藍坊主がライブで振り返る、苦悩した10年前にできた異質な作品

10年前のアルバムを振り返る、リバイバルツアー

2018年8月18日、藍坊主が渋谷のライブハウスTSUTAYA O-WESTにてワンマンライブを開催した……のだが、実はこのワンマンライブ、ただのワンマンライブにあらず。

この8月いっぱいをかけて、10年前にリリースされた『フォレストーン』(4thアルバム、2008年リリース)のリバイバルツアー『aobozu TOUR 2018 OTOMOTO~木を隠した森の中で~』を行ってきた藍坊主。その一環として開催されたこの日のワンマンライブは、すなわち、セットリストの大半が『フォレストーン』収録曲によって構成されているという、極めて特殊なライブだったのだ。

『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』TSUTAYA O-WEST公演の模様
『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』TSUTAYA O-WEST公演の模様

hozzy
hozzy

近年の藍坊主は、2014年に1stフルアルバム『ヒロシゲブルー』(2004年リリース)の再現ライブを行って以来、2015年に『ソーダ』(2005年リリース)、2016年には『ハナミドリ』(2006年リリース)と、10年前のアルバムのリバイバルライブを継続して行ってきている。今年、ミニアルバム『木造の瞬間』をリリースした際のCINRA.NETでのインタビューでは、『ハナミドリ』のリバイバルツアーでの手応えや、その現場で当時のプロデューサーであった時乗浩一郎氏と再会したことが、『木造の瞬間』の風通しのいい作品性に繋がっていたことが語られた(参考:藍坊主が今ようやく明かす、バンド解散危機と再生のストーリー)。

10年経って改めて気づく、『フォレストーン』がどれだけ「異質」だったか

では、この2018年に再び『フォレストーン』を鳴らしたことは、いまの藍坊主に一体なにをもたらすだろう?――そんな期待とともに、この日のライブとアルバム『フォレストーン』を振り返ってみたい。

「藍坊主を聴いている人って、世界に対してアウェイな感覚を持っている人が多いと思うんですけど、『フォレストーン』は、そんなアウェイな俺たちにとっても、またアウェイなアルバムなんですよね」(田中ユウイチ / Gt)

「『フォレストーン』を作っていた頃は、本当にストイックというか……メンバー同士、楽屋で一言も喋らないこともあった」(藤森真一 / Ba)

上記したのはライブ中のMCでの発言である。この日、ステージ上のメンバーから口を突いて出てきたのは、『フォレストーン』というアルバムが、いかに藍坊主のディスコグラフィーの中で異質な存在感を持ったアルバムであるか、ということ。そして、このアルバムを作っていた頃の自分たちが、いかに特殊な精神状態にあったか、ということだった。

hozzy

『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』TSUTAYA O-WEST公演の模様

筆者も、このライブの前に聴き返してみたのだが……たしかに、2018年のいま振り返ってみても、『フォレストーン』は異様なアルバムだ。このアルバムには、バンドがそれまでのアイデンティティーをかなぐり捨て、3枚のアルバムを通して作り上げてきた音楽的フォーマットをぶち壊してでも新しいなにかを手に入れようとする、衝動的なエネルギーが渦巻いている。

たとえば、アルバム冒頭を飾り、この日のライブでも1曲目を飾った“Esto”は、躍動感のあるリズムと開放的なメロディーが印象的なポップな1曲だが、中盤に訪れる唐突な転調が、一筋縄ではいかない不遜なスケールの大きさを感じさせる。

他にも、藍坊主のシングル曲群の中でも独自の静けさとメランコリーを持った“空を作りたくなかった”や、「不協和」という概念をそのまま音源化したように強烈な“僕は狂ってなどいない”、あるいは、ストリングスも駆使した室内楽的な音響とバンドサウンドが混ざり合った“羽化の月”から“不滅の太陽”へと続いていくプログレッシブな流れなど、『フォレストーン』には、作り手の頭の中に渦巻く思考や感情といった抽象的なものを、なんとか音楽によって具体化させてみたい……そんな、肥大する表現欲求が、音楽的な実験精神となって生々しく刻まれている。

