力のあるゲイイラストレーターとして認められることなのだそう。 アートを通してアーティストが自分の思考を表現出来る場であり、私たちがそれを直接で感じることができるのがアートブックフェアの醍醐味であると感じました。

『UNLIMITED EDITION 9』から感じるソウルのアートシーン

今年だけでなく近年の『UE』を通して感じたのは、ここ数年での急激な韓国でのリトルプレスやインディペンデントマガジンの盛り上がりである。中でも全体を通して感じたのは、ソウルでは今、リトグラフのようなプリント手法自体が注目を集めていること。そして、社会問題や個人の問題意識を作品に投影しているアーティストの多さです。

特に今回の『UE』は、ただの作品販売の場ではなく、来場者とアーティストの対話が多く見られたことも印象的でした。個人の発信だからこそ、より伝わること、アートを通してだからこそ気づかされる事があること、それをより実感した機会となりました。



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