『ヨコハマ カルチャーガイド』 -街から生まれるクリエイティブ-

『ヨコハマカルチャーガイド 街から生まれるクリエイティブ』vol.06 冨永昌敬(映画監督)とNeat's(アーティスト)が行くディープ・ヨコハマ

『ヨコハマカルチャーガイド 街から生まれるクリエイティブ』vol.06 冨永昌敬(映画監督)とNeat's(アーティスト)が行くディープ・ヨコハマ

nitehi works:金融機関のビルを改装した、ライブなどに利用される多目的スペース

nitehi works

ジャック&ベティを後にした2人は、そこから歩いてすぐの近所にある「nitehi works」で休憩。もともと金融機関のビルだったものを、その名残りを活かしながら改装した多目的スペースで、展覧会や演劇、コンサートなどに利用されているほか、イベントのない日はカフェ&バーとしても営業しています。9月には奄美島唄の第一人者である朝崎郁恵のライブや、80年代に行われたドイツ・メールスジャズフェスティバルの貴重な8mmフィルム記録映像の上映会なども開催され大盛況。音響面でも独特のハコ鳴りを持った店内には、Neat'sさんも興味津々でした。

「nitehi works」で休憩
金庫室をまるまる活かして個室

店内は美術作家としても活躍する代表の稲吉稔さんによる内装が特徴的で、地下の貯水タンクを利用して水を循環させた噴水や、屋上にあった室外機の羽根を再利用したシーリングファン、外につけられていた看板にガラスを張って作ったテーブルなど、使われなくなった建物の一部をアートとして再生。金庫室をまるまる活かして個室にした座席は、VIPルームのような特別感のある雰囲気で、親密な話をするにはうってつけ。

ここで軽く一杯お酒を飲んだ2人は、クリエイティブな雰囲気に包まれた店内に感化され、またまた話に花が咲いた様子。後ほど何を話していたのか聞いてみると…。
Neat's「作品作りをするときに、制限があったほうが新しいアイデアが生まれやすいんじゃないかっていう話をしていたんです」
冨永「その制限っていうのが、新しく何かを買ってくるとかではなくて、そこにあるモノでやってみるっていう。だからここのお店は、クリエーターとしてすごくお手本になりますよね」
創作意欲を刺激する空間にすっかり酔いしれ、慌ただしい日常から少し離れた楽しいひとときを過ごしていました。

いつまでも語り合っていたくなる、 落ち着いた雰囲気のスペース
住所:横浜市中区若葉町3-47-1
電話:045-334-7446
HP:http://www.nitehi.jp/
おいしいお酒を飲んで、ちょっと休憩。 まだまだ、まち歩きは続きます!

Hostel Zen:「ドヤ街」のただなかにある、客室をアート化した宿泊施設

Hostel Zen

続いて2人が向かった先は、簡易宿泊所が立ち並び、労働者が集う「ドヤ街」として知られる寿町。独特の雰囲気を持った街に降り立ち、「こういう場所に来たのは初めてだったので、正直びっくりしました」というNeat'sさん。一方、「実家が山奥で宿をやっていて、林道工事をする労働者の人たちがよく泊まっていたんです。なんかそのときの雰囲気に似てて、懐かしい気持ちになりました」という冨永さん。しかし最近ではこの街の在り方も変わってきていて、変わらぬドヤ街としての顔を持つ反面、高齢者や生活保護受給者も多い福祉の街として、そして宿泊施設や街なかを活用したアートな街としての面も持つようになりました。

今回2人が訪れたのは、簡易宿泊所を改装した「Hostel Zen」。ここでは現在「Hostel Zen Art Project」として、客室を含むホステル内全体をアート化する試みが行われています。階段には学校風の装飾が施され、架空の校内ニュースが貼られた掲示板があったり、視力検査表や昆虫の標本があったり、客室までの道のりをわくわくさせるものに演出。踊り場には葛飾北斎の富嶽三十六景をモチーフにした壁面画『denial scape』(松下徹・作)があり、屋上も砂漠の中のオアシスのような緑化がされ、ドヤ街のイメージとはかけ離れた空間を作り上げていました。

葛飾北斎の富嶽三十六景をモチーフにした壁面画『denial scape』(松下徹・作)

Neat's「ドヤ街という場所を意識しすぎるのはよくないのかもしれないですけど、どうしてもいろんなことを考えてしまいますよね…」
冨永「そういうことは意識する必要はないと思いますよ。おもしろいものがあって、そこに行ってみたらたまたまドヤ街だったって」
と、ここでも長々と話し込む2人。やはり場所柄もあり、「思想がひっくり返るくらいインパクトがありました」(Neat's)と考えさせられる部分が多くあったようです。