藍坊主『フォレストーン』を聴く

そして、音楽的な実験精神が大きくなると同時に、歌詞は、より哲学的になっていく。<在るの反対を、無いと呼ぶのなら、全てが無くても、よかったはずなのに>(“Esto”)、<奴隷じゃねえよ、僕の感性は>(“僕は狂ってなどいない”)、<そこにある存在、ただそのままをそのままに、僕は肯定する>(“空を作りたくなかった”)、<この世界に嘘はないだろう この世界に本当もないのだろう>(“言葉の森”)――『フォレストーン』には、そんな印象的なフレーズが数多散りばめられている。自分自身の深層心理に潜り込み、それを音像化すること。そんな試みの真っただ中にいたであろう当時の藍坊主は、「ギターロックバンド」というよりは、「音楽家集団」としての存在感を強め始めていた、と言えるかもしれない。

『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』TSUTAYA O-WEST公演の模様

『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』TSUTAYA O-WEST公演の模様

エゴをぶつけ合いながらも、10年間バンドを続けてきた奇跡

この日のMCで田中は、「『フォレストーン』の頃は、メンバー間のライバル意識も高かった」と語っていたが、ロックバンドのキャリアを追っていくと、メンバー個々の才能が際立ち、それぞれが作品としての完成度を求めるがあまり、エゴがぶつかり合う瞬間が訪れることがある。そんなエゴのぶつかり合いによって圧倒的な作品を作り上げ、同時に、それがきっかけで崩壊したバンドの代表例が、The Beatlesだろう。

hozzy(Vo / Gt)と藤森真一(Ba)という2人のソングライターを擁する藍坊主もまた、『フォレストーン』というスリリングなぶつかり合いの時期を経て、いまに至る。メンバー同士で慣れ合うことなく、それぞれの表現者としての欲望をぶつけ合いながら、しかし崩壊することなく10年の歳月をバンドとして生き延びてきた……この事実は、冷静に考えれば「奇跡」と呼んでも差し支えないレベルのことだが、その奇跡を本人たちが誰よりも実感しているからか、この日、『フォレストーン』の楽曲を演奏する本人たちの姿には、清々しい喜びが満ち溢れているように見えた。

バンドとしての試行錯誤の末、いまは「シンプル」に辿り着いている

“Esto”で幕を開けたライブ。フロアからは手拍子も起こり、“深く潜れ”ではオイオイコールも巻き起こるなど、序盤から大きな一体感が生まれていく。続く流れで演奏された、『木造の瞬間』に収録されている最新曲“ダンス”の貫禄すら感じさせる威風堂々とした響きは、『フォレストーン』期の複雑な楽曲群と並べられるからこそ、余計に際立つ。

『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』TSUTAYA O-WEST公演の模様

この日は、最新作『木造の瞬間』から“ダンス”“群青”“嘘みたいな奇跡を”なども披露されたのだが、『木造の瞬間』の「シンプル」とも表現できるソングライティングは、決して単純な原点回帰などではなく、『フォレストーン』をはじめとする、様々な試行錯誤を経た果てに辿り着いたひとつの境地なのだと実感させられた。そのぐらい、“ダンス”も、“群青”も、“嘘みたいな奇跡を”も、1音1音の重みがすごかった。

藍坊主『木造の瞬間』
藍坊主『木造の瞬間』

藍坊主『木造の瞬間』を聴く(Apple Musicはこちら

“羽化の月”から“不滅の太陽”という連作が、その世界観をそのまま立て続けに演奏されたり、当時のリリースツアーでは藤森がボーカルをとったアコースティックバージョンでしか演奏されなかった“ピースサイン”が、初めてhozzyボーカルでのバンドバージョンで演奏されるなど、10年のときを経て、『フォレストーン』が着地点を見つけていくような、そして、それをバンドとオーディエンスがともに祝福するような、そんな幸福な空気が一貫してこの日のフロアを満たしていた。

『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』TSUTAYA O-WEST公演の模様

hozzy

アルバム発売から10年経って言えた「自分たちが選んできた未来は、間違いじゃなかったと思います」

さらに印象的だったのは、「最近、20代の若いバンドと対バンすると、『フォレストーン』が好きだと言ってくれるバンドマンが多い」と渡辺拓郎(Dr)が語っていたこと。先にも書いたように、この日は、いかに『フォレストーン』を作っていた当時が大変だったかをメンバーが語る場面が多かったのだが、音楽作品というのは完成し、世に放たれたら最後、作者の想いや思い出とは無縁の場所で、逃げも隠れもせず、世の中に存在し続けるもの。きっと、藍坊主のようにキャリアのあるバンドが『フォレストーン』のような挑戦的な作品を作り、いまもなお精力的に活動し続けているという事実は、若いバンドマンたちにとって、ひとつの希望となっていることだろう。

