手帖をちょっと覗くように、クリエイターの作品世界にお邪魔します——。
フォトグラファーはじめ、イラストレーターや美術作家ら、若くして活躍しているクリエイターの人々を、作品画像とともに紹介するコラム連載。第1回は、写真家のタケシタトモヒロにフォーカスする。
CINRAの記事でもたびたび撮影をしてもらっているタケシタ。対象の動きやそこに立ち上る物語を感じさせる、美しい写真たち……。今回は、40日間アメリカを横断しながら撮影し、その後写真集として出版した当時を振り返りながら、写真というメディアに対する思いや、美学ともいえるだろう、作品への向き合いかたを、タケシタ自身の言葉で紐解いていく。
いま、僕は写真を撮ることを生業として生きている。-
なりわい。くらしを立てるための仕事。
実際に「生業」として撮影生活をはじめてみると、写真が必要とされるシーンは想像していた以上に多種多様で、これまで請け負わせていただいてきたものは、そのジャンルや媒体もさまざまだ(とてもとてもありがたいことに!)。
このたびの連載を始めるにあたって、タケシタの「作品」を紹介させてもらいたいと依頼した。すると、いわゆる「クライアントワーク」ではなく、タケシタ自身のライフワークとして撮影したなかから、写真集『Across the United States』(2024年9月出版)をつくった当時を振り返る言葉と写真が届いた。
写真集『Across the United States』は、2023年4月にはじまる約40日間、タケシタがひとり車でアメリカを横断しながら撮影した写真から構成されているという。コロナ禍が次第に落ち着きを見せてはいたものの、長い自粛期間ゆえか、まだまだ世の中に閉塞感が漂っていたあのころ。旅に出たあの日、異国を走った日々、そして写真というメディアに対する思いを、タケシタは以下のように綴る。

アメリカへ旅に出ることに決める、少し前。コロナ禍を経て、それによって生まれた諸外国との往来の隔たりは段階的にとけてきていた頃だった。やっと、すこし落ち着いてきたかなと思えば、いつのまにか円安が大幅に進みはじめていて、生活にも如実に影響を及ぼしてきているなあ、と感じはじめていた時期。
この頃、僕ははっきりと見えないけど、まとわりついてくる、嫌なムードを感じていた。
異様な円高の進み具合や、それによる諸外国との距離感。それに対するちょっと諦め的な雰囲気。行けなくなっても、縦スクロールで旅行気分かも。このままこの分断が大きくなっても、まあ、しょうがないよね。目線がどんどん手元足元に落ちていく、そんな空気があった。
手のひらの上でさまざまな情報を収集できるこの時代だからこそ、実際に自分の足でどこかへ赴いて、目にすること、触れること、話して・考え・思うこと、そういうことに一度還るべきだと思い、旅に出て、写真を撮ることに決めた。

実際に旅に出てみると、やはりそこでしか感じられない営みの温度があり、話をしないとわからない思考・思想の機微があり、折々の土地で流れる独特の空気の質感があった。
写真というメディアの、機能的な面での優れたところの一つは、自分の体とカメラさえあればそれらの一部を捕まえられて、持って帰って来られるところだと思う。
僕はフィルムを使って作品を制作するのが特に肌に合うのだけど、目の前にある残したい何かの、あわい、とか、すきま、みたいなものも一緒に、物理的に焼き付けられる構造が、そう感じさせるのかもしれない。
自分の撮った写真が世界を変えるとか、そういう大それたことではなく、それをみてくれた誰かの目線を少しだけ上げられるとか、その人の行動に少しのきっかけが生まれればいい。
視野がほんの少しだけでも広くなったら、ちょっとだけ見える景色が変わるかもしれない、というちいさな祈りを込めて撮っている。

写真は「目線」の表現領域であると思っている。
普段、何を見ているのか、何を美しいと思って、そこから何を感じるか。ベースにあるのは、ファインダーを覗く目線。写真でなくともそう言えるかもしれないが、まなざしが作品に結びつきやすいのは、写真の大きな特性だと思う。人の作品を見るときも、その人の目線が何を読もうとしているのかを考えるのが好きだ。
僕はいまのところ旅だけが生活のすべてではないから、これからの制作はまた違った形になるかもしれない。その時々にどんな目線で、何と向き合い、何を考えて、どのように伝えるか。
たとえば手法が変わったり、もっと言えば何も作らなくなったとしても、いま手元にカメラがあって、「目線」について考えている時間があることは、自分にとってとても大きいことのように思う。

上記の4枚目の作品をよくよく見てみると、左側の建物にうつる影はカメラを構えるタケシタだろうか、と気づく。写真は「目線」の表現領域……。その言葉をふまえてあらためて作品を見てみると、タケシタの目線に重ねて風景や人を見るような、そこで並んで見ていたかのような、そんな感覚に引き込まれる。そのとき、どんな風が吹いて、どんな音が聞こえていたんだろう。
CINRA掲載の記事でも、タケシタの写真からは対象の人間の仕草や息遣いが伝わってくるように感じられる。その場の空間ごと切り取るような写真たち。ファインダー越しにはこう見えていたのかと、驚いて、ほう、とため息をついてしまう。異なる表情を写した2枚を組み合わせた写真は、不思議とそこから物語が立ち上るように感じさせる。ぜひ今回のコラムと一緒に、見てほしい。
- 書籍情報
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Photo Book『Across the United States』
Page:110p / full color
Size:W216×H280 mm
Edition:500
softcover, self publishing
Design:Eri Kotani
- プロフィール
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- タケシタ トモヒロ / Tomohiro Takeshita
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写真家、1991年生まれ。現在は東京を拠点に、様々なコマーシャルワーク・作品制作を行う。
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