『Splash』(曽谷朝絵・作)と名付けられた部屋

そしていよいよ客室へのドアを開けると、そこには宿泊施設とは思えない異空間が。『Splash』(曽谷朝絵・作)と名付けられた部屋は、螺旋状に加工した特殊なシートが天井に散りばめられ、光と影が織り成すファンタジックな空間に。ほかにも、特殊な鏡にLED照明を組み合わせて、電気を消すとプラネタリウムのような世界が広がる部屋など、いずれも夜眠るのが楽しみな部屋ばかり。なお、基本的には宿泊者にしか利用できませんが、定期的に開催される一般公開やツアーでも見学可能となっています。

気持ちのいい屋上で、 風に吹かれて話は弾みます
ホステルの瀟洒な門を出て、 いよいよ、最後の目的地へ!

とんかつパリ一:野毛エリアの飲食店で利用できる「野毛通手形」を使い、地元の名店へ

とんかつ パリ一

夕暮れ時も過ぎ、お腹も空いてきた2人は今日の最終目的地、桜木町駅近くの「とんかつパリ一」へ。野毛エリアの多くの飲食店で利用できる「野毛通手形」を使うと、お通しとカツの盛り合わせ、ドリンクが登場。創業50年以上、父の代から続くこの店では、まるい形をしたヒレカツが看板メニュー。ヒレ肉を自家製のラードを使って揚げ、自家製ソースをかけて食べるとんかつは、2人も思わず「うま〜い!」と声を挙げる絶品。「私、あんまりとんかつは食べないんですけど、ここは油が重たくないし、衣が薄くて女子にもうれしいですね」とNeat'sさんもご満悦。

また、野毛エリアはもともと鯨料理の文化があり、多くの飲食店が鯨料理を提供する「野毛くじら横丁」というイベントも開催中。パリ一でも1年中鯨料理を提供していて、特に9月中旬から10月上旬までは、釧路から直送された生のミンククジラが食べられる貴重なチャンス。この日は残念ながら9月上旬だったためミンクは食べられなかったものの、きれいなピンク色をした生ミンクの刺身は冷凍とは比べ物にならないほどおいしいと聞き、2人とも「また来なきゃ」と目を輝かせていました。

自家製ソースをかけて食べるとんかつ

一日中横浜を巡り、取材中だけでなく移動中にも意見の交換をしあっていた2人。改めて横浜という街の印象を聞いてみると…。

Neat's「以前ニューヨークに行ったときに、廃工場をギャラリーにしている地域があったんですが、今日まわった横浜と似ていたと思います。どちらも、街のなかにアートを起こそうという精神が素敵なんです。『外に出たら公園がある』みたいな感じでアートが存在するっていう文化は、日本ではまだ根付く途中だと思いますけど、もっともっと育っていけばいいと思いました」
冨永「今日一日を通して、『説明がない作品』にふれることが多かったですね。僕なんかは、きわめて商業的な論理で作品制作をしているので、宣伝のためにいろいろな説明をつけなければならないことも多いんです。でも、黄金町一帯をはじめ、アーティストたちが自由に創作できる場所を提供している横浜の街って、すごく豊かだなと思いました」

住所:横浜市中区野毛町2-101
電話:045-231-5412
HP:野毛飲食業協同組合 http://www.nogeinshoku.com/
過去の背景や街の現状をふまえてアートを表現する。 そんな場所を中心に訪れた今回のヨコハマまち歩き。  「都内にある美術館とは作品の匂いが全然違う」(Neat’s) という、街と共生しながら作られた作品の数々は、 2人に大きな刺激を与えてくれたようです。  最後に行ったとんかつ屋さんでは、 取材終了後も熱い会話が続き、 創作活動の在り方を改めて考えるきっかけにもなった様子。  アートの楽しみ方は自由なものではありますが、 誰かと一緒にアートにふれ、その感想を語り合うことも、 楽しみ方のひとつなのではないでしょうか。  日常から少し離れた横浜の街で、 ゆっくりと語り合いながらアートをお楽しみください。

特設公式ホームページには、参加イベント詳細から最新情報まで、全ての情報が集まっています!http://www.invitation-yokohama.jp/

200を超えるイベントを網羅した特設公式ホームページには、エリア別や、ジャンルと期間を自由に組み合わせてのイベント検索機能が備わっているほか、1000人を超える横浜ゆかりの人々から寄せられた横浜の『おすすめ』情報が掲載された手書きの「横浜からの招待状」を閲覧可能。ホームページには、モバイルサイトが併設されており、携帯電話からも閲覧可能です。
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