「バンドをやっていくことは、常に選択を迫られているようなもので。特に『フォレストーン』の頃は、毎日なにかを選択させられるようなタフな時期だったんです。でも、今日、泣いてんだか笑ってるんだか分からない表情で曲を受け止めてくれているキミらの顔を見ていて自分たちが選んできた未来は、間違いじゃなかったと思います」

アンコールでそう語った田中。『フォレストーン』がリリースされた頃の藍坊主の苦悩は音になって、このアルバムに刻まれている。しかしこの日、ステージ上の藍坊主を観て理解できたのは、彼らが一切の「後悔」をしていない、ということ。『フォレストーン』がなければ生まれなかったたくさんの「いま」が、藍坊主にも、リスナーにも、きっとある。その全ての「いま」を祝福するために、『フォレストーン』がこの2018年に再び響き渡ったことには大きな意味があったのだと思う。

「『フォレストーン』、いいアルバムでした!」とステージ上から言い放ったhozzy。筆者も、全く同感である。こんなにも、自らの欲望と生き様を実直に反映したアルバムを作ることができるロックバンドが、私たちには必要なのだ。

『aobozu TOUR 2018 ~木を隠すなら森の中~』TSUTAYA O-WEST公演の模様

アプリ情報
『Eggs』

アーティストが自身の楽曲やプロフィール、活動情報、ライブ映像などを自由に登録・公開し、また、リスナーも登録された楽曲を聴き、プレビューや「いいね」等を行うことができる、アーティストとリスナーをつなぐ新しい音楽の無料プラットフォーム。登録アーティストの楽曲視聴や情報は、「Eggsアプリ」(無料)をダウンロードすると、いつでもお手もとでお楽しみいただけます。

料金:無料

イベント情報
『aobozu TOUR 2018 OTOMOTO~木を隠した森の中で~』

2018年8月18日(土)
会場:東京都 TSUTAYA O-WEST

『aobozu DEBUT 15th ANNIVERSARY TOUR 「ルノと月の音楽祭」 ~GOING MY WAY編~』

2018年12月1日(土)
会場:千葉県 千葉LOOK

2018年12月8日(土)
会場:兵庫県 神戸 太陽と虎

2018年12月9(日)
会場:愛知県 名古屋 NAGOYA MUSIC FARM

2018年12月15(土)
会場:東京都 八王子Match Vox

2018年12月22(土)
会場:神奈川県 小田原姿麗人

リリース情報
藍坊主
『木造の瞬間』通常盤(CD)

2018年1月24日(水)発売
価格:1,944円(税込)
TRJC-1078

1. 群青
2. ダンス
3. 嘘みたいな奇跡を
4. 同窓会の手紙
5. トマト
6. かさぶた
7. ブラッドオレンジ

プロフィール
藍坊主
藍坊主 (あおぼうず)

神奈川県小田原市出身の藤森真一(Ba)、hozzy(Vo)、田中ユウイチ(G)、渡辺拓郎(Dr)からなる4人組ロックバンド。2004年5月にアルバム『ヒロシゲブルー』でメジャーデビュー。2011年4月にTVアニメ『TIGER & BUNNY』エンディングテーマ“星のすみか”を発表し、翌月にはバンド自身初となる日本武道館公演を成功させた。2015年、自主レーべルLuno Recordsを設立。藤森真一(Ba)はこれまでに関ジャニ∞“宇宙に行ったライオン”や水樹奈々“エデン”等、楽曲提供も手掛ける。hozzy(Vo)はジャケットデザインの描き下ろしや楽曲のトラックダウンを自身で行う等、アーティストとして様々な魅力を発揮しており、よりパーソナルでコアな表現活動のためのプロジェクト、Normの活動をスタート!



記事一覧をみる
フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 藍坊主がライブで振り返る、苦悩した10年前にできた異質な作品

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて