国立映画アーカイブのクラウドファンディングプロジェクト『使命は人類の記憶を繋ぐこと。国立映画アーカイブの活動にご支援を』がクラウドファンディングサービス「READYFOR」でスタートした。
国立映画アーカイブは、支援金額1億円を目標とした同プロジェクトの公開に際し、概要を説明する記者会見を6月25日に開催。
栩木章(国立映画アーカイブ館長)、冨田美香(国立映画アーカイブ学芸課長)、田中正之(独立行政法人国立美術館理事長)、諏訪敦彦(映画監督、東京藝術大学大学院映像研究科教授)が登壇し、それぞれ「国立映画アーカイブ及び本クラウドファンディングについて」(栩木章)、「クラウドファンディングに至る経緯について」(冨田美香)、「多様な自己収入施策としてのクラウドファンディングについて」(田中正之)、「映画学校の心臓を支える国立の映画アーカイブ」(諏訪敦彦)について発表した。
国立映画アーカイブは、約3万本の劇映画・テレビ映画、約5万本の記録・ニュース映画、3千本以上のアニメーション映画など9万本以上のフィルムに加え、映画関連書籍、シナリオやスチル、ポスター、映画人の遺品など、多彩な資料を網羅的に収集・保存し、映画と映画文化を長きにわたって繋いでいくための日本で唯一の国立の映画専門機関。
クラウドファンディングは、活動の安定的な継続と将来への発展に向け、収入の多角化と拡大に取り組む一環として実施。資金は資料の収集・保存・修復・復元、上映・展示などの公開事業など国立映画アーカイブの運営費全般に使用される。期間は9月23日23:00まで。
プロジェクトページには、山中瑶子、濱口竜介、三宅唱など55名の映画人からの応援メッセージが掲載されている。
【山中瑶子のコメント】
芸術文化に対する公的支援が縮小され続けている現状に、強い憤りを覚えています。
社会が困難な局面にあるときこそ、文化を守ることは後回しにされるべきではなく、その予算を削れば削るほど、人々の想像力や他者へのまなざしは痩せ細っていくはずです。
映画館の料金は高くなる一方で、観客もまたそれぞれの生活のなかで余裕を失いつつあります。そんななか、日本で唯一の国立映画機関である国立映画アーカイブまでが厳しい状況に置かれていることに危機感を抱きます。
私は国立映画アーカイブで毎年開催されているPFFアワードを通じて映画監督としてデビューしました。また、特集上映や展示を通じて、国内外の旧作や上映機会の少ない作品に触れ、自分の感性を育ててもらいました。今の自分を形づくった場所のひとつです。
映画は娯楽であると同時に、人類の記憶であり文化遺産です。未来の誰かが過去の映画と出会えるようにするためにも、その収集・保存・公開を担う国立映画アーカイブの存在は欠かせません。これまでと変わらぬ形での存続を当然願っていますが、市井の観客が無理をして投げ銭をして維持し続けるのにも限界があるので、どうか余裕のある皆さまから大きな力をお貸しいただきたいです。
【濱口竜介のコメント】
国立映画アーカイブには、その名が東京国立近代美術館フィルムセンターであったときからお世話になっている。特に小津安二郎の生誕100周年(2003)、成瀬巳喜男の生誕100周年(2005)、溝口健二の没後50周年(2006)、そしてマキノ雅弘の生誕100周年(2008)の回顧上映に通い詰めた20代後半の日々は忘れがたい。撮影現場でのスタッフ経験もほとんど持ち得なかった私が現在、映画監督として活動できているのはここで見た映画のおかげだと心の底から思っている。
特に撮影所が機能していた時代の日本映画の質は、想像を絶するほど高い。ようやく、小津・溝口・黒沢そして成瀬や大島以外の名前も国際的に知られ始めたが、日本映画にはまだまだ世界を驚かせる鉱脈が眠っている。それらがどこに、最も集中的に収められているかと言えば、それはこの映画アーカイブなのだ。字幕なしにこれらを見られるというのは、その画面や俳優たちの声音を無媒介に享受できるということだ。想像してみていただきたい。それがどれほど観客にとって幸福なことであるか。どれほど未来の映画人を育てたか。撮影所崩壊後にあっても、日本映画が一定の注目を国際的に集め続けてきたのは、この歴史を土台に持つがゆえだ。
私自身は「国立」と名のついた施設が、こうしてクラウドファンディングに乗り出すことを健全な事態とまったく思えない。それは、これほどに充実した文化を国がほとんど蔑ろにしていることの証左だからだ。このことは映画の先達である、絵画や彫刻などの美術全般においても同様だろう。我々はこの事態を、単なる「資金集め」を超えた文化そのものからの呼び声として受け止めるべきだろう。それに応じるにはどうしたらいいのか。このファンディングに参加すること? 短期的にはそれもあり得る。しかし、より長期的には二度とこれを繰り返させないように各人が行動することだろう。この呼び声が、断末魔の叫びとならないように。
【三宅唱のコメント】
二十歳の誕生日に初めて京橋に訪れて以来、映画に新たに触れ、刺激され、この世界について考え続ける場となっています。映画アーカイブとは新たな可能性の宝庫です。映画史とはたんに古い映画ではなく、まだ見ぬ映画であるかぎり、今生きている私たちも含めた未来の無数の人間にとって「新しい映画」であり続けると実感してきました。今回、予算表の数字を目にして、私たちの宝庫が直面している問題の緊急度の高さ、深刻さをはっきり認識しました。豊かな土壌を暴力的に無視したとして、荒地からなにが生まれるのか。豊かな土壌を現在日々維持している人々を暴力的に軽視して、より良い未来があるのか。先人たちの濃密な実践からの刺激なしに、なにができるのか。このクラウドファンディングの成功(根治できる特効薬ではなくとも、やはり最良の応急措置だと思います)が、より良い社会のために繋がってほしいと心から願います。
- フィードバック 0
